主従の間に芽生えてしまった歯止めの効かない愛情は光をも割断する 作:てりのとりやき
11分後である
当主たる父上に肉体を破壊されることが私、ティアレス・ティアラ・ホルルの日常だった。
さして面白い話でもない。
有名な“騎士”を何人も輩出していた名門一族。魔法使いを殺すことを信条とした一家に十六番目の娘として生まれ、6年が経つまでに12人の姉上たちが父によって『破壊』された。
【強化】魔法。
軍人であれば誰でも使える簡単な魔法だが、“騎士”と呼ばれるほど極めるためには常軌を逸した訓練を要する。……手っ取り早い方法が肉体の破壊と強制再生だ。
私は生まれてからこの方、一つとして粉砕されていない骨はないし、臓器全般を三度に渡って破裂させられている。
脳だけは致命的な破壊を受けなかったけど、心臓と肺も何度か砕かれている。
心肺破裂時特有の、血流が澱み、肉体が停止に向かう感覚はやっぱりどうにも受け付けないね。
だけどまあ……そういう家に生まれたからだろう。
痛みは日常で、肉体の破壊はいつもの事だったんだ。
父上はよく言っていたよ。
『お前の姉たちは皆強くあれなかった』と。
『お前は強く在り続けろ』と。
それが“騎士”ということ、だそうだ。
漠然と、自分が“騎士”になるんだと思っていたよ。
それしか道はないんだってね。
まあ結局騎士になっていたわけだけど、6歳になるまでの私が考えていた“騎士”とは少し違うものになれた気はしてるんだ。
……そう。6歳だった。
あの女は気付いたら私の隣にいたんだ。
私が6歳の頃。
いつものように父から受けた強烈な教育の結果として、左腕を神経系までズタズタに破壊されていた時。屋敷の裏庭で痛みで顔をしかめながら不出来な【強化】魔法で無理やり左腕を人の形に留めていた時。
さも古い仲とでも言わんばかりにあの女は隣に座り込んでいたんだ。
今にして思うと【認識阻害】なんかの魔法でずっと姿を隠していたのを、突然解除したんだろう。
そして、つるんとした黒髪の隙間から、不思議そうに私を見つめながら喋りかけてきた。
何だったかな……。
ああ。そうそう。「あなた魔法下手くそね」だった。
はは。
まったくクソ悪魔め。第一声で人を馬鹿にするか普通。
あの時確信したんだ。
この女は私の敵だってね。
……だけど、まあ、私に出来た初めての友だった。
衝撃的で運命的な出会いという訳でもない。
痛くてうんざりしていたから追い払うのも面倒くさくて、だから問われるまま幾つか言葉を交わしていたよ。その内あいつは私の家に興味を持ったんだ。
「決めた。私、あなたの家で働くわ」
そうしてあの女は何もかもを超然と受け入れるような態度で私の実家に転がり込んできて、気付けば私と同じ侍女の立場に納まっていた。
私と同じ部屋で寝食を共にして、私に魔法の使い方を教えて、私と同じような格好で働いて、私とつまみ食いをして、私と酒を飲んで、私とバカみたいなことばかりして……。
メルツェル。
断言したっていい。
目を離しているうちに、いつの間にか世界は明るくなっていたんだ。
屋敷の裏庭。陽の当たらない影でただじっとしていたばかりの私に、黒くて白い悪魔みたいな女が光を見せた。
それが君の親であるメフトが私にくれたもの。
今も私に戦う意志を与える、強烈な衝動。
……今でもわからないんだ。
なぜ君は誕生と同時に終末魔法を展開したのだろう。
なぜ君はその特異極まる魔法によって、世界大戦を引き起こしかけていた各国代表を同日同時刻に殺したのだろう。
なぜ君は、その末に世界を破壊しようとしたんだい?
私にはわからない。
だけどメフトは君を殺したし、君の行いの責任を背負おうとした。
誰も現在から未来へと進むばかりで過去へ手を伸ばすことができない。
私もそうだ。
今も願う。高度100kmから地表へと滑落し続ける最中に、一かけらの後悔を私はきっと抱えている。
メルツェル。
メルツェル・カルテル。
メフトが望み、私に明かし、私達が二人で夢見た、私達の娘。
君と、一度でも話すことができたらよかった。