主従の間に芽生えてしまった歯止めの効かない愛情は光をも割断する   作:てりのとりやき

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18分後である

 

 

 

 

 

 

『大量の質量兵器による陽動、マギア配下の魔法創造型魔法の電撃的殲滅、ローロによる専守攻勢。切れる手札を全て使い……私が徹底して対マギア戦略を組み立てているように、マギアも徹底して私への対策を欠かさない』

『……お前を、なのか? ローロでなく?』

『ええ。私たち四人の中で最も耐久性に優れたティアレス・ティアラ・ホルルでなく、最も予測困難な潜在能力を秘めたアル・ルールではなく、最も強くそしてマギアを殺せるだけの兵器を持つローロ・ワンでもない。──私こそを、マギアは最も警戒している。だからメルツェル妨害魔法は戦闘開始の瞬間から展開され続けるでしょうね』

『……そしてお前は、一瞬たりとも戦闘に直接参加できない、と』

『なんでそこまでして、マギアニクスおば様は魔王さまを警戒するの……?』

『速いからよ』

『──速い?』

『そう。この世で唯一、超光速域で魔法発動可能な私に対しマギアは明確な対抗策を持たない』

『……』

『私が戦闘に参加できた瞬間、私は【終末魔法】の三重解放を即座に実行する』

『マギアニクス・ファウストは回避不可能な致命的損傷を負い、その隙をローロがすかさず潰す……』

『だからね、二年後の戦闘勝利条件は、ローロによる直接破壊の前段階にあるの。それはこういう一言に集約されるわ』

 

 

 

 ◇

 

 

 

『攻めて。

 攻めに攻め、続ける。繰り返す。

 マギアの処理能力を飽和させる。

 そうしてメルツェル妨害魔法が効力を弱める瞬間を……私が戦闘に参加できる時間を、0.1秒だけ確保すること』

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一撃でいい。

 たった一太刀、マギアニクス・ファウストを叩き切るだけでローロは彼女を殺すことができる。

 剣の形で、物質として安定している【終末魔法】の第四展開──“理外無効(ミリトゥム・オーバーロード)”。これは二年前に一度マギアニクスを斬っている。その際に得た彼女の構成因子、魔法創造型魔法の核たる部分。それをこの剣は、次の一太刀を浴びせるだけで完全に破壊することが出来るよう、自らの構成を変化させている。

 二撃確殺。

 その二撃目を確実に叶えるために、渾身の一閃に、二年という時間をかけた。

 それは剣を……【終末魔法】を握りしめるローロ・ワンが自己を顧みて、己に何が出来るかを見通す時間でもあった。

 

「アッッッ──ハハハッハハハハッハハハハハ!!!!」

 

 哄笑。

 爆ぜるような狂ったような笑い声は遥か上、高度500m上空。

 白銀の髪。淡紫の瞳。美貌を彩る狂気の笑顔。マギアニクス・ファウストは──女は一切の推進力を無しに宙を歩いていた。【反作用点生成】などといった“騎士”が用いるような空中歩行の魔法的手段さえ持ちえない、それはまさしく重力の概念を無視した動き。

 

「──重力制御……!」

「相手より高い所から撃ち込むっていうのは、戦術の基本よねえ!?」

 

 女がけたたましく笑いながら地に立つこちらへと眼球の焦点を合わせる。それだけで虚空より放たれる質量弾──その全ては音速の実に30倍にまで瞬間的な加速を果たしていた。

 驚異的工程短縮を併用した物質化魔法による弾頭生成。重力制御を用いた加速時間無しの砲撃。

 簡単に星を平定してみせる重力加速弾の連射速度は秒間94万発を超えていた。

 天才的技量。

 二年という決して短くはない時間、“魔王”として演じて見せた武力と技量は間違いなく星を支配するに足るそれ。

 ──マギアニクス・ファウストはまさしく“魔法使い”だ。

 だがローロは、母とは違ってまさに“騎士”だった。

 “魔法使い”を歴史から駆逐しきった、速度を至上とする強化魔法の使い手。“騎士”。

 その気になれば光速の79.999%まで加速可能な極限。その速度域に追従できる“魔法使い”は存在せず、故にローロは惑星最強の“魔法使い”とて蹂躙可能な、恒星系内最強の“騎士”である。

 

【──光速の10%】

 

 少女の肉体はもはや惑星上の全生物が肉眼視可能な領域にはなかった。

 その、あまりに速く駆け巡る両足が生んだ残像は並みの動体視力ではゆっくりと歩幅を刻むようにしか映らず、しかし今のローロが刻む一歩とはつまるところ秒速3000万メートルである。

