1月11日は俺の自慢の妹、野々原渚の誕生日。
 最高のプレゼントをお前に贈ろう。
 気に入ってくれるだろ?




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 誕生日と言えば勿論プレゼント。
 真心が大事とはよく言うが、ただの自己満足で終わってしまっては意味がない。
 一番大事なのは、貰う側が嬉しいと思うこと。贈る側が楽しいと思うこと。




前略、麗しの妹へ

 

 カレンダーを見る。冬の半ばの3つ並ぶ1は美しい数字の並びで覚えやすい。

 

 無論大事な妹の誕生日をすっぽかすだなんて馬鹿な真似をする兄は後にも先にも何処にも居やしないだろうが。もし仮にいるとすればそれは戸籍上先に生まれただけの赤の他人だ。

 日本全国津々浦々、平均的で一般的な何処にでもいる普通のお兄ちゃんを代表できる自負がある俺のありふれた持論だから間違いない。

 そんなことはどうでもいいんだ、重要なことじゃない。今最も語らなければならないのは、『今日というこの日は渚の誕生日を祝う日なんだ』という至極当たり前の事実だということを忘れてはいけない。

 誕生日というのは、青春という多感な時期において重要度の比重が(カネではなく、キン)以上あるのは言うまでもないが、それ故に失敗した時は末代まで後を引き摺りかねないイベントなのである。

 リサーチ不足で『気持ちは嬉しいけど正直要らない』なんて思われてしまった日には受精卵からやり直して母胎に置き去りにした人の心を育み直してくるといい。

 

 ここで消え物を選ぶのは安易だ。無論誕生日祝いのアミューズにしてメインディッシュのケーキは振る舞うが、プレゼントが食べて消化されてはい終わり、では料理なのにあまりに味気ない。

 思い出は値段が付けられない(プライスレス)だとは言うが、どうせなら形に残るものにしたい。目にしたらすぐに思い出せるような。思い出したくないって? そう言うなよ。

 

 アロマディフューザーはどうか。嗅覚は記憶と密接な関係にあるという。人間の脳と直接視神経でリンクしている視覚情報は、一般人の脳が処理する外部の刺激の95%を占めるらしい。

 そして人間が死ぬ最期の刹那、今際の際の際まで生きている感覚器官は聴覚だと言われている。日常と非日常、両方でフォーカスされる目と耳を差し置くほどに、匂いというものは因縁があるようだ。

 目で見た光景も、耳で聞いた会話も、鼻で嗅いだ芳香も、形には残らないが、記憶には残る。そこそこお値段は高いが実用性はあるし、渚の好みそうなデザインもフレーバーもカタログにあった。

 悪くない選択肢だ。我が家には既に現役で稼働可能な現物が存在しているという点に目を瞑れば。

 もう持っている物ほど、誕生日プレゼントとして受け取った際に困惑の念が絶えないものもあるまい。瞼を貫通するほどに大きく、どれだけ目を逸らしたとて否が応でも視界に入る欠点だ。持っていようがいまいがお前にはやらん。

 

 アクセサリー……は俺自身のセンスが終わってるので却下で。気軽に『お、これよさげじゃね?』とか手に取ったヤツがべらぼうに高くて魂消て以来腰が引けて迂闊に手が出せないとか、そう言うのでは、ない。断じて、ない。

 ヘアピンやらリボンやらの髪飾りは0が3つくらい多いのを渡したとてよ。大事に大事にしまわれて、日の目を見るのはハレの日ぐらいな箪笥の肥やしになりそうだ。

 出来ることなら毎日毎日、健やかな日も病める日も、小さな幸せを感じている時も、深い後悔に苛まれている時も、特にこれと言って何の予定もない時も、肌身離さず身に着けていて欲しい。片時も忘れないようにな。覚えるのはお前だけの十八番じゃない。

 

 考えあぐねた結果、やはりというか、当然の帰結というか、原点回帰というか、お家芸というか、実家のような安心感というか、マフラーに決めた。

 季節にぴったりで、しばらくは普段使いできる上にデザインを工夫すれば夏季もインテリアとして飾ることが出来る。しかも今回は既製品じゃなくて手編み、即ちメイドイン俺のオンリーワン。

 しかしまあ思った以上に大変で、中々思った通り真っ直ぐにならないんだこれが。採寸も型紙も無しに他人向けのセーターを編める人とか脳の構造どうなってんの。

 多少のヨレは見なかったことにするか、よく見て慣れれば手作り故の味わい深さに化ける。一先ず他人様にお出ししても恥ずかしくない出来上がりの完成品は、ギリギリではあるものの当日までに納品と相成った。

 今でも思い出すのは、前の誕生日に贈った赤いマフラー。よほど嬉しかったのか、半年経っても毎日首に巻いて登校するんだもんな。

 見上げた根性というか、御洒落とは我慢と心得たりというか。だからこそ気合入れて織った甲斐があったというか。お兄ちゃん冥利に尽きるとはきっとこのことなんだろう。

 

「思い出したくない嫌です止めて」駄目だ。

 

 そろそろ時間か。プレゼントよし、料理よし、ゲストよし。何も問題ないな。

 

 照明を消し、ケーキに蠟燭の火を灯す

 

「ハッピーバースデー、渚」

 

 遺影の中の渚は変わらず微笑んでいた。ほら、お前もちゃんと祝うんだよ彩子。

 

 

 

 葬送、もとい、草々。

 

 

 





 折角のバースデーパーティーなのに、祝うのが一人だけなんて寂しいだろう?

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