主従の間に芽生えてしまった歯止めの効かない愛情は光をも割断する   作:てりのとりやき

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終の棲家へ
大丈夫。平気。怖くない。


 

 極端なことを言えば、戦闘行動にはほとんど意味がなかった。

 双方ともにこの宇宙における限界点に到達している。攻性手段の火力という意味でも、速度・規模という意味でも。

 ──宇宙のあちこちで炎が上がり、星が砕け散り、銀河が武器となって使いつぶされた。

 

【……】

【──】

 

 言語にどのような意味もないから、さして会話もなかった。仮に双方の距離が百億光年以上離れていたとしても、自身の神が放出し続ける無限量の魔力を一定法則で振幅させることによる実にシンプルなバイナリ信号が、コミュニケーション手段として確立されていたとしてもだ。

 必要なものはきっと意志だけ。

 想いと願いだけで、ローロとメフトの背後に実体化した神域到達魔法はそれぞれ別個の権能によって攻性手段を成立させる。

 それでも女は、自身の意志を明確な形として表現したいのだろう。つい、魔力の振幅としてメフトは言語を謳う。

 

【────撃て】

 

 宇宙に遍在する超巨大恒星数千が一斉かつ超光速域で崩壊し、全てが極超新星爆砲(グランド・ノヴァ)となって解き放たれた。

 宇宙煮沸の極光連続砲撃は終末魔法第一展開の併用によって一つの熱量として即座に融合し、直径100億光年を超えた宇宙最大規模構造(グレートウォール)貫通の砲撃に至る。

 

【……】

 

 対し、メフトが見据える先の果て。

 180億光年彼方先。

 長大な銀紫の円環を背に、ローロは宇宙を歩いていた。ブラックホールで編み上げたブーツで、クェーサー群の上を。

 白銀に輝く少女の腕が振り上がる──同時に、100億光年を超す質量限界圧縮放射の光剣も吊られて宇宙を奔った。

 切り払う速度は光速よりも速度概念上で速い。

 メフトの目、メルツェルの観測能力上では『腕が動き出した』頃には『切り払い終わっていた』。

 極超新星爆砲(グランド・ノヴァ)の集約はあっけなく切断され、本来ならば直進性を失うはずがない熱量投射が秒という単位以下の速度で消滅している(・・・・・・)

 熱量を綺麗さっぱり消失させられるほどの現象があったようには観測(みえ)なかった。それも、超銀河団の一つや二つは簡単に滅ぼせるだけの熱量を。

 

【エネルギー保存則を無視している……?】

【そこまで大それたことはできません】

【だったら尚のこと凄まじい】

 

 あくまで宇宙を運営している法則(ルール)から外れていないとローロは言っている。今更ローロが虚言を吐くような者だとはメフトも思っていない。であれば先の熱量は物理法則に則って正しく処理され、離散し、消え去ったということだ。その過程の一切をメフトが認識できなかったとしても。

 超越的技術。

 理解不能な御業。

 

【……対峙するのは真の意味での神、か】

 

 勝ち目が薄いのかどうかをメフトは考える気がなかった。勝利は最終目標にはなり得ないからだ。

 それぞれにそれぞれの願いがあり、祈りがあり、叶えるための道というものを既に見つけている。

 ──であればメフトがすべき事は常に明確だ。

 女の背後に鎮座する、自発的に発光する黄金の十字架がひと際強い輝きを放った。光輝は十字架を離れてなお自発的な発光現象を起こしている。

 

【そう言うメフトさまこそ、これは過分に常識外れですね】

 

 黄金の光粒は宇宙に振りまかれ、周辺宙域80億光年に遍在するまで0.1秒。宇宙総領域の幾らかが黄金色に染まりきった頃、粒子の全ては一斉に姿を変じる。

 それは最初、電磁気力を放つ光子の姿を取っていた。

 だが秒と経たずに性質を変え、周辺宙域に影響を及ぼす重力子に変化し──直後にはゼロ質量の素粒子に、更には中性子に、また巡り巡って電磁気力に……。

 

【物質生成と変性、素粒子操作、誘導……素粒子間結合自由制御というより、四大(・・)相互(・・)作用(・・)自由(・・)制御(・・)能力(・・)……?】

 

 少し惜しいが概ね正解でもある。

 冷静な観察の結論を発信したローロに、メフトは光の只中で小さく笑った。

 

【単純な熱量ではないし、単純な重力や電磁力というわけでもない。これらすべての相互作用……“力”は、ランダムにその性質を変遷させ続ける】

 

 第一神域到達魔法【M.L.T.Z.E.L.=KoC,U.(メルツェル・カルテル)】は、あえて胡乱な方向へ言い換えれば、『時間軸上における現象の連続性』をキャンセルして、『継続されていた現象』から『事物の終焉』だけを現時空に超光速下で取り寄せられる。

 それが何を意味するのかは、即座に現象として解き放たれた。

 

【処理しきれるかしら。形質を変化させ続ける砲撃を】

 