 降り注ぐ膨大な重力加速砲撃の雨を搔い潜っていたローロは、一切の減速なしに大股の一歩を刻む。

 直後、少女の足が虚空を踏んだ──靴裏に大気の爆発を伴いながらもローロは空へと駆け上がる。

 それは反作用点生成さえ必要としない、純粋に脚力のみで圧を加えた大気圧縮層を踏み込むという荒業だ。

 魔法的現象を魔力放出無しで実行可能だとしても、意思を起点に行使される権能というのはその最高速度をローロの意思に限定してしまう。ある程度は物理法則の連動機序に任せた方が0.001秒単位で速い。

 

【もっと速く!】

【もっと先へ!】

【少しでも光に近づく!】

 

 ローロはその願いに付き従うかの如く超高速で駆け、空へと突き進んだ。一歩を刻むたびに爆ぜる大気の白煙を引き連れ、熱と音の咆哮を遅れさせながら。──高度600m、彼我の直線距離にして210mの短距離。ローロが生み出す亜光速域にとっては十分な攻撃可能範囲だ。

 

「────」ローロの形相に殺意が乗る。

「────」マギアニクスの目は笑っている……! 

 

 少女は唯一の腕を振り上げ、捻じり、一息に矯めた力の全てを解放する──大気圏下で振るわれた光速の80%運動は、ただそれだけの事実で核反応を導く。

『   ! ! ! !』──音でない“圧”、熱よりも速い“痛み”の概念が、剣の形をした【終末魔法】の刃の上にて瞬間的に踊り狂った。

 紡ぎだされたのは刃渡り8000mを超す核反応刃、摂氏1000度にまで到達する熱線の袈裟懸け──。

 

「──硬い……!」

 

 しかしその一撃は、マギアニクス・ファウストの周囲を覆う無色透明の力場によって歪曲され、一切の影響を及ぼさなかった。

 反重力防護障壁。

 自身の周囲に魔法で生み出した拡散偏向重力場を生成し、一切の光・熱・質量を阻む物理上最高にして最硬の盾──『硬い』という言葉はローロの比喩でしかないが、それが実感そのものだ。

 何なら通じる……? 

 何なら破れる? 

 何ならば越えられる──! 

 

「そうやってピョンピョン跳ばれるのうざったいわねぇ」

 

 悠々とした発声を、十数秒の自由を女に許すことそれ自体が、亜光速域で活動可能なローロの劣勢を示していた。

 マギアニクス・ファウストの反撃を警戒するローロの視線の先、隠すこともないマギアニクス・ファウストの魔力放出が巻き起こる。『物質らしきもの』がその無色透明の霧じみた性質に、放出者たる女の意志が加えられ──。

 魔法の、発動が、来る! 

 

「──」

 

 肉体が軋み、千切れ、圧し潰される予感──。ローロは直感から一気に高度を下げ、同時にマギアニクス・ファウストから距離を取るため全力で駆けだした。方向は問わず、とにかく女から遠ざかるために。

 

「……ッ!」

「ほらほらほらァ! どうするのどうするのどうするのォっ!? 潰れるわよ!? 潰しちゃうけどぉ!?!?」

 

 ローロの一歩一歩へと追従するかの如く大地の全てが抉れていった。圧し潰され、砕け散り、破砕した。

 ──重力生成魔法の実にシンプルな使い方を、マギアニクス・ファウストは実践している。つまりは惑星表面積の1%を覆う、偏向重力による圧壊。

 重力変動は性質として光させ捕まえうる凶器だ。……捕まったら終わりなのはどちらも同じか。

 どちらも一撃必殺の切り札を常時見せ合っている。

 

【反省しよう。次に活かすしかない】

『大丈夫! 今度はもっとうまくやれる!』

【うん】

 

 であれば必要なのは出たとこ勝負の乱雑な手数ではなく、徹底して勝利への道筋を詰めに詰めた鋭利な一発。

 マギアニクス・ファウストは重力圧壊で物足りなくなったのか、質量弾による砲撃を再開する。自然現象としての豪雨以上の密度を誇る重力加速砲撃の連続を、時に跳び、時に交わし、時に切り払いながら、ローロは刹那の間に思考を巡らせる。 

 

【……母さんは、持ちうる最高の戦力として“重力”を選択したんだ】

 

 本来ならば衛星レベルの大質量を用意する必要がある重力生成を、虚空に突如として生み出す異常な神業。あまつさえ生み出した重力の偏向性制御を実現し、最強硬度の防護障壁にも、また砲塔にも変える自由度。──一体いくつの物理法則をスキップしているのか。

 ふー、とローロはわざとらしくため息を吐いてみせる。その間に少女の肉体を掠りさえしなかった砲弾の数は300万発に至った。

 

「なんでもありだね」

 

 ──少女が呟く。

 3490万発。

 周囲の大地は草の根一つ塵になった。

 

「魔法らしくていいでしょ?」

 

 ──女が嗤う。

 1億7690発。 

 しかし『国民なき国の女王』が住まう城は無傷である。

 

「“理外無効”……無限にお前の願いを叶える、第二神域到達魔法【ローロ・ワン】が生み出した神の遺物」

 

 ローロ・ワンが走り、女へと跳ぶ機会を探し続ける最中。

 マギアニクス・ファウストが間隙なき砲撃を絶え間なく連射する最中。女の余裕に満ちた声音が響き渡る。

 

「だけどそれには致命的な弱点があるわね?」

 

 ──そんなのあるように見える? 

