主従の間に芽生えてしまった歯止めの効かない愛情は光をも割断する   作:てりのとりやき

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7分後である

 

 

 

 声を、聴きました。

 

 

【ねえ、泣かないで】

【哀しまなくていいんだ】

【泣かなくて、いいんだよ】

 

 

 それは……魔力で編まれた優しい声音でした。

 

 

【わたしは今もあなたと共に居る】

【魔力となって、ここに】

【いつまでも傍に】

 

 

 私の傍に彼女を感じました。

 私は、その幻の熱に触れてようやく、私というものが現実に、確かに、存在していることを知りました。

 

「……ア、ル」

 

 幻聴かもしれません。

 妄想かもしれません。

 

「ティアレス、さま」

 

 “私”という自意識がマギステルシア・ファウストの脳や神経系を駆け巡るのが自覚できました。

 神経電位信号の発火に寄せた私、──(ローロ)は、重々しく開けた視界の中で、今まさに無色透明の斬撃型攻性魔法……軌跡再現が複数発動され続けているのを、理解したのです。

 

 

【さあ、ほら、未来(まえ)を見よう?】

【ここから繋がる先へ】

【顔を上げて。ね?】

 

 

 アルも。

 ティアレスさまも。

 私の大事な人が、今、どのような手段かはともかく私の傍にいるのだと。

 

「聞こ……える」

 

 大事な人が私に囁いているのです。

 

 

【いこう】

【歌ってよ】

【ローロ──】

 

 

 大切な人が私に訴えかけているのです。

 

「わかる」

 

 ゆっくりと。重々しく。

 それでも私はマギステルシア・ファウストと共有する意思に、薪をくべます。

 炎がいるのです。

 頬を流れる、温いばかりの雫を蒸発できるほどの猛き炎が。

 

 

 

【春は、もうすぐそこにあるよ】

 

 

 

 だから(・・・)ローロ(・・・)ワンは(・・・)走るこ(・・・)とにした(・・・・)

 

「──」

「──!」

 

 肉体の始動。『行こう』という思いに全身が咆哮を上げていた。傍で転がっていた剣をつかみ、迷わずローロ・ワンは即座に駆けだした。

 軌跡再現の襲撃により頭上にあった三つの円環が破壊されたマギアニクス・ファウストは、狂乱の眼差しを直後に向ける。

 腹部に残る致命傷。

 右腕の喪失。

 発動地点も軌跡も事前察知不能な斬撃型攻性魔法。

 そんな窮地の最中にあっても、女の悪意は即座に魔法となって表れた。

 ──マギアニクス・ファウストの頭上に、再度半透明の円環が生成される。数は1つ。

 

「ッ──」

 

 生成の直後からローロは一切の魔法が使えなくなった。願いと祈りによって奇跡を発動する“理外無効”の剣でさえも効力を発揮できないことを即座に理解する。

 ローロ・ワンを対象に魔力放出を強制停止させる魔法、【不具領域(エバーグリーン)】。

 完全発動には恐らく円環が三つ必要なのだ。魔法という概念に愛され続けるマギアニクス・ファウストであっても即刻始動できたのは1つ目までということ。それでも不完全ながらローロは【強化】も何も使えなくなる。

 頼りになるのは片腕のない肉体ひとつと、女を突き刺せば【マギアニクス・ファウスト】構成因子を完全に破壊できる物質として安定した“理外無効”の剣だけ。

 女まで一直線に駆けて残り百数歩。【強化】が、奇跡さえ叶うなら1秒と経たず詰められる距離。だけど今、その百数歩は果てしなく遠い。

 

「────!!!!」

 

 それでもローロ・ワンは吼えた。呼気に決意を織り交ぜ、足は駆ける。

 立ち止まることのない裂帛にマギアニクス・ファウストの表情が歪む。怒り、憎悪、殺意──悪感情による魔力放出が即座に魔法へと転換した。

 解き放たれたのは一直線にこちらへと向かう、細い糸のような熱線。これまでの戦闘からすれば随分と小規模な、熱量兵器。恐らくマギアニクス・ファウストも度重なるダメージの蓄積で本調子でない。とはいえ魔法的対応が封じられた今のローロでは、直撃すればそれだけで即死は免れない。 

 視界の全てが、爆炎による白光で封じられた。 

 

「────────────―」

 

 対応を封じ、対策を打ち返す前に速攻を掛けるその手腕。

 あまりに対応が早すぎる。

 圧倒的天才。これがマギアニクス・ファウスト、真なる魔法使い。

 避け、

 死、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 騎士が! 

