「────ここが電車でこれるギリギリの場所かぁ。」
『えっと…………はい。この駅から先は完全に徒歩での移動になります。』
さんさんと照らす太陽の光の眩しさに帽子のつばを下げる。
わたしたちはアビドス砂漠の奥地に向かうところだ。
目的はヒナちゃんからのタレコミで聞いた、カイザーコーポレーションがアビドス砂漠で行っていることを調査するためだ。
そのためにアビドス砂漠から一番最寄りの駅まで電車で移動
「こういう時ってホンットに先生のワープって便利よねぇ。アタシたちでさえ数時間かかるって言うのに。」
するよりワープした方が断然速いからした(事後報告)
「そうでしょそうでしょ?機嫌がよくなったからこれまでつけてあげる。」
まぁ、どっちにしたってこれつけるつもりだったんだけど。
セリカちゃんの言葉に気をよくした体を装いながらわたしはアビドスのみんな一人一人を取り囲むように結界を生成した。
都市区画ではそこまでではなかったけど、本格的な砂漠となると砂嵐や強い日差しを始めとした環境が牙を向けてくる。いくら頑丈なキヴォトス人とはいえおよそ人間が生きる上で必須の水分が足りなくなれば動くことすらままならなくなるだろう。
「ん………砂漠からの風とか砂とか感じなくなった。快適。」
「わぁ⭐︎これなら砂漠の過酷な環境もへっちゃらですね⭐︎」
「うへぇー…………先生ってばいいのー?そんなホイホイと施しちゃってさ。」
ホシノちゃんの気が引けがちな反応にいいのいいの、と返答を封殺しながらアビドス砂漠の奥へと進んでいく。
残念なことにカイザーコーポレーションがアビドス砂漠で何かしている場所というのはおおよその目星がついてるだけで正確ではない。だからここから先はどうしても徒歩にならなざるを得ない。
その進んでいる道中、比較的風は穏やかだったが、太陽は陰ることなく遮蔽物の少ない砂漠を照らしていた。
さらには暴走しているようなオートマタの人形のドローンまでおまけしてあった。
まぁ、それはいい。実際荒事慣れしているアビドスの子たちの前じゃわたしが手を貸すまでもなく敵ではないし、気候の方もわたしの結界でどうとなるようにしてある。
(さてさて、どうしたもんかなぁ。)
穏やかじゃないがときたま銃撃戦がある以外は余裕はある。
実のところ、今のわたしは悩みの種を抱えている。振り返るついでに考えをまとめさせてもらおう。
それを目の当たりにしたのはちょうどアビドス砂漠に向かう前。
わたしはシロコちゃんに呼び出され、一人で使われていない教室に足を運んだ。
そこで手渡されたのは一枚の書類。
「これは……退部届?しかも名前は───」
小鳥遊ホシノ。
確かに名前を書く欄のところにはそう書かれていた。
「えーっとこれはつまり───」
「書かれてある通りだと思う。ホシノ先輩は委員会を、いやアビドスから去るつもりでいる。」
「……もしかして、この前君とホシノちゃんの間の空気が悪かったのはそれが理由?」
わたしの問いかけにシロコちゃんは静かに頷いた。
「……ホシノ先輩があそこまで長い時間席を外すなんてこと、今までに無かった。それも他校からの勢力があんなに押し寄せてるのに、ほとんど事態が収まってからなんて……」
「───それで気になった君はあの子のカバンを漁ったってわけか。」
「………悪いことなのは分かってる。ホシノ先輩はともかく、先生からも怒られても仕方ない。」
「まぁ、怒る怒らないはともかく、心配だったんでしょ?そしたらこんな紙が出てきたと。」
「………うん。」
再びの肯定。よし、ならわたしからは特に何も言うことはないかな。
そりゃいつも違う様子の親しい人間がこんなもの持ってたら冷静でいられなくなるのは当然だ。
あとはこれが他の子たちにもバレてないといいけど………
