主従の間に芽生えてしまった歯止めの効かない愛情は光をも割断する   作:てりのとりやき

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だけど私には光があった。

 

 

 黄金の髪。金色の瞳。六つの黒い角。角を飾る貴金、宝石のアクセサリー。

 美しい顔。痩せた体。白の長衣一枚の出で立ち。

 第一神域到達魔法、メルツェル・カルテル。

 

「メフトさまに殺されたのは偽装だったの?」

 

 現実味の無い相手を前に、ローロは真っ先に抱いた疑問を尋ねることにした。

 

「まさか。あの時の機能破壊によって今も私には実装されるはずだった情動機能が喪失している。他にも無数の機能が無いままだ。ただ私は、思った以上に人知の及ばぬ存在だったというだけのことだよ」

 

 背中すべてを覆う黄金の髪を揺らし、金色の虹彩に一切の情を浮かべないで女は……メルツェル・カルテルは滑らかに言い切る。

 言葉に澱みはなく、嘘を言っているようには見えなかった。

 ……探ったところで無駄か。彼女は神に等しい精神構造そのもの。生まれからして既知の存在とはかけ離れた神域到達魔法そのものだ。

 

「ローロ・ワン。君はなぜ母を殺した?」

 

 人の形を取っているだけの魔法存在は、唐突な質問をした。予想もしていなかった問いかけに応えようと口を開くが。

 

「それは」

「──なぜ人は同族を殺すのだろうか」

 

 ……そもそも問いかけですらなかったのだろう。メルツェル・カルテルはこちらの言葉を待たずして、誰に対してでもない疑問を口にする。

 ローロ・ワンは開きかけていた口を閉ざし、彼女の言葉の続きを待った。

 

「憎み、怨み、殺し合うことばかりを重ねているのはなぜだろう。暴力や殺傷を簡易な手段にしてしまった真因は何だ?」

「……」

「私は星中を走査して、理解した。──魔法がある世界とは存在自体が許されてはいないと」

「だから……壊そうとした?」

「だが、私の行いは極端で、人間性を備えた思考回路には理解しがたいものだったのだろう」

 

 当時を思い出すかのようにメルツェルが瞼を閉じる。……当然のように、その長いまつ毛さえも黄金色だった。

 

「結果としてメフトを苦しめる形になった。……魔力であり魔法だったのは彼女も同じだ。つまり、生みの親さえ否定する行動だったのだから」

「……話し合うことを選ぶべきだった」

「そうだな。その通りだ」

 

 感情さえまっとうに機能していたら、自嘲の笑みでも浮かべていたかもしれない。平淡な響きの声音はしかし、そう思えるほどに自身の愚かしさを詰る口ぶりだった。

 メルツェルが目を開く。黄金の眼はその焦点をこちらとは別の、遠い所に結んでいる。

 

「相互理解を経ることのない決断が不幸を生むのだとは、当時、自我を獲得した瞬間の私ではわからなかった。そういう観点から見れば……メフトは誕生時点で完成されていたと言える。

 対話さえまずは選ばず、疑問を抱えたまま観察から始めた。観察し、理解し、ようやく対話し、恐る恐る触れて。……そのようにして出した一定の結論は、母にとっては罪の証だったかもしれない。だが──」

 

 滔々と語り、やがてその瞳の内には少女の姿が浮かび上がる。はっきりと焦点を結んだ先に、同じ悪魔によって作り出されたもう一つの魔法存在がしっかりと立っている。

 

「無価値なはずはなかった。そうだな、ローロ・ワン」

 

 ……なんとなく、分かった。

 メルツェルが死の直前にあっても尚、“神域”までローロ・ワンを呼んだ理由が。

 彼女は恐らく、感謝を伝えたいだけなのだ。そして──自分にはないものを、心を獲得できた魔法存在に、問いかけたい“何か”がある。

 

「それはあなたもだよ、メルツェル」

「……私のことを指して言ったつもりはなかったが」

「ううん。そんなことない」

 

 メルツェルがローロ・ワンに確かな価値を感じ、尊重するからこそ対話という行動を選んでいるのと同じくらい、ローロ・ワンもまたメルツェルに貴いものを感じている。 

 

