「ここが例のラーメン屋?」
「そだよ〜」
対策委員会のみんなと一緒にホシノちゃんに連れられてきたのは一軒のラーメン屋。
名前は…………柴関ラーメンか。
アビドスの郊外に立地しているけど、店自体はちゃんとした一軒屋だ。自治区内の住民もだいぶ減っていると聞いていることを鑑みるとかなりいいお店なのは確実だろう。
「じゃあ入ろうかー。」
「いらっしゃいませー!」
お店のドアを開けて店内に入店するホシノちゃんに続く。店内に入るとの従業員から挨拶されるが……………あれ?今の声って。
「…………セリカちゃん?」
「……………………は?」
店内に入ったわたしたちの姿を見た途端表情を凍りつかせる従業員ことセリカちゃん。
なるほど、ホシノちゃんがいっていた面白いものっていうのはこれか。
「バイトかぁ、学生としての本分もあるだろうに健気だねぇ。その姿に思わず先生は涙がちょちょぎれそうだよ。グスグス」
「泣きまねが白々しいのよぉ!!っていうかみんなまでどうしてここを………」
「うへ~、やっぱここだと思った。セリカちゃんのバイト先といえば、やっぱここにしかないじゃん?」
「ホシノ先輩か……!!ううっ!!」
からかわれたことにセリカちゃんは顔を上気させてにらんでくるが、ホシノちゃん自身が仕立て人だと明かすとまさにぐぬぬ、というような表情を浮かべる。
「アビドスの生徒さんか。セリカちゃんおしゃべりはそれぐらいにして、注文受けてくれな。」
「ここの店主さんかな?入口前を陣取ってすまないねぇ。」
「いや、気にする必要はないさ。」
現れた店主と思われる二足歩行の柴犬に面くらいながらも邪魔になっていたことを帽子を外しながら謝罪して、わたしたちは観念した様子のセリカちゃんの案内で広めの席につく。
「はい、先生はこちらへ!私の隣、空いてます!」
「ん、私の隣も空いてる。」
席は六人用。対するわたしたちは五人できているため、必然的に3人と2人で分かれるのだが、最後に座ろうとしたわたしにノノミちゃんとシロコちゃんが自身の隣に座るように催促してくる。
(別にどっちでも構わないんだけどなぁ………)
わたしはそう思いながらも体格的に余裕のありそうなシロコちゃんの方の席に腰かけた。彼女の隣にはホシノちゃんが座っていたからね。
「むぅ…………」
「またの機会があったら考えておくよ。」
「あ、いいんですか?言質とりましたからね☆」
別に一緒に行くのは全然構わないんだけど子ども扱いは勘弁してほしいなぁ、と思いつつメニュー表に目を落とす。
えーっと、醤油にみそに塩………なるほど、定番どころは一通り揃えているみたいだ。
「セリカちゃん。バイトのユニフォーム、とってもカワイイです☆」
「いやぁー、セリカちゃんってそっち系か。ユニフォームでバイト決めちゃうタイプ?」
「ち、ち、ち、違うって!関係ないし!こ、ここは行きつけのお店だったし……」
「ユニフォーム姿のセリカちゃん、写真撮っとけば一儲けできそうだねー。どう?一枚買わない、先生?」
「んー?セリカちゃん顔良いんだから何着ても映えると思うよ?巫女服なんかどうよ?知り合いに巫女服着てるのたくさんいるから機会あったら一着もらっておこうか?」
「────先生って天才?」
「ちょっと!!勝手にひと様で一儲けとか考えないでよ!!先生も止めろぉ!!」
ホシノちゃんの儲け話に悪乗りしているとセリカちゃんから怒られてしまう。これ以上おちょくると本気で店の迷惑になりそうだから言われたとおりにやめておこう。
「バイトはいつから始めたの?」
「い、一週間くらい前から……」
「そうだったんですね☆ 時々姿を消していたのは、バイトだったということですか!」
「も、もういいでしょ! ご注文はっ!?」
「『ご注文はお決まりですか』でしょー? セリカちゃーん、お客様には笑顔で親切に接客しなきゃー?」
「あうう……ご、ご注文は、お決まりですか……」
「みんなってこの店何回か来ているのかな?よければおすすめとかあったら教えてほしいんだけど。」
ま、ほかのみんなからの質問攻めは終わらなかったんだけどね。たじたじになりながらも従業員らしい口調で注文の確認をセリカちゃんがしてきたところでわたしはみんなにおすすめを聞くことにした。