 剣より先に! 

 心を────折ってはいけない!!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 背中を押す、暖かくて大きな、ごつごつとした手の感触。

 ──ああ。ティアレスさま。

 今……あなたの声、あなたの太刀筋がはっきりと見えます。

 

「────」

 

 ローロ・ワンは止まらなかった。熱線を避けることさえしなかった。

 少女が進む三歩先。

 0.1秒と経たず直撃するだろう熱線と少女との間に、世界で最も素敵な騎士が剣を振り下ろすと分かったから。

 

「なッ!?」

 

 音はなく。

 形もなく。

 ただただ、騎士の見せる軌跡だけが出現する。発動の予兆も事前察知も不可能な無色透明の斬撃魔法を──軌跡再現が、幾重にも折り重なって紡がれた。

 それはローロ・ワンが突き進むための壁になった。ローロ・ワンの障害を断ち切る剣だった。

 熱線が、すべて、切断される。

 

「なんでわかるのよ……っ!」

 

 マギアニクス・ファウストの声にはついに恐慌が混じりだす。

 だが、ローロ・ワンとて分かってはいなかった。軌跡再現がどのような魔法によるものなのか。遥か遠隔にいるはずのティアレスがどのようにしてローロを守る盾として軌跡再現を発動したのか。

 分からない。

 分かるはずがない……! 

 だけど、それでも。 

 

「愛されて、想われているから──!」

「──」

 

 少女が駆けるたびに剣が振るわれた。その周囲を切り払うために、守るかの如く。

 走る速度に合わせた軌跡再現。マギアニクス・ファウストが更なる攻性魔法を、妨害魔法の数々を発動しようとすればそれを直後には叩き斬った。

 何もかもが予知できているみたいだった。

 何もかもをティアレスは予測しているみたいだった。

 ローロ・ワンは、ティアレスの存在を間近に感じていた。

 

「私の背中を押す人がいる──! 私の道を私に示してくれる人たちがいたんだ!!」

「ふざけるな! ふざけるな! ふざ──ッけるなァァアアアアア!」

 

 言葉に、喉を潰すほどの怒声をもって女が返す。

 

「思い!? 想いだと!?」

 

 歪み切った顔が狂相のままに無数の魔法を連発した。

 発動する前にすべて軌跡再現が斬り潰した。

 

「そんなもので勝てるものかッ! そんな程度で打ち克てるなら今頃私はこうなってなんかない!!!!」

 

 マギアニクス・ファウストはそれでも吼える。怒りをぶちまけ、憎しみを吐き出し、怨みでもって魔法を手繰る。故人としてのマギアニクス・ファウストが、人生の全てを注ぎこんだ魔法創造型魔法【マギアニクス・ファウスト】として。

 

「憎悪だけだ! 恨み妬み僻むだけが人間の性だ……!!」

 

 憎しみを代弁する権利があると彼女の眼が叫んでいた。

 復讐の正当な権利があると彼女の全身が喚き散らしていた。

 ローロ・ワンが美しく成長したような女。それを構成するすべての物質が、思念が、今ローロとは真逆の方を向いていた。

 

「──本当にそうだった!? 本当にそれだけだったの!?」

 

 軌跡再現の剣と共にローロは行く。行き、退こうとする女へと気づけば問いかけてしまっていた。今は剣を女の胸に突き立てることだけに集中すべきだというのに、我慢ならなくて──どうしても、どうしようもなく虚しくて。

 

