ていうかヒナちゃん以外の風紀委員会が弱いわけじゃ無いんだけど実質ヒナちゃんのワンオペになってるのやばくなーい?
『ゲヘナの風紀委員長……空崎ヒナ。外見情報も一致します、間違いなく本人のようです。ですが、ゲヘナ風紀委員長ということは……ゲヘナにおいてトップの戦闘力……この状況でそんな人物まで……』
アヤネちゃんからの情報にふーん、と相槌を打ちながら現れた少女を見つめる。
どこか気怠げな雰囲気だが、纏っているオーラのようなものは強者のもので、間違いなくキヴォトスでも上から数えた方が早いであろう実力を有しているのは明白だ。
と言ってもわたしは比較できるほどたくさんの生徒たちに会ったわけではないが。
(狂上位…………いや最上位ももしかしたら相性次第であるかも?)
そんなことを考えながら突然の上司の出現にしどろもどろになっているアコちゃんの言い訳を眺める。
目的がわたしだったとはいえ、便利屋を理由にこのアビドスにやってきたが肝心の便利屋はすでにこの場を去っている。
動揺していた彼女はヒナちゃんからそれを指摘され、さらに慌てふためいたが、最終的に全部白状するのか体を縮こませるように顔を俯かせた。
「──もういい。だいたい把握した。察するに、ゲヘナにとっての不安要素の確認及び排除。そういう政治的な活動の一環ってところね。」
「理解するのが早い。」
彼女が説明するより先に風紀委員会や対峙しているわたしたちを少し見ただけでそう言い当てた。
どうやらWiderspruchの言うかなりのやり手っていうのは実力だけじゃなくて頭のキレも相当だな?
しばらく彼女たちの会話を見ていたが、ヒナちゃんが政治周りはパンデモニウムソサエティーにやらせておけばいいとか言い放ったあとにアコちゃんに謹慎を言い渡したところで話はついたようだ。
借りてきた猫のように項垂れていたアコちゃんだが、彼女も彼女なりに目の上のたんこぶをどうにかしようとしていたのだろう。
まぁ、流石に他校の自治区に集団で赴くのはどうかとは思うが。
「さてさて………まぁ、とりあえず何から話そっか…………」
『こちらアビドスの対策委員会です。ゲヘナの風紀委員長ですね、初めまして。この状況については理解されてますでしょうか?』
どう切り出そうかと考えていたが、思いの外アヤネちゃんが先陣を切ってくれた。
内心助かる。そのアヤネちゃんの言葉にヒナちゃんはもちろん、と頷いた。
「事前通達無しでの他校自治区における無断兵力運用、及び他校生徒たちとの衝突。……けれど、そちらが風紀委員会の公務を妨害したのも事実。違う?」
「んー…………そう言われるとそうではあるけど、巻き込まれたわたしから言わせてもらうと先に攻撃してきたのはそっちだよ。」
「…………あくまで正当防衛だって言いたいのね。」
「まぁ、それはそうなんだけど…………」
わたしはヒナちゃんに事の顛末をなるべく時系列順に説明した。
まず初めに風紀委員会が破壊した建物はあくまで一般住民が経営するラーメン屋であったこと。
便利屋はあくまでそこに客として足を運んでいただけで、店を破壊されたことに腹を立てて今回の銃撃戦に至った。
まぁ、こんな感じなことを説明した。最初にやり返そうって姿勢を取ったのはわたしだから厳密に言えばちょっと嘘が混じってしまうけどそれを指摘できる便利屋はすでに撤退済みだ。
つまり、わたしは彼女たちとの信頼のため、便利屋側に非があまりないことを証明しなければならない。
「便利屋のこと、隠さないのね。」
「下手に隠すよりは、ね。一応彼女たちの存在に気づいていなかったわけじゃないでしょ?」
「………………」
ヒナちゃんは軽く目を伏せるだけで何も答えなかった。が、世の中には沈黙は肯定なんていう便利な言葉がある。そう言うことにさせてもらおう。
「うへ、こいつはまた何があったんだか。すごいことになってるじゃーん。」
「ホシノちゃん?」
結構唐突なタイミングだったが、そこにホシノちゃんが現れた。
今の今までどこにいたんだか。
「昼寝でよく眠れたかい?」
「あー、先生ってばひどーい。まぁ、実際そうなんだけどね。」
「昼寝ぇ!?こっちは色々大変だったのに!ゲヘナのやつらが……」
ホシノちゃんが寝坊してきたということにセリカちゃんをお怒りを露わにしている……………
(うーん、アヤネちゃんが連絡何回も送っていたけど、それに気づかないの有り得なくは無いけど…………)
正直嘘吐いてるようにしか見えないんだよねぇ。短いとはいえ一緒の時間を過ごしたからわかるが、ホシノちゃんはアビドスのみんなをすごく大事に思ってる。
盾を持っていつも前線を張って、敵の射線からみんなを守っている。
そんな彼女が他校の勢力が自治区に入ってくるという暴挙に寝過ごすなんて致命的なことを冒すはずがない。
(とりあえず彼女にはいつか詰問するとして…………)
今は先に捌かないといけない問題がある、と思ってヒナちゃんと向き直るとそこには心底から驚いたような───呆然とした形相を浮かべていた。
視線の先にはホシノちゃんの姿があった。
はて、もしかしてお知り合いだったりする?