 メフトを中心に密集していた“力”の群れが一斉にローロへと直進しだした。単純な熱量放射が拡散性を伴うがために制御のため偏向性を与えられ、結果として直進性しか持ち得ないのに対し、その砲撃は宇宙空間を自由に歪曲しながら突き進んだ。

 径にして32億光年をした力学無作為変遷の鞭。

 生物のようにのたうち回りながら、惑星の数々を、恒星の様々を砕き潰しつつも四つの力の群れはローロ・ワンへと肉薄する。 

 対しローロが行った動作は極めて単純だった。隻腕に握る剣を振るうのですらなく、──ただ一瞥。

 揺れ動くことのない瞳孔をした右眼が、硬い決意で凛と敵意を見定めた左眼が、力学変遷群の一撃を見やる。

 たったそれだけだ。

 それだけで、『即座に』鞭が消滅した。

 

【…………】

 

 何をしたのか。

 何が起きたのか。

 メフトは現象から推論さえ導き出せない現実を静かに観察する。

 認識不可能な領域で何かが起こり、そして何かが終了し、絶えず大元の力学が変遷し続ける攻性手段さえも『瞬時に』処理された。

 ……無理やり捻りだせる答えがあるとすれば、一つだけだ。

 第三神域到達魔法【MesT/Eom,pT.(マギストラクティル・ハイアラート)】は、どのような手段を用いているかはともかく、速度という概念上で光速を超過することが可能なようだった。そうとでも言わなければ今のメフトが認識不可能な御業は存在しないのだから。

 

【埒が明かない】

【そのようです】

 

 ため息交じりの一言にローロも頷く。

 ……極端でもなんでもなく、双方の戦闘能力は宇宙の極点に到達している。

 メフトがその気になれば宇宙に現存する質量体の全てはその運命を左右できたし、ローロとて光速超過の領域で敵対的な行動の全てを潰せるだろう。 

 二人に必要なのは数多の攻撃ではない。宇宙総質量の無駄遣いでしかない。

 だから、という訳でもないが。

 

【ねえローロ。少し、話をしましょうか】

【……?】

【わかっているでしょう。私達の戦闘はそもそも長引かせる意味がない。私もローロも、すでに時空よりも上位にあるのだから】

【勝負は一度きりで十分。……ですね】

 

 二人の間に合意が取れた段階で、メフトは二人のちょうど中間点に小惑星を創った。直径にして1kmもない小惑星は完全な正四面体であり、色は黒く、つるりとした質感をしていた。

 メフトが座標間移動魔法を用いてその小惑星の上に立てば、何らかの超光速的手段を用いてローロも同じ面に立ちすくんでいる。

 

「わざわざ重力まで作ったのですか?」

 

 銀色をした髪は正四面体の中心点に向かってすとんと流れており、それはメフトの黒い髪とて同じだった。

 

「大気と恒星もね。口で喋った方が楽でしょ?」

 

 十数分前まで人の範疇で生きてきた二人にとって、人間の領域から外れた状態で居ることが正常でないのは共通観念だったようだ。少女が頷くのを見て、メフトは淡く微笑みながら丸いテーブルと椅子を二つ用意する。黒い小惑星に対し、輪郭が際立って明確なほどの白い家具。

 

「……座らない? 話すなら、こっちの方が楽でしょ」

「否定はしません」

 

 言葉の節々にあるのは警戒でも、ましてや拒絶ではなかった。だが愛情や好意というわけでもないのは少女が浮かべる表情に一切の甘い色がないことからも確かだった。

 

「それで、話とは何ですか?」

 

 机を挟んだ先の双眸に浮かぶのは、極めて純粋な疑問ただそれだけ。

 こうやって対話の席に着いてくれた事実を勘違いしてはいけないのだと、メフトは溶けてしまいそうになる精神に楔を打つ。

 

「話の前に、少し何か食べましょう。私達は結論を急いで出す必要がないのだから」

「……それはその通りだと思います」

 

 ローロは特に先ほどの激戦で体力を消耗している。肉体的な疲労は幾らでも解消の手段があったとしても、精神に蓄積される澱みを払うには穏やかな時間を積み重ねる他ない。

 さっとメフトが手を広げる仕草をすれば、テーブルの上には絹で編まれたまっさらなクロスが敷かれ、無数の皿とグラスが生み出され、盃には赤い葡萄酒が、白い皿には肴の数々が生み出された。

 

「なんでも出来るのですね」

「そうね。なんだって出来るし、何一つ過不足なんかなかったのよ」

 

 かつて煮えたぎっていた、惑星を溶かしたスープ。

 恒星で和えたサラダ。銀河のステーキには重力特異点のソースを共に。

 皿を彩るために重粒子の王たる黄金を添えて。

 それは美しく有限な、宇宙の支配者達にこそ許されたコース料理の数々。

 