「これは先生以外には見せてない。言ってもないけど、ホシノ先輩にはバレてるかも。」
「あの子警戒心強いからねぇ。その前提でいた方が良いのが賢明かな。ってあれ?わたしやセリカちゃんたちが教室来た時ノノミちゃんがいた気がするけど彼女には?」
「確かにノノミの前で問い詰めたけど退部届のことは話してない。あくまで何か隠し事してないかを聞いただけ。あの時はホシノ先輩から何も聞けなかったけど、多分何か隠しているのは本当だと思う。」
「………わかった。それとこんな言いづらいことをよく話してくれたね。」
「……もしホシノ先輩に何かあっても先生ならなんとかしてくれそうだから。」
「こらこら、もしそうなったとしてもそれは君たちの役割だ。その方が彼女も素直になれるってものさ。ただ、そのための障害になりそうなことはわたしとか呼び出した連中で一筋の希望もない絶望を見せてあげるよ。」
「ん、先生が呼んだ知り合いはたいてい強いのはわかってる。ただ、ハズレっていうのは本当に気になるけど………実際どんなのが出てくるの?」
「うーん………蹴り一発やバット一振りですべてを壊したり基本姿が見えなかったり、隕石墜としたり復活したり?」
「…………どういうこと?」
「要は───なんでもござれの伏魔殿ってことさ。」
「砂だらけの市街地に行ったことはありましたが、ここから先は私も初めてです……」
「うーん、一面砂だらけ。こりゃ事前情報がなかったらとんでもないことになりそうだ。」
しばらくしてわたしたちはアビドス砂漠の奥地、通称『捨てられた砂漠』にまで来ていた。
気候もすっかり砂嵐に近い状態になり、視界も不明瞭だ。まぁ、飛んでくる砂は結界で完全に遮っているから歩くことに関しては問題ないが。
ちなみにホシノちゃんが以前ここに来たことがあることと砂漠化が深刻になる前、聞けば何十年も前に開催されていたらしいお祭りのことを話してくれた。
どうやらこの辺りには船が浮かべられるほどの巨大なオアシスがあってそこで砂祭りがあったらしい。
さぞにぎわっていたらしいが、今わたしたちの目の前に広がっているのは砂だけで見る影もない。
その面影すら拝めないのは残念だけど、今はそれを考えるのはよそう。どうやら目的地に来たらしい。
わたしの目が砂嵐の向こう側にあるものを捉えた。
「アヤネちゃん、砂嵐の向こうに何かあるっぽいんだけどわかる?」
わたしがふいに発した言葉に全員の空気が張り詰めたものに変わる。
一度そこで足を止め、アヤネちゃんからの報告を待つことにした。
『ありました!!でもなんで急にレーダーに……まさかステルス機能を!?ともかく巨大な町……いえ工場、或いは駐屯地……?ものすごい大きな施設のようなものが……!」
「へぇ、そんなに?ってことはヒナちゃんからの情報は大当たりってことか。」
「ね、ねぇアタシには全然見えないんだけど、ホントにその施設があるの?先生が言うから咄嗟に身構えたけど。」
「………とにかく進んでみるしかない。行ってみよう。」
怪訝な顔をするセリカちゃんを他所にホシノちゃんが砂嵐の先へ行く。それについていくようにわたしたちも進むとやがて砂嵐で悪かった視界が晴れていく。
そしてそこには明らかに砂漠にはない、異質な人工建造物があった。
「思ったより大きい建物だね。一体なんのためのものなんだか。」
そうつぶやいては見たが周りからの反応はない。
みんな目の前に聳え立つ巨大な施設に圧倒されているのか言葉が出ない様子だ。
「この鉄の紐、端っこが見えないくらい長いみたい。」
「工場……?石油ボーリング施設、ではなさそうな……一体何なのでしょう、この建物は……?」
「こんなの、昔は無かった……」
唖然としているのをよそにわたしは少し先に見える敷地内の建物に目を凝らす。
