「えっと、ユウカちゃん、ハスミちゃん、チナツちゃん、スズミちゃんね………あってる?」
一通り名前を聞かせてもらったあと、みんなの名前を口に出しながら間違いがないように確認する。
思わず首をかしげながら不安そうにしてしまったが、どうやら間違いはなかったようでみんなから頷きをもらい、安堵の息を吐く。
一番リンちゃんに突っかかっていた快活でツインテールの子が早瀬 ユウカちゃん。
黒髪に長身、そして黒い制服に身を包んだ子が羽川 ハスミちゃん。
白髪をサイドテールにした、よーく見てみると手榴弾みたいなのを懐にもっている子が守月 スズミちゃん。
そしてブロンド髪に眼鏡をかけた子が火宮 チナツちゃん。
「で、リンちゃん。結局わたしってどうしたらいいの?さっき会話に出てたサンクトゥムタワーってやつををどうにかすればいいのだろうけどさ。」
「ですからちゃんづけは────ハァ、もうそれで結構です。」
「あはは…………悪いね☆」
またちゃんづけで呼んでしまったことにリンちゃんからあきらめられたようにため息を吐かれてしまう。
思わずうちではありえんほどに見慣れた顔と声のヤツのセリフが出てしまった。
「酷く大雑把ですが、おっしゃられてる通り先生にはサンクトゥムタワーをどうにかしてもらいたいのです。」
そう言ってリンちゃんは持っていたタブレット端末を操作し始めた。
少ししてその端末の画面を見せてもらうと、そこには『S.C.H.A.L.E』というアルファベットの並びと一緒にどこかの場所を示している地図の画像が。
「先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました。それが、連邦捜査部シャーレです。」
そのシャーレという部活について質問するより先にリンちゃんが概要を話してくれたが、これがまたとんでもないほどの権限を有した組織だった。
連邦組織のためという建前はあるが、その権限の下、キヴォトス中の生徒を制限なく加入させ、また各学校の自治区での戦闘行為も制約なしに許されるという一歩間違えればとんでもない火種になりかねないような超法規的組織だった。
「なぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが……シャーレの部室はここから約30㎞離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に「とある物」を持ち込んでいます。」
いわば国と相違ないはずの各学校の生徒を加入させられるという越権行為も甚だしい組織をこれから任されることに胃が痛くなりそうな思いだが、どうやらリンちゃんはわたしにその部室の地下にあるものをとってきてほしいようだ。
とはいえ30キロかぁ………歩きだと時間かかりすぎるだろうし……何か移動手段はないのかな?
そんなことを考えているとリンちゃんがまた端末を操作し始めた。
「モモカ。シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど……」
どうやら流石に移動手段の用意はしてくれそうだ。そのためにどこかと連絡を取っているのだろう。
すると端末からホログラムが投影され、おそらくリンちゃんに呼ばれたモモカという生徒が出てきた。
『シャーレの部室? ……ああ、外郭地区の? そこ、今大騒ぎだけど?』
「大騒ぎ………?」
歩くことはなさそうと思った矢先に雲行きが怪しくなる。
大騒ぎねぇ…………二人の会話を聞いていたわたしは思わずユウカちゃんたちの持っている銃に視線を向ける。
おそらく、キヴォトスでは銃を持っていることが日常なんだろう。それほどのことをしないと身の安全が保障されないくらい。
ということは逆説的に引き金を引くハードルも低いのだろう。で、偶然シャーレの部室の周辺でドンパチが始まってしまったと。
『矯正局を脱出した生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ』
「……うん?」
『連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ?』
前言撤回、キヴォトスは思った以上に世紀末だった。
なに戦車って。これには流石のわたしもドン引きだよ。仮にも子供であろう者たちがそんな代物を平気に乗り回してドンパチしているなんて。
『それで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしてるらしいの。まるでそこに何か大事なものがあるみたいな動きだけど?』
「……」
『まあでも、とっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大した事な……あっ、先輩、お昼ごはんのデリバリー来たから、また連絡するね!』
明らかに起きている出来事とそれに対する温度差がひどすぎる…………
ホログラムに映っていた彼女の中では破壊活動よりデリバリーの方が優先なのか。
しかも事情を知らないことを加味しても焦る様子が微塵もなかった。緊張感のかけらもないとはこのことか。
あー、いけない。リンちゃんの額に青筋浮かんじゃってる。これはまさに怒りが有頂天に達してそうだ。
「リンちゃーん、わたしは多少ズルできるから歩きでもいいけど………」
「いえ……いえ!!大丈夫です。少々問題が発生しましたが、大した問題ではありません。」
実はわたしはワープできるから気を使ってみたが、どうやらその必要はなかったらしい。