「……あなたが消化器官を喪失していても、エネルギーとして摂取するなら質量体が適していると思ったの。あと、言うのも野暮かもしれないけど……毒なんか入ってないから」

「私が愛する人はそんなことしないってわかってます」

「うん。……ならいいけど」

 

 二人はゆっくりと食べ始めた。双方ともにさして会話はなかった。

 

「おいしい?」 

「おいしいです、メフトさま」

 

 スプーンの上に乗せた星を食べ、ローロは口端を微笑ませる。味覚を消失している少女はそれでもメフトの厚意を味わっていた。

 メフトもまたナイフで切り分けた銀河団の断片を咀嚼し、その唇に星々の煌めきでできた脂を載せた。

 

「よかった」

 

 二人は食べた。食卓の最後の価値をそれぞれが知っていたから、それは宇宙の全てよりも果てしなく重いものだったから。

 そうしてつつがなく食事を終えてから。

 

「私ね、メルツェルと意志疎通ができないのよ」

 

 空になった皿をかき消しながら、メフトはそう切り出した。

 女の視線は彼女たちから見て横を向いている。宇宙に座す、大きさにして数十億光年という巨大な十字架を見つめる。

 第一神域到達魔法【M.L.T.Z.E.L.=KoC,U.(メルツェル・カルテル)】。かつてメフトが生み出した魔法存在。八年前に十数名を同日同時刻に殺し、更には世界さえ壊そうとしたという。

 

「今のメルツェル・カルテルにはもう、自分自身の意志がないからですか?」

「ええ。私があの子を誕生時点で殺した。人間で言うなれば精神や心といったものを構成する高次機能……大脳に近い部分を」  

 

 八年ほど前の話だ。ローロもおおよその出来事を聞いている。

 事の顛末を知るローロにそれでも伝えたい内容があるのだろう。少女は大人しく話の続きを待った。

 

「だけどね、誕生した瞬間だけ、……一度だけ話したことがあるの。ローロ、メルツェルが何を言っていたと思う?」

「おはよう、とか。はじめまして、とかですか?」

「ふふ。ローロらしいわ」

「……むう」

 

 唇を尖らせる少女の反応にくすくすと笑ったメフトは、顔の向きを正す。

 机の上に磁器製のティーカップが生成された。容器の底から湧き出るように注がれた紅茶は穏やかな湯気を立てる。丁寧なことに脇には角砂糖も、小皿に盛られた苺やミルクを入れた小さな容器まである。

 角砂糖を二つ自身のカップに入れつつ、メフトは答えを言った。

 

「『理解。決定。魔法は許されてはいない』」

「……」

「あの子の言葉には悪意がなかった。憎悪や怒りもなかった。……反対に無邪気さもなかった」

 

 淡々とメルツェル・カルテルは魔法存在を──魔力や魔法そのものがあるこの世界を理性によって否定した。その行いの意味や理屈がどこにあったのかなど、今の二人には論じることもできない。当の本人は既に喋るべき精神を持たないのだから。

 メフトがしたい話とは、事の発端……今ここにある全ての始まりについてだと、ローロ・ワンは理解していた。

 

「では、なぜ殺したのですか」

 

 だからこそローロが問いたいのはメルツェル・カルテル本人についてではない。

『何故』を問うべき相手は、我が子の行いを一度は否定し、だが8年後には同じ結論を導き出したメフトだ。

 

「紆余曲折を経たとはいえ、今のメフトさまとメルツェル・カルテルは同じ理屈で行動しているようにしか見えません」

 

 少女の声音は滑らかだった。大きな感情ではない部分で純粋な疑問を抱えているのだと言動で物語っている。

 

「……そうね。事実としてはその通りで、……だけど答えるのはとても難しい質問ね」

 

 論理を求める静かな眼差しに対し、メフトは赤い液体の中で解れていく甘い結晶体をただ眺める。

 その静寂の間にローロもまた自前の紅茶に手を付け始めた。入れた角砂糖の数は四つ。てきぱきと動く手指を目で追いながら、メフトは苦く笑う。

 

「私も、あなたのように迷いなく進み続けられる強さがあればよかった」

「? 私はいつも迷ってばかりですけど……」

 

 きょとんと小首を傾げる少女の仕草に、女の苦笑は濃さを増す。

 メフトの表情を不思議そうに眺めながら紅茶を飲み始めたローロに、女はようやく喋り始めた。

 

「情けない話だけどね──誰もがあなたのように強くあり続けられるわけじゃない。そんなはずは、……ないのよ」

 

 当時、判断のための時間的猶予はなかったとメフトは思い出す。終末魔法の起動を把握した瞬間には十数人がメルツェルによって殺されていた。それ以上を行おうとするメルツェル・カルテルの意志を理解したメフトには、論理的な判断を下す余裕はなかった。

 だからきっと、自身の娘を殺した理由は、本能によるものなのだろうと女は結論付けている。

 

「8年という時間は誰にとっても短いものじゃない。私には大きな衝撃を伴うことがたくさんあったわ」

「だから考えが変わったと?」

「ええ」

 