しかし、彼女たちの様子を見てるとホントに借金をしているのだろうかと思ってしまうくらい平和だ。
………しっかり守ってやらないとね。この子たちの笑顔が曇るのは正直あまり見たくない。
「わたしはチャーシュー麺です☆」
「ん、やっぱり塩のあっさりが至高。」
「わ、わたしは味噌、でしょうか………」
「私はねー、特製味噌ラーメンの炙りチャーシュートッピング!!先生も遠慮しないで、ジャンジャン頼んでねー。この店、めちゃくちゃ美味しいんだよー!アビドス名物、紫関ラーメン!」
はっは、なるほど名物か。そりゃあ困窮しているアビドス自治区のわりにちゃんとしたお店を構えられているのも納得だ。
「じゃ、わたしは塩にしようかな。」
「……ところで、みんなお金は大丈夫なの?」
みんな注文を決めたところでセリカちゃんから訝しげな言葉が投げかけられる。
そういえばそうだ。稼ぎを全額借金に充てがっているわけではないにしろ、アビドスのみんなに贅沢ができる余裕は少ないだろう。
「もしかして、またノノミ先輩に奢って貰うつもり?」
「え?そうなの?」
「はい、私はそれでも大丈夫ですよ☆ このカードなら、限度額までまだ余裕がありますし。」
思わずノノミちゃんの方をみる。そう言って彼女が取り出したのは金色のカードだった。
なんか見覚えあるような………………?
「あ、わたし似たようなの持ってるかも。」
「うへ~流石だね先生、太っ腹。」
「まだ奢るって決めたわけじゃないんだけど…………まぁ、仮にこのカード使えなくても別に全くお金もらってないわけじゃないからいいけど。」
「……………いいんですか?わたしが支払っても全然気にしませんが。」
「いいのいいの。なんなら頻繁に奢ってるって?たまには奢られる側も経験しておいたら?」
「うーん…………わかりました。先生がそうおっしゃられるのなら今回はありがたく奢られておきますね☆」
奢られることに気が引けてそうな顔を見せてるノノミちゃんだったが、わたしの様子を見て大丈夫だと判断したのか笑みを浮かべて引き下がってくれる。
まぁ、自分でも言った通り、連邦生徒会からの依頼達成したときとかに報酬でもらってはいるから一食分のお代出すくらいなら全然問題はない。
ちなみにお代はホシノちゃんが言っていた大人のカードとやらで普通に支払えた。
待って、これ一体どこからお金引き落とされてるの?わたしわからないんだけど。
「はぁ…………やっと終わった。目まぐるしい1日だったわ。」
柴関ラーメンでのアルバイトを終え、店を後にするとたまらずため息を吐く
まさかみんなで来られるとは思いもよらなかったが、ともかく騒がしいったらありゃしない。
働いていた時のことを思い出すと思わず無性に腹が立ってくる。
何よ、みんな揃いも揃って先生先生ってチヤホヤしちゃって!!ホント迷惑!!
「ホシノ先輩、昨日のことがあったからってわざと先生を連れてきたに違いないわ!!」
帰ったら絶対また文句言ってやるんだから!!
「ふむ、彼奴が諏訪子めの言っていた生徒とやらか。急に所在が掴めなくなったと思えば、面白いことをしておるではないか。しかしあの少女、中々愛い容貌をしている。特にあの頭部の獣耳は特に良い。愛でてみれば良き声で鳴いてくれよう。頼みがなければ余が直々にでもと思ったが。」
ちょうどセリカの近くのビル。そのてっぺんから見下ろすように彼女を見つめる一つの影が。
何やらセリカを艶めかしい目を浮かべ、見定めるようにしていたが、やがて残念そうに肩をすくませる。
「む?」
見つめていた翠の瞳がセリカとは別の物を捉える。それは帰路につく彼女の後ろを尾けるかのように赤や黒といったヘルメットを被った人間たちの姿だった。
「ほう………どうやら慧眼を光らせたようだな。」
その者たちが何をしようとしているのかを察すると、関心したように頷いたその人影はまるで幽霊のように、最初からそこに存在しなかったように影も形もなく消え失せた。
またのっけからエミュがゲロムズな御人を引き当ててしまった(白目)