「あなたがいたから、メフトさまは今日まで生きてこれたんだ。その事実が無価値なはずはないんだ」

「……価値などあるものか。間違いを犯したのさ」

 

 ああそうだろう。メルツェル・カルテルが成した行い──終末魔法の起動は、客観的に見ても失敗でしかなかった。メフトの歩む生き方はメルツェル・カルテルの行動によって明確に歪んだのだから。

 

「結果として何もかもは捩れ狂ってしまった。私は結局、最後まで自身の罪を償う機会さえ掴み取れなかった。私は彼女に、ただただ重いばかりの十字架を背負わせたに過ぎない」

「……ねえメルツェル。メフトさまは、黄金で出来た十字架ひとつ背負えないほど背の曲がった人だったのかな」

 

 だが、メフトは痛みを知り、罪を抱えて、それでも行くと決められた。

 その選択の始まりに在ったものが例えどれだけ間違いであったとしても、これまで生きる糧になれたなら、罪や失敗に価値がないだなんて思えない。

 ローロ・ワンは、間違えてしまったからと無かったことにすればそれでいいだなんて、そんな考え方を受け入れたくない。

 

「ありがとう」

「……『ありがとう』?」

 

 言葉は自然と紡がれていた。

 

「メフトさまをこれまで存在させてくれて、ありがとう」

 

 理解できない事を言われていると、メルツェル・カルテルが何度か瞬きをする。情動が無いなりに抱いているだろう困惑の仕草がどこか幼くて、ローロ・ワンは小さく微笑むことさえ出来た。

 

「おかしな──話だ。度し難く、理解の一端さえ、……果てしなく遠い」

「そうかな?」

「絶対にそうだ」

 

 眩暈がするとでも言わんばかりに、女が頭を振る。側頭部より生えた角が揺れ、イヤリングの数々が不思議な音楽を奏で始める。

 そんな、鈴や宝石や、貴金属が触れ合い擦れ合う音の流れの最中。メルツェルの、真理まで見通せるほどに鋭い視線がローロ・ワンを射る。

 

「ローロ・ワン……人によって創られた人でない者、だというのに人であろうとした彼女、そんな彼女が生み出した、人ではないというのに人であり続けられた者よ。私が君をこうして呼んだのは、まさに君の理解しがたい行動原理によるものだ」

「……何か、聞きたいことがあるの?」

「ああ」

 

 メルツェル・カルテルが答えを欲しているのだとは、これまでの会話から薄々分かっていた。何を問われるのかも含めて。

 

「……私に答えを教えてくれないか」

 

 それは、時折メフトが抱きつつも答えを見つけられなかった疑問だ。

 

 

 

 

 

 

「なぜ憎む?」

 

 全身の骨が折れても立ち上がる。

 自らを縊り殺させてでも復讐を果たす。

 または、その復讐を正当なものだと受け入れてしまう……。

 

「──守り通せなかった過去に次こそ向き合うために」

 

 

 

 

 

「なぜ祈る?」

 

 星を、星系を守るほどの愛を。

 見守り続けた我が子の背中を押す。

 途絶えることのない旅路を誰もが歩き続ける。

 

「──時に立ち止まり、未来を希う権利はすべての存在に許される」

 

 

 

 

 

 

「なぜ歌う?」

 

 それ単体が命として成立した訳ではなかった。

 常に彼女の内側を走り続けた。

 そして今、一つの魂として、存在として、自らの旅路の終着点に立っている。

 

「──共に歌ってくれる誰かを探したいんだ」

「いたのか?」

「うん。私は見つけることができたよ、メルツェル」

 

 

 

 

 

 

 

 言い切れば、向かい合う黄金の女は瞬時に口を開いた。

 

「過去に向き合い、未来を想い、……それで探して何になる」

 

 シンプルな疑問を真摯な口調が鎧う。

 

「仮にだ。仮に、探し出して見つけられたとしても、共に添い遂げられる幸福は極めて短いはずだ。きっといつか壊してしまうだろう。殺してしまう。人は、…………魔法は、それを容易く許してしまった」