 反駁のつもりで、質量弾を一つローロは剣の腹で打ち返した。軌道は的確にマギアニクス・ファウストの頭蓋を狙う。

 

どう(・・)して(・・)今す(・・)ぐ私(・・)を殺(・・)さな(・・)いの(・・)かしら(・・・)

 

 女が嫣然と笑う現実の通り、打ち返された質量弾はマギアニクス・ファウストに一切のダメージを与えられない。重力防護障壁による全方位完全防護は、一切の熱量・質量・速度・重量を無効化可能な最高の盾だ。

 

「光速の80%で突撃? 【対消滅反応】対策に魔力放出なしの魔法戦が可能なおまえが最前線に立つ? ──はッ、そんな手間なことせずに、『死ね』って願えばそれで済む話でしょ?」

 

 ……すごいな、母さんは。

 まったくもってその通りだ。

 ローロは苦く笑う余裕さえない戦闘の最中に、マギアニクス・ファウストの言葉を聞くほかない。

 

「だけどできない。なぜならおまえは、特定の手段以外で私が死ぬとは思っていないから。おまえが心のどこかで『できない』と思っていることは、どうやっても『できる』ようにはならない。全知全能の域にある権能だろうと、使い手が凡庸な人間性しか備えていないならどうやったって物理法則を超越することなんて出来やしないわ」

 

 この世のどこに、自身の両足が光速の10%で駆け巡れると確信できる異常者がいるのだろう。

 この世のどこに衛星と惑星の間を2秒足らずで移動できると、自分にならばやれると、そう思える者がいるのか。

 願い、叶えたいなら……。

 

 

 そし(・・)て叶(・・)えた(・・)のな(・・)らば(・・)一度(・・)でも(・・)疑問(・・)を持(・・)って(・・)はい(・・)けない(・・・)。 

 

 

 それこそがローロ・ワンが得た最強にして最高、全知全能たる“理外無効”の唯一致命的弱点だった。

『できるかもしれない』は許されない。

『できるだろうか』なんて否定しなければならない。

 だから『できる』だけ。『できる』から『できた』という結果だけを思い浮かべ続けること。

 ただそれだけを鍛えることが、己の心に決して崩れることのない自信を培うことが、ローロ・ワンに課された2年間だった。

 

「私はねえ、“魔神”なのよ。『できる』とか『できない』とかじゃない。『やれる』の! なんでも! なんだって!」

 

 だが、そんな不安定な権能などなくともマギアニクス・ファウストは魔法という概念に愛され続ける天才だったのだろう。

 何だって出来るのだ。

 何だってやれたのだろう。

 だから憎むままに、思うままに生きている。

 ──誰かを憎めがそれが力になった。

 ──殺したいと思えば彼女はなんだってやれたのだ。

 もはや思想の相違は致命的で、だから言葉に、会話に意味はないのだろう。

 

「越えられるのぉ?!」

 

 愛しているから、生きてるよ。

 

「届くの!? それで!?」

 

 帰りたい場所に向かうんだ。

 

「────母、さん!」

 

 ローロは口を開く。留まることを知らない砲撃の最中にあっても。

 歯を食いしばって、光速域にあろうと音の振幅による会話をそれでも選ぶ。

 

「あなたを超える!! そのために今ッここまで来た!!!!」

「だったらァッ!!!! 今すぐ殺してみせろ!!!!!!!」

 

 マギアニクス・ファウストは終始愉しそうに笑いながら応じて見せた。

 言い切り、口を閉じると同時。──女の頭頂部に浮かぶ輻輳円環が3つ(・・)。紫紺色をした絶えず回転を続ける物理的顕現の形象に、地を行くローロは目を瞠る。

 

「──【MOS(マギマ)】が、三基も……!」

 

 それは矮小な魔力放出しか出来ない少女を、しかし惑星最強の“騎士”にさえ追従させてみせた究極絶対の演算魔法。瞬時に完全稼働せしめた疑似的魔法創造型魔法3基による強烈なまでの演算能力の補強は、つまるところマギアニクス・ファウストに『できる』領域を拡張することに他ならない。

 

 

 

 

『ッ────────゛』と。

 空間の、軋む幻聴が。

 走る。

 

 

 

 

 幻聴の直後にそれはローロの鼓膜を打つ現実へと移行した。  

 耳朶を打つ重みを引き連れ、空間は明確に光を歪曲する。マギアニクス・ファウストの前方にある空間を歪曲し、重く捻じ曲げ、暗く黒く、物質と大気との境界面に異常な歪みを形作る。

