「いやー、完全に想定外だったなぁー」
わたしがアビドスにやってきてから二日目。
一時的に住むところとしてホシノちゃんが貸してくれた空き家から出るが、わたしの表情はいまいち優れない。
それもそのはず。アビドスが抱えていた借金が想像以上だったのだ。
「10億…………マジ?」
アヤネちゃんから聞かされたアビドスの抱えている借金の多さに思わず表情を引きつらせる。
その金額、9億6235万。四捨五入してほぼ10億だ。
耳を疑いたくなるような金額だが、アビドスの現状を教えてくれた三人の表情に嘘は見えない。
「これが返済できないと、学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざるを得なくなります。ですが、実際に返済できる可能性は0%に近く……ほとんどの生徒は諦めて、この学校と街を捨てて去ってしまいました……」
まぁ………そうなるよ。むしろそれが正しい選択だと言いたくなるほどだ。
っていうか借金相手はたった五人の生徒に本気でこの金額を支払わせるつもりなんだろうか。
あまりにも法外すぎて何か別の理由があるんじゃないかと疑ってしまうレベルだ。
「君たちホントすごいね。すごい精神力だ。」
改めてこの子たちのすごさに感嘆の声を上げる。
が、賞賛の声を送ったにも関わらず、3人の表情はあまり優れない。シロコちゃんでさえ不良の時にはどこか照れくさそうにしていたのにこの有様だ。
「でもさ、そもそもどうしてそんな借金が膨れ上がったのさ。」
雰囲気を切り替えるようなわたしの純粋な疑問にアヤネちゃんは部室に掲載されている地図を机の上に広げる。
見た感じ、このアビドス自治区一帯を映しているようだ。
「先生は数十年前のアビドスで起きた砂嵐についてはご存知ですか?」
「ん…………あぁ、そういえばそんな話があったとは…………」
事前に調べたことにそんなことがあったなぁ、と思っているとアヤネちゃんが説明を続けてくれる。
「この地域では以前から頻繁に砂嵐が起きていたのですが、その時の砂嵐は想像を絶する規模のものでした。」
そう言ってアヤネちゃんは手にしたペンで地図に線を書き始めた。
少しして書き終わったのか地図を改めて見せてもらったが、その範囲に思わず言葉を失う。
「…………これで一回分の被害かぁ………」
おそらくアヤネちゃんはその時の砂嵐で砂に埋もれてしまった地区をペンで囲うことで表してくれてるのだろう。
アビドスが元々広い自治区を有していたとはいえその範囲はあまりにも広い。
「学区のいたる所が砂に埋もれ、砂嵐が去ってからも砂が溜まり続けてしまい。その自然災害を克服するために、我が校は多額の資金を投入せざるを得ませんでした。」
「確かにこの範囲を復興させようとしたらは文字通り巨額の資金がいるはずだよ。」
「実際その通りでした。しかしこのような片田舎の学校に、巨額の融資をしてくれる銀行はなかなか見つからず……」
「結局、悪徳金融業者に頼るしかなかった。」
そう言ってシロコちゃんが指差したのは地図上の、アビドス自治区とはまた別の場所。そこには『カイザーローン』とかいう名前の建物があった。
「カイザー?………………ああ、カイザーコーポレーションとかいうとこの、系列会社って言うんだっけ?」
うーん、まだキヴォトスに来てから日の浅いわたしですら知っている大企業がここで出てくるかぁ…………
ちょっと街中歩けば絶対に目に入るといっても過言ではないレベルでこのカイザーって言葉が入った看板がある。
まぁ、いわゆる大手中の大手ってやつだね、この会社。
「子供に対してどうみても支払えるとは思えないような借金背負わせるなんてそりゃ悪徳な業者さんだね。」
「最初のうちは、すぐに返済できる算段だったと思います。しかし砂嵐はその後も、毎年更に巨大な規模で発生し……学校の努力も虚しく、学区の状況は手が付けられないほどの悪化の一途を辿りました。」
砂嵐が毎年の頻度で、それも年々勢いを増して発生するかぁ………何か環境以外の要因が絡んでいるような気配を感じる。確かに自然というのは時に人間に牙をむくものだが、はたしてそこまで過酷を人間に強いるものだろうか?