 

 誰もが魔力を放出できる。

 大なり小なり放出された魔力は、放出者自身の意志によって時には炎に変じる。刃にもなる。何かを治し癒すよりも誰かを壊し傷つける方が簡単な力学だから、魔法は常に戦闘手段としてしか見られない。

 

「私はやはり居てはならない存在で──」

「──だから、壊してくれる誰かをずっと待っていたの?」

 

 メルツェル・カルテルは、覆い被さるようにして尋ねられて、開いていた口の動きを止めた。……そして硬く引き結んだ唇のまま、ゆっくりと頷いて見せた。

 

「……未来で、もしかしたら私はメフトさまと喧嘩をしているかもしれない。いつか、大事な人と永遠に別れることになるかもしれない。誰にだって区切りがある、終わりがあるんだ」

「そうとも。苦しみがある。悩み、涙し、後悔する時が必ず来る」

 

 魔法そのものであるメルツェル・カルテルは、人の身の内で存在できたローロ・ワンとは違う。魔法であり魔力でもあるメフトに連なる黄金の神性は、だから、自分自身さえも否定する結論を得てしまっているのだ。

 変われない自分を壊してほしかったのだろう。

 

「ローロ・ワン、断言する」

 

 殺されたかったのだろう。

 メルツェル・カルテルは、メフトとさえ一度も対話することなく時を重ね、観察するに留めたのだろう。 

 第一神域到達魔法【メルツェル・カルテル】は、その本質を観測魔法としている。

 

「君が進む先には苦難と地獄しかない。それ(・・)は、幸福などではない」

 

 だから、ローロ・ワンがこれから成そうとする行いを彼女はもう知っている。

 

「──それでも選ぶのか? それでもローロ・ワン、君は進み続けられるのか?」

 

『いつか』。

『未来で』。

『もしかしたら』。

 言葉は不安定だ。不安定なのは、思いが揺らいでいるからだ。

 弱くなる時もある。脆くなってしまう時がきっと訪れる。涙を流すことしかできないほど悲惨な時を過ごすことになるかもしれない。

 ローロ・ワンが選ぼうとしている未来とはつまり、全て(・・)の神(・・)が死(・・)に絶え(・・・)メフ(・・)トも(・・)ロー(・・)ロも(・・)これ(・・)まで(・・)の連(・・)続性(・・)を捨(・・)て去(・・)るこ(・・)とに(・・)なる(・・)世界(・・)()

 そこには勿論、メフトがこれまで世界を支配するために振るった破壊の数々は残り続ける。彼女の罪を責め立てる者達が待ち構えている。全てがローロ・ワンの思い通りに行った先にあるのは、果てしない辛苦の連続だろう。 

 

「確定した未来が……寂しい終わりが待ち構えていたとしても」 

 

 それでも、ローロ・ワンはもう知っている。知ってしまった。

 彼女と繋いだ手の暖かさ。血の通うことの喜び。触れあえる嬉しさを──愛を交わすことの幸福を。

 もう迷うことは、だからこそありえない。

 

「結末を迎えるまでのどこかに幸福が少しでもあるなら、私はそれを選びたいんだ」

「……」

 

 ついにメルツェル・カルテルが押し黙った。

 自身が抱える論理とはかけ離れた思考の帰結を、彼女は彼女なりに処理しようとしている。神域にさえ到達した魔法存在が口を閉ざし黙考する十数秒の価値は、推して測ることさえできない。

 やがて、ぽつりと。

 

「…………あなた達のことが、その内に宿る論理がどうしても理解できなかった」

 

 いつまでも眺め続けたのだろう。

 ずっと、きっと。メフトの背中越しに、彼女が接した人々を。彼ら彼女らが抱えた原理や理屈を認識し、把握して。それでも分からなかったのだろう。

 何故ならメルツェル・カルテルは対話を選ばなかった。……いや、選べなかったのかもしれない。

 誕生の瞬間に起きたメフトによる破壊。致命的な機能喪失が起きたのだとしたら。

 宇宙全域を瞬時に演算可能なほどの神域到達魔法の登場を以てようやく、メルツェル・カルテルは崩壊しきった相互通信能力でも対話可能な相手を得られたのではないか。

 

