「……………君たち、一体何者?」
百夜堂の店先、運営委員会の2人が鬱憤を晴らすような危機迫る顔つきで襲撃者を出迎えている中、わたしは目についた別の襲撃者にそう尋ねた。
使い古された定型句だが、後のためにも聞いておかなければならない。
法被を纏ったお面の集団。その内容は天狗におかめ、ひょっとことそれなりに多岐にわたる。そしてお面となるとキヴォトスにきたばかりのころに会った狐面で顔を隠していたワカモちゃんが脳裏をよぎるがはたして彼女らはそのシンパか何かか。
「何者かだぁ!?アタシらをしらねぇたぁさては他の学校の奴らだな!!」
こちらの質問にお面の集団はガサツな口ぶりで周囲の者たちを呼び寄せると各々が決めポーズのようなものをとった。
「アタシらは百鬼夜行の路上に屯する魑魅魍魎!!その名も魑魅一座・路上流!!」
「その目ん玉かっぽじって刮目しやがれ!!これより見せるは我らの花道の第一歩!!」
「ご要望通りに暴れてやんよ!!」
とまぁ何やら口上を宣っているがそれらを一切無視して隣のマイムと目を見合わせる。
「とりあえずシメた方がいいよね?」
「そうするのが賢明でしょう。おそらく運営委員会お二人からの依頼にも関係があるはず。では────」
徐に前へ出たマイム。銃が当たり前のキヴォトスで無手で近寄るという自殺行為にも等しいであろうその動きに目の前の魑魅一座は嘲るような目線を向ける。
「──────」
マイムが何かを唱えた。
およそそれはわたしには聞き取れない単語の流れだったが、瞬間、彼女に迸る蒼い魔力の流れが蛍のような淡い光となって彼女の周囲に漂い始める。
「
パチン、という軽い指鳴らしの音から繰り出される魔法使いの命に呼応し、光が一際輝くと魑魅一座の足元から猛烈な勢いの水蒸気が噴き出した。
それはいわゆる『しおふき』と呼ばれる技。
そして鯨やイルカといった海で生きる哺乳類たちが息継ぎのために行う行為。
圧縮された空気が水気を伴って勢いよく放出される自然の現象を再現すると同時に攻撃用に魔法で強力にしたそれは人の身を吹き飛ばすには十分なもの。
それがあちらそちらで吹き上がるたびに悲鳴と共に水蒸気があたりを立ちこみ始める。
「こうして視界不良にさせておけばそのうちろくに戦えなくなるでしょう。同士討ちの危険も強まりますし。彼女たちは荒事には慣れているようですが戦い慣れはしていない。」
「なるほど、あとはこっちから少し突っつけば勝手に帰ってくれるってわけか。」
マイムに感心しつつ、わたしは懐からシッテムの箱のタブレットを取り出した。
わたしがよろしくーと一言声をかけると中のアロナちゃんが周囲と地形をスキャンしたホログラムを投影してくれる。
「おや、随分と可愛らしい妖精ですね。電子の、と付け加えた方が良さげのようですけど。」
『わ、わたしの存在が認識されてしまってます………やっぱり世界が違うと諸々理が違うみたいです。』
「まぁ…………私たちの戦いにおいて『見つける』ってことは大事だからね。それができないとまともに戦うことができないくらい。」
生徒から認識されないというのは事実だろう。実際書類仕事の時にもアロナちゃんは動いていたが手伝ってくれていた生徒からそのことを指摘されることはなかった。
ただやっぱりそれは『生徒』に限った話でわたしやマイムといったキヴォトス外の存在には効果がないようだ。
その理由がこっちが『見えないものを見つける』ことに長けているからかどうかは定かでないが。
「あぁ、それとみんなの前でこの子と話さない方がいいよ。タブレットの画面に向かって話す二人組っていう奇天烈な図が出来上がるから。」
「あー………確かにそれは少し気をつけた方がいいですね。」
ちょいちょいとホログラムをいじくり回しながらの言葉にマイムは苦笑いのような困った笑みを浮かべた。
…………えっと、この青丸二つが運営委員会の2人か。ご丁寧に名前までつけてくれてるからありがたい。それ以外の赤丸は魑魅一座か。
「ちょっとお仕事行ってくる!」
「手助けは……必要なさそうですね。巻き込まれないようにお店の中で待っています。」
状況的に俯瞰的な視点が持てる存在が加われば人数が不利でもかなり優位に立ち回れる。運のいいことにあの2人はなるべく離れないようにしてくれている。
これ幸いと2人が戦っている辺りに駆け込んだ。
「せ、先生!?手伝ってくれるんですか!?」
「察しはついたけどまだろくに話を聞いていないからね!とりあえず不埒な連中にはご撤退仕ろうかなと。こっちの指示に付き合ってくれるかな?」
「わかりマシタ!不肖朝比奈フィーナ!お頭のために骨を折りマス!!」
「頑張るのはいいけど実際に折ったらダメだからね!?と、とりあえずよろしくお願いします!…………にしても今日って霧が出る予報なんてあったっけ?」
「はいはーい」
我ながらその場にそぐわない気の抜けた返事をしてしまったが、それはそれとしてアロナちゃんの出したリアルタイムで戦局を伺えるホログラムを頼りにしながら指示を飛ばす。
「ウッ………コイツらこんな霧の中でなんで当てられる………!?」
「運営委員会の横に変な帽子被ったやつがいる!!多分あいつが指示出してるんだ!!」
戦場を俯瞰的に見れるわたしが指揮を取り出してから劣勢になり始めたのか魑魅一座の勢いが衰え始めた。
というか誰だ今帽子のこと変って呼んだ奴!祟るぞこら!
