主従の間に芽生えてしまった歯止めの効かない愛情は光をも割断する 作:てりのとりやき
1902年。冬。年の暮れ、昼。
私はマギアの代わりに、彼女の屋敷の花壇に水やりをしていた。
冠にも似た赤と白の
紫。深紅。白。多彩な
刺々しさと裏腹に柔らかな炎のような
冬に強く、連なる黄の花弁が雪に映える
「……」
鮮明な色を備えた冬の花々に水をやり、別の花壇で芽吹くのを待つ春の花の様子も確認する。
色とりどりの花々。
静かに生きていく事を是とするこの土地にあって、マギアの屋敷その庭先にある花壇だけが華々しい色で満ちている。
全てマギアが自身で種を買い、育て、季節ごとの花壇として世話をしているその結実だった。
「……」
私はあまり園芸に明るくないから、マギアのように詳しいことは分からない。
「メフト」
と。私が花壇の前でしゃがみ込んでいると、聞こえてくるのは柔らかな声音。
顔を上げる。屋敷の玄関扉を開けてこちらに歩み寄るのは、淡い紫の瞳と色素の薄い銀髪をした女。かつて長かった髪はうなじが見える程度に短くなり、それは彼女が髪の長さだけを自身の価値だとは思わなくなった証。
マギア。
マギアニクス・ファウスト。私を作り、私と共に6年の時を過ごした人。
……彼女のお腹は、この半年でみるみる内に大きくなった。
妊娠10ヶ月。世にいう所の臨月をマギアは迎えている。
「ありがとう、今日も水やりをしてくれて」
「いいのよ。隣人だもの、これくらいは」
私の傍に来るだけでマギアはふうとやや疲労の滲んだ息を吐く。そしてそっと自身の腹部に……大きく膨らんだ腹部を支えるように両手を当てる。
「身重の体であまり出歩くなって彼に言われていたんじゃなかった?」
「あの人、最近ちょっと心配性なのよ」
たまには散歩くらいしないと気が塞ぎ込んじゃう、とマギアは穏やかに微笑む。
私は庭に置かれた椅子──妊娠が分かってから私が作ったもので、お腹の子に負荷をかけない姿勢を取れる──を持って来て、彼女の後ろに置く。
「ほら、これに座っていて」
「うん。ありがとう」
座った途端、ふー、とまたマギアは溜息を吐く。そしてまた自身の腹部をそっと撫でた。
「歩くだけで大変そうね」
「すごいわ。とにかくすごいの。重くって、猛烈に食べたいものがあったり、理由もないのに将来が不安になったり、今までにない変化ばっかりで……」
マギアの妊娠について、最初に気付いたのは私だった。
彼女の腹部から極めて微細な、マギアが発するのとは別の魔力を感じたのだ。
色や形質を持たない魔力だが、私には人それぞれが発する魔力に『癖』を感じ取ることが出来る。恐らく魔力というものは人から生まれるのではなくて、常に偏在する原始魔力……とでも呼ぶべきものが人によって錬成されているのだろう。だから錬成され放出された魔力には、五感では認識不能な性質があった。
『マギア、あなたの腹部にもう一つ何かがいる』
そんな私の漠然とした言葉に何かを察したマギアが、領内の助産師経験のある老婆に相談して、それからはあっという間だった。
マギアの結婚式も領民総出の式になったが、あの時の誰もが浮かれ騒ぐ光景は今でも私の脳裡に焼き付いている。『ああいうのをお祭りって言うの』とマギアは笑っていた。
「どう? 領主になって大変?」
「ええとっても。父の大変さが身に沁みて分かるわ」
……いつからだろう。
マギアは、自身の父を呼称するとき、『お父さん』という言葉は使わなくなった。
以前に私が呼称の変遷を問うとマギアは照れたように笑って言った。「大人になったってこと」。
大人。
それが成熟や成長を意味する言葉として使われたなら、マギアはまた遠い所へ行ってしまったのだろう。
マギアの体は成長を終え、14歳の頃にあった溌溂さは鳴りを潜めた。代わりに彼女が持つ淡紫の瞳には理知の輝きが灯った。