そう思ったが、対するホシノちゃんはそれらしい反応は無い。ということは向こうが一方的に知っている感じだろうか。
「……一年生の時とはすいぶん変わった、人違いじゃないかと思うくらいに」
「……ん? 私のこと知ってるの?」
やっぱりそうだったらしい。
「情報部にいた頃、各自治区の要注意生徒たちをある程度把握してたから。特に小鳥遊ホシノ……あなたのことを忘れるはずがない。あの事件の後、アビドスを去ったと思ってたけど。」
あの事件、というのがなんのことを指しているのかは知らないが、言葉尻を聞いているだけだもかなりの大事であったであろうことは想像に難くない。
情報部だということからアビドスについて少なくともわたしより知っていることも多そうだ。
ホシノちゃんに対してそう言ったあと、ヒナちゃんは何か考えに耽るような様子を見せたが、その発言からなんのことを話しているのかはわからなかった。何か1人納得した様子だったけど。
「まあいい、私も、戦うためにここに来たわけじゃないから。……イオリ、チナツ。撤収準備、帰るよ。」
「えっ!?」
『帰るんですか!?』
おや、意外とすんなりと帰ってくれるんだねぇ。
内心わたしもアヤネちゃんと似たリアクションをしていたが、撤収と言われて動揺かと困惑で慌てた様子で準備を始める風紀委員たちの中、こちらに近づいてくるヒナちゃん。
何かまだ用があるのかと思ったのも束の間、彼女はわたしたちに対して深々と頭を下げた。
「事前通達無しでの無断兵力運用、そして他校の自治区で騒ぎを起こしたこと。このことについては私、空崎ヒナより、ゲヘナの風紀委員会の委員長として、アビドス廃校対策委員会に対して公式に謝罪する。」
その姿に今度はわたしたちが目を大きく見開いて驚いてしまう。
部下と上司とはいえ彼女たちは生徒だ。せいぜい年齢も一つ違う程度だろう。それでも上に立つ者の責任を投げ出さず、あまつさえ誠意のある謝罪を見せてきたことにわたしは酷く感心を覚えた。
同時に、ちょっとちゃんとしすぎじゃない?というある種の危機感も抱いたが。
いや、別にそれが悪いって言ってる訳じゃ無い。なんと言うか、悪い意味で子供っぽくないという表現が正しいだろうか。
そんな感じの乖離を感じた。わたしと大して身長が変わらない小柄な体躯だったのもあって。
「今後、ゲヘナの風紀委員会がここに無断で侵入することは無いと約束する。建造物や治療費についても、こちらで補償する。どうか許してほしい。」
「ま、待って委員長!あの校則違反者たち……便利屋はどうするんだ!?」
あ、ちょっと。せっかくうやむやになってくれそうだったのに何言ってくれちゃってるの。
考えに耽っていたところ、イオリちゃんが逃げ出した便利屋の処遇のことを蒸し返してきた。
「……………」
「あ、う……」
……………どうやら向こうも同じことを考えていたようだ。
これ以上の面倒を避けたのはお互い様なようで、ヒナちゃんがひと睨みでイオリちゃんを黙らせた。
「ふぅ………ほら、帰るよ。」
風紀委員長の一声であれだけ大量にいる風紀委員たちがぞろぞろ群れを成して撤退していく。
Widerspruchも雰囲気を察してくれたのか氷漬けにしていたものたちを解放してくれている。
加減はしたとはいえ軽い凍傷もないとはキヴォトスの人間たちはよほど頑丈なようだな、もっともあのヘイローとやらの円環への直接干渉を行えばどうなるかは知らないがとは彼女の言葉だ。
(実際どうなんだろうね………確かに干渉技術もあるけど………)
リンちゃんから意識が具現化されたものと聞かされはしたものの詳細についてはわかりかねているあの円環。
触れはしないものの気絶なり睡眠なりで連動して消えることがわかっているが、倒せない存在ほど倒したくなるのがわたしたちの性のようなもの…………いや、一部の大会常連勢だけだろう。そう思いたい。少なくともわたし専用技術*1なんて無いし。ともかくなんらかの方法で干渉をした場合、一体どうなるんだろうね。
「シャーレの先生、でいいのよね?」
「ん?ああ、こんなナリだけどそうだよー。何か用かい?」
ふとヒナちゃんに声をかけられた。ってありゃ、よーく見てみると目元に隈があるじゃ無いか。
「そう。まぁ背丈でどうとか言うつもりはないわ。あなたに伝えておきたいことがある。これは直接言っておいた方がいいと思って。カイザーコーポレーションのこと、知ってる?」
「正直表向きの大企業のツラしか拝めてないね。裏できな臭いことしてるのはわかるけど具体的には。」
「…………これはまだ『万魔殿』も、ティーパーティーも知らない情報だけど。あなたには知らせておいた方が良いかもしれない。アビドスの捨てられた砂漠……あそこで、カイザーコーポレーションが何かを企んでる。」