それはさておきこっちに飛んできたロケットランチャーの弾頭を凍り付かせる。
急に推進力を失った弾頭はヒューンと綺麗な放物線を描きながら飛んでいき────
「ぎゃん!!」
不幸にも弾頭が飛んでいった先にいたのかゴンっという音と一緒にどこかで聞いたことのあるような誰かの悲鳴が上がった。
「………?」
まさかとは思いつつ声のした方向に振り向いた。マイムの起こした水蒸気も晴れ始めそこに見えてきたのは百鬼夜行に来てから一悶着のあったイズナちゃんだった。
「イッタタ…………」
「え、なんでこんなところにいるの君。」
「え…………せ、先生ッ!?」
凍らせた弾頭が脳天に直撃したのか頭をさすっているイズナちゃんにそう聞くと彼女は驚きながらも素早く体勢を立て直して、驚愕と警戒、そして困惑が入り混じった目で見つめてくる。
「何故と言われても…………むしろそれはイズナの台詞です!どうして先生がわたしたちの邪魔を!?」
(…………ウソでしょ?まさか展望台で言ってた依頼ってこれのこと?)
聞き返された言葉に答えることもできず、内心で天を仰いだ。
正直直視したくないけどさっきのやりとりだけでも今のイズナちゃんの立ち位置が敵方なのは確定的に明らかだ。
いやどんな確率よ、ついさっきたまたま知り合った子が敵方の立場の子だったなんてさ。
「も、もしかして先生は最初からイズナを誘い出すために近づいてきたのですか!?」
「わたし百鬼夜行に来たの今日が初めてなんだけど!?」
なんだかあらぬ疑いをかけられそうになったため慌てて遮るように言葉を被せたが、イズナちゃんの表情はものすっごくショックを受けたというかそんな感じのものを浮かべていた。
にしてもあんないい子な雰囲気のあったイズナちゃんがこんな悪事に手を貸すとはなぁ、人は見かけによらないとはよく言うけど─────
(…………待てよ?イズナちゃんって確か依頼で────)
「…………イズナちゃん、これは君自身がやりたいこと?」
「ッ………イ、イズナは忍びとして命令に従っているだけです!!」
ふと脳裏によぎった可能性を確かめるためにそう問いただす。
彼女のやりたいこと、それは忍者になること。ただ敢えて忍者とは明言しなかった。
忍び、忍者とは千差万別。主に暗躍という部分では共通しているもののそれぞれにそれぞれの掲げる矜持のようなものがある。
だからわたしは敢えて忍者とははっきり言わずに聞いた。
それにイズナちゃんはどこか迷ったような、言い訳のようなものを並べた。
「ふぅ……………やれやれだね。」
「イズナ殿!一旦戦略的撤退だ!」
「せ、戦略的撤退………?ですがイズナは───」
「立派な忍者は引き際を弁えてるものだよ!何かの本で読んだ気がする。」
どうやら形勢不利を認識した魑魅一座が撤退するそうだ。
正直ここで彼女たちを捻り潰してもよかったが………今回は泳がせた方がいいだろう。今回も例に漏れず何か黒幕が彼女らの後ろにいるようだからね。
少し気掛かりがあるとすれば、やっぱりイズナちゃんかなぁ。
彼女、どう見てもいいように使われているとしか思えないからね。
「先生……まさかイズナの夢を応援してくれた先生が立ちはだかるだなんて、何という運命の悪戯……!ですがイズナは知っています!忍びの道を行くからには、こういったことも起こり得るのだと!ドラマで見ましたので!」
「現実とドラマだと脚色が多分に含まれていると思うんだけどなー。」
魑魅一座と一緒に撤退するイズナちゃんの台詞にそう突っ込んだがそれが届いた様子もなく、相変わらずの素早い身のこなしでその場を去っていった。
「…………… 自分のやってることを深く考えずに唯唯諾諾と従うのは忍者じゃなくて奴隷だよ、イズナちゃん」
「つまるところわたしたちを呼んだのってあのグループが理由?」
「はい…………まぁ、そういうことです。」
魑魅一座の襲撃のあと改めて依頼の内容を聞いてみると案の定の反応だった。
お祭り運営委員会の2人は今百鬼夜行で開催されている『百夜ノ春ノ桜花祭』の主催…………というか基本的に百鬼夜行で行われるお祭り行事のほとんどを主催しているらしい。(仕事量やばくなーい?)