マギアニクス・ファウストは少女ではなく、既に女だった。──そして今では一人の妻であり、母になろうとしていて、この土地の領主だ。
私だけが六年前から変わらない。肉体的にも、精神的にも。
「父にはもっと早く孫の顔を見せられればよかった」
「本当に良かったの? あなたの父の病は、私なら治せた」
「いいのよメフト」
マギアの父は一年前に死んだ。領主として勤勉だったからこそ常に過労気味で、流行り病に当てられてあっという間に死んでしまった。あの時、既に動くことのない亡骸の傍らで声を上げて泣き崩れたマギアは──今では柔らかな微笑みを浮かべる。
あなたは家族の死さえ糧にして前に進める。
「それはね、きっと自然の摂理に反することだから」
マギアニクス・ファウストはいつの頃からか自身の倫理や道徳に基づいて過度な魔法を使わないようになっていた。
20歳の彼女は、そう、端的に言えば大人になっていた。
「今の医学では出来ないことならば、受け入れて、前を見るべきなの」
「……そうね」
会話が途切れ、その隙間を埋めるようにして風が一陣吹いていく。切る理由もないから伸ばし続けている私の黒髪が揺れ、だけどマギアの髪が揺れることはない。
冬らしい木枯らしに彼女が体を震わせた。
「うう寒い寒い。さ、メフト、屋敷に戻りましょう? 美味しいスープを作ったの」
マギアは彼の夫が好むからと、同じ味つけのスープをよく作るようになった。
この土地で医者として生計を立てている彼女の伴侶は、昼時になると診療所からこの屋敷に戻ってくる。もうすぐ戻ってくる頃合いだろう。
「夫婦水入らずという言葉を私は知ってる。だからそのスープは二人で食べて」
「……いつも言っているけど、気にしなくていいのよ? 彼だってあなたのことは家族の様に思ってるって以前言ってたわ」
「……」
だけど私の素性をマギアは夫に明かしていない。
かつて少年だった彼も、今では青年になり、やがては壮年期を迎え、老いていく。その最中でいつまでも老化のない私を訝しみ──やがてマギアは私の全てを明かすだろう。
その時、二人の関係がどのような変化を迎えるのか、私には想像ができない。不和の可能性に対し私は認識を歪める類の魔法を使うことさえ出来ない気がした。
6年前ならば出来たことが、どうしてか今の私には出来ない。躊躇い──そんなものばかりが肥大化している。
「それにまだ、あなたにこの子を触ってもらってないじゃない」
「…………まあ、それはそのうちね」
マギアは自身の食卓に私を誘いたがり、また、自身の中ですくすくと育つ新たな命に触れさせたがった。
そして私はそれとなく彼女の腹部に触れるのを拒み続けていた。
「昨日の残り物がまだ余ってるの。今日はそれを片づけたいから、家で食べるわ」
「……そう? ならまた誘うわ」
嘘だ。
私は生存に栄養摂取を必要としない。だからという訳でもないが、ここ半年以上、……厳密には10ヶ月ほど何も食べていない。
「ごめんなさい」
「いいのよ」
「じゃあ、明日も水やりに来るから」
「ええ、また明日」
マギアを玄関まで送り、私は私の家に帰る。
去り際、一瞬だけ見つめた彼女の腹部は、信じられないほど大きくて。
その奥にもう一つの命があるのだと改めて実感させられる。
……私は彼女の腹部で育つ新たな生命に、触れることができないでいた。
理由ははっきりとわかっている。
だけどそれをマギアに伝えることは……難しいように思えた。
◇
しばらくして、マギアがいよいよ出産間近となった。助産師の老婆がそう言っていたし、マギア自身にもそれが分かるらしい。
──ある日の夜。
マギアの夫が一人で私の家を訪れた。
曰く、マギアが私を呼んでいるらしい。
時刻は既に深夜に近い。今? どうしても? と彼も再三確認を取ったらしいが、どうしても今日の今この時間でないといけないとマギアが頑なだそうだ。断る理由もなく、また睡眠を必要としない私は、申し訳なさそうな彼と共にマギアの屋敷へと向かった。
