「あーあ、もう日付変わっちゃってるよ。こりゃ相当な時間外労働だねぇ。」
ヘルメット団からの報復攻撃からセリカちゃんを助け出して奴らが使っていた高射砲と一緒にアビドス高校に戻ってきた。
ちなみにセリカちゃんはもうおねむの時間で気を失ったように寝てる。わたしが背負ってあげてもよかったんだけどあいにくセリカちゃんの方が身長が高くて無理だったから掴み技で出てくる青い球体に包ませてもらっているよ。
ダメージは…………出してないと思うよ。たぶん。
「さてさて、朝方アヤネちゃんにお願いしてっと…………ありゃ?」
明日、というかほぼ今日のことを考えていると何か校舎の中が忙しない雰囲気になっていることに気づく。
というかとっくに深夜なのに学校に明かりが灯っている部屋がある。具体的にいえば対策委員会の部室がある辺り。
「あー…………」
なんとなく状況を察していると懐から響く振動音。
確か携帯が着信を知らせるときのあれだ。取り出して画面を見てみるとそこにはアヤネちゃんの名前があった。
「はいはーい?」
『先生!?よかった、繋がりました!すみません、セリカちゃんがどこにもいなくて………!!」
「んー………今部室にいるのはアヤネちゃんかな?」
「は、はい……確かにそうですけど……」
「とりあえず外見てくれる?具体的に言うと正門のほう。」
ひどく取り乱した様子のアヤネちゃんの電話にそう答えると部室にいたのかそこから飛び出すように彼女が廊下に現れた。
周囲は暗いがわたしの出している球体は光ってもいるためすぐに彼女と視線が合った。
「よ、よかったですぅ~!!」
「いやいや、タイミングがよかったとはいえまさかここまでうまくハマるとはね……」
こちらに気づいたアヤネちゃんと一緒にセリカちゃんをベッドに寝かせると目じりに涙を浮かべながら安堵の表情を浮かべるアヤネちゃん。
仲間と連絡が取れなくなったことがよほど不安だったのは想像に難くない。
どうやらホシノちゃんたちも捜索に出ていたようだが、アヤネちゃん経由で連絡を回しているためほどなくして戻ってくるだろう。
「先生にはなんてお礼を上げればいいのか…………」
「生徒を守るのは先生の仕事であり義務さ。」
アヤネちゃんの言葉にそう返しながら寝ているセリカちゃんの髪を撫でる。
うん、いい顔で寝ている。やっぱり子供が笑顔を見せてくれている間が一番平和を感じさせてくれる。
「さ、よいこはもう寝る時間だよ。アヤネちゃんにはやってほしいことがあるから今日はもう帰りなさい。やってくるだろうホシノちゃんたちは言っておくからさ。」
「………わかりました。セリカちゃんをよろしくおねがいします。それと今回は本当にありがとうございました。」
そういって保健室から出ていくアヤネちゃんの背中を見送りながらわたしはセリカちゃんの寝ているベッドにほど近い窓辺に腰かける。
深夜帯だったのも相まってさすがのわたしもうとうとと舟をこぎだしていたが、急いでいるような足音が聞こえだしたところで思わず吹き出すように笑みをこぼす。
「こーら、寝ている人がいるんだから廊下は走っちゃダメでしょー?」
「ハァ、ハァ……ご、ごめんなさい…………」
部屋に飛び込んでくる勢いでやってきたシロコちゃんたち2人に注意しつつも三人の胸中を察していないわけではないため、それ以上は何も言わない。
「セリカちゃんは無事だよ。全くダメージを受けていないってわけじゃないから少し療養はいると思うけどね。」
安らかに寝息を立ててる彼女の様子をみて心底から安心した表情を見せるシロコちゃんたち。
いやー、愛されてるねぇ。まだ短いとはいえ一緒に苦楽を共にしてきてるんだから自然とそうなるのも道理か。
「ん?そういえばホシノちゃんは?」
「先輩は結構遠くまで探しに行ったそうなので帰ってくるまで時間がかかるそうです。」
ふとホシノちゃんの姿がないことが気になったが、ノノミちゃんから帰ってくるのに時間がかかると聞かされた。
