「さーてと、ここからが本番かな。」
地平線から見え始めた朝日を見据える。
時間的にはホシノちゃんはもうカイザーに連れてかれているだろう。彼女には少々酷な時間を過ごすことになってしまうが、一応理解の上だ。
とりあえず少ないツテを最大限活用してカイザーを迎え打つ準備をした。
まぁ、ホシノちゃんはどうにも他校の助力を受けるの渋ってたけど────
『アビドスの全校生徒5人とおんなじくらいだから別にいいよね?』
『え!?あー………うん、そういえばおじさん確かにそんな感じのこと言ってたから…………いいよ。』
って揚げ足とるような感じで許可取り付けたし。
「ちょっと!!一体どういうことなの!?どうしてホシノ先輩が…………!!!」
机を力強く叩いたセリカちゃんの手のそばには一枚の紙と一通の手紙が。
それはホシノちゃんの名前が名前の欄に記された退部届とアビドスのみんなに宛てた手紙があった。
内容はアビドスを辞める代わりに借金の肩代わりをしてもらうというスカウトのことやそれを勝手に受けたことへの謝罪。
そして万が一敵として会ってしまった時の自身への介錯。
ざっとこんなもの。とはいえ突然のことに他の4人は納得するわけがなくすぐにホシノちゃんを探しに行こうとする。
しかし、それを阻むように外から爆発音の振動がアビドスの校舎を揺らす。
(……………来たのかな。それにしても早い。よっぽど待ちくたびれた様子のようだ。)
その爆発の正体は大方ホシノちゃんの退学を察知したカイザーが仕掛けてきたのだろう。
多分来るとは思っていたけどまさかここまで早いとは。思わず苦笑に近い表情が出そうになるが、混乱している4人の手前、不審な様子を見せるわけにはいかないため内心ほくそ笑む程度にすませる。
「近いです、場所は……っ!?……そ、そんな、市内……!?」
自治区内のカメラを見たアヤネちゃんの悲鳴に釣られるように目線を向ける。
そこには確かにカイザーのマークを引っ提げた兵士たちが市街地の住民たちに銃を発砲している様子が映っていた。
「お、応戦しないとです!何はともあれ、アビドスが攻撃されているのを見過ごすわけには……!」
「考えてる時間が惜しい、すぐに行こう!」
「で、ですが、私たちで撃退するにはあまりにも数が……いえ、とにかくまずは、市民の皆さんを避難させましょう!こんな大規模な攻撃……一体どうして、急に……」
襲撃されている市街地を守るために慌ただしく迎撃の準備を進めるアビドスの生徒たち。
「向かう前に少しだけ。ああ、手は止めなくていいよ。耳だけ傾けてくれれば十分。」
そんな彼女たちにわたしは確認しておかなければならないことがあった。
「この手紙を見た限り、ホシノちゃんはアビドスの抱える借金の半分と引き換えに学校を退学するつもりだ。それはつまり、前回わたしがカイザーに支払わせた分を合わせたら晴れて借金完済というわけになる。」
そう。これを受け入れてしまえばアビドスは借金を返せる。返せてしまうのだ。もっともそれで土地を目的にしているカイザーが止まるという保証はない。だからこそこの前の夜に忠告しにいった。
「実際破格の条件ではある。あれだけ膨れがっていた借金を返済しきれるんだから。まぁ、それ以外にも問題は盛りだくさんと言えば盛りだくさんだけど………あー、とりあえず君たちがそれまで稼いで借金にあてがってきたお金をこれからはすべて好きに使えるようになる。」
あー、やっぱりだめだ。こういう長々とした話はしない方がよさそう。
というか四人の支度が早いことがその答えだよね。
「ぶっちゃけ聞く。君たちこれに納得できる?」
「できるわけないでしょ!?先生絶対わかってていってるよね!?」
うん、実際わかってた。
「借金を返せてもホシノ先輩がいないと意味がない。とりあえずカイザーをしばいてどこに連れて行ったかを吐かせる。」
…………一応カイザーではなさそうだけど黙っておこう。ここで話すことじゃないし余計な詮索を生むことになる。
とりあえず確認ついでにノノミちゃんとアヤネちゃん残り二人の様子を見たが同じ気持ちのようだ。
「おっけー、何より大事なのは君たちがここを守りたいという意志だ。わたしはその意志に応えてここにいる。数ならわたしたちがいくらでもひっくり返せる。だから、負けないで。その意志が折れてしまった時が、本当の敗北だ。」
装備を整えた四人と最終確認のようなものを済ませる。
それと同時に廊下の階段の方からわずかに足音のようなものが聞こえてくる。
金属同士が触れ合うようなものもあったため、大方カイザーPMCの兵士たちがここまでやってきたのだろう。
「さっ、行こうか。それで奴らに叩きつけてこよう。君たちの意志を。」
教室を飛び出し、迫りくる兵士たちの迎撃に向かうシロコちゃんたち。
すぐそこの廊下から爆発や銃声音が聞こえる中、わたしは懐から例のあのカードを取り出した。
ま、こんな状況だ。もしもがあるかもしれないから念には念をね?依頼はしてはあるけど………
あ、待って。割とダメな方引いた。
わー……どうしよ。
……………え?そんな気はさらさらないだって?セリカちゃんに免じて?