そして寝室。
「ごめんなさい、メフト。夜遅くなのに」
「気にしないで」
月明かりが差し込む窓の隣。ベッドの上で、横になったマギアが淡く笑っている。灯りはなかったが銀月の輝きで十分に部屋は明るく感じられた。
彼女の顔は薄らと青白い。体調が優れない様子だった。
「彼は?」
「私達だけにしてくれるみたい。リビングでお茶を淹れるって」
「……彼のね、そうやって気配りの出来るところが大好きなの」
急に惚気る。私は曖昧に頷くだけだ。
「それで、どうしたの」
「最近ね……吐き気が酷かったり、眠れなかったり、おりものが増えたりしててね。今日もぜんぜん眠れなくて……」
「へえ」
「それでお婆さんからも言われたの。『近い』って。私も、そう感じる」
もうすぐ産まれるのよ、この子。
「だからね、メフト。今しかないから……」
話の流れが私には分かった。
布団の上から自身の腹部を撫でるマギアを、彼女が続けようとした言葉を、私は首を横に振る事で遮る。
……時が経てば彼女の子供は生まれるだろう。そうなれば、マギアのお腹に触る必要はない。時間が解決することだからそれとなく遠ざかろうとしたのに。
マギアニクス・ファウストは頑なで、そしてそれは私も同じだった。
「メフト──」
「ごめんなさい。この際だからはっきり言うけど、私は今のあなたのお腹には触りたくない」
「
言葉には何ら強制力がなかった。
魔法を発動した兆候もなかった。
けれどマギアの言葉には力があった。明確で、揺るぎない、大地のように広大な力が。
「……」
「メフト。ここにね、命があるの。私の中にもう一つの命がいるの」
分かっている。
知っている。
理解している。
だから──だからなに?
私は視線だけをマギアに向ける。
「同居しているわけじゃない。いつまでもここに居るわけじゃない。この子はいずれ大気に触れる。私達と同じように呼吸をするわ」
そっと布団を除けて、マギアが体を起こす。私はいつの間にか彼女に近寄り、上体を起こす彼女を支えていた。
僅かに触れたマギアの背中はいつの間にか広く感じられた。16歳の頃から肉体的にはさほど変わっていないはずなのに。
「
「……」
私は何かを言おうとして、……結局やめた。
言葉に、重さを覚えたのは初めての経験だった。
青い顔で、苦し気で、辛そうで、息をするだけでも精一杯の、ある意味とても弱々しい身重の女性が放つにしては異様な程に滲む『何か』。私がそれに負け、言い募ることを止めたことに他ならない。
「恐れなくていい。怯えなくていい。この子はあなたを何一つ脅かすことはない、狂わせることもない」
「でも、だけどマギア」
マギアの言いたいことが分かる。
6年も過ごした相手が今、何を考えているのかなんて簡単に分かるのだ。
だからこそ、私
「私は…………」
言葉が明確な形を取らない。
私の中に、根拠のない情動が巡り続けている。
──見る。マギアの腹部を。そこに宿る小さな命を。大きな膨らみを。
「その子は……」
不思議だった。難儀した。
今まで通りでいることが簡単ではなかった。
関係が──明確に、切り替わってしまったのだ。
マギアニクス・ファウストが妊娠した瞬間から。
「私の、妹か、弟、になるのでしょう?」
「ええ」
私達の間にはこれまで何もなかった。
ひたすらに前を行くあなたがいて、同じ道を行きたいと願う私がいて。
その間に、何一つ存在していなかった。
「だけど私の血縁者にはならないのでしょう?」
「ええ」
私はあなたの子供だったかもしれない。
けれどマギア、私はあなたと遺伝子上の関係者ではない。
「本当の意味での、あなたの子供、なのでしょう?」
「ええ」
私はあなたの父親が死んでも泣けなかった。
痛む心がなかった。
「……私の、いつか友人になるのね」
