主従の間に芽生えてしまった歯止めの効かない愛情は光をも割断する   作:てりのとりやき

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「私は騎士になるんだ――やってみせろ、ローロ・ワン」

 

 

 

 “騎士”が関与する戦闘は概ね三秒で決着が着くと言われている。

 単純に、“騎士”の戦闘速度領域が速過ぎるのだ。

 走行速度平均はマッハ0.54。

 瞬間的には音速にまで至ると言う。

 それに耐えうる人体強化魔法を駆使し、敵軍が反応できない速度で敵地を強襲し、速度によって引き起こされる単純な物理的エネルギーのみでありとあらゆる要衝を完膚なきまでに破壊できる“騎士”は、戦場において死そのものを意味した。

 ――だから、ローロもティアレスも、勝負は一瞬で着くと理解していた。

 

「……」

「……」

 

 両者の間に横たわる距離はせいぜいが十数メートル程度。亜音速域にまで加速できるティアレスにとって0.03秒で到達可能な距離など、距離という概念すら適さない。

 少女の淡紫色の瞳が。

 女の、青色の瞳が。

 双方の視線は一直線に混じり合い――――二人が微動だにしない時間は、一秒か、十秒か、それ以上だったのか。

 冬の終わりに相応しい、柔らかな風が夜の平野を通り過ぎ。

 そして。

 

「――――」

 

 先に動いたのはティアレスだった。

 彼女の右足が強く地を蹴り――直後には【強化】魔法によってその速度を亜音速にまで引き上げる。

 ローロは『視』た。

 視認ができた。

 ティアレスが亜音速域にて一歩目を踏み出し、その手に携える直剣が袈裟懸けの構えを生もうとしているのを。

 極めて少ない量の魔力しか扱えなくとも、ローロとて魔法の心得はある。そしてローロには亜音速域だろうと認識可能な手段(・・)がある。最小限の魔法的対策で、亜音速域の斬撃ならば受け捌ける自信があった。

 が、しかし。

 

「――」

 

 ティアレス・ティアラ・ホルルはローロの予想を上回っていた。

 女が踏んだ二歩目――その足裏が地を蹴った瞬間、女の背面すべての物体は一斉に吹き飛ばされたのだ。

 荒れ狂う土くれ。

 爆ぜ散る草、石。

 空を舞う土砂。

 音を音として聴覚が認識するよりも速く、ローロはティアレスによって発生した大轟音を理解する。

 

・――『速い』

 

 それは、音速を突破することで発生する物理現象。

 ティアレスは僅か二歩の移動だけで音を超えたのだ。

 

 

 

 超音速域。

 マッハ2.5。

 

 

 

 ローロは、対応など一つも許されなかった。

 

「話にならんな」

「――っ」

 

 気付けば剣が手から弾き落され、少女の体躯は地面へと押し倒されている。頭蓋を抑える女のごつごつとした手と、背中を押し付ける膝頭の感触――重心を抑えられた。ローロは身動きが取れない。

 

「君には一飯の恩義がある。……はは、安心しろ、殺しはしない――」

 

 言葉と共に、女の空いている片手がローロのわき腹に突き刺さる。

 単純な殴打はローロの迷走神経系が分布する胃の周辺に極めて的確かつ強い衝撃を与えた。

 突発的な痛みから目を瞠った少女は、呼気を強制的にすべて吐き出させられ。

  

「ふ、ぅ――ッ」

 

 神経反射が発生し、脳内の血流が急激に低下していく。

 生体脳の機能レベルは瞬間的に降下。それに準じて主制御(セカンダリ)従属体(スレーブ)も非稼働状態へ移行する。

 

・――『あ』『だ』『落』

 

 ローロにはもう止められない。

 意識が――落ちていく。 

 

「あの女を殺すにしろ私が殺されるにしろ、血生臭い光景になる。……君には正直、みせたくない」

 

 ……だめだ。

 だめです。

 そんな、そんなのいけない。

 私は。

 メフトさまを、守らないといけなくて、それに……。

 