「捨てられた……………とりあえず郊外って感じでいいのかな?」
一応今回でカイザーコーポレーションがアビドスの土地の権利を買っていることは察した。おそらくそこもすでにカイザーの手に落ちているのだろう。
それにしてもティーパーティーはもちろん、それと同格と思しき組織ですら知らない情報。そんな大御所ですらまだ入手していない情報とはね。
ゲヘナの情報部とやら相当優秀なようだ。
「砂漠ねぇ…………遺跡か何かでも探してる?」
「それはわからないわ。本当なら、廃校予定のアビドスに教える義理はないのだけど……一応、ね。」
「とりあえず教えてくれてありがと。あー、あと一ついい?」
教えたことに感謝しながらわたしはヒナちゃんの返答を待たず、懐から取り出したメモ用紙にアルファベットと数字の混ざった文字列を書くと、それを彼女に渡した。
「…………これは?」
「わたしのモモトークの連絡先。もしかしたら何かでゲヘナによることがあるかもしれないから。その時に連絡手段あると楽でしょ。」
「……………そうね、確かにそうかも。」
「あと君の手に負えない…………というより多すぎて文字通り手に余りそうなことがあったら遠慮なく連絡してね。書類仕事ならともかく、荒事方面なら大抵どうにかするから。」
PRというほどでも無いがそうアピールすると彼女は戸惑ったようにメモ用紙とわたしを視線で行ったり来たりしていた。
「でも急にどうしてこんなものを…………」
「君、あんまり寝れてないでしょ?多少化粧で誤魔化してはいるようだけど、目元に隈が見えてる。」
そう指摘してやると図星だったのか虚を突かれたような表情を浮かべる。
ま、頑張るのは個人の自由だけどそれで健康に害が出ているようじゃ元も子もないからね。
「生徒の不調は先生として見過ごせないからねぇ。まぁ、おせっかいかもしれないけど、気楽に連絡してくれて構わないからね。」
それだけ言ってわたしはヒナちゃんの返答を待たずに踵を返す。
「え、あ、ちょっと───」
「じゃ、また会えるときを楽しみにしておくよ。」
呼び止められる前に退散退散~。
「っていうか先生、あんまり見ないようにしてたんだけど、見慣れない人………人だよね?」
風紀委員会との小競り合いの帰り道、不意にホシノちゃんが一緒にいたWiderspruchを見て訝しげに見つめる。
そういえば戦闘が終われば大抵みんな帰ってるのになんで彼女はここにいるんだろう。
「─────ただの妖精だ。」
「よ、妖精!?ともかくあんまりあのカード使うのはおすすめしないよー?先生でも太刀打ちできないの来ちゃったらもれなく共倒れなんだからさー。」
「まぁ…………あの時便利屋の子たちしかいなくて手数にちょっと不安があったから………」
ホシノちゃんの指摘に乾いた笑みを浮かべる。ふとWiderspruchの方に顔を向けるとそこには神妙な顔つきでアビドスのみんなを────具体的にはホシノちゃんを見つめているように見えた。
「えっと…………おじさんの顔に何かついてる?」
「…………………」
「Widerspruch?」
声をかけても何も答えないWiderspruch。すると不意に踵を返し、一団から離れる彼女。それにわたしはついていった。一瞬だけどこちらに目だけを向け、まるでついてこいと言っているように見えたからだ。
「どうしたの?」
「あのピンク髪の奴、名をホシノと言ったか?奴もさっきの風紀委員長とやらと同じく相当な実力者だ。少なからずあの中で戦闘力は頭ひとつ抜けている。だが────」
ホシノちゃんのことを褒めているようだが、その表情にはあまりいい雰囲気のものは感じられない。
「奴が醸し出す雰囲気と見せる目。あれは大切な何かを喪っているからこそのものだ。故に奴は一度抱え込んだ存在や遺ったものを何がなんでも守り通す。それこそ、奴自身の身が滅びようともな。」
「……………それは忠告?」
「…………そうだな。お前が先生で、奴が生徒なら目を離すな。おそらく、少しのきっかけで奴はしでかすぞ。誰も幸せにならない選択を。」
それだけわたしに伝えるとWiderspruchの姿は消え、元の世界に帰っていった。
「ふぅ……………」
Widerspruchがいなくなった後を見つめ、一つ小さく息をついた。
今回で色々なことがわかった。
カイザーコーポレーションの目的。
ホシノちゃんが隠していること。
まぁ、他にもあるがとりあえずは地道に前に進んでいくしかないだろう。
そのためにはまずはヒナちゃんからの情報にあった捨てられた砂漠とやらに向かう必要があるだろう。
「全く、新任の時期にやる仕事にしては重たいものを引いたよ。」