「なんで父さんを愛したの──?」

「──黙れ」

「どうして私を捨てなかったの──!?」

「──黙れェッッッ!!!!」

 

 思い出す。

 かつての故郷で過ごした幼少期。アルと、自分と、マギアニクス・ファウストだけが居た世界。

 

「お前も……私もッ! 何が変わるものか! 何も変わりはしないのよ!」

「怖くなんかなかった──辛くなんかなかったんだ……!」

 

 生前の彼女は決して出来た母親ではなかったし、碌な世話をしてくれたわけでもない。それでも──忘れられるはずがない。

 

「生まれなければよかったなんて、思ったこと、ないんだ」

「──」

 

 マギアニクス・ファウストがどれだけローロ・ワンを復讐に利用するつもりでいたとしても、その因果が運命となってメフトと出会えた。

 ティアレスという理想の騎士が夢をくれた。

 アルとも再会できて──。

 

「生まれたくなんかなかったなんて、一度だって感じたことなかったんだ!!」

「──ッ、だからって!!」

 

 今、ここに至るまでの全てがローロ・ワンの力になった。

 良い思い出ばかりというわけじゃない。

 苦しみがあった。辛い思い出があった。

 一度途絶えた夢。

 それでも出会えた最愛の人。

 自身の無力を嘆いて、諦めきれない意地があって。この道を一人で選び取れたはずがない。手を添えてくれた人がいる、引っ張ってくれた手も、優しく投げかけられた声だって。

 一人で敷いた道ではないから、ローロ・ワンは突き進む。諦めない。

 

 

 

 

 

 一歩前へ。息を喘ぎ走り続ける。

 

「誰もがそれぞれの暗がりを歩いていくだけ!!!!」

「──生きるための夢があった。目標があった!」

 

 

 

 

 

 

 六歩先へ。心臓が裂けそう。だけど前を向く。

 

「誰だって独りで必死に生きているのよ!!!!」

「──走るための道も、背を押してくれる素敵な人たちも!」

 

 

 

 

 

 十一歩奥へ。確かに進む。まだ、まだ止まれない。

 

「誰も彼も憎むばかりで振り返っても何もなかった!!!!」

「──道の先で待っていてくれる人だって……!」

 

 

 

 

 

 

 今、背中には無限の力が溢れていた。

 魔法なんて必要ない。

 断言できる。その推進力は物理法則を超えていると。

 

「私の憎悪がお前なんかの愛ひとつに負けるなんて────」

 

 どれだけの祈りが小さいばかりの背中を押すのだろう。

 どれだけの願いが弱弱しい私の背に手を当てているのだろう。

 疲労は蓄積しきっている。息が熱い、胸が苦しい、足が震える、剣が重い。だけど剣が届くまで、あと、もう少しで……! 

 

「──お前に光を超えられるはずがない!!!!」

 

 咆哮と共に、マギアニクス・ファウストが大量の魔法を発動した。 

 数えることが馬鹿らしくなるほどの攻性魔法の数々──空を埋め尽くすほどだった魔法は、発動前に軌跡再現の剣が斬り潰す。

 それでも漏れ残った魔法がマギアニクス・ファウストの手のひらから解き放たれた。実にシンプルで効率的な、熱量放射の魔法が。

 

「アル! ティアレスさま!」

 

 ──その時、遥かな空より飛来する物体がひとつ。

 それは衛星軌道より投じられ、大気圏突入後も燃え(・・)尽き(・・)るこ(・・)とな(・・)()突き進み続けた剣だ。

 ティアレス・ティアラ・ホルルが放った、神がかった最後の足搔き──。

 着弾点も、背後から迫る圧の速度も、ローロは考えなかった。見向きさえしなかった。

 豪速を──少女は、瞬きひとつせず、身を逸らすことも選ばず。

 ただただティアレス・ティアラ・ホルルに全幅の信頼だけを抱いていた。

 そうして剣は、女の意地と膂力が捻りだした直進性のままに突き進み──ローロの、かつて左腕があった空白を抜けていく。

 

「な────」

 