 それは、偏向性加工型純粋重力砲撃──言い換えるなら。

 

「【疑似極小重力特異点砲(マイクロブラックホールバレット)】よ♥」

「────」

「吹♥ き♥ 飛♥ べ♥」

 

 そして光を逃がさないからこその黒き砲弾が、ローロへと射出された。

 

「……ッ!」

 

 光速は、光という物理的限界の隷属化にある以上、光の性質を超えることが出来ない。それはローロ・ワンが光速の99.999%まで加速できたとしても、その先を超えられない限りは、重力特異点には打ち勝てないことを意味する。

 吐き出された重力特異点加工の砲撃は、亜光速域下にあったローロの足を縫い止め、もはや逃げることを少女に許さなかった。

 ローロが持ちうる最高の戦力は……『亜光速(・・・)』は、この時点で敗北していたのだ。

 

 

 

 

 

 1ッ秒で……ッ、

 いい、んだ……。

 

 

 

 

 

 臍を噛む時間さえない秒と秒の間隙。重力により原子まで分解されるまでの刹那。

 ──ふと、ローロはかつての会話を思い出す。

 

『ちょっと待て』

 

 あれは二年前のこと。

 目を覚ますと、怒気を孕んだ声音をローロ・ワンは聞いたのだ。

 

『いつ発動するかわからない終末魔法に合わせてマギアニクス・ファウストをローロが切るってことか?』

『ええ。きっとマギアはこの世の常識を超えた異常な防御手段を用意する。突破できるのは、メルツェルの放つ【終末魔法】しか無い』

 

 会話の前後をローロは知らない。

 だけど声音からしてティアレスが怒っていると分かった。

 

『……それは作戦というより、無謀と言うべきじゃないか? 超光速で発動し結果を生む攻勢魔法に、一体どうやって連携しろって言うんだ』

 

 重い体を引きずって、……自身の左肩に納まる義手には目もくれずに、ローロは自分が眠っていた寝室を後にしたのだ。

 ──あの時、朧気な意識で考えていたこと。忘れたくても忘れられない。

 

『だけどこれしかない。これが、私が切れる最高の選択よ』

『メフト。お前……ローロを無駄死にさせるのか?』

 

 ティアレスが。

 理想の“騎士”が怒る理由は常に何だったのか。それは胸を張って断言できるのだ。

 ティアレス・ティアラ・ホルルは心美しい、世界最強の“騎士”だから。だからこそ誰かを想って誰かに敵意を向けられる、優しい人。

 ローロ・ワンが最前線に立つ無謀をきっと彼女は責めている。

 

『お前、詰めの部分でローロを殺すつもりか──』

『できます。やらせてください』

 

 だから、リビングへ通じる扉を開けながら、言い切った。

 突然現れたローロに向けられる六つの瞳。青、緑、黒。一様に驚きを浮かべ、真っ先に立ち直ったのは涼しげな青き瞳。

 

『しかしだな……こんなのは作戦とは呼べないぞ。無策で特攻させるのと同じじゃないか』

 

 当時、ティアレスがどうしてああもメフトの作戦に食って掛かったのか、否定的だったのか。理解はできる。

 超光速域で発動される魔法を、発動後の結果が現象として確定するまで、この世のありとあらゆる生命体は──魔法創造型魔法を含めて──誰一人として事前察知も認識もできない。超光速とはそういう性質で、あらゆる事象を超越した物理の極点にある領域だからだ。

 だからこそメフトは世界を支配する“魔王”として君臨できた。

 その名を借りたマギアニクス・ファウストが二年もの間星を支配できたのも、メフトの【終末魔法】への畏怖による所が大きい。

 

『発動の事前予兆は?』

『ないわ』 

『いつ発動するんだ?』

『わからない』

『示し合わせることはできるのか?』

『無理よ』

 

 極限領域にある魔法に、一個体であるローロ・ワンが連携し、あまつさえ重力防護障壁が解除された瞬間に合わせてマギアニクス・ファウストを叩き切る──これがどれほどの無謀であるか、それが分からないローロではない。

 だが、

 

『私、たぶん、メフトさまがいつ【終末魔法】を発動するのかわかると思います』

『……すまないが、理由を聞いても?』

 

 ローロには断言できるだけの理由があった。 

 

 

 

 

 なぜって──愛しているから! 