「生き残れたらうまいシチューを作るよ。はは、たぶん無理だな。私はきっとメフトに勝てない。あいつは強いからなあ……」

 

 …………あなたにも。

 死んでほしくはないのに。

 

「さようなら、ローロ」

 

 ぶつりと全ての五感が停止する。

 失神したローロを、ティアレスはそっと肩に担ぐと、城内へと運び出した……。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 女と、もう一人、女がいる。

 私は私よりも遥かに背の高い二人の言い争いをじっと見つめている。

 

『……私が、最大最悪の間違い?』

『ウフ。ウフフフフフフフフフフ。そうよ……。間違いは正さなくちゃ。ねぇ?』

 

 首が(・・)痛い(・・)

 女に首を絞められていたからだ。それを強引に止めた方の女が叫ぶのを、私の首を絞めていた方の女は大して気にしていない。

 二人の応酬はやがて収まり、叫び疲れたのか荒い息で肩を上下させる黒髪の女に、私をそっと抱き上げた女が言い放つ。

 

『覚えておいて。

 ――いつか必ずお前を殺す。

 私じゃない。私が殺すのでは復讐にすらならない』

『…………』

『この子よ。この子が殺すの。お前が生かし、お前が歪めた、この子が……』

『……そう。もう行くわ。私はここに居ない方がいいみたいだから』

 

 黒髪の方の女は姿を消す。

 残された私へと、私に似た色の瞳と髪をした女は囁く。

 

『ああローロ。私のかわいいぬいぐるみ(ラグドール)……』

 

 頬ずりをされる。

 そっと抱きしめられる。

 まだ三歳にも満たない私は彼女を拒むことはできないし、拒む気はない。

 なぜなら彼女は私の母親だから。

 私を愛してくれているから。

 

『いいこと? お前は空想の悪魔(メフィストフェレス)を殺せるだけの“騎士”にならなくちゃいけないのよ』

 

 うん。

 そうだね。

 母さん。 

 私は騎士になるよ。

 空想の悪魔(メフィストフェレス)を殺せるだけの、強い騎士に。

 そのために力を母さんは私にくれた。

 ……だけどね。

 

 

 

 

 

 私の、ぜんぜん足りない生体脳(スレーブ)は思っているよ。

 私の、思考補助機構(セカンダリ)も思っているよ。

 私の、それら二つを支配する絶対制御部(マスターコントロール)も思っているよ。 

 

 

 

 

 

 私は。

 三種統合人格『ローロ・ワン』は。

 今は――メフトさまを守れるだけの、騎士になりたいんだ。

 

 

 ◇

 

 

 

・――『お!』

・――『き!』

・――『て!』

 

 分か(・・)ってる(・・・)もう(・・)覚醒(・・)して(・・)るよ(・・)

 

・――『ならいい』

 

 どれだけ意識が落ちてた? 

 分からない、もう全ては終わってしまっているかもしれない!

 起き上がった全五感の情報を『ローロ・ワン』は収集した。

 視覚と嗅覚――ここは城内の使われていない部屋。埃の満ちた空気に生理的反応として咳が出る。

 聴覚と味覚――機能正常。

 触覚――稼働不可能なほどの損傷はない。また、両手首は手錠で縛られている。両足首は縄で縛られた状態。付近には錆びてあまり切れ味には期待できないナイフがひとつ。

 

・――『こんなの』『どうってことない』

 

 当然だ。

 

「私は騎士になるんだ――やってみせろ、ローロ・ワン」

 

 『ローロ・ワン』は躊躇うことなく右手を開き、左手親指を根元から掴むと――――。

 

 

 

 『ボキリ』、と。

 くぐもった嫌な音。

 

 

 

 神経系を一斉に走りだした痛みに全身から嫌な汗が溢れだす。

 だが全て無視した。

 そして――左手から手錠を抜くと、近くにあったナイフを拾いあげ、両足首の縄も引き裂く。

 急げ。急げ急げ急げ。

 武器など今この手にある錆びたナイフで十分だ。

 剣などなくとも良い。

 剣が騎士の証明であるもんか。

 ローロは部屋を飛び出した。廊下を、今まで出したことがない速さで駆け抜けて、真っすぐに正門を目指す。

 