 その最たる存在をゆっくりとメフトは見つめ返す。

 淡い紫色をした愛らしい瞳。成熟しきっていないが故にアンバランスな、成長期特有の可憐さと美しさが入り混じる顔立ち。肌理が細かくて触ればすべすべとした肌。細く、女好みの肢体。そして何より、果てしなく深い情熱を秘めた魂。

 何もかもが完璧だった。

 メフトにとって少女は、ローロ・ワンは完成されていた。

 

「たぶん、きっと、私の矛盾に当てはめられる理屈なんて──あなたを愛している以上のものが見つからないわ」

 

 何を言い繕おうとすべては言い訳になってしまう。それ以上のものにはなれないのだとメフトは諦めた様子で笑う。

 言ってしまえば開き直ったに等しい態度に、ローロ・ワンはきつく目を瞑った。唯一の腕が膝の上で拳を作る。 

 

「……愛しているから、壊すのですか」

「ええ」

「…………」

 

 押し黙る他ないくらい、愚かだろう。

 馬鹿で、愚鈍で、弱くて脆い変遷だろう。

 だけどそれでいいとメフトは自分自身を肯定する。

 

「そんな私は、だから私自身を否定できる」

「否定?」

「私こそが罪そのものよ」

「メフトさまに罪なんて……」

「いいえ。私が生まれなければ間違いなど何もなかった」

 

 世に初めて誕生した魔法創造型魔法。一人の天才が生み出してしまった人でないのに人であろうとしたモノ。そんなものさえなければマギアニクス・ファウストはまだ生きていたはずだ。マギステルシア・ファウストがどのような結果を迎えたとしても。

 

「分からないからと理解を追い求め、その道の途上にあったものを、かつて『もの』ではなかったはずの残骸に振り返ってから気づく。いつもそう」

「『もの』ばかりじゃなかったはずです。私がいました、私はずっと傍にいました」

「──ティアレスは? アルは、マギアは?」

「……ッ」

「そうよ、私のせいで誰もが命ではなくなった」

 

 メフトは考える。メフトという魔法存在がもっともっと上手くやればいいだけだったはずだと。力があった、自由があった、何もかもを持ち合わせていたのに。失敗して──間違え続けて。

 

「マギアとの戦闘もそう。私はその気になれば介入できた。だけどそうしなかった」

「……」

「私は私の覚悟や決意がどれだけ愚かなものか理解しているつもりよ。後ろ向きな思想だともわかってる。それでも……こんな私を愛してくれた人がいたの」

 

 ローロの全身が震えていた。自身の怒りを抑え込むために黙っていたとしても構わなかった。

 愛する少女に見捨てられるような行いをしたという自覚はあっても、二年前からの決意と覚悟を変えることは出来なかったのだから。

 

「好きな人に、愛した者に、幸せになってほしい。それっておかしいこと? 間違ってること?」

「メフトさまの言っていることはつまり、自分の目的のための障害を……母さんを、自分の手で殺すことに難儀するから他人に任せたと。そう、意図的に仕向けた──そういうことなのですか」

「……そうよ」

 

 メルツェルに対し致命的なカウンター的手段を持ち合わせるマギアニクス・ファウストは、間違いなくメフトの望みにおいては強大な壁だった。それが打倒されるためならティアレスとアルの死を見過ごすことが出来た。それがどれほどローロに軽蔑される行いだったとしても、構わなかった。

 

「メルツェルを殺した時点で、私はもう引くことなんて許されなかった。誰も彼もの死を無意味なものにすることは決して許されない」

 

 納得も理解も、メフトは求めていない。ただただ知ってほしかっただけだ。メフトという女がどれ程愚かで、馬鹿げた結論を導いたのか。

 知った上で、全力で対峙する権利がローロ・ワンにはあるのだから。 

 

「あなたを幸せにするためには、私は存在してはいけない】

 

 必ず掴む。

 取り戻す。

 そのために生きてきた。そうとも、そのためにメルツェルを殺し、だけど同じ道を目指すと決めた。

 ──女は静かに席を立つ。俯く少女に背を向け、ゆっくりと重力から解き放たれて宇宙へと上がる。

 小惑星を離れた時点で100億光年先に跳んだ。

 

【私は……生まれるべきではなかった】

 

 音の届かない無重力空間にて、メフトは今度こそ決別の意志を魔力に乗せる。

 相容れない想いを抱えるに至った経緯を語り終えた以上、話すことは何一つないと。女は宇宙の闇を背負い、果てにて未だ座り続けているローロを見つめる。

 ……やがて。

 

「犠牲を払ってしまったからと」

 

 既に遥か遠い女に聞かせたい言葉でもなかったのだろう。

 ぽつりと、少女は言葉を口にする。

 

「犠牲を払ってしまったから止まることができないなんて、おかしいです」

 

 顔を上げた。少女の目は肉眼では捉えきれないほど彼方に居るメフトを、女の姿を思い起こした。 

 