 

 

 

 

 愛情が光さえ超えることを、ローロ・ワンは既に知っている。

 痛みや憎しみも。喪失も復讐も、すべて乗り越えていけるだけの代物だと確信できる。

 だから。

 

【強いな。あの人】

【母さんは、うん、化け物だ……】

 

 強者は強者と正しく認識しよう。

 敵は遥か彼方。上空500m先。今のローロには僅か0.0001秒で到達可能な、だけど果てしなく遠い空。

 恒星を背に天を抱えるは魔なる狂王。

 

【行こう】

『行けるよ!』

 

 超えるべき宿縁を、私達は超えていく。

 光を束縛するほどの高重力が大地を覆う中、ローロは極限まで強化された膂力で一歩を踏みしめる。その一歩が周囲全域の大地に街一つを超すほどのクレーターを生む──。

 

【私を反射する光は、直進性を失う】

 

 少女は、あと数秒で死に絶える状況で。

 だけど歌を謳い始めた。

 ──マギアニクス・ファウストが視認する空間内において、少女の姿が突如として歪む(・・)

 

【私が触れる重みに、束縛という概念は無い】

 

 純粋重力砲撃に対しローロは剣を構える。その右手が身を捻じるに付き従い、首の裏まで届くほど腕を伸ばす。

 少女の動きに異常高重力の影響は存在(・・)しな(・・)かった(・・・)

 

【私という光は重力に打ち勝てる】

 

 1秒と経たず起き続けた物理超過の現実に、マギアニクス・ファウストはようやく目を瞠る──しかしこの時点でローロの準備は完了していた。

 一つ……。

 ひとつ、ひとつずつだった。

 少しだけ、一歩ずつ、ローロは自分に『できる』ことを増やしていった。

 二年という歳月をかけて自分が光に近しい速度を発揮できるという確信を得た。

 その先でローロは掴み続けた。物理法則(・・・・)そのものを、自分に出来る限界と──それを突破できる自分へのイメージを。

 だから、そう。

 集約される言葉はただ一つ。

 

【私には、もう、自信があるんだ】

『前へ進めるだけの自信が』

【一歩、この先へ行けるための確信が!】

 

 光の直進性を否定し。

 光さえ捕まえうる重力の優位性を否定し。

 そして、ローロ・ワンは、目前に迫る重力砲撃弾へと目線を合わせ。

 

 

 

【重力を……!】

 

『星の航行を!』

 

【私達が!】

 

【『叩き斬る──!!!!』】

 

 

 

 振るわれた一撃には少女の培った二年の全てが込められていた。

 極小といえど、疑似的といえど、重力特異点に等しい純粋重力砲撃そのものが──真っ二つになり。

 その時、ローロ・ワンは勝利を確信した。

 

「力学作用を、重力そのものを切断──!?」

 

 概念(・・)干渉(・・)領域(・・)

 個人が抱えた願望は、ついにその域に達し。

 マギアニクス・ファウストは最高の盾として用意した重力防護障壁さえ貫通しうる一撃に、全計算能力を割かざるを得なくなり──。

 よって、宇宙にて。

 

 

 

 

 

 

 

【神の偏在を証明する手段はどこにもない】

【私には、それでも遍在した黄金が見える……】

 

 

 

 

 

 

 

 ──0秒。

 黄金の十字架が、まだ(・・)現れ(・・)ては(・・)いない(・・・)

 

 

 

 

 

 

 

【私の神、私の罪、私のメルツェル】

【あなたの舌を、今、抉り抜く】

 

 

 

 

 

 

 ──0秒。

 だから、その歌声を聴く者は誰一人として居ない。

 

 

 

 

 

【代償によって五十京九層の魔法群積層配列は即刻始動し】

【第三の展開をあなたは始めることになる】

 

 

 

 

 

 ──0秒。

 だから、その黄金が何であるかを、誰もまだ知らない。

 

 

 

 

 

【死にゆく宇宙に黄金を。恍惚の死を】

【やがて暗黒を満たす十字の光背には抱擁の幻肢を】

 

 

 

 

 何一つ始まってなどいなかった。

 何一つ終わってもいなかった。

 

 

 

 

 

【メルツェル】

【大丈夫】

【私には、もう、覚悟があるから】

 

 

 

 

 

 究極の停滞だけがある。

 無限の静止だけが作られる。

 

 

 

 

 

【さあ……世界を取り戻しに行きましょう】

 

 

 

 

 時間流終絶の最中に、しかし、魔力は謳い。

 ──0秒。

 ──0秒。

 ──0秒。

 ──0秒。

 ──0秒。

 ──0秒。

 ──0秒。

 ──0秒。

 極限の黒い花が、地獄に季節の到来を告げる。

 終焉を担う黄金の眼が……瞼を開く。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

【終末魔法第三被展開体、“速度無効(オープニール)/距離無効(ヘイルライン)/硬度無効(キーチェス)”起動】

 

 

 

 

 ◇

 

 