何かめぼしいものはないかなーっと思っていると本命がすぐに見つかった。
「アヤネちゃん、建物の外壁に何かマークがあるんだけどどこのものかわかる?」
『は、はい!今確認します!!』
と言っても正体は察しがついてるけどね。
アヤネちゃんにそう頼みながらもわかりきった答えを待った。
けど、それよりも早く答えにたどり着いた子がいた。ホシノちゃんだった。
「────カイザーPMC」
「……はい。ホシノ先輩の仰る通り、カイザーPMCのようです」
「ってことはまたカイザーコーポレーションの系列会社か。ところでPMCって?」
「ぐぬぬ………どこまで行ってもカイザーカイザー………!!ホントにイライラするわね………」
ホシノちゃんの警戒に溢れた言葉に案の定か、と思いながら肩をすくめつつも聞き慣れない単語があったからそれについて聞いてみた。
「PMCはPrivate Military Companyの略で…………民間軍事会社のことです。」
「軍事…………要は軍隊ってことか────」
瞬間、施設全体に響き渡るようなけたたましい警報音が鳴り響いた。
それと同時に施設から武装したオートマタたちがわらわらと群れをなして現れ、こちらに問答無用で銃を撃ってきた。
さらには後に続くように数台の装甲車、そして戦車まで出てきた。
「警告もなしにかい!?完全にフライングだ!!うちじゃそういうので割と命取りになるんだよ!?」
この対応の速さ、前からこっちが近づいているのを知っていたかな。
なんかわたしたちが歩いてきた方向がヘリコプターが何機か飛んできてるし。
「ちょ、ちょっと!?先生これどうするの!?」
「うーん!!下手な抵抗しない方が良さそう!!」
「────先生、それでどうにかやり過ごせそうなの?」
セリカちゃんの悲鳴になるべく抵抗しないことを伝えると、銃を構えたホシノちゃんから心なしか鋭い表情でそう確認された。
「わたしたちの来た方角からヘリが飛んできてる。大方カイザーコーポレーション本社のお偉いさんでも来たんじゃない?こんな戦力、向こうにとっても相当大事な施設っぽいし。」
話している内容こそかなり危うい状況であることを示しているがわたしは特に慌てるようなことはしなかった。
「それに、そろそろパーっと行きたい気分なんだよね!!」
「………………わかった。先生に任せるよ。」
わたしの見せた不適な笑みにつられるようにホシノちゃんは険しい表情ながらに銃を下げた。
少しして完全に包囲されてしまったわたしたちの元に飛んでいたヘリが着陸し、そこからオートマタにしてはかなりマッシブな印象を受ける奴が降りてきた。
「侵入者と聞いていたが、アビドスとはな。」
「────ご大層な出迎えどうも。貴方がカイザーコーポレーションのお偉いさんってことでいいかな?」
「ふん…………口の聞き方には気をつけるべきだが、まぁいい。いかにも私がカイザーコーポレーションの理事を務めているものだ。そして君たちアビドス高等学校が借金をしている相手でもある。」
その言葉にシロコちゃんたちの息を呑むような息遣いが聞こえた。
諸悪の根源みたいなのを目の当たりにしたんだ。そういう反応になってもおかしくない。
咄嗟に銃弾が飛んでいかなかったのはこの包囲されている状況だからギリギリで理性が勝ったか。
まぁ、そんな中でわたしは────
(向こうの出方次第だけど王手かけられるね。)
そんなことを思っていた。
さてさて、どうせあれこれ言ってくるんだろうけど、いつちゃぶ台返しをしてあげよっかなぁ。
それに、さっきから地平線の向こう側からずっと見ている視線も気になるしね。
mk氏の新しいきぼぜつ例に漏れずランク高くなーい?
ていうか希望側にきぼグラ絶望勢が多いからすっごい手荒い歓迎会だなこれって思っちゃった。