あー、そういえば君って確か……わかった。君がそういうのならそのままお願いするけど………頼むから帰ったら更地にしてたなんてオチはやめてね?
内心大きい不安を抱えながら街に蔓延る兵士たちを倒していく。
市街地に辿り着くと案の定学校や住宅街にいたのより何倍もの兵士たちが一般市民を襲撃していた。
「全く……………ここまでの暴挙に出るとはね!!」
ホシノちゃんがいなくなったことを察知しただけでこうまでするとは。
こちらに気づいた集団が持っていた銃を向けてくるが、それらを『天目一箇』で薙ぎ払う。
範囲内にいた兵士たちは吹っ飛ばされ、空いた陣形の穴からシロコちゃんたちが集中して切り崩していく。
「ッ…………」
「この………どんだけいんのよ!!」
シロコちゃんたちが放つドローンや銃弾もPMCの兵士たちを倒すが、彼我の頭数に差があり過ぎてどうしても反撃を喰らってしまう場面がちらほら見受けられる。
「アロナちゃんバリア貼って!前に出るよ!!」
『わかりました!!とーう!!』
なんとも呑気な声だが彼女の貼るバリアも耐久性はかなりある方だ。
わたしは跳躍し、集団の頭上を取る。当然こちらに銃口が向き、撃たれるがアロナちゃんのバリアが弾丸をあらぬ方向へ飛ばしてくれる。
「わたしがタゲとして向こうの気を引くからその間によろしく!」
多分その方がやりやすいでしょ。とはいえホシノちゃんみたいにカバーとかは難しいから前線張りながら相手を薙ぎ倒すとか言う変な形になるけど。
魔法陣をばら撒き、そこから水飛沫を間欠泉のように打ち上げる『
『────ええいっ!!やはりまだ抵抗するかアビドス!!そしてシャーレ!!』
しばらく戦闘を続け、蹴散らした兵士たちが山になり始めた頃合いに唐突にホログラムが投影され、そこにイラついた様子のカイザー理事が現れる。
「おや、前回みっともなく子供に命乞いした弱腰理事じゃないか。ちょっとこれどういうこと?君のところの兵隊がわんさか来た上に一般市民に攻撃してるんだけど。」
『貴様…………!!いや、もはや何も言うまい。貴様がここにいる理由も既にないのだからな。』
「……………ふーん、わたしがここにいる理由ねぇ。」
怒りから怪しげな雰囲気に変わった理事に訝しげな顔を見せる。
まぁ、分かってはいるけどとりあえず乗っておかないと怪しまれるからそういう様子を見せておくが。
「って言うかアンタ!この前は普通にアタシたちの前に出てきたのに今回はそんなホログラムなんかで出てくるってことは要するに先生にビビりまくってるんじゃない!!」
『クッ………こ、このガキ…………!!』
セリカちゃんの指摘に悶えるような反応を見せるカイザー理事。
あれは図星だね。明らかに人生経験豊富だろうにああもわかりやすいとは。まだまだ彼も子供ってことかねぇ。
「さてさて、話は戻すけど聞かせてもらおうじゃないか。一体どういう理由でアビドス自治区に侵攻し、あろうことか市街地を攻撃しているのか。」
「いくらあなたたちが土地の所有者だったとしても、そんな権利は無いはずです!」
『それに、学校はまだ私たちアビドスのものです! 進攻は明白な不法行為! 連邦生徒会に通報しますよ!』
「ホシノ先輩がいなくなったと同時に攻めてきたのならその原因である可能性も高い。ホシノ先輩をどこに連れ去ったの?」
ノノミちゃん、アヤネちゃん、シロコちゃんの3人がそれぞれカイザー理事を問い詰める。
それらに対しカイザー理事は悔しげな表情のままだったが、無言でアビドスの生徒たちを見つめていた。
『なぜだ…………!!なぜ死に際の学校にそこまでできる!?事実、既にアビドスは存在しないと言うのに!!』
理事のその言葉にアビドス生徒たちの体が時間が止まったように静止する。
「アビドスが………存在しない?ちょっと、それはどういうことよ!?」
『知らないのか!?だったら教えてやる!!アビドス最後の生徒会の生徒、小鳥遊ホシノが退学した以上、もはやアビドス生徒会は消滅した!!公的な部活も、委員会も、生徒会も、自治区すらも無いアビドスは、学園都市の学校として自立・存続が不可能なのだ!!だから我々が有効活用をしてやろうというのに、貴様らがぁ!!』