 来ると思った。

 来るよりも先に体を動かしていた。

 空間歪曲の槍が突如として発生し、マギアニクス・ファウストの腹部に大穴が空く──弾け飛ぶ内臓をその瞳に移しながら、ローロは今度こそ剣を構え、地を蹴る。

 空に浮かぶ母親を、殺すために。

 ──時の流れが、ひどく遅い。

 構える右腕の連動も。剣の切っ先の揺れ幅も。まるで……まるで1秒が100秒のように感じられた。0.1以下の出来事が、1分ほどに思えた。

 重力防護障壁を貫通され、死には至らなくとも致命傷を負ったであろうマギアニクス・ファウスト。ローロがこれからの0.01秒で成す突撃は確実に成功するだろう。“理外無効”の切っ先は彼女の心臓を刺し貫き、そして戦いは終わる。

 これで──終わる──。

 最後の一歩を、ローロは踏みしめ。

 天へ。

 前へ。

 前へ。

 前へ。

 前、前、前、前、空、天、あれ、前、前、空……天……あれ、あれ、あ、

 

「……………………?」

 

 1秒が、遅かった。

 首を傾げた──代わりに、乾いた音を立てて剣が手から落ちた。

 右腕が力を失ってぶらぶらと揺れていた。疑問を口にすることも、驚きで目を瞠ることも、何もできなかった。

 

「…………、……っ! ……!!!!」

 

 唇を震わせたつもりが、吐き出されたのは呼気のみ。痙攣する口元。動くことのない右腕。脱力し、地に膝をつく四肢。

 1秒が…………まるで20秒のようにも500秒のようにも感じられた。

 感じ、られた、……? 

 

「────」

 

 その時ようやく悟る。

 

『ローロ?! ねえ、ローロ! なんで?! どうして動かないの?!』

 

 肉体の受け取った情報を処理すべく常時稼働しているはずの【シナプス代替魔法】の動きが、処理速度が、凄まじく遅延している。

 これは。

 

「クク。ク。ああ……痛い、痛いわ……。ねえちょっとお、内臓どっかいっちゃったんだけどお……」

 

 これは。

 これは、これ、こ、これ、これは、

 頭が。

 思考。

 回らな、

 魔力、無、なぜ、

 

「その魔法はね、さすがの私でも発動に時間がかかるのよ。それも空間全域を対象にするのではなくて、ローロ、おまえだけを標的にしなければならなかったから尚更ね」

 

 首、上げ、見。

 母さ笑、立、

 

「【対消滅反応】はいい撒き餌になれた? 重力生成魔法はいい時間稼ぎになれたかしら?」

 

 頭  の 上  

 魔、法 円……環

 あ  

 

 れ

 

「まあ確かに? 対消滅反応による支配環境への対抗策として、魔力放出からの魔法発動という過程を無視できるローロのみを最前線に立たせること……実に正しい判断でしょうね。だけどあなたにはどのみち、ローロを最前線に立たせる以外の手札はなかったのよ」

 

 

 

 

 

 あれ、【MOS】じゃ、ない。

 

 

 

 

 

「だが、だからこそ、この戦闘は始めから私の勝利が確定していた……!」

 

 …………動、  い、て

 母さ  超、る

 勝たなきゃ

 勝つ だ

 

「メフトォッッッ!!!! 

 あなたの敗北は!!!! 

 ローロ・ワンを私の前に立たせた事そのものよ!!!!」

 

 メフトさま…… ……

 メフトさま

 メフトさま ! 

 

「これが絶対、これこそが究極の領域支配魔法!!」

 

 私   守、

 私が、皆

 私

 

「【不具領域(エバーグリーン)】」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 惑星にて発生した異常を極めすぎた魔法領域の展開に、宇宙空間にあってただ一人、メフトは目を瞠る他なかった。

 

『マギア、あなたは……』

 

 息を喘ぐように自然と両肩が上下する。魔法においては全知に等しいメフトでさえも驚愕と畏怖を覚えざるを得ない状況に、ただただ女の体には震えだけが走る。

 

『真に魔法に愛されすぎた、魔法使いだったのね』

 

 それはあまりにも常識外れで、異次元的で、極めて効率的かつ有効性の高い魔法だった。

【対消滅反応】により既存魔法の大半を無効化可能なマギアニクス・ファウストが追い求めたのは、結局のところ、既知でない魔法への絶対的カウンターなのだろう。

 魔法が魔法である以上、放出された魔力を基にするという絶対の法則を突き破ることは出来ない。

 魔法創造型魔法でさえもが自分自身を維持するために魔力を放出し続ける。

 であればそもそもの話、魔力を放出さえできなければ、すべての魔法は無効化可能なのだ。

 それをメフトは端的な一言で言い表した。

 

『────対象設定が自由な、魔力放出停止魔法』

 

 マギアニクス・ファウストは……紛うことなき神の領域に踏み込んでいる。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 女が地に降り立つ頃には、ローロは膝を突いて項垂れたまま微動だにしなくなっていた。