「罪が重ければ……立ち止まってはいけないのですか。どれだけの罪業だったとしても生きてほしいと願う、あなたを愛する人の思いは無視してしまうのですか?」

 

 ローロは理解した。邪魔をするのであれば、阻むのであれば、最愛の者であろうとメフトは乗り越えていくのだと。そうまで決意してしまった女には何を言っても通じない。

 ──少女もまたゆっくりと席を立った。

 

「あなたの両手が黄金に汚れていたとして──その程度で】

 

 形成されたブラックホールが“理外無効”による願望成就の力でもって形状を変え、ローロ・ワンのブーツに変じた。全身を覆う銀色の光輝はそれそのものが質量を有する鎧だった。

 唯一の手が柄を握る形を取れば、引きずりだされたのは質量の極限圧縮体。長さにして125億光年にも及ぶ光翼の剣。

 

【私が、メフトさまを愛せないとでも思いますか】

 

 言い切るのと同時だ。

 ローロの腕が横薙ぎに振るわれた。──速さという観点で言えばメフトでさえ認識不可能な一閃。確実に女の首を獲りに行く軌道はローロの本気を現している。

 しかし剣がメフトに届くことはなかった。阻むための壁が生み出されていたからだ。

 それは重力や電磁力とも違う相互作用の形質。強い相互作用の奔流が壁となって宇宙に建てつけられていた。

 速度においてメフトはローロに劣っている。だが速度が効力を発揮する以前であれば、女は無数の対抗手段を用意することができるということ。

 

【──他人の苦しみが。自らのものでない痛みが……!】

 

 言葉は魔力の振幅であって音ではなかったから、秒という単位以下でメフトまで届いている。

 通じ合えないとしても。意味をなさないとしても。

 吼えなければ我慢ならないと。ローロ・ワンの瞳の中で、情動の炎が燃えた。 

 

【それでもメフトさまを強くしたはずです!】

 

 光翼の剣が強い相互作用で編まれた壁をすり抜けた(・・・・・)。質量体に可能な現象ではない──“理外無効(ミリトゥム・オーバーロード)”の願望成就によるものだ。

 しかし壁一つでローロの剣を交わしきれるなどとはメフトも考えてはいない。強い相互作用の壁が無効化されたことを条件として事前に用意していた終末魔法で、超光速域でメフトは座標を飛んだ。

 

【──!】

【……】

 

 ローロの反応はメフトが無作為に選んだ移動先に追従するまでワンテンポ遅かった。メフトの予想通り、ローロ・ワンは超光速域に対応が一手遅れている。──移動先へと叩き落される剣に対し、更にメフトは超光速跳躍を繰り返す。

 宇宙の闇を剣閃が舞う。

 その最中にも少女の我慢ならない咆哮は宇宙全域に響き渡った。

 

【あなたを前進させようとするだけの力になれた──ならッ】

【この世界が美しいとでも言うわけ!? いいえ、私がいるというただ一つの理由で魔法は否定されなければならない!】

【──】

 

 迸るような言葉の群れをメフトは拒絶する。わざわざ首を横に振る時間を割いてまで遮った。

 

【メルツェルが望んだからだけじゃない……。これは私の意志よ。私が、私だから、魔力や魔法なんてものがあることを私自身がもう許せないのよ──!】

【メフトさまは頑固すぎます!】

【ローロに言われたくない──!】

 

 言葉の応酬をしている間もメフトは宇宙空間を跳び続ける。その上で次なる一手を編んでいた。

 十秒後。“準備”を終えた黄金の十字光背(メルツェル・カルテル)は放つ光をより強くする。またしても解き放たれた黄金の粒子が周辺宙域を舞い、即座に姿形を失う。

 次いで現れたのは無色透明──虚色の“何か”。色もなければ形もない、高度な観測技術がなければ存在の把握さえ不可能なモノだ。

 二人の戦闘規模からすれば極小と言い切って差し支えない長さ0.1億光年の槍がメフトの肩上に現出している。それが何であるか、一目見て特異性を看破したのだろうローロは目を瞠った。

 

【統一された力……!】

【相互作用すべてを編み込み織り込んで生み出された万物の理論、その具現よ】

 

 現宇宙が始まった瞬間に存在していた可能性の塊は、相互作用──力学の概念より上位に立つメフトによって、彼女の思想を具現した兵器と化した。

 色も形もない純粋な相互作用体が、魔王の意志に従いその穂先をただ一人の少女へと向け。

 

【あなたの願いが宇宙創世の力に通じるというのなら、超えてみせなさい】

 

 ──射ち出される。

 統一相互作用の槍が宇宙空間を突き進んだ。メフトが併用する終末魔法第二展開によって時空間跳躍の超光速移動を連続し、その座標点をローロに悟らせないようにしながら。

 統一相互作用の塊は、恒星の崩壊や重力特異点が生み出す光捕縛級重力といった宇宙スケールの物理現象の遥か上を行った。それ単体が直進する余波のみで既存宇宙のありとあらゆるものをズタズタに引き裂いた。宇宙の始まりにあった力の奔流はその後四つに分かたれた相互作用の媒体全てを無力にした。

