「さて、次の手はっと…………あ、これいい味してるねぇ。」
手にしている小麦色に焼けた魚のお菓子───たい焼きに舌鼓を打つが、いまいちわたしの顔は晴れない。
不良たちの襲撃を切り抜けたあと例の高射砲に関する情報を集めてみたが、結果は残念なことに空振りに終わっている。
まぁ、ここでたい焼きを頬張っているのもあまりに空振り続きで流石にみんなの顔に疲労が見え隠れしていたため気分転換に寄っているのだが。
「参ったなぁ…………ここまで情報が絞られているとは思わなかった………」
たい焼きの甘さに顔を綻ばせているアビドスの面々を尻目にわたしはわずかにため息を漏らす。
流石に容疑者候補筆頭のカイザーローンのお膝元なら何かあるとか思ってたんだけどなぁ…………
次の手は──なーんて言ってるけど正直策なんてない。
「…………ヒフミちゃんは大丈夫そう?結構歩いてたけど。」
「大丈夫です。それこそ先生は大丈夫ですか?わたしたちとさほど歳が変わらそうな上にヘイローもありませんし………」
「心配ご無用って言っときたいけど、アビドスの気候上、喉が渇きやすくてね。こういう都市部ならまだしも砂漠地帯に近いところじゃペットボトルの水が欠かせないね。」
考えても仕方ないため、隣に座っていたヒフミちゃんに声をかけた。
こちらとしてはたまたま助けただけだったのだから適当なところで帰ってもらっても構わなかったのだが、助けてもらった恩を返せてないとかでこっちの調査を手伝ってくれた。
「そうなんですね。もし喉が渇いたようでしたらいつでも言ってください。わたしの水筒の中身を差し上げますので。」
そう言ってヒフミちゃんはあの背負っているペロロ様とやらのキャラクターリュックの中からペロロ様をかたどった水筒を見せてくれた。
いや、どんだけ好きなのその鳥。愛を通り越して崇拝に近いことしてない?
「しかし……ここまで情報がないなんてありえません……妙ですね。お探しの高射砲の情報、絶対どこかにあるはずなのに、探しても探しても出てきません。」
ヒフミちゃんは怪訝そうな顔を浮かべながらここまで調査して全くかすりもしないことに首を傾げる。
「販売ルート、保管記録……すべて何者かが意図的に隠しているような、そんな気がします。いくらここを牛耳っている企業でも、ここまで徹底してブラックマーケットを統制することは不可能なはず……」
「そんなに?隠すのは当然だと思わなくもないけど…………」
「なんと言えばいいんでしょう。普通ここまでやりますか? という感じですね……。ここに集まっている企業は、ある意味開き直って悪さをしていますから、逆に変に隠したりしないんです。」
まぁブラックマーケットって言うくらいだし、そういうものだろうね。
言われてみれば開き直って悪さをしていることを公言するのがここの常識ならいくら調べても出てこないっていうのはある意味変な話だ。
つまるところ、それは隠さないと明らかに自分達に悪影響のある組織がやっているということ。
例えば、一般人の目にも触れている大企業さまとか。
「例えば、あそこのビル。あれがブラックマーケットに名を馳せる闇銀行です。」
「闇銀行?なんだかいかにもな名前だね。」
あからさまな名前に思わずなんだそれって吹き出しそうになるが、話が進まなくなるためここは耐える。
「ブラックマーケットで最も大きな銀行のひとつです。聞いた話だと、キヴォトスで行われる犯罪の15%の盗品があそこに流されているそうです……。横領、強盗、誘拐などなど、様々な犯罪によって獲得した財貨が、違法な武器や兵器に変えられてまた他の犯罪に使われる……そんな悪循環が続いているのです。」
「真っ黒だねぇ。まぁ『ブラック』マーケットなんだし、それくらいはやってて当たり前か。」
「……そんなの、銀行が犯罪を煽っているようなものじゃないですか。」
「その通りです。まさに銀行も犯罪組織なのです……」
「ひどい!連邦生徒会は何をやってるの!?」
闇銀行の所業に怒り心頭な様子のノノミちゃんたち。その怒りはそれをほったらかしにしているリンちゃんたち連邦生徒会にも向いてしまっている。
「一応連邦生徒会の所属でもあるシャーレとして言わせてもらうと、今の彼女たちにそういう余裕はまるでないと思うよ?ほとんどのリソースを連邦生徒会長の捜索に割いているだろうしね。」
「捜索って…………ハァ!?もしかしなくてもいないの!?」
「……………そんなことになっているんだ。うへぇー、連邦生徒会も大変だね。」
「えっ!?皆さんご存知なかったんですか!?」
このまま誤解のまま流してしまうのもいただけなかったために連邦生徒会長の失踪のことを伝えるとヒフミちゃん以外の表情が驚きに染まる。
まぁ、彼女たちが失踪のことを知らなかったということに驚く要素はあまりない。