まぁそれはさておき、どうにも今やってるお祭りが開かれてからしばらくして例のお面の問題児集団『魑魅一座』があちこちで暴れ始めたらしい。
そういえば自分たちのことを路上流とか言っていたからもしかしたら色々派閥のようなものがあるのかもしれない。
人口分布が10代で偏ってるどころか占めているキヴォトスならではの話だろう。
「しかし、君たちも大変だねぇ。話聞く感じだと一回や二回程度じゃ済んでないんでしょうし。あ、ここのスイーツ美味しい。」
「わぁ♪ありがとうございます♪…………それはいいんですけど!!ほんとーにあいつらにはずっと困らされているんです!!」
出してくれたスイーツに舌鼓を打っていたところにシズコちゃんが力強く机を叩く音が無人の店内に響いた。
それをびっくりした目で見ているとやがて我に帰ったのか恥ずかしそうにしながら席にも戻った。
どうやらかなり内心ではかなり怒り心頭な様子だ。
「とはいえ現状では彼女たちの動機に対しての情報がイマイチです。何かもう少し手がかりのようなものはないでしょうか?各方面で暴れているとだけではなんとも…………」
「そうは言われても、私たちには暴れているアイツらを撃退することしかできなくて………普段の接客もありますし。ですが以前から問題児だったとはいえ、ここまで魑魅一座が組織的に動くようになったのはここ最近になってからな気が………」
「ふむ、つまり明確な目的意識を持ち出したということでしょうか。」
「そ、それはつまり、桜花祭を台無しにする、でしょうカ?」
フィーナちゃんの言葉にマイムは結論づけるように頷いた。
それに運営委員会の二人は険しい表情を隠しきれない。
「ああもう!本当になんなのよ!今までは何とか私たちだけで止められたけど、数も頻度も増えていってるこのままだと……!!」
「そっちの生徒会がどこをデッドラインに定めているかはわからないけど、仮に向こうの企み通りになったらと考えると───おお、こわいこわい」
「ほぎゃー!?縁起でもないこと言わないでくださいよ先生!!」
最悪のシナリオを想像しながら話しているとそのイメージが共有できたのかシズコちゃんが百面相もかくやな様子でコロコロと顔を蒼くしたり赤くしたりした。おもしろ。
「ですガ、フィーナ理解ができマセン。どうして桜花祭を邪魔しようとするんデショウ?」
「知ったこっちゃあないが、色々と気に食わないんじゃないかい。」
閉店の札をぶらさげていたはずの店内にわたしたち四人以外の声が響く。
しかも声質から男。それも声だけ聴いただけならそれなりに年齢を重ねていそうな壮年の男。
振り向いた先には袴を着込んだ猫が二本足で立っていた。
「…………来るときも思ったんですけど、なんでキヴォトスの男性と思われる存在は軒並み喋る動物かロボットなんでしょう?」
「さぁ………世界の理が違うんじゃない?」
柴大将に続く二足歩行型動物の登場に思わず二人で顔を見合わせるのだった。
ちなみにその二本足で立ってる猫は百鬼夜行の商店街の会長さんでニャン天丸というらしい。
──────なんかどこかで聞いたことあるような気がするけどどこだったかな?
ちなみマイムちゃんリドミだと『しおふき』のコマンドなかった