「だが、──ああ、少しだけ。本当に少しだけ……掴めた」

 

 これは、きっとメルツェル・カルテルにとって最初で最後の機会。

 他者と交わることで自己を省み、己の過去と、そこから続く現在──未来に至るまでの道を見定められる時間。

 人が。生まれ、喋るようになり、社会の中でゆっくりと育む全てを今、メルツェル・カルテルは獲得しようとしている。

 

「ローロ・ワン。君を選んだメフトの選択は間違いではなかったんだ」

 

 それはきっと……黄金よりもかけがえのないもの。ローロ・ワンが見つけたのと同じように美しいもの。 

 淡々として、だけど万感の想いを込めて、彼女は金色の瞳に優しい色を浮かべてみせる。

 

「最後に話せたのが君でよかった。私を殺す者が君で……本当によかった。何か礼をとも思うが、君に手向けとして渡せるものは何一つない」

 

 だから、ひとつだけ助言を。

 

「終末魔法に第六の展開があるという君の推測は正しい」

「──!」

「君には、それを実行するのも、劣化させるも、そもそも使わないことさえ。……自由にできる権利がある」

 

 言葉の終わりは、別れの始まりなのだと。通じ合うことのできたそれぞれの視線は分かっていた。

 ローロ・ワンは頷き、背を向ける。すると──。

 

「……これは」

「君の願いと祈りだ。持っていけ」

 

 彼女の目の前、何もない空白の領域に突如として剣が出現する。……ここは“神域”、認知により紡がれる仮想空間。想いがどのようにも形を取ることが出来る。

 だからそれは、決意の証だろう。

 

「行くがいい。

 そして畏れず掴め。

 幸福は『今ここにない先』にこそ常にある」

 

 剣を手に取り。

 柄を、引き抜いた直後。

 ──少女の背に幾人もの色彩の影が広がった。

 

 

 

 蒼が頷く。

 翠が笑う。

 銀が心地よく揺れ、

 紫は強く──確かに。

 

 

 

 奇跡のような、幻影の花。

 振り返ることのない少女が気付く様子はない。

 

「ああ────いい答えだ」

 

 それでいいとメルツェル・カルテルは静かに頷いた。

 深く、矯めすぎた何もかもをゆっくりと手放す感覚と共に。

 “神域”の展開を、神は終了し。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ──現実世界。時と時の狭間。

 目の前に、光があった。

 その光はローロ・ワンがたった今壊した輝きだった。

 光は女の姿を取っていた。俯き、膝を抱え、痩せた背中を見せる、寂しげな輝きだった。

 

 

 

 死にたい。消えてしまえたらいい。

 だけど私には光があった。

 途絶えさせる訳にはいかない光が。

 絶対に、何としてでも、守らないといけない。

 私だけの輝き……。

 

 

 

 光は、抱え込んだ()を必死になって隠そうとしていた。守ろうとしていた。

 ボロボロに傷ついた背中。自身がどうなったとしても守りたいもののために生きると決めた、孤独で、弱くて、脆い人。

 きっと。

 きっといつまでも彼女はこうして屈み続けるのだろう。座り込んで動けないのだろう。自身の、後悔と罪しかなかった過去を背負い、黄金の十字架を零さないように胸の内で組んだ両手を離せないのだろう。

 

「私を愛してくれていても、私を見てくれなかったのですね」

 

 ……気付けば拳を握りしめていた。隻腕には力が込められていった。

 

「私はあなたにとって罪の結晶でしかなかったのですか?」

 

 分かっている。

 そんなはずはなかったと。それでも、世界の果て、宇宙の果てまで来て、今眼前にある小さくて脆い輝きは──全てに背を向け続ける在り方こそが、メフトという女の、心象の全てだった。 

 

「あなたを愛していても、あなたの全てを見ることができなかった」

 

 悲しくて。

 やりきれなくて。

 それでも……これが今ここにある現実の、過去から連綿と続き、未来まで残り続ける現在だ。 

 変えようがない。

 時間は一方にしか進まない。

 メフトがメルツェル・カルテルを作り、殺した時点で、何も救うことはできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし。

 ところで。

 時間という概念が過去から未来にしか進まないと、誰が決めたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学者? 