「――ティアレスさまっ」

 

 暗夜。

 空には雲一つなく、銀色に輝く月は透き通った闇色の中浮かんでいる。

 門の先に、ティアレスは居た。ただ一人、剣を携え、城の主人たる魔王を待っていた。

 女が声音に反応して振り向く。

 

「……ローロ、どうやって拘束を、――なッ?!」

 

 困惑、次いで驚愕――最後には理解できない存在への、恐れ。

 彼女の視線はローロの左手親指に……ローロが迷うことなく自らへし折った親指関節部に注がれている。

 

「何故……そこまでする? そうまでするほど大事な女か? メフトが」

「私の主君であって欲しい人です!」

「たかだか二週間だろッ!」

 

 それでも――その二週間は、メフトと共に居られた二週間が、ローロを今動かす原動力足り得る。

 

「たった二週間であの女の何が分かる!?」

「何もわかりません。だけどそれは理由にはなりません」

 

 痛みがどうした。

 

「どうしてあんな女のために命を捨てられる!」

「捨てるつもりなんかありません。私は騎士になるんです」

 

 遥か格上の強者がどうした。

 

「君の無意味な勇気が、何かを変えられると信じているのか!?」

「分かりません。だけど、私は――」

 

 勝てないからと怖気づくのか、武器が心もとないからと諦めるのか。

  

「それでも……私はメフトさまを守ります」

「……」

 

 ローロの言葉に。

 真っ直ぐな背筋に。

 右手だけでナイフを構える姿に――相対する“騎士”は。

 

「……主君のために命を賭けるか」

 

 酷く冷え冷えとした声音。ティアレスがする低くざらついた音は、それまでの激情の全てを捨てていた。

 青の瞳にはもはや困惑も驚愕も無い。

 月光を受けて鈍く輝く剣を、今度こそ騎士はローロへと向けた。

 

「認めよう。貴様(・・)は確かに、魔王の騎士だ。

 ――であれば私も全霊を以て貴様を殺す」

 

 言葉と同時、女の全身から膨大な量の魔力が吹き荒れた。

 無色かつ透明な物質らしき魔力は、『霧のようなもの』として、現実世界にはそれだけでは何ら影響力を示さない。

 しかし、全高にしておよそ50メートルを超す量の魔力放出は、魔法を兵器として運用する者にとっては絶望的力量差を思い知らせるには十分だった。

 ティアレスは、ローロの前でこれ(・・)まで(・・)一度(・・)も魔(・・)力放(・・)出を(・・)した(・・)こと(・・)がない(・・・)。それは魔力放出とほぼ同時に魔法構築を終えられるティアレスの力量の高さを示していたし、それほどに実力のある“騎士”がこうして魔力放出をする意味さえも理解させる。

 

「超音速が私の最高速域だとでも思ったか?

 “騎士”を……舐めるなよ」

 

 膨大で。

 強大で。

 圧倒的な、

 魔法が、

 

()し、

 ()き、

 (ねじ)り、

 ――()(つぶ)す」

 

 来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――・私は実行され、私を掌握する( I h a v e c o n t r o l )

 

 

――・【MOS(マギマ)】完全展開の終了を確認

 

――・全機能は正常に作動中

 

――・収集:各感覚器官の情報を確認

 

――・収集:脅威度判定『中』の対象を20メートル前方に確認

 

――・収集:対象名『ティアレス』からの瞬間的かつ膨大な魔力放出を確認

 

――・推測:魔法が起動すると推測

 

――・把握:瞬間的な加速を発生させ得る【強化】魔法

 

――・把握:そしてそれに耐えうる【人体強化】魔法

 

――・推定:『ティアレス』が実行しようとしているのは剣を構えた状態での単純な突進である

 

――・推定:ただし魔法によってその突進速度は極超音速域にまで一瞬で到達する

 

