アヤネちゃんの手紙から始まったアビドスでのお仕事はとりあえずの落ち着きを持って着地点を見出すことができた。
アビドス砂漠に建設した基地をしっちゃかめっちゃか(主にアナザーナイン)にされたカイザーコーポレーションだったが、その後死体撃ちもかくやという追撃があった。
アビドス都市部における理事とのやりとりがキヴォトスで聞く人ぞ聞くマスゴミ学校『クロノススクール』がすっぱ抜いたのだ。
まぁ、どっちかというとすっぱ抜かせるように仕向けたっていうのが正しい。
そんなことはさておき悪い意味で有名らしいためか情報の正確性としては怪しくはなるだろうが、こういうのは情報が出たという事実そのものが影響を与える。
それもその対象がカイザーコーポレーションとかいう大手であればあるほどだ。
元々きな臭い噂もあったのも助長したのか瞬く間にクロノススクールがつけた火はキヴォトス中に広まっていった。
結果カイザーコーポレーションは事態の沈静化を計ったのか、トカゲの尻尾切りのようにあのカイザー理事を解雇したらしい。やったぜ。
ちなみにその解雇された理事は犯罪者扱いになって現在絶賛生徒誘拐の主犯ということで指名手配中とのことだ。
しかし指名手配かぁ…………うーん、ちゃんとヴァルキューレ警察学校に突き出すべきだったかなぁ。もはや彼らが野垂れ死のうがどうなろうと知ったことではなかったからねぇ。
まぁ、極悪非道な悪い大人のことは置いておこう。
メインはアビドスの生徒達がどうなったかだ。
一言でいえば借金の総額も減って、利子も下げられて万々歳といった具合だ。
借金そのものは憎たらしいことにちゃんとした契約の元で膨らんでいった、いわばアビドス側の怠慢だったから無くすことはできなかったが、カイザーコーポレーションの方から賠償金として二億もの金額が支払われた。
つまり、わたしがカイザーに無理やり支払わせた分も合わせて10億近かった借金が3分の2くらいまで減った。
さらにはあの素人目で見ても高すぎる利子率も、事態を重くみた連邦生徒会の監査が入ったことでその利子率も大きく下がり、今まで利子率で上がった分を支払うのがやっただった負担も減り、まだ時間はかかるだろうが、借金の完済も夢ではないレベルにまでになった。
いやー、最初借金が10億って聞いた時どうなるかなぁって思ったけどなんとかなるものだ。正直びっくり。
とはいえやはり子供は元気に遊んでいる姿をしているのが一番だ。これで少しは学生らしいことに目を向けられるといいのだが。特にホシノちゃん。
ま、これからアビドスの付き合いが全くなくなるってわけではないだろうし、その時にまた話すとしよう。
さて、長ったらしい独白もこの辺にしてそろそろ現実と向き合おうか。
視線を左に向ければ高く積み上がった書類の塔。右を向けば似たような高さまで積み上がった書類の塔。
「あっはははは!!!死にそう!!!こーりゃあだめだ!!」
「口を動かしている暇があったら手を動かしてください!!これでもこっちで処理できるものは処理したんですから!!」
狂ったように笑っているところに冷や水をぶっかけるようなユウカちゃんの声が響く。
察してたけどアビドスから帰ってきたわたしを出迎えたのは机の上に積み上がった書類の塔だった。
ミニチュアのサンクトゥムタワーと見間違えるような高さまで積み上がってしまったそれを見たときは思わず血の気が引いた。
現実かと疑ったが、そんな都合の良い話はなく、帰ってきてからというものずっと机仕事をやらされている。
一応できるようになったとはいえ元々書類仕事なんてやったことない素人だ。捌くスピードなど経験豊富なユウカちゃんとかと比べたら雲泥の差で積み上がった塔がまるで削れない。錯覚か何かでも起こしているのだろうかと思ってしまうほどだ。
「──────いやぁ!!やっぱり無理!!誰か手伝ってぇ!!!」
書類との格闘時間およそ半日。キレたわたしは手にしたものを空高く掲げた。
「ちょっと先生!?お願いですからちゃんと───何の光!?」
手にしたものは向こう側の誰かを呼び出すあの大人のカード。
ユウカちゃんも初めて見るはずのそれの輝きに視界を奪われ、交わるはずのない世界から誰かが現れる。
「────ああ、ここがあのキヴォトスですか。さて、ボクの相手は一体誰なのかな?」
「お、おおっ────」
「きゅ、急に光ったと思ったら人が………先生一体何したんですか!?」
「書類仕事ができそうな人来たーーーー!!!!」
現れたやつを見た瞬間、思わずわたしは諸手を挙げて喜び、その子に向かって飛びついてしまった。
「え、す、諏訪子さん!?」
半ば泣きついてくるというわたしに面食らう顔を見せる彼女。
最初は困惑していた彼女だったが、周りの様子からどうやら戦闘に駆り出されたわけではないことを察したのか困ったような笑みを浮かべた。
「あのー、そこの君。もしかしてボクは書類を片付けるために呼ばれたんでしょうか。」
「えっ!?いや、私にも何が何だか………そ、そもそもあなたは誰なの!?」
「ああ、これはすみません。突然のことで初対面にも関わらず挨拶が遅れてしまいました。」