一応期間は短いとはいえわかったことがある。アビドス高校には情報を手に入れる手段が少ない。
ないわけではないだろうが、日々のほとんどを借金の利息を返済するために当てているようでは自分たちのことだけで手いっぱいだろう。
「とはいえ連邦生徒会長がいようといなかろうと各学校、強いてはキヴォトスの問題は噴出するばかり。そんな状態をどうにかするために立ち上げられたのが連邦捜査部シャーレ。そしてそこに先生として呼ばれてしまったのがこのわたし、GM諏訪子というわけさ。」
「呼ばれてしまったって………なんだかあまり乗り気でないような雰囲気ですね。」
「わたしはあまり気にしてないんだけどね、君たちと背丈があまり変わらないのが『先生』ですって言ってきて正直言ってどう思う?人選ミスって思わない?」
わたしの言葉にその場にいる全員が顔を逸らしながら『あー………』と言葉を失う。
うーん、つらい。自分で言っといてなんだけどけっこう傷つくなぁ。
「…………え、あれって。」
ふとセリカちゃんが何かを見つけたのか闇銀行の方角を見て呟いた。
その視線の先を見てみると物々しい雰囲気で武装した集団が一台の車を護衛している様子だった。
「あわわ…………あれはマーケットガードです!ここの最上位の治安部隊で、見つかったらとても面倒なことになってしまいます!」
あれが例の治安部隊か…………なにやら仰々しくあの車を護衛しているけど、件の闇銀行へその進路をとっていると鑑みるに、あれは現金を輸送していると見る。
にしてもあの車を見てからシロコちゃんたちの様子が変だ。まるでここにいるはずのない存在がそこにあるような…………あ、まさか。
そう思って様子を注意深く見つめているとその車から運転手と見られるロボが降りてくる。
「な、何で!?あいつは毎月うちに来て利息を受け取っているあの銀行員……?」
…………ロボって人判定でいいのかな。まぁ、うちにも誰にでも人の可能性とやら、見せてもらおうかってイントロで言ってる奴いるけどさ。
そんなわたしの思考はともかくどうやらあの現金輸送車はアビドスから利息を回収していった車らしい。
一応他の反応を見てみるがみな一同にしてセリカちゃんと似たような驚きの反応をしていることから間違いなさそうだ。
「……………確かあの銀行、犯罪とかで得た資金を違法な武器とかにしているって言っていたよね?で、あの車はカイザーローンのもの。」
どうやらわたしの考えはハズレじゃなかったらしい。ようやく向こうが見せた尻尾だ。このチャンスを逃すわけにはいかない。
「か、カイザーローンですか!?」
1人不敵な笑みを浮かべていると悲鳴に近いヒフミちゃんの声が響く。
聞いてみると大方わたしがユウカちゃんから聞いていたこととおんなじだが、なにもユウカちゃんの所属しているミレニアムの生徒会、『セミナー』だけでなくトリニティの生徒会『ティーパーティー』もカイザーコーポレーションの動きに目を光らせているらしい。
「それはともかく、これはいただけないねぇ。これじゃあ完全なマッチポンプだよ。」
「私たちが支払った現金が、ブラックマーケットの闇銀行に流れていた……?」
「私たちはブラックマーケットに、犯罪資金を提供してたってこと!?」
残念だけどそうと言わざるを得ない。
ついでに言えば現金だけにしていたのはデータ的な記録が残るのを防ぐためってところかな。
とはいえそうなってくるとますますカイザーコーポレーションがアビドスにバカにならない借金を背負わせた理由がわからなくなってくるけど。
お金の貸し借りをするということは貸した側は借りた側にお金を返せる見込みがあるということを判断しないとそれはただの資金の投げ捨てだ。
だが彼らがやっていることはどう見てもマッチポンプだし、それでアビドスがなくなれば最悪貸した金が消滅する。
何かお金とは違う、別の求めているものがなければカイザーコーポレーションにそこまでする意味がない。
まぁ、それを知るには向こうのトップ層に問わないとできないだろう。
『くれぐれも迂闊な行動は取らないことを薦めます。何が致命傷になるかわかったものではありませんので。』
脳裏にユウカちゃんの警告が浮かぶが、おそらくこのタイミングを逃すとチャンスは一ヶ月先だろう。つまりは今しかないということだ。
(………………)
もう一度利息の現金を乗せた輸送車を見据える。
すでに受け入れのやりとりは済ませたのか輸送車は建物の中へと入って行った。
「次の手、決まったかな。」
多分変装道具はシロコちゃんが持ってるような気がするし、セキュリティとかもアロナちゃんならいけるとだろうし、あとはマーケットガードとかの予想される包囲からどう抜け出すか、だね。
わたしは袖口からあのカードを取り出した。
さて、どこぞの傭兵ちゃんじゃないけど、大当たりを引くのは誰かな?
ちなみにもうランセレ済みではある。