 

 

 

 

――・推定:『ティアレス』突進速度はマッハ25に至る

 

 

 

 

 

――・推定:『ティアレス』は一直線にローロ・ワンを狙っており、これは重大な脅威である

 

――・結論:『ティアレス』とローロ・ワンの0.0022秒後の衝突

 

――・結果:ローロ・ワンの破裂ならびに粉砕と圧搾、また周辺地域への甚大な被害

 

――・私はよって以下の具体的対応策に必要な魔法群案を作成する

 

――・作成:全関節部へ同時展開される【推進】魔法

 

――・作成:上項魔法群によって人体耐久限界を迎える部位への【人体強化】魔法

 

――・作成:携帯武装であるナイフの【構造強化】魔法

 

 

 

 

 

――・以上を強制されよ(Y o u h a v e n o c o n t r o l )、ローロ・ワン

 

 

 

 

 

 例えば【強化】と呼ばれる魔法がある。

 これは軍人であれば誰もが扱える簡易な部類の魔法ではあるが、厳密に言えば一つの魔法として構築・実行されているわけではない。【強化】魔法は、正確には【強化】魔法を構成する魔法群すべての実行によって起動する、言わば複合魔法(・・・・)だ。

 【強化】魔法――これは大分類として【推進】【人体強化】の二つに分けられる。さらに【推進】は【反作用点生成】【流体噴射】等に、【人体強化】は最終的な細分化先として【細胞壁保護】にまで至るとされている。

 1900年代、把握されている限りでも【強化】魔法を構成する魔法群の数は92あるとされている。

 では、比較的簡易な部類である【強化】魔法でさえもそれほどの細分化が成されて実行されているというのに、果たしてこれら隅々まで細分化させられる魔法群をすべて理解し、己が意思で実行した上で【強化】としている人間がいるのだろうか? ――答えは、ほぼ存在しない、である。

 大抵の人間は【強化】魔法を構成する魔法群の実行を感覚的に行っている。

 これは、人間が意識して筋肉を動かしていないことと同じだ。

 魔法は未開の分野であり、研究の余地を多々残す。

 未だ完全な論理体系は存在せず、だからこそ比較的実行しやすい種類の魔法のみが発達していた。

 さて。

 人が、感覚で魔法を使用するしかない(・・・・)時代――当然ながら魔法の精度は極めて低く、高等魔法ともなれば膨大な集中力や発動までの時間などが必要だった。しかし魔法を構成する魔法群すべてを感覚でなく理論として理解し、何なら魔力をナノミリメートルクラスで制御可能な人間がいたとしたらどうだろうか? 先の答えにおける『ほぼ存在しない』とはつまり、そう(・・)いう(・・)意味(・・)である(・・・)

 

 

 

 

 

 【推進】【人体強化】【構造強化】――三つの魔法を構成する165の魔法群を0.0001秒で展開し終えたローロ・ワンがそれに該当する。

 

 

 

 

 

 少女の全関節部は【推進】魔法による強制的かつ瞬間的極超音速移動を実行し、数億という分解能の領域で適切な姿勢――ティアレスの突進を受け流す姿勢――を完全に作成。そして、その強引すぎる人体稼働によって骨・筋肉・細胞・内臓・神経系が破裂しないよう【人体強化】魔法がローロ・ワンの肉体を防護し、更には手に持つナイフさえ構造強化を施す。

 ――僅か0.0001秒の出来事。

 既に騎士は突進を開始していた。

 

 

 

 音さえ遅い領域。

 ローロは、ティアレスの突進を受け流す。

 

 

 

 ……0.0023秒後。

 城前面の塀がすべて吹き飛んでいた。極超音速域へ至る加速によって空力加熱が発生したせいだ。なるほど、速度を極め過ぎた者というのは、それだけで確かに“魔法使い”さえも反応を許さず殺せるだけの脅威になり得るだろう。

 ――そして、極めて少ない量の魔力であったとしても。

 究極的魔力使用効率が可能であれば、極超音速程度ならば追従できる。

 