 熱量──恒星も。

 質量──惑星も。

 重力特異点さえ。

 色も形もなく、ただただ直進性の余波だけで全てを破壊する槍の投擲。

 既存の物理法則を貫徹する極めて小さな槍が100億光年果てに居るローロ・ワンへと肉薄するのに、秒という単位さえ不要だった(というよりも1秒以上の時間を掛けて存在させるだけで既存宇宙に深刻な影響を与える破滅兵器だから、発動したメフトでさえ迂闊な扱いが出来なかった)。

 まず間違いなく、メフトが──相互作用の上位存在(メルツェル・カルテル)が放つ最大最高の一撃。ローロが如何に速度概念上の超光速を誇ろうと、耐えきれるものではない。

 ……だというのに。

 

【今の私に超えられないものなどありません】

【──】

 

 言葉は、秒の単位の上でメフトへと届く。

 悠々と宇宙に立つ少女の姿に不足は何一つない。右手に握る光翼の剣を振るった様子さえない。

 統一相互作用の槍がローロの周辺宙域へ突入した瞬間に消滅したことをメフトは把握し、そして確信した(・・・・)

 

【……時空間跳躍、超光速域への追従。

 光が現宇宙で発揮できる限界速度の超過──速度概念上での超光速の実現。

 統一相互作用や無作為力学を利用した、解析さえ困難な攻撃を『私から見て』『瞬時に』『そして宇宙法則を無視せず』消滅させられる異常な権能】

 

 如何にメフトやローロが神域到達魔法を従える、神に等しい存在になったとしても限界点はある。

 つまりは現宇宙の限界だ。

 どれほど力学や秩序の上位に立とうと、根源に鎮座する法則をメフトもローロも突き破ることはできない。……最後(・・)の手(・・)段で(・・)もな(・・)けれ(・・)()

 だから、そんな芸当が可能な方法は数が限られる。

 

【ローロ。あなたは速さの基準を書き換えられるのね】

 

 例えば──物理法則そのものを変更できる、とか。

 

 

 

 

 

 

 確定だ。

 ローロは空間座標それぞれにおける時の進行速度を制御できる。

 1秒を1那由多秒にも、また逆に1無量大数秒を1秒にも変えられる。

 

 

 

 

 

 

 1秒を無量大数以上の桁で分割し遅延させ思考可能な演算機構。ローロ・ワンには事実上無限の検討時間があるということ。どのような攻性手段も、1秒の間に光が進む速度が遅延できるならばどうとでもなる。

 まさしく“今”を生きる神。

 “過去”から連綿と続く“現在”に、かつての経験を下地にするからこそ最善を選ぶことが可能な、論理と熱情。

 そして、意味するところはもう一つ。

 

【────】

 

 ローロ・ワンの前では1秒の他者認識は幾らでも改変が可能だということ。

 少女にとっての『∞』は、他者から見れば『1』に等しくできる。

 つまりは。

 

【……光速(・・)度自(・・)由制(・・)御能(・・)()

 

 ──メフトの喉元に、光翼の剣が突きつけられていた。

 大気さえあれば言葉が届くほど間近にローロがいた。100億光年という長大な距離は無意味だった。そして、一切の反応を女は許されなかった。メフトにとっての1秒は、恐らくローロが改変した数万秒か、はたまた数千万年。

 他者認識を容易に飛び越せるローロはまさしく神速そのものだった。 

 

【確定しました。メルツェル・カルテルの本質は観測魔法ですね】

【……マギストラクティル・ハイアラートの本質は演算魔法ね? それも宇宙全域の時空間状態全てを同時かつ光速で計算処理可能な、宇宙一の処理能力を持っている】

 

 恐らくローロが成している光速度制御の本質は、願望成就機構──終末魔法第四展開体“理外無効”と光を捕縛可能な重力特異点さえ支配下に置くほどの重力制御の併用だろう。だがそれを真に実現するために必要なものは、宇宙全領域における全素粒子状態の把握・予測が可能な完全演算能力だ。

 ──直径数十億光年の銀紫なる円環は、未だローロの背後領域にて廻り続ける。

 

【構造と機能の性質の差が、今ある現実のすべてです】

 

 この世界、……この宇宙が時空間の進行によって一方向へ突き進むことを必須とする以上、それよりも上位にローロが立つ以上、少女に勝てる存在は一切ない。

 肉眼視できるほど至近。少女の双眸は強い意志でもって女を見定める。未だ下げることのない隻腕を──握りしめる光翼の剣でメフトに勝利を告げながら。

 

【………………】

【メルツェル・カルテルの起動を停止してください。これ以上の抵抗は無意味です】

 

