「ん…………あれ、寝てた?わたしが?」
微睡みから覚めるように横たわっていた体を起こす。
休むことはあっても意識まで落とす睡眠という行為をしたこと自体に思わず驚いてしまう。
わずかに寝ぼけているような感覚に戸惑いながらそばにあったトレードマークといっても差し支えない二つの目玉のような物がついた黄色い帽子を被る。
「…………っていうか、ここどこ?」
辺りを見回してみるが、自身がいる部屋と思われる空間は物が少なく、酷く殺風景な印象を覚える。
窓はあるから外の様子も見れるが、高い建物の中にいるのか今いる場所からは大したものは見えない。
強いて言えば、空一面に何か幾何学模様のような半透明のリングが浮いているくらいか。
「明らかにどこかに飛ばされたような感じだね…………それに直前のあの言葉………」
直前まで夢のようなものを見ていたのを覚えている。
誰かから自身に向けて、語り掛けられるような、そんな内容だった気がするが残念なことにその誰かからの内容はほとんど記憶に残っていない。
しかし─────
『我々は望む、七つの嘆きを』
『我々は覚えている、ジェリコの古則を』
何のことを言っているのか皆目検討もつかないが、夢の内容はほとんど覚えてないのに、この文章が頭の中におかしいくらいはっきりと残っているということは何か大事な言葉なのだろう。記憶しておいて損はないはずだ。
「さて、ともかくここがどこか誰かに聞かないと。ん?」
気持ちを切り替えるように誰かいないだろうか、と淡い期待を抱きながら廊下へ出ようとしたところに部屋に備え付けられたテーブルの上に何か置かれているのが目についた。
「あれは確か…………『かーど』だったっけ。大会とかで時々いる『でゅえる!!』とか言いながら戦ってる人たちの…………」
テーブルの上にある薄く小さい板のようなものに何回か見かけた者たちが持っていた札を想起させるが、それはその者たちが使っていたような代物とはどうやら違うようだった。
何気なく触ってみる。特に何も変哲はない板っきれ────ではなかった。
「うわわっ!?」
触った途端にそのカードが光輝いた。突然のことにたまらず手で瞳を覆う。
「─────収まった?」
幸い光自体はすぐに収まってくれた。おそるおそる腕を退けてみる。
大きさや厚さとかカードそのものが何か変わった様子はない。
だが、カードの纏う雰囲気が変わった。具体的に言うならば見知った奴らが戦う時に見せていたあの雰囲気。
「あー……………わかった。これ多分喚べるね、みんなのこと。」
カードがどういう代物に変化したのかを察しつつ懐にしまいながら部屋を出てみる。
どこか殺風景な部屋から打って変わって透き通るようなガラス張りの廊下に出迎えられる。
「おお……………こりゃすごい。」
思わずそう感想をこぼしてしまうほどそこから見える光景は綺麗だった。数多のビルが立ち並び、整然とした風景。お目にかかれる回数は極めて少ないだろう。
「あの、少しよろしいでしょうか?」
外の風景を眺めていると後ろから声をかけられ、振り向く。
そこには純白の制服に蒼いネクタイを締め、メガネをかけた女が立っていた。
何より目を引くのは彼女の頭の後ろで浮いている半透明なリング。
色合い、大きさ共々空に浮かんでいたものとはまるで違うが、本質的には同じものだろうと直感する。
それだけの何か妙な感覚があのリングにはあった。
「お、もしかしてこの建物の人間かい?ごめんね、ほぼ部外者なわたしなんだろうけど実はここが一体どこだかさっぱりでさ。」
「……………いえ、おそらくあなたは部外者ではないでしょう。『諏訪子先生』」
「へ?確かにわたしは諏訪子ではあるけど……………先生?」
目の前の人物の言葉に思わずキョトンと首を傾げてしまう。
先生?先生って要は誰かに教える立場の人間ってことだよね?ジャッキー先生*1のような────いや、彼のそれはどちらかと言えば愛称に近いから厳密には違うのか。
「なんで私の名前を?もしかして知ってる?わたしがここにきた
「…………申し訳ありません。わたしはあくまで連邦生徒会長に言われてあなたをお迎えにあがっただけですので……………」
ふむ、どうやら彼女の言う連邦生徒会長とかいう人間がわたしを呼んだらしい。
もともと自分のいたところもいろんな世界の存在が入り混じって軽く混沌となっているとはいえほぼほぼ別世界の存在を呼ぶとは相当な人物なのかもしれない。
とりあえずその生徒会長と会って真意を聞いてみるのが一番か。
「その連邦生徒会長さんには会うことはできる…………って生徒?もしかしなくても君って未成年?」
「そう、ですね。卒業間近の三年生という意味合いであれば…………先生のおっしゃる通りかと。」
「えええええ!?!?」
ふと気になったことを聞いてみてからの返答に目の前の女、いや女子の言葉に大声で驚いてしまう。
だって自分より背高い上に大人びた雰囲気、何より制服の上からこれでもかと主張している突き出た胸部。
明らかに未成年の範疇を逸している。
「その体の発育の良さで未成年は犯罪だぁ!!」
「ひ、人聞きの悪いことを言うのはやめてください!?訴えますよセクハラで!!」
ビシィッと音が鳴りそうなくらいの勢いで彼女の恵まれた体つきを指さすとわずかに顔を上気させて体を隠した。
だが腕で隠したことでむしろ彼女の惠体が強調されて逆に煽情的になった。さてはむっつりだな!?
「さて、お互い楽しくお話しできたことだし…………そのわたしを呼んだと思われる生徒会長さんのお目にかかることはできそうかい?」
「…………それが────」
さっきの会話がひきづっているのか微妙に視線を鋭くされたが、彼女───七神リンは連邦生徒会長には会うことはできないと言った。
その理由としてどうやらその生徒会長は突然失踪してしまい、それにより現在この都市──学園都市『キヴォトス』は統制を失い、各地で混乱状態にあるということだ。
ただ、その生徒会長は何も言わずに失踪したわけではなく、事態解決のカギとして自身の名前とこの建物の居場所を残したとのこと。
「どうして会ったこともない人間からそんな太鼓判推されるのかな………わたしほとんど右も左もわかってない状態だよ?」
リンちゃんから教えてもらったことに思わず頭を抱えるように帽子に手を添えながら渋い表情を浮かべる。
愚痴のようなものも飛び出てしまうが、それは目の前の彼女に言ってもどうにもならないだろう。困った表情を見せているのがその証拠だ。
「…………とりあえず、君の方からわかる範囲でやってほしいこととかある?」
「…………いいんですか?話を聞いている限りあなたは突然連れて来させられたようですが。」
「いいのいいの。別段減るようなものでもないし、呼ばれた以上ちょっとした見聞録作りとでも思っておくよ。」
そういえばここにきて気づいたことがある。
彼女、リンちゃんは自身に状況の説明ついでに名乗ってくれたが、肝心の自身はまだそれをしていない。向こうは名前を知っているようだが、厳密にいえばわたしに諏訪子という名前は正しくない。
「自己紹介がまだだったね。わたしの名前はグランドマスター諏訪子。元居た世界じゃ『GM諏訪子』で名が通っていてね。少しの間よろしく、リンちゃん。」