「ええ」
私は観察する。
あなたを眺めている。
あなたの隣には、あなたが添い遂げると決めた魂の伴侶がいる。
そしてその間には小さな命が芽生えるのだ。
命の営みを──老いと、成長と、継承を、マギアは人間だから行う。
「私はどう呼ばれるの? おばさん? メフトお姉さん? どうであれ私は応える必要があるのね?」
「ええ」
断言しよう。
メフトという存在は、マギアニクスの子を恐れている。
「私は…………私には分からない。私には、私は、だって……」
「……」
私達の関係性を完全に切り替えるほどの効力を持った存在に対して、私はどのように接すればいいのかが分からない。
だから触れたくない。
だから近づきたくない。
だから逃避を選ぶ。
「私はそこにいる子供以上の繋がりを、あなたとの間に持てなかった」
月の輝きが無制限に私達を照らしていた。
夜空に浮かぶ白銀の輝きは近いようで遠い。
地は孤独。
月は銀。
一度たりとも、手が届くことはないのだろう。
「マギア。私はあなたの何だったの?」
「あなたは私を継ぐ者よ」
「──」
……あなたの言葉はいつも私を惑わせる。
私はだから、未だに何を感じ取ればいいのかが分からない。
「私にもね、メフト、あなたが私にとっての何なのか答えを出すことが難しかった。けれど私の中に、明確に血を継ぐ者が出来て──それでようやく分かったの」
マギア。
マギアニクス・ファウスト。
20歳で。結婚していて。領主としてよく働き、領民から愛され、愛する者がいて、子を身籠り、花を花壇を夢を叶えた人。
「あなたは私を継ぐ者よ。
娘ではない、家族ではない、友人というだけではない。
それでもあなたが生まれた事にはきっときっと意味がある。
私はそこに、私を継ぐという意味を持たせたい」
あなたは全てを持っている。
あなたは慈しみ、深い愛情を紡ぐことが出来る。
幸福を、きっと全てに分け与えられる。
「あなたに──あなたに、今だからこそ触れてほしい」
私はマギアニクス・ファウストがマギアニクス・ファウストだから、その善性に惹かれているのだ。
……忘れもしない。
恐れることはないと、彼女が信じているのなら、私も同じように信じるべきかもしれなかった。
もう一度、視線を、マギアのお腹に。
「命の価値を。祝福を贈る意義を」
ゆっくりと。
恐る恐る。
私は、触れて。
服越しでも分かる温もりが。
命の熱。
本能で、つい、知りたいと
欲求、萌芽。
構造解析の魔法が。
──ああ、そうか、娘なんだ。
わかる、感じる。
形がマギアにそっくりで、きっと魔法の才能も色濃く受け継ぐ。
あれ、でも。
頭の中が
◇
無。
◇
頭蓋の、内が。
あまりに成長していない。
これではなにも…………そんな、こんなのって。
「────────」
この子の頭蓋の内には、なにもない。
この子は、……ああ、なんてこと。
この子は呼吸さえ許されていない。
「────マ、ギア」
告げるべきなのだろうか。未来に思いを馳せ、祝福をもって我が子を受け入れようとする彼女に。これから母親になろうと覚悟を決めているマギアニクス・ファウストに?
あなたの娘は仮に無事産まれても数か月後には死ぬ運命にあると?
言葉が、凍る。
体が硬くなる。
硬直して、呆然として、どうにもならない現実の先を知り。
私は、
私は、マギアニクス・ファウストをずっと観察していた。
六年間……ずっと。
だから繰り返す。
私の脳裡を駆け巡る。
汗だらけになって耕した畑。
努力が形となって、それは貨幣に。
黄金や銀や銅が幾多様々な花の種へと
薔薇。百合。息をすることのない
抱きしめた銀紫の人。麻袋の中に詰めた希望、夢想の熱、色。
夢は叶ったのだ。
花々の中で立つ男女の姿。
『し』
『あ』
『わ』
『せ』──あれが、あの笑顔が。
その先にあるのがこの子の終わりだとしても?