 一歩でも動けば、間違いなくメフトは敗ける。メフトの背後にある黄金の十字光背……メルツェル・カルテルは光さえ操るようになったローロによって完膚なきまでに破壊され、メフトは相互作用の上位存在としての権能を失うだろう。

 ローロ・ワンは、強い。

 今の(・・)メフトでは太刀打ちしようがないほどに。

 目指した世界は永遠(とわ)に訪れない。

 死んだ全ての命は価値の何もかもを喪失する。

 

【………………………………】

 

 思い出す。

 ティアレス・ティアラ・ホルルは己が捧げるべきと見定めた者のために剣を掲げ、誇り高い笑みと共に死んでいった。

 アル・ルールは守りたい世界のために自分の全存在を投げ打てた。ただ一人の愛した者がいるだけで世界を守ってみせた。

 マギアニクス・ファウストは叶えたい復讐のために自ら殺される末路を選び、その上で憎悪だけの自分さえ創り上げた。

 祈り。

 歌い。

 憎む……。

 

【…………ら……った……】

【……?】

 

 生命の本質は自己の継承だとメフトは誕生してすぐに見抜いていた。それ以上を求める必要がなければ、その構造は単細胞生物までシンプルな状態に落としても構わないはずだと。

 だというのに、なぜ人間という冗長性の塊が出来上がったのか。

 

【分からなかった、から】

 

 音の振幅……言語という手間のかかる二次的コミュニケーション手段を取り、次代を成すために愛や恋を経る非効率性。冗長すぎるその果てにはあまつさえ空想の悪魔さえ生み出してしまった。

 それほどの進化の収斂先がどこへ向かうのか。

 なぜ祈る? 

 なぜ歌う? 

 なぜ憎む。

 

【分からないから……理解したかったの】

 

 命がそこに在る理由。

 生命の存在。その価値。

 空想の悪魔が生まれた意味を。

 

【だからね、メルツェル。私、私……──だからあなたを殺したのよ】

【メフトさま……?】

 

 ああそうとも。誰に言われるまでもない。

 メルツェルを殺したその時、本来ならばメフトという女は自殺をすべきだったのだ。

 この世で最も不要な存在だとわかったあの瞬間に。

 生きているだけで不幸を撒き散らすのだから。

 それでも、生きた。生きてしまった。

 生きなければならなかった! 

 でないとメルツェルを殺したことが本当に無価値になってしまう。空想の悪魔を生み出したマギアをも否定する。

 

【メルツェル】

 

 文字通り、比喩でなく、メフトは8年前のあの日にメルツェル・カルテルをその手で握り潰したのだ。神域到達魔法として物理的顕現を果たした、小さな黄金の十字架を。

 生まれたばかりで。

 何も知らなくて。

 純粋無垢に世界を壊すと決めた我が子を。

 その理由を問うことも、対話もまともに選ばずに。

 ……手指の全てを黄金で染め上げてから、ようやく分かった。

 幼子の首を締め上げる苦しみ。そうとでもしなければ前にも後ろにも進めなくなった八方塞がりの絶望を。

 

【私…………私ね、呪いを食べるから】

【何を。何をしようとしているのですか】

【そうと分かってでも、ちゃんと、ちゃんと。食べる……から】

 

 ──あれこそが罪だ。

 だけど罪を背負ってでも前を向くと決めた。

 覚悟をくれた、最愛の少女がいる。

 彼女を救う。真の意味で幸福を与えたい。

 だから。

 

【メフトさま、やめ──】

 

 その時、女は不器用に泣いていた。喉元に突きつけられた剣が恐ろしいわけでもないのに、愚かな震えを隠すことができなかった。悲しげに女の瞳が揺れ、真空世界に雫を浮かべた。

 ローロが剣を放り捨ててメフトへと手を伸ばす。

 宇宙の、無重力の、暗黒の最中にあっても僅か数秒で届くはずの二人の距離は──だけど縮まることがなかった。

 

【────いただき、ます】

 

 女の背後に存在していた90億光年を超す十字架が突如として崩壊した。同時にメフトという女を形作っていた肉体が消失した。

 素粒子にまで分解されてしまったかのような霧散の仕方に、ローロの隻腕は空を切る。

 

【メフトさま!】

 

 悲鳴交じりの言葉と共に少女がありったけの観測能力を展開したのがメフ(・・)トに(・・)は分(・・)かった(・・・)。既知の理解を超えた何かが起きると予測しての行いには少女の恐れや怯えを感じた。

 ローロの持ちうる観測手段が宇宙全域を走査するのに左程の時間はかからない。やがて少女は宇宙空間のただ一点を凝視した。

 

【なに──あれ】

 

 少女が見つめる先は遥か遠方。宇宙の果て。

 無と有の境目に物質上の壁はなかったが、ありとあらゆる法則と相互作用の拒絶が恐らくローロに知覚上で“壁”を生み出しているのだろう。

 そんな宇宙境界面に、明確な“穴”が空いていた。“()から(・・)見つ(・・)める(・・)ロー(・・)ロの(・・)表情(・・)にひ(・・)たす(・・)らな(・・)絶望(・・)を感(・・)じた(・・)