 当然だ。

 これまで外界対応の全てを担ってきた【ローロ・ワン】が機能不全(フリーズ)に陥ったのだ、その肉体を動かす主導権が喪失しては身動きの一つとれるはずもない。

 魔力放出を強制停止させる【不具領域(エバーグリーン)】は、ローロ・ワンのような生体由来の魔力を前提として成り立つ魔法創造型魔法には致命的弱点になり得る。【MOS】に偽装する形で物理的顕現を果たした輻輳円環三基は、女が停止を命じない限り【不具領域】を展開し続けるだろう。

 

「あとはローロにもう一度【MOS】を植え付けて支配すれば、メフトはどうとてもなる。──私の勝ちね」

 

 ローロが完全に沈黙したのを確認し、マギアニクス・ファウストは笑みを更に濃いものへと変えた。勝利を祝い盛大に笑ってやろうとしたが、口からこぼれたのは塊じみた血液だった。

 

「はッ……ごハッ……。ふう、はあ、……あいたたた…………」

 

 腹部を中心に広がる激痛に、思わず女は両手を下腹部に押し当てる。滑る血潮の熱、不快と激痛の塊。まず間違いなく消化器官は全損してぐちゃぐちゃになっている。肉体の損壊で死ぬことのない魔法創造型魔法でなければ、メフトの解き放った【終末魔法】で即死していたことだろう。

 

「嫌ねえ、この傷ッ、なんか治らないんですけどぉ? 痛くて痛くて泣きそうなのに──ウフフ」

 

 本来納まっているべき内臓が一切ない状態。あってはならない身軽さに、もしくは死滅的な激痛の連続でか、マギアニクス・ファウストは大粒の涙をこぼし続けた。苦悶で歪む表情はしかし口元だけが痙攣混じりに薄く鋭く笑みを刻んでいる。

 

「もう何も食べないし、もう、……何も産まないものね。胃腸も子宮もなぁーんにもいらないんだから、これくらいで勝てたなら大成功大成功……」

 

 マギアニクス・ファウストは、ゆっくりとローロへと歩いていった。

 その、鈍い足取りを邪魔する者は居ない。

 メフトは復帰したメルツェル妨害魔法により無力化され続けており、先の惑星切断級の斬撃を見せつけたティアレス・ティアラ・ホルルは惑星周回軌道から戻ってこない。ローロはもちろん今目の前で沈黙している。

 

「ああ──……なんで清々しいのかしら」

 

 世界の全てが、マギアニクス・ファウストを阻害できなかった。

 すべては妄執と憎悪に取り憑かれた女の願いと祈りの通りに事は進んでいる。それが楽しくて仕方がないのだと女は血まみれの唇で弧を描く。

 ──そして、思いついたとでも言わんばかりに手を叩き合わせる。血の雫がいくつも飛び散った。

 

「メフトぉ。私良いこと思いついたんだけど、ローロと私とおまえがいれば、あとはこんな星いらないんじゃないかしら!」

 

 異様な論理の飛躍を、さも名案と言いたげにマギアニクス・ファウストの顔が明るく輝く。血の気を失い青白いばかりの表情に、異常な紅潮が頬を朱に染める。

 

「本当は最終兵器のつもりで隠していたんだけど──ねえメフト、私がかつて無限の魔力を持っていたとき何を作ったと思う?」

 

 二年前だ。

 マギアニクス・ファウストは今の状態で受肉した際、無限の魔力総量を獲得していた。そしてそれをローロ達に見せつけるようにして放出し、恒星を模倣した極めて小さな核融合炉を創造した。

 だが、発動(・・)した(・・)魔法(・・)はそ(・・)れだ(・・)けで(・・)はない(・・・)

 

「不思議よねぇ……憎むだけで、私はなんだってやれたの」

 

 女の手が、天へと伸びた。

 血で汚れすぎて生来の白さを、肌理の細かな肌艶を失った片手。その掌からレーザー光にも似た直進性を伴う魔法的現象が解き放たれる。それは光学兵器というにしては出力が弱く、何らかの通信手段や、もしくは起動シグナルのようであり。

 

「愛するよりも憎む方がね……力を引きずり出すのは、維持し続けるのは、簡単だったのよ」

 

 女が目を瞑り、伸ばしていた手を握る。片手から照射され続けていた一条の細い光が掻き消えるのと現象の(・・・)発生(・・)は同時だった。

 それは女が立つ惑星上での出来事ではない。

 

「メフトぉ──……おまえはそこで見ていなさい」

 

 惑星から見ておよそ数百億km。

 光速においては僅か数時間程度で到達可能な至近距離に、宇宙の真空空間に、突如として穴が開いた。

 

「おまえが望んだ世界が、おまえが帰りたいと願った世界が壊れ行くのをね……特等席でたぁっぷり楽しんで……」

 