「勝手なことを言って!!生徒会が無くても、アビドスには対策委員会がある!私たちがまだいるのに、そんな言い分が通じるはずないでしょ!」
『セリカちゃん、それは…………!!』
理事の言い分にセリカちゃんがかみつくが、それに待ったをかけるような細々と消え入るようなアヤネちゃんの声が響く。
あ、これアヤネちゃんは知っていた感じかしら。
『対策委員会は、公式に許可を受けている委員会じゃない……対策委員会が出来た時には、もうアビドスには生徒会が無かったから……』
その言葉にほかの三人の表情が凍り付く。
ここに来てから思っていたことだが、どうにもここキヴォトスでは各学校のことはそのまま学校としてみるより国かそこらへんのレベルに近いものだ。
生徒会という首脳部がいて、生徒会長というトップがいて───まぁ、つまり生徒会がなくなるとそのまま
それを避けるためには対策委員会を公認のものにしておくというのが一番楽な選択だが、それではただ単に借金による破産を先延ばしにするだけだ。
だからどうにかして先にカイザーの方から吹っ掛けてもらう必要があった。
それでホシノちゃんを退学させたように思わせるという手法を取らせてもらったが、だいぶあくどいね。我ながら。
普通に考えてグレーどころかアウトよりの手法だ。あとで怒られてもしょうがないね。
(ただ、この策も彼女たちの意志が折れてしまえばそれまでだ。)
確かに理事の言う通り、学校が消滅した以上、わたしがここにいられる理由はないのかもしれない。
ただ、援助を依頼してきたあの手紙にはアヤネちゃんの名前があった。
ならばそこに住まう生徒から依頼としていることもできるだろう。
『そうだ!!その程度のことなら既に調べがついている!!生徒会がなくなった以上、非公認である貴様たち対策委員会の存在を証明するものは何もない!!』
『それにたかが生徒一人を見捨てれば非常に腹立たしいが貴様たちの借金はなくなる!!だと言うのになぜ貴様らは未だ抵抗を続ける!!』
対策委員会が弱気になったことをいいことにカイザー理事がここぞばかりに言葉で畳み掛ける。
その理事の怒りに呼応するようにブラックマーケットの銀行を襲撃したときに見かけた二足歩行ロボットのゴリアテを筆頭に戦車や装甲車が現れた。
頭数の比率は圧倒的だが、まぁそれは些細な問題だ。
それよりも……目線だけを動かしてみんなの様子を確認してみると惑うような表情を浮かべてるのがわかる。
言ってることは間違ってない。億単位の借金なんて普通は投げる。学校を捨てるという選択肢があったのなら尚のことだ。
だが彼女たちはいかに希望が薄かろうと過酷な道を選んだ。その理由を、その選んだ選択を浪費だ無駄なんだと断言させるわけにはいかない。
「そりゃあ当たり前。学校も、ホシノちゃんも。両方とも大事なんだから、守ろうと、取り戻そうとするのは当然さ。」
『まさか…………連れ戻す気なのか!?馬鹿を言うな、あの契約は成されたとゲマトリアから連絡があった!!小鳥遊ホシノは既に貴様の生徒ではない!!』
「納得できない!理由なんかそれで十分!!君たちにはそれが許されるだけの若さとわがままを押し倒す実力はある!!」
『ふ、ふざけるなッ!?貴様それでも教育者の端くれか!?だだをこねる子供の肩を持つと言うのか!?』
「それ以前に教育者ですらないからね、わたし!!そもそも教師ってどうやってなれるものなのさ、よければ教えてくれる?」
カイザー理事の言葉を豪快に笑い飛ばすようにそう返すとみるみるうちにホログラムの理事の表情が常識を疑うようなものに変わっていく。
「さぁ、みんな!そんな顔してないで前を向こう!!君たちにその意志ある限り、道は必ず開ける!!」
被っていた帽子を空高く放り投げる。くるくると回転していたそれが空中で静止すると中から水のエネルギーをもった光の玉が降りそそぐ。
かなりの広範囲にバラまかれると、爆弾のように破裂し、兵士の群れを倒す。
『───やりましょう!!私だって今まで納得できないことはたくさんあったんです!!これ以上、奪われてばっかりなんていられません!!』