いずれ土の中に誰もが眠る。
あなた達は塵になるまで分解され、また別の命の環に。
死。終絶。個の停止。進展のないこと。
あなたの行く道が終わる瞬間。
それでも産む。彼女も、虫も、動物も、花も木も。
生きたいと願うことさえない。
全てに必要なものがある。
生きる理由を求める。
生きることに意味などないとそれでも知っている。
泣くことなど無い山羊の赤子がいる。
へその緒が絡まって青白い、灰色の肉。
血に濡れて……確かな肉の塊。だけどただの肉塊だ。
息をすることさえ許されなかった。
だから捨てる。
だから首を落とす。
命は、どれだけ願っても死ばかりに向かう……。
……無意味だ。
何もかもに意味はない。
時間は漫然と前に進み続けるだけ。
宇宙も星もただそこにある以上のものではない。
そこに生があるとか、死があるとか。
彼女の娘に先がないだとか。
だから何なのだろう?
何もかもに意味などない。
虚無。
それこそが世界を満たす神性の名だった。
…………………………だけど。
だけど笑ってみたいと願ったのだ。
私が、こんな私でさえもが手を伸ばさずにはいられなかった。
微かな天星を誰もが欲する。
果てなきを謳う。
分かってる。
もう知ってる。
世に、神などいない。
私は神ではない。
あなたは私の娘ではない。
私はあなたの親にはなれない。
友人にも、妹にも、姉にも、何者にも。
あなたと私に直接の因果関係はない。
人が自らを別ち継がせるものさえ持たない。
だけど、──掌に小さな震えが走って。
「……っ」
でも、
「今この子、お腹を蹴ったわ」
それでも、
「マギア。この子は……生きようとしてる」
ああ、そうか……。
「ええ。生まれたからには、生きてみたいって言ってるの」
「────」
……マギアニクスの娘。
あなたは決して私の家族にはなれないけれど。
分かち難い半身を継ぐことは無いけれど。
それでも。
私が生まれた理由。
私が今ここにいる意味。
私の価値、私の行く道。
──『あなたは私を継ぐ者よ』
私は、今この時、あなたの光にならなければいけない。
生きなさい、マギアニクスの娘。
「──」
そして私は一つの魔法を起動した。誰にも気付かれない程に小さく、今は頼りない種でしかないその魔法を、マギアニクスの娘へと──その虚ろな頭蓋の内へと撃ち付ける。
魔法の発動も、生体神経系への定着確認も、0.1秒以下の出来事。
【あなた】はいずれマギアニクスの娘の思考補助システムとして、育つ事のない生体神経系の代替を果たす。そうしてマギアがそうであったように、豊かな感受性をマギアニクスの娘に与えるだろう。
……きっと誰にも気付かれることもなく、当のマギアニクスの娘でさえも気づくことなく、【あなた】は密かに役目を果たす。責任を果たし続ける。
だから私は【あなた】に名前を与えよう。
かつてマギアニクス・ファウストが私にメフトという名をくれたように。
……そうね。少しの直感に任せてみてもいいかもしれない。
うん。
よし。
決めた。
たぶんきっとだけど、これは世にありふれた人名だ。
けれど【あなた】の存在を私だけは認め続けられるから。
誰にも認知されることのない、史上二番目の魔法創造型魔法。
私の……密やかな娘。
シナプス代替魔法【
◇
「メフト。この子の名付け親になってちょうだい」
「……私が?」
「ええ。私はあなたに名付け親になってほしい」
「……。それは、できない」
「え?」
「それに…………ここまでだと思う」
「メフト?」
「ここから先はあなたの道を生きるべきなんだと思う」
「……」
「私は私の成すべきを知り、そしてそれは確かに果たされた」
「あなた、もしかしてずっと前から……?」
「私は、私も、……私の道を、行くから」
だからね、マギア。
「マギア。
あなたの子よ。
あなたが名付けるの
あなたが愛し、あなたが導くのよ」
「……」
──祈りを。
「……きっと何もかもは奇跡に近い」
祈りを花に。
鮮やかな星に。
光に。
だから彼女は、慈しみをもって我が子を撫でる。
「
彼女は我が子に、最大の愛情を贈る。
◇
何もかもは、呪いではなかった。
「マギステルシア・ファウスト」
ただひたすらな祈りと願いの集積がひとつの形として結実しただけだった。
少なくとも今このとき、これは間違いなく──。
「うん。とてもいい名ね、マギア」
マギステルシア・ファウストも。
ローロ・ワンも。
幼子へと、二人が贈った祝福だった。