 ──否、『穴が』『開いた』のではない。現象をただ事実のまま羅列するなら、それは、宇宙空間を模した偽装被膜が破れ広がっていく状態だ。円形に広がっていく膜の破れ方は、膨大(・・)な熱(・・)に晒(・・)され(・・)て穴(・・)を開(・・)ける(・・)まさ(・・)しく(・・)被膜(・・)その(・・)もの(・・)

 宇宙たる黒の洞。

 マギアニクス・ファウストが二年前に発動していた偽装重力被膜の解除と共に、漏れ始めたのは強烈なまでの白だった。

 大きく。

 極めて巨きく。 

 異常なほど巨大。

 直径にして6200万km。

 ローロ達が帰還を目指した惑星の実に5000倍。惑星に輻射熱と重力の祝福を従来与えていた主たる恒星の、優に45倍もの大きさを誇る超巨大恒星がそこにはあった。

 

「【縮退耀星(ブレスレス)極王灼(ヘヴンリィスケール)】」

 

 ──マギアニクス・ファウストが二年前に生成し、直後に重力偽装により隠ぺいし続け、ついにその偽装を解かれた熱の星。

 ただそこにあるだけで何もかもに破滅を齎す恒星はしかし重力制御により周辺空間への一切の影響を無効化されていたが。

 

「クク、ク。アハハ──アハハハハハハハ!!!!」

 

 もう、我慢が効かないのだと。

 誰にも止められることのない狂笑と共に、超巨大恒星は突如として破壊(・・)された(・・・)

 本来ならば数千万年という時を掛けて行われる恒星の成長と死の流れは、異常なまでに魔法に愛された一人の女の執念によって、強制的な重力変動場に晒されることで瞬間的な崩壊を始めた。

 

「メフトォッ!!!! これが私の怒りよ! これが私の憎悪の集大成よ!! 恨むなら私をこうまで歪めた自身の行いを恨め! 恐れるなら私にこうまでさせてしまったおまえの過去を畏れろ!!」

 

 それが一体何を齎すのかをマギアニクス・ファウストは十分に理解している。

 1900年代初頭の技術水準では惑星上のほぼ全ての人間が理解できなくとも、メフトとマギアニクス・ファウストにだけは分かる。

 

「おまえが関わる全てを壊してやるッ! おまえが望んだすべてをメチャクチャにするのよ!!」

 

 ──咆哮し、絶叫し、喉が潰れて血反吐を吐いても。

 それでも女の声音から力が失われることはなかった。

 

「思い知れ……思い知れ……ッ! マギステルシアが背負わされた代償を、その重みを──あるべきはずだった幸福の全ての重さをッ!!!!」

 

 全身全盛で吼える痛みで腹部を抑えるマギアニクス・ファウストの目には、もはや、目の前で糸が切れた人形のようにぴくりともしないローロ・ワンが──自身の娘の体が、映ってはいなかった。

 彼女にとってマギステルシア・ファウストは、既にどこにも居ないのだろう。

 ……そして。

 

「これが私の痛み! これこそが我が憎悪!!!!」

 

 猛き白熱の奔流は、星の中心部へと向かう偏向重力の歪みに付き従い、数秒の内にその巨大な径を収縮させ。

 

「超巨大恒星を潰して解き放つ銀河消滅の光!! 

 ──憎悪の裁定をォ、受け入れろ……!!」

 

 致命的放射線量の拡散。

 ありとあらゆる炭素基質細胞を破壊する電磁波。

 星を、星系を、銀河をも潰す熱量と重力変動。

 それらすべてが、予めマギアによって用意された重力偏向制御の砲塔によって指向性を与えられていた。本来ならは全方位に振りまかれるはずだった破滅の輝きは、今、ただひとつの星系を焼き尽くすためだけの砲撃となった。

 マギアニクス・ファウストは……。

 銀河破壊者足り得る魔神は呪いを謳う。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「【極超新星爆砲(グランド・ノヴァ)】」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 そして究極無比の砲撃が解き放たれ、銀河を貫通する爆光の腕が広がった。

 直線軌道上に存在した恒星が、惑星が、衛星が、彗星が、ガス型惑星が、小惑星が、物質という物質の全てが溶けた。砕けた。破裂した。知能、知性、生命、文明、何一つ関係なかった。なぜならそれは宇宙というスケールの物理においては極点に位置する自然現象。星や恒星系という領域を超えた、銀河という規模で見なければ直視できない砲撃だ。

 抗える者など存在しない。

 闇という闇に暗澹たる光輝が蔓延していく。

 呪いは、今この時、果てのない白を取る。

 宇宙を照らす破滅の白炎。

 天の光は、すべてが憎悪だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銀河の一つに。

 ありとあらゆる物質に。

 ローロ達が帰ろうとした惑星に。

 等しく、絶滅という終幕が降る。

 

「………………ローロ」

 

 世界が──天蓋のすべてが白く光り輝く中。

 アル・ルールは、独り月面から宇宙を見上げていた。

 

 

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