「アヤネちゃん……………そうよ!!確かに対策委員会が非公式だって言うのには驚いたけど、それが今目の前にいるアンタたちを相手にしない理由にはならないわよ!!それにこの近辺には大将のお店だってあるんだから!!」
立ち上がった1年二人を見て、先輩の二人もお互いの顔を見合わせて表情を緩めると再び立ち上がった。
「ん、ここはやっぱり徹底抗戦するべき。何より、ここで折れたら先生がビナーと戦った意味がなくなる。」
「学校も守りたいですし、ホシノ先輩も助けたいです………!!そのためにもこんなことで引き下がれません!!」
『よく言ったわ!!それでこそアナタたちよ!!』
瞬間、大爆発が起こった。
およそ戦車とか出せないような圧倒的な火力がカイザーPMCの連中に襲い掛かる。
わたしの生み出す水や氷とは正反対の性質による急襲にPMCの勢力は大混乱に陥った。
そして立て続けに起こる爆発。もちろん爆風で宙を舞うPMCの兵士の姿にわたしは花火を見ているようにそれらを見上げる。
最後に〆だと言わんばかりに少し離れた場所からビルの全高を優に超える火柱に一瞬ぎょっとしながらも現れた彼女たちを見据える。
「圧倒的な数の敵を前にしてもくじけそうになっても立ち上がったその姿、まさしくアウトロ-ね!!」
『あ、貴方は……便利屋の……!!!』
そこに現れたのはアルちゃんたち便利屋の四人だ。ホシノちゃんにカイザーを嵌める作戦を伝えたあとに電話して依頼をした。
彼女たちが一応用意していた援軍の一つだ。
『べ、便利屋68!?貴様らよくも………いやそれよりも最後の爆発は一体なんだ!?報告しろ!!』
彼女らが用意してきたと思われる爆弾とは明らかに気色の違う爆発に理事は心底から焦ったような様子でおそらく近くにいると思われるオペレーターに報告を求めた。
『ば、馬鹿な…………別地域の部隊が全滅だとぉ…………!?部隊の損耗率が五割………!!?』
確か部隊って三割無くなったらもう全滅と同意義なんだっけ。
それを五割って…………どんだけやってるんだか。
そうこうしている間に理事は撤退の指示を出した。
PMCとして訓練されているとはいえ突然の撤退指示には対応が難しいらしくバタバタと慌ただしい様子で逃げ去っていった。
「おおー、逃げた逃げた。とりあえず勝ちってことでいいのかな。」
「ふふん、どうやら私たちのアウトローの雰囲気に気圧されて…………ごめんなさい、先生やっぱり一ついいかしら。」
表情をキラキラさせていたアルちゃんだが次第にそれが崩れて驚きのあまり白目に近いものを浮かべながらこっちを見た。
「最後の爆発…………いくら先生が資金を出してくれたとはいえあんな火力が出るようなものは用意していなかったのだけど……」
「先生………もしかしなくてもやった?」
カヨコちゃんの言葉に思わず視線を横に逸らす。
いやー………ほんのちょっとの出来心だったんだよ。
「先生ってば今度は一体どんなのを呼んだの?この前の妖精さんも見た目が派手で好きだったんだけどなぁ。」
「…………だってさ。この際だから出てきちゃっていいよ。どのみち、撮るものは撮ってくれたでしょうし。」
「あとは蹴散らすだけというわけね。話が早くて助かるわ。」
わたしが困ったように帽子のつばをいじっていると突然声と共にすぐ隣で紫色に光り、その中から一人の女が現れる。
その瞬間に、空気そのものが軋むような圧倒的な重圧が包む。
ただそこにいるだけで世界がまるで崩壊してしまいそうな、異次元の気配にほとんどがその場で立ちすくんだ。
「だからやりすぎないでって言ったのに………」
「あら、あれでも抑えた方よ?もっとも、もう跡形も残っていないかもしれないけど。フフッ」
そう言って妖艶な笑みを浮かべるその女。世の男どもが見たら見惚れるだろうが、あいにくとわたしにはため息を吐くくらいの反応しかできない。
ハァー………どうしてこうも振り切れるかなぁ。まとも、まとも、まともと来たのに。いや、一番最初の赤セイバーも割と暴れる時は暴れる方だったけどさぁ。
カイザーぶっ潰せとのお声があったからか極めて酷い御仁が来てしまいました。
あーあ