「そっか。まぁ、わたしはセリカちゃんのそばにいるから2人とも今日は休んでね。聞きたいことはあるだろうけど、それは朝からでも遅くない。いいかな?」
わたしの言葉に2人は少し顔を見合わせると静かに頷いて部屋を後にしようとする。
「あ、一つ忘れてた。君たちの家に着いたら何かしら連絡よこしてくれるかな?もしものことがあるかもだから。」
去り際の2人にそうお願いすると今度こそ2人は学校の保健室から出て行った。
さて、どうしようかな………………
シロコたちが帰ってから数時間後。暗くなった保健室の扉が音もなく開かれる。
足音もなく入ってきた人物は窓際で寝ている諏訪子を確認し、セリカのベッドの側までくるとホッと一息、安心したように息を吐く。
それだけ見届けると満足したのか、その人物は踵を後にして保健室から静かに出ていこうとする。
「こんな遅くまで夜遊びとは、かなり悪い子だねぇ。ホシノちゃん?」
「うへッ!?せ、先生…………!?」
扉に手をかけようとしたところで背後から諏訪子に声をかけられ、思わず上擦った声をあげるホシノ。
振り向いてみると、そこには寝ぼけているわけでもなく、意識もはっきりしている様子の諏訪子が手を振っていた。
「時刻は…………三時過ぎくらいか。ならおはようってことにしてもいっか。」
「ね、寝たふりなんてするなんてぇ……………というか、もしかしてわたしのこと待ってた?」
「んー…………シロコちゃんたちが帰ってからそんなに時間が経ってないのならわたしは特に何も言うつもりはなかったんだけど…………」
悩ましげな表情で唸る諏訪子だったが、やがてやっぱり言っとかないとダメだよね。と結論づけたのかホシノと向き直った。
それを見たホシノはなんとなくその場から逃れたい気持ちに襲われた。何か自分にとって言われたくないようなことを目の当たりにしそうな気がして。
「ホシノちゃん、君いつも眠たそうにしてるけど、それは夜遅くまで出歩いてるからでしょ?しかもたぶんだけど結構な頻度で。何をしているかまで聞くつもりはないけど、あんまり過度な夜更かしはやめておいた方が身のためだよ?」
「…………それは先生としての言葉、なのかな?」
「先生としてというより、あくまで常識的な話だよ。キヴォトスの人たちの耐久性はいろんな意味ですごいことは知ってはいるけど、人である以上、休まなきゃ疲労はたまっていく一方だ。そして疲労は、人から考える力を奪う。鈍くなった頭ではいつもなら起こさないはずのミスすら簡単に引き起こす。」
諏訪子の言葉に思わず手に力をいれてしまうホシノ。
そんなつもりがないのはわかっている。だがその言葉に、どうしても、否が応でも自身の起こした罪が背筋を伝う感覚が沸き起こる。
「────と、説教じみたこと言っちゃったけど、要はちゃんと休む時には休んでねっていうだけの話さ。まぁ、仮に何かあったとしてもわたしがなんとかしてみせるよ。特に荒事とかになったのならなおのこといいね。相手をぶっ飛ばすことだけに集中できるからね。」
「────ええ………直前まであんなこと言っておいて先生も結局何も考えたくないだけじゃん。」
「それが一番楽だからね。でもそうは言ってられない。人間は考える生き物である以上それは避けられない。だけどそれを続けることはとっても疲れる。だから休むんだよ。明日にはなんとかなってるとかそんな希望を抱いて、ね。」
最期までなんだか説教じみたこと言ってごめんね、と最後に言葉を交わしたあと、ホシノは保健室をあとにした。
その足取りはどこかゆったりとしたものだ。寝不足気味なのはもう慣れた。彼女をそうさせているのは別の理由があった。
「明日にはなんとかなっている、か。」
そんな希望、私なんかが抱いていいわけない。
セリカちゃん誘拐をほぼ未遂で〆るとそのあとの便利屋のヘルメット団無力化の依頼が大変になるだけだよね?そうだよね!?