「蜘蛛男……だと!?」
「仮面ライダーと言ったか、先程のお前の活躍は見させてもらった」
第二層の入口にて俺は、この世界で初めて他の改造人間と遭遇していた。本来の仮面ライダーに出てくる改造人間は、ショッカーによって生み出された人を超えた存在。そして、奴──蜘蛛男の口からは、確かにショッカーと言う台詞を耳にした。蜘蛛の形を模した仮面にライダースーツのような防護服を来ている蜘蛛男は、余裕ありそうな態度で俺に話しかける。まるで、いつでも俺を殺せますと言っているようだ。
「その力は、確かに人を超えた存在みたいだが対人戦は初めてのようだな」
俺の顔を潰そうとばかりに殺意を込めて左右の拳で殴りかかる。モンスターとしか戦闘がない俺は、初めて浴びせられる殺意に背筋が凍るもそれらを受け流しながらも蜘蛛男の両腕を掴む。
「喰らえ!」
蜘蛛男の身動きを封じて頭突きをしてから膝を腹に入れてから跳躍して投げ飛ばす。しかし蜘蛛男は、口から糸を吐きどこかに引っ掛けては、落下によるダメージを軽減するかのように岩壁を伝いながら着地する。別の所へ着地した俺は、それを見てもう一度跳躍して彼の近くへと移動するが今度は奴の手によって首を絞められてしまう。
「──死になさい、
これが改造人間のパワー。蜘蛛男は、確実に俺を殺そうと言うくらい力強く首を絞めてくる。もがき苦しむがそれでも緩めない彼の力に俺は、対抗するように足を突き出して奴の腹を思いっきり蹴ると蜘蛛男の手が俺の首から離れる。
「今の蹴りは、効きましたよ」
「はぁはぁ、お前に幾つか聞きたいことがある」
「ご心配なく、貴方はもう死ぬのですから」
「──何!?」
次の瞬間、黒の全身タイツに覆面を被った戦闘員達が次々と出現した。彼らは、短剣や槍などを手に構える。
「こいつらは、ショッカーに選ばれたが改造に失敗した失敗作──ですが貴方の相手には丁度いいでしょう」
失敗作と呼ばれた戦闘員たちは、次々と手に持っている武器を駆使して俺へ攻撃してくる。
「待て! お前はどこへ行く!」
「私は、ショッカーから偉大なる任務を受けておりますのでそれでは」
そう言って蜘蛛男は、糸を吐きながら姿を消してしまう。残された俺に戦闘員達が果敢に戦いを挑みに来る。俺は、彼らの攻撃を躱しては、殴り蹴りを繰り返して行く。
悪に身を染めているプレイヤーが既にいることに俺は、心を傷んだ。
だが、ショッカーを放っておくことは出来ない。
俺は、心を捨てることにした。
「──行くぞ、ショッカー!」
俺は、右拳に力を込めながら叫ぶ。人の人生を変えたショッカーへの怒り、悪へ堕ちた目の前の彼らへ対しての怒りを込めながら戦闘員達を殴り飛ばしていく。
手加減なしの全力で殴ったせいか、戦闘員達のHPは全