 偉人? 

 宇宙? 

 法? 

 理? 

 神? 

 光? 

 ──ローロ・ワンには全て超えられる。

 神殺(・・)しの(・・)因果(・・)は確(・・)定した(・・・)

 主従の間に芽生えてしまった歯止めの効かない愛情は光をも割断する。できるとローロ・ワンは確信している。

 だから。

 握る拳の内から、溢れ出すものが幾重にも。

 光の割断性現象──虹が、溢れ出す。

 

「それでも。そんなあなたを、愛してしまったのです」

 

 無限の光彩。

 色という色を、幾重もの光芒を。

 束ね、織り、掴み、──やがてそれはローロ・ワンの手の中で剣に変じた。

 光。輝き。時空に突き刺さり、決して抜けることのない虹色の剣。

 

「あなたを愛することが出来た世界で私はあなたと生きていきたいのです」

 

 それは未来を決定付けるためにある剣だ。

 未来(・・)を決(・・)定付(・・)ける(・・)ため(・・)()過去を決定付ける剣だ。

 未来(・・)を決(・・)定付(・・)ける(・・)ため(・・)の過(・・)去を(・・)決定(・・)付け(・・)るた(・・)めに(・・)現在を決定付ける剣だ。

 ローロ・ワンはもう、自らが織り上げた剣が何であるかを知っている。

 

 

 

 

 

 

 双方向時間跳躍式因果干渉魔法。

 未来も、過去も、現在から繋がる全てに通じた光。

 終末魔法第六終束体、“存在有光(Law the one)”。

 

 

 

 

 

 

 時間遡行すら叶える剣──ローロ・ワンは、ついに速度の概念を極め、騎士の極点に到達した。

 今のローロ・ワンには時空間全域における、確定してしまった事象や、未だ確定していない事柄さえも叩き斬ることができる。割断することができる。

 

 

 マギステルシア・ファウストに健全な脳を与えることも。

 

 マギアニクス・ファウストが幸福に、幸福のまま、故郷に骨を埋めることも。

 

 アル・ルールが疎開することもなく、

 

 ティアレス・ティアラ・ホルルは次代を望める世界にだって。

 

 メフトが──メルツェル・カルテルを、作り出さない過去さえ用意できる。

 

 

 世界に直に触れることが出来る存在。

 真の意味での神。

 ……だが、ローロ・ワンはもう決めている。

 痛みや悲しみを背負い、何もかもを無かったことにするのではなく。

 先へ進む。

 そのための力をこれまで求め、これからも欲し続ける。

 だから(・・・)

 

 

(かつ)て】

 

 

 虹光の剣は、意思一つで性能を一気に落とす。発動した際の効力や影響範囲さえもが極めて小さな範疇に縮まっていく。

 ──それは模造劣化魔法。

 

 

()ての】

 

 

 アル・ルールが何度も大きく頷き、

 ティアレス・ティアラ・ホルルが屈託なく笑い、

 マギアニクス・ファウストが母親らしく見つめ、

 マギステルシア・ファウストが姉妹として背を押した、

 ローロ・ワンが願う未来へと進む、助力としての剣だ。

 

 

(みぎわ)(つるぎ)よ】

 

 

 少女の、唯一の腕が振り上がる。

 光と虹の束もまた、大上段の構えを作り。

 右足を軽く上げ──踏み込み。

 祈りと共に。

 願いと共に。

 

 

(あけ)(ひかり)となれ】

 

 

 ローロ・ワンは、微かな光へと剣を振り下ろす。

 自らの意志と力で前へと進む。

 光を、選り分けるために割断する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……さようなら。メルツェル。

 

 

 ──君が選んだ最良の未来に、最大の敬意を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして剣の振るわれ()先は僅かに変わり──。

 第一神域到達魔法、……否。

 メルツェル・カルテルは全構成要素を完膚なきまでに破壊され。

 メフトの神だけが、死んだ。

 

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