 それでも女は、メフトという名の悪魔は、行使しなければならない。

 

 

 大丈夫。

 平気。

 怖くない。

 

 

 ──“穴”の奥、宇宙の外にて、六つの存在が顕現を果たしていった。

 

 

 

 

 直径1cm。

 樹脂製完全球体。

 第一神域到達魔法【嘘咲きの花冠(Mask:satisfy_knit_scare)

 それは絶対零度を体現した神である。

 

 

 

 直径256億光年。

 変哲の無い花弁。

 第一神域到達魔法【毒譜数珠飾り(Liberty:xenolalia_I_xtract)

 それは観測領域消失を体現した神である。

 

 

 

 直径21億光年。

 中空水晶。

 第一神域到達魔法【祈り、塵に。刺青を。(To:star_u_start)

 それは星成形の終了を体現した神である。

 

 

 

 厚み1μmm,直径95億光年。

 降着円盤に列を成す分子群。

 第一神域到達魔法【久季に残る腕輪(Evaporation:out_join)

 それは重力特異点蒸発を体現した神である。

 

 

 

 正36面体の単一鉄。

 第一神域到達魔法【痛み病まれぬ指輪(Zone:fe_Resurrection_fate)

 それは物質鉄化を体現した神である。

 

 

 

 10のマイナス16乗メートル。

 完全球体。

 第一神域到達魔法【裏孵る装耳具(Last:quark_zenith_quasar)

 それは素粒子崩壊を体現した神である。

 

 

 

 

 

 ……終末の説明方法、論じ方には幾つか手段がある。

 この六つはまさしく呪いとしての神。

 終末を取り寄せる──それが何を意味するのか。

 

【そこに。メフトさまは、そこに、いるのですか】

 

 こちらへとローロの言葉が投げかけられる。対し応えるための口も機能も肉体も失ってしまった女は何も発することがなかった。

 ただただ、六つの呪いが、六体(・・)の第(・・)一神(・・)域到(・・)達魔法(・・・)だけが展開を進めていった。

 

【メフトさまは……自分自身を宇宙終焉の手段に変えたのですね】

 

 ……あの子は、やっぱり賢い。

 反応がない“穴”の奥にローロは全てを悟ったのだろう。

 涙ひとつ流すことなく、頑迷な覚悟と決意を秘めた表情をして、真っ直ぐに“穴”へと向き直った。

 

【すべて壊すのですか。壊すためだけの存在になるのですか?】

 

 破壊者が、現象として事象として宇宙境界面にこじ開けられた穴から噴出していた。

 ──それは。その光は。

 それは光のようで、光ではなかったし。

 熱量のように振る舞うが熱量ではない。

 質量体でもなければ、素粒子さえ持たない。

 有限の対義語として存在する虚無ですらない。

 

【すべて壊して、作り直して。命ですらない力学と法則そのものに……新宇宙の秩序になるつもりなのですか】

 

 しいて言語化できるとしたら、それは“終末”という概念そのもの。

 やがて成形を終えた六つの呪いは、一つの神となって“穴”から現宇宙へと現れる。

 ──形状はありふれた姿の花だった。

 斑の無い、均一な、色なき絶光の花弁は六つ。

 宇宙を包み潰す華やかな輝き。

 もしくは砲弾。

 

 

 

 

 

 第一神域到達魔法群【六角魔女(M.L.T.Z.E.L)】。

 その物理的顕現直径は“宇宙”である。

 

 

 

 

 

 

 ……そして。

 

【メフトさまは、もう、どこにもいないのですね】

 

 終末魔法最終第五展開“世界無考(ラストバイス)”が即座に実行され。

 既存世界へと、観測不可能な大きさをした虚光が解き放たれた。

 孤独な創成を目指した花が、咲き誇る。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「私があなたに感じた熱と光は脆くて弱弱しいものだったのです。支えなければ、共にいなければ壊れてしまうと錯覚してしまうほど」

 

 何もかもが白かった。

 何もかもが眩しかった。

 宇宙は果ての無い輝きで満杯だった。

 目端に浮かべた涙を少女はそっと拭い取る。

 

「あなたが今、そうやって放つ光はとても寂しそうに見えます」

 

 姿を消していく黒を背景に。銀紫の円環を付き従えて。闇ばかりが広がっていた真空の世界を漂う雫に一瞥を送った後。

 淡い白銀の輝きで身を包みながらローロは唯一の手の内に剣を生み出す。

 握りしめる。

 

「だから教えてあげます。これ以上ないほどの愛情を」

 

 論理と情熱で裏打ちされた双眸を、いっそ涼し気とさえ言えるほど小さく緩ませながら。

 

「そちらへ行きますね。メフトさま」

 

 宇宙──世界を染め上げる光へと、単身、剣一つ携えた少女が歩き出した。

 

 

 

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