ユウカちゃんの指摘に呼び出された彼女は一旦わたしを引き剥がし、佇まいを直すとかぶっていた魔女を彷彿とさせる、この前のアナザーナインとはまた違ったリボンのついたとんがり帽子を外し、現れた深い海のような色の髪をたなびかせながら貴賓溢れる所作で一礼をする。
「ボクはマイム・ハイドロリック・ソーサーレス 気軽にマイムと呼んでください。一応ある貴族の当主をやっています。」
「あ、これはどうもご丁寧に…………って貴族!?」
現れた彼女、マイムの挨拶にぼんやりとした様子で言葉を返すユウカだったが、やがてマイムの肩書きにまで理解が及んだのか心底から驚いた表情を見せた。
何せ貴族、それも当主。呆けていたとはいえさっきのユウカの対応は格式の高い相手に見せるそれではなかった。
「そ、その先ほどのはとんだ失礼な対応を───」
「気にしないでください。ボクとしても変に硬く苦しくされるのもやりづらいですので。どうか、君のあるがままのフランクな態度でいてください。」
「そ、そうですか…………」
そうは言われても相手が相手だからやりづらい、というのがユウカの本音ではあった。
「いやー、君が来てくれてホントによかった。書類仕事できないからどーしても時間がかかっちゃうからさ。」
「あー………やっばりあの積み重なった山を崩すために喚ばれたんだね、ボク。」
「そ、そう!!先生この人って一体どこから来たんですか!?いや、そもそもどうやって!?」
そんな会話をしていたところにユウカちゃんが我を取り戻したようにマイムを喚び出した手口を聞いてきた。
この前のカイザー理事みたいな奴ならともかく生徒相手には隠すことでもなかったから素直にカードのことを話した。
「先生の元いた場所の知り合いたちを召喚することができるんですか………。でも先生の知り合いだって言うなら安心です。」
「…………ん?そういえばこの前喚ばれてたのアナザーナインですよね?世界を壊すことも朝飯前な彼女がよく大人しくしていましたね。」
「へ…………?」
「流石にその時はやばいって思ったけど、お気に入りの子を見つけたからそれに免じてだってさ。」
「なるほど、そうでしたか。」
「せ、世界を壊すって一体なんなんですかぁ!?!?」
さも平然としたやりとりの中で行われた世界の崩壊の危機に関して、ユウカちゃんは困惑必死の様子で絶叫するのだった。
ちなみに元居た世界のことを詳細を話したらそんな危険なものを軽々しく使わないでくださいと説教された。
それはその通りですね、というのはマイムの言葉だった。
「うぐぐ…………で、でも来てくれたのなら手伝ってはくれるよね!?」
期待するような目でマイムを見つめる。
そう。別に今回使ったのは戦闘のためじゃない。なんなら呼び出された彼女もそれをわかってくれた。
そんな希望を込めた目を浮かべているとマイムは頬を軽く指でかきながら微妙な笑顔を見せた。
「まぁ………せっかくですので、別にボク個人としては構いません。時間ももったいないですし、とりあえず取り掛かりましょうか。」
「やったーーー!!」
承諾してくれたことに諸手を上げて喜びながら机に戻る。
よし、これでなんとか今日中には書類の山を片付けられそう!!
「すみません、手間をかけさせるとは思いますけどボクにも書類の説明をお願いできますか?手短で結構ですので。」
「わ、わかりました…………」
まだ相手が貴族であることに気を引いているのかどこかよそよそしいユウカにマイムはにこやかな笑みを浮かべながら彼女の説明を受けるのだった。
ちなみに積み重なった山はマイムが尋常じゃないペースで捌いてくれて、日が沈み切る前にあれだけ高く積み重なった山は消滅していた。
一応わたしも頑張っていたが、まぁ、こなした枚数はお察しである。
なんならユウカちゃんからこの人にいてもらった方がいいのでは?と言われてしまう始末だった。
そんなこと言うならわたし帰りたくなるよ………現状帰り方わからないけど。マイムはじめ呼び出した連中は割と好きなタイミングで帰れるみたい。解せぬ。
「いやー、今日は助かったよー」
「それはよかったです。でも早瀬さんの言う通り、あまり変なところであのカードを使うのはお勧めしないのは事実ですよ。たまたまボクが呼ばれたからよかったですが。」
「いや、だって………ずぶの素人にやらせる量にしてはさぁ。」
一通り仕事が終わり、ユウカちゃんも帰った頃合いを見て会話に花を咲かせているとマイムからそんな苦言が飛んできた。
それにわたしはあまり思い出したくなかったから言葉を濁しているとマイムも困った顔をしながら頷いてくれた。
うん、やっぱりそう思うよね。
「とはいえ、せっかく呼ばれたのですしこのまま何も土産話のようなものも作れずに帰ってしまうのは少しばかりもったいない気がしますね。」
「うーん………とはいえそんな都合よく話のタネになりそうなことなんて───」
そんな会話をしていたタイミングでシャーレの電話がけたたましく鳴り響いた。
「……………一緒に行く?」
「はい、ぜひとも」
ノータイムで帰ってきた返答にわたしは鳴り響く電話を手にした。
そこから始まるのはわたしにとってなじみ深い雰囲気をした学校における、桜の匂い漂うお祭りの物語だ。
というわけでイベント挟んでから2章へとすすんでいく
多分GM諏訪子の全画面だといわゆるチートモードなメイドもいけるんちゃうかなと思ってる