 剣がマギアニクス・ファウストの体に突き刺さり。

 衝撃で反り曲がる女の上半身。解き放たれようとしていた熱線は空を向く。

 ──少女の耳は、確かに聞いた。

 

 

 

 

 

 進め(先へ) ローロ(ローロ)()

 

 

 

 

 

 百歩。果てへ。あなた達がいるから。

 ローロは行った。

 抱え、

 背負い、

 押され、

 涙を零し、

 それでも。

 百一歩目。 

 左足を前に。

 地を踏みしめる、

 強く────硬く。

 足首を軸に全身を捩り、

 畳んだ腕、引き絞った全身全霊。

 少女の、隻腕の、ローロ・ワンの、願いと祈りが。

 

「──あなたたちのくれた光が、私には見える」

「──」

 

 すべてを乗せた刺突は。

 ついに、女の心臓を貫通した──。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 空が、青い。

 メフトと別れた日も。

 夫が死んだ日も。

 全ての別れはいつも青空の下だった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 胸に突き刺さる剣から、肉体的な破壊による痛覚だけでないものが私の中に広がっていく。

 それは物質化した【終末魔法】が、私……魔法創造型魔法【マギアニクス・ファウスト】を完全破壊するため構築していた、一種の破壊魔法(デリートコード)

 

「ご、ふ  ッ」

 

 血を吐く。息をするだけで明滅する視界に呻き、先ほど超遠方から投げられ突き刺さった剣の勢いに抗えず、私は二本の剣を引き抜けないまま地に倒れた。

 あーあ。心臓も肺もめちゃくちゃ。

 だけど肉体の損壊が問題ではない。【終末魔法】による破壊の方が致命的だった。

 ああ……。

 私が……【マギアニクス・ファウスト】が、刻一刻と解けていく。砕かれていく。消去されていくのが、わかる……。

 

「母、さん」

 

 声は、頭上から。

 隻腕で、汗だらけで、荒い息で胸を上下させるローロ・ワン。認知するつもりもない娘が、なぜか警戒することなく私の傍に跪いていた。

 …………何か、言いたいことがあるみたい。

 私は相槌を打つ気にもなれなくて、視線だけで続きを促す。

 

「伝えたいことが……あるんだ」

 

 その少女の顔を見たくなかった。輪郭を視界に映すだけで不快な気持ちが溢れていた。

 柔らかくて優しい声音を聴くだけで耳を引き千切りたくなった。鼓膜を破りたかった。

 ローロ・ワンの細いあごを伝う雫さえ、死ねと思う。

 ……………………雫? 

 

「……あの、ね。あのね、母さん」

 

 何で。

 この娘、泣いてるのよ。

 

「ローロ・ワンに夢をくれて、ありがとう」

「……」

 

 本当は無警戒に傍にいるところを適当な魔法でいじめてやろうと思ったのに。

 そんな考えを塗りつぶす衝撃を、ローロ・ワンは次々と言葉でもって与えてくる。

 

「私に編み物を教えてくれて、ありがとう」

「……」

「髪の手入れの仕方も、お料理の仕方も、諦めない心も……生きていくための全てを、母さん、あなたがくれたんだ」

「…………」

 

 違う。

 それは、【私】ではない。

【私】を作った、死んでしまった(わたし)がやった行いだ。私は関与していない。

 

「私は────私は! マギステルシアじゃなかったのに! だけど育ててくれて、夢を、あなたが……!」

 

 ……馬鹿な娘。

 愚かな娘ね。

 今目の前にいるのが作り物の紛い物だって、わからないのでしょう。

 どうして泣くの? 

 どうしてそんなに震えているの? 

 どうして……どうして。

 

 

 

 

「あなたの娘で、よかった……っ!」

「────」

 

 

 

 

 

 私はお前の憎悪の対象でしょう。

 私がメフトを殺したかったように、あなたに殺させたかったように、私はあなたにとってのそういう存在でしょう? 