「で、最終的にアビドスの半分が砂に埋もれてしまった。それも膨れ上がるだけの借金だけが手元に残って、か。」
アヤネちゃんが塗りつぶした範囲を見て、結論付けるように言ったわたしの言葉に三人が力なく頷いた。
「私たちの力だけでは、毎月の利息を返済するので精一杯で……弾薬も補給品も、底をついてしまっています。」
「利息もそんなに高いの?」
「およそ900万はくだらなかったかと。」
…………もはや搾取だね。あんまりそういう方面には明るくないけど、どうみても公正の範疇を越えているのは明白だ。
シロコちゃんが悪徳っていうのも頷けるレベルのやり方だ。
内心舌打ちをするように渋い表情を浮かべているとふとシロコちゃんの顔が目につく。
それは笑みだった。一瞬助けてくれることに対する安堵かと思ったが、よく見てみるとそれは違った。
諦めだ。まるで初めから期待していない、いや正確には期待することができない言うような諦観の笑み。
シロコちゃんの様子からわたしは彼女が次に出す言葉が容易に想像できた。
「……ありがとう、先生。話を聞いてくれて。もう大丈夫。先生は十分力になってくれた。これ以上────」
「迷惑はかけられない、なんて言うんだったらゲージ技出すよ。」
シロコちゃんの言葉を遮るようにわたしは
「巻き込まないようにしてくれているのかはわからないけど、言ったでしょ?アビドスを助けない選択なんて絶対しないって。ここではいそうですかなんて言って引いちゃったらそれこそなんのためにここにきたって話になっちゃうからね。」
「……………わかった。先生がそう言ってくれるのなら、希望を見えてくるかもしれない。」
「いやー、先生ってホント物好きだよねぇー。っていうかそもそも先生何者?おじさんですら今ので一瞬トリハダ立ったんだけど。」
「………シャーレが本当に力になってくれるなんて。これで私たちも、希望を持っていいんですよね?」
「わたし大抵絶望側に立ってるけどね。」
(((どういうことなんだろう…………?)))
そんなこんなな話をしたが、結局のところアビドスの抱える10億は生半可なことで解決はしないだろう。邪法には邪法とはあまり言いたくないが、向こう──カイザー側から誰が見ても不正だとわかるようなものをとってこないと取りつく島もない。
(踏み倒すのもなぁ、結局あの子たちのためには全くならないだろうし。さてさて、どうしたものかねぇ。)
「げっ」
考え事をしながらアビドスに向かって歩いていると前の方から聞き覚えのある声がした。意識をそっちに向けてみると嫌そうな顔をしているセリカちゃんの姿があった。
「おやおはよう。奇遇だねぇ、セリカちゃん。」
「なっ、何が『おはよう』よ! 馴れ馴れしくしないでくれる? 私、まだ先生のこと認めてないから。」
うーん、好感度が低いねぇ。
ヘルメット団との時はそんなに悪印象を抱かれてた感じ無かったんだけどなぁ。
「これから登校かな?その割には学校のある方角から来たように見えたけど。」
「……私が何をしようと、別に先生とは関係ないでしょ? 朝っぱらからこんなところをうろちょろしてたら、ヘルメット団とかに攫われちゃうわよ?」
むぅ、わかっていたとはいえやっぱり子供の体格ではそんな風に思われてしまうのも無理はないかぁ。正直ヘルメット団程度だと適当にしてても勝てると思うんだけど、ここは変に荒波を立てるようなことはよしておこう。
「ま、そんな時はそんな時だよ。」
「フン…………… じゃあね!せいぜいのんびりしてれば?私は忙しいの。」
わたしの返事にセリカちゃんは不機嫌そうに鼻を鳴らすと足早とその場を去っていった。
「気をつけてねー、セリカお姉ちゃん♪」
「〜〜〜〜!!だ、誰がアンタのお姉ちゃんなんかやるもんか!!」
そのまま無視とかして歩き去ればいいのに、律儀に振り向いてまで返してくれる彼女にやっぱりいい子だなぁと生暖かい目を向けてその背中を見送った。
「あー、そういえば言ってなかったねぇ。今日実は自由登校日なんだよぉ〜。」
学校にまで来たところでたまたま会ったホシノちゃんからそう言われる。
だからか。なんとなく学校の方向から来てたから別の場所に向かっているとは思っていたけど。
「セリカちゃんと会ったんだけど、あの子って何かしてるの?」
わたしがセリカちゃんについて聞いてみると、ホシノちゃんは少し考えたあとに何が閃いたようにシロコちゃんたち3人を呼び出した。
「ラーメン屋に行ってみようかー。多分珍しいものが見れるよぉ。」
なぜか急にラーメン屋に行くことが決まった。
………………なんで?
…………ランセレ、いつになったらできるかなぁ(白目)