実際怒りで表情が歪んでいたリンちゃんだったが、視線先にいるユウカちゃんたちを見るやいなや妙案が浮かんだかのような笑みを浮かべる。
「…………手伝ってほしいそうだよ?」
「はいっ!?」
「ええ、ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです。キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう。」
「ちょ、ちょっと待って!? どこに行くのよ!?」
有無を言わせない勢いで建物の出口に向かうリンちゃんとそれを追いかけるユウカちゃんたち四人を含めたわたしたち。
っていうか突然あんなこと言われてそれについていく必要性も義理も全くないはずだが、流されるままについて来てくれているのは彼女らの根っこは善性であることの表れか。
ともかくリンちゃんが手配してくれようとしていた空路はあきらめ、陸路を進む羽目になったが、30キロ程度離れたシャーレの部室までやってきた。
まぁ、そこでは銃弾砲弾が雨あられに振ってきてホログラムの彼女が言っていた通り焼野原手前になっていたんだけどね。
「いやー、これは想像以上だなー」
「なにのんきなこと言ってるんですかぁ!?イタッ!?もう!!傷跡が残るでしょ!!」
物陰に隠れながら目の前で繰り広げられている銃撃戦の感想にユウカちゃんがお小言を言ってくるが、それを邪魔するように彼女に銃弾が当たる。
普通の人間ならそれで重症ないしは死んでもおかしくはないが、キヴォトスの人、特にヘイローを持ってる生徒たちは生半可な攻撃では傷一つつかないらしく、現にユウカちゃんは直撃をもらったにもかかわらず、撃ってきた相手に元気にサブマシンガンを二丁持ちして倍返ししている始末だ。
「はいはい、痛いものは痛いんだからわざわざ的になりに行くようなことはよしときなよ。」
「で、でもアイツら違法JHP弾を使ってるんですよ!?」
「伏せてくださいユウカ。それにホローポイント弾は違法指定されていません。」
「うちの学校ではこれから違法になるの!!」
ヒートアップしているユウカちゃんを物陰に押し込み、彼女の怒りを宥めようとしながら外の様子を探る。ちなみにトレードマークの帽子は流石に外している。
銃を撃っている奴らは………これまたユウカちゃんたちとさほど変わらぬ年齢の子供たちのようだ。とはいえ遠くから見ても明らかにヒャッハーじみた世紀末な表情で暴れていることから彼女らは別に組織的な奴らではなさそうだ。
ただ、この暴動の首謀者はいそう、というのがわたしの見解かな。シャーレの部室のある建物周辺だけ被害が低い。
ホログラムの彼女が言っていたように、向こうの狙いはわたしたちと同じシャーレの地下の「大事なもの』か。
正直に言えばわたしも別に銃弾喰らったからって即死することはないから前に出ても良かったけど─────
「今は先生が一緒なので、その点に気を付けましょう。先生を守ることが最優先。あの建物の奪還はその次です」
「ハスミさんの言う通りです。先生はキヴォトスではないところから来た方ですので……、私たちとは違って、弾丸一つでも生命の危機にさらされる可能性があります。その点ご注意を!」
「分かってるわ。先生、先生は戦場に出ないでください! 私たちが戦っている間は、この安全な場所にいてくださいね!」
困ったことにみんながいい子なのが逆に前に出づらくさせてしまっている。
多分これわたしの身なりがみんなより幼いのも悪さしてるかも。わたしを中心に守るように陣形が組まれてしまっている。
これでは各々のポテンシャルが発揮しづらい。特にハスミちゃんの武器は狙撃銃である以上、これでは利点を潰しているのも同じだ。密集隊系が悪いとは言わないが、それはあくまでまだ銃の扱いがままならない新人で構成された部隊でやることだ。
そして見ててわかった。彼女たちは
「……………ユウカちゃんは前に出て。」
「え?」
「ここで固まってても時間だけを浪費するだけ。相手も多分同じものを狙っているだろうからこれ以上の時間はかけられない。だったら一番手の空いてるわたしが全体を把握しながらみんなに指示を飛ばす。」
「で、でもそれじゃあ────」
「わたしはハスミちゃんと一緒に後方にいる。確かに危険度は上がるだろうけど、必要経費だ。負担を強いることになるだろうけど、やれそう?」
「………………わかりました。必ずお守り通すことを確約しましょう。」
スズミちゃんの言葉を遮りながら、わたしはハスミちゃんに是非を問う。
彼女は少し考えた後、鋭い目つきとなった表情で力強く頷いてくれた。
「ただ、わたしは指揮に関してはズブの素人なのは否定できない。状況報告くらいはなるべく頑張るけど君たちの経験からの判断も尊重するよ。」
要するにわたしの指揮はおまけくらいに思って欲しいということだ。
多分銃撃戦の場数は彼女たちの方がはるかに上だろう。基本タイマンの試合ばっかやってるわたしの指示よりはいい判断が出せるはずだ。
わたしからの提案にハスミちゃんを除く3人は一度お互いの顔を見合わせると確認するように頷いた。
「わかりました。これより先生の指示に従います。」
「よし、それじゃあ行きましょうか!!」
「おっけー…………じゃ、改めてユウカちゃんは前へ出て、なるべく敵の意識を惹きつけて。スズミちゃんチナツちゃんの2人はその援護で。ハスミちゃんは出てきた敵を片っ端から狙い撃って!」
素人にしては上出来だとは思うが、それがどのような結果をもたらすかは神のみぞ知る……… ま、わたし神ランクの大会出られるくらいには強いけどね!!
お気に入りとか増えるとやはりうれしいな……初心に帰れる……