 人は、憎いから殺す。

 疎むから孤独を許す。

 怨むからこそ生きる。 

 なのにお前は、今、信じられないくらいくちゃくちゃの顔をして。ぐちゃぐちゃに泣いて。指が三本しかない右手で──私のせいで片腕も無くしたのに。

 私の手を取るのは、どうして……? 

 

「……………………………………………………」

 

 私は、マギアニクス・ファウストじゃない。

 私はマギアニクス・ファウストに造られた【マギアニクス・ファウスト】でしかない。マギアニクス・ファウストとしての記憶は、【マギアニクス・ファウスト】を構成するために必要だったから継いだ情報。それ以上にはなれないというのに。

 ……だというのに、どうして、なのかしらね。

 

「………………………………ねえ、ローロ?」

 

 私、覚えてるわ。

 お腹が、痛くて、重くて。

 胸が塞がるような息苦しさの先に、逃げられない暗がりが居た気がしたのよ。

 

「編み物、続けてる?」

「去年はマフラーを編んだよ」

 

 闇。

 暗い道。

 光などない遍路。

 病んでいくようにしか見えなかった将来へ、重くなるばかりのお腹を抱えて行くことが怖かったのね。

 

「髪は……ちゃんと梳いてる?」

「毎日手入れして、伸ばしてるよ」

 

 ()は独りで歩いている気でいた。

 陣痛。だけど──声が、いくつもあった。

 私を見守る父、母。助産師。声をかけてくれた人たち。

 そして私の手を握りしめる……生涯の伴侶。

 

「諦めず……挫け、なかった……?」

「支えてくれる人ができたんだ」

 

 怖くて。

 本当にあなたを無事に送り出すことができるのか、わからなくて。

 未来が恐ろしくて。

 痛くて、苦しくて、息が、出来なかった。

 

「………………ねえ、どうだったの?」

 

 胸の奥にある澱。

 息を塞ぐ、重い命。

 それでも。想い続けたのは満開の花々。

 ……やがて。

 嗄れた喉で息をする中、震える両手で。

 細心の注意を払って抱きかかえた命の軽さ。

 

 

 

 

 

「あなたは……騎士に…………なれたの……?」

「あなたがくれた夢を、私なりに叶えたよ、母さん」

 

 

 

 

 

 しわくちゃの、真っ赤なお顔の、小さな小さな赤ちゃん。

 空気のように綿のように。

 今、血まみれの手を包み込む指の感触は……ああ。

 あの頃そっくり。

 何も──変わってなんか、ない。

 

「──もう、いいわ」

「……?」

「ローロ。ローロ・ワン。おまえは好きに生きなさい。そして……好きに死ねばいい」

 

 あの時確信していたのね。

 あの時の気持ちを、私はずっと忘れてなんかいなかったのに。

 

「────……これ……なんで」

「さあ……?」

 

 涙のような、奇跡の花。

 あなたのためなら辛いことなんか何もなかったのでしょう。

 

「……母さん。教えてほしいことがあるんだ」

「な……に、……?」

 

 わかってる。

 人としてのマギアニクス・ファウストは、どこまでいっても善性を捨てきれなかったと。

 悪意と負の感情を押し込んで型に嵌めた私とは違う。

 

 

「母さん。あなたはどうして私に、あなた以外の呪いを刻み込まなかったの?」

「自、……で、考、……たら……?」

 

 少しずつ壊れていく自意識の中で、いくらでも悪態を吐けたはずだった。

 私は最後まで、悪意に塗れた魔法創造型魔法【マギアニクス・ファウスト】をやりきれるはずだった。

 だけど…………最後くらい。

 最後くらい、私のためでなくて。今目の前で泣いているあなたのための、マギアニクス・ファウストになれるなら。

 

「忘、な……、……いで。愛は、呪い、っ、だか、ら……ね」

 

 娘……か。

 

「愛が、呪いであるから、だからこそ光だって超える……!!」

 

 マギアニクス・ファウスト。

 (あなた)は本当に、本当に愚かな女ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだ。

 幸せなんて、すぐ近くにあったじゃない。

 

  

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