「――――極超音速、マッハ25だぞ」

 

 声は震えていた。女の全身から無数の汗が流れ落ちていた。その足は強い震えを抑えられないでいたし、剣を握る手の握力とて覚束ないのか、その切っ先は不安定に揺れている。

 ティアレスという戦略兵器級の存在であろうと、極超音速への加速がいかに肉体を酷使するかははっきりと形となって現れている。

 

「なんだ……なんだ、その魔法は」

 

 女は振り向く。

 ローロへと向き直る表情には、もはや以前までの余裕は一握りもない。

 

「一体幾つの魔法を同時起動させている? なぜ私の極超音速に追従できる、何がそうさせている……!」

 

 ティアレスが見つめる先、五体をもって大地に立つ少女の後頭部には、一つの魔法が起動していた。

 形状は円環、色は紫紺。

 線状をした環が複数折り重なり、絶えず回転を続けている。 

 それは天使の環にも似ていた。

 

「…………編み物が、得意なんです」

「――は?」

「規則的な配列を魔力で、完ぺきな精度で編むことの練習に良いのが編み物だからって、母さんに言われてて……」

 

 同じように振り向いたローロは、淡紫の瞳に静かな意志を燃やして“騎士”を見やる。

 

「私、考えるのが得意じゃないんです。頭の(・・)中に(・・)空白(・・)がた(・・)くさ(・・)んある(・・・)

「何を、言っている」

「だから母さんは私にこれをくれた。私の小さくて脆い意思を基に、代わりに考えてくれる魔法――絶対演算魔法、【MOS(マギマ)】を」

 

 左手の親指が折れていようと。

 その右手に握るのが剣ではなく、錆びて使い物にならないナイフだったとしても。

 尖りのない声音で、美しい銀髪をしていて、可憐な容姿だったとしても。

 

 

 

 

 

「私には『私』を構成する要素が三つあります。

 一つは生体(ハードウェア)であるところの従属体(スレーブ)

 二つは【MOS】下位組織であり、魔法(ソフトウェア)であるところの主制御(セカンダリ)

 三つはそれら二つに対して上位権限を持つ絶対部(マスターコントロール)

 以上三つの制御機構によって構築される統合人格を『ローロ・ワン』と私は自認します」

 

 

 

 

 

 ティアレスには理解できなかったはずだ。

 『ローロ・ワン』が、生体としての脳と、シナ(・・)プス(・・)代替(・・)魔法(・・)と、それらを束ねる絶対制御部【MOS】によって発生した生体・魔法複合人格だということは。

 彼女の眼に映るのは、可憐な乙女の姿をした怪物(・・)である。

 

「だったらなんだ……! だとしても、私の優位は変わらないはずだ!」

「――いいえ。ローロはもうあなたに負けることはない」

 

 声は空からだった。

 ローロも、ティアレスも、即座に顔を上に向け――。

 

「確かにローロの魔力総量は極めて少なく、はっきり言って無いに等しい」

 

 少女の瞳に、きらきらとした輝きが宿った。

 メイド服姿の女の眼には、強く濃い憎悪が浮かび始めた。

 両者の視線を一身に受けつつ降下する者がいた。

 ゆっくりと。

 大地の重力を無視した動きで。

 

「だから今はまだあなたには勝てないでしょう。追従するだけで精一杯のはずよ。だけど、あなたもローロに勝てないわ」

 

 その髪色は黒。暗夜の空にあっても尚色合いは強く浮かび上がる、艶をもった純黒。

 四肢は細く、肌の白さは病的で。

 およそ光を拒絶するかのような黒の瞳を携えた彼女は、いつもの調子でローロの前に降り立った。

 

「何故なら私があなたを殺すから」

 

 史上最強の魔法使い。

 出自不明の、無限(・・)の魔(・・)力総量(・・・)を持つ異常存在。

 

「久しぶりティアレス。

 早速で悪いけど、死んで」

 

 終末を呼び寄せる魔王が、自身の居城へと舞い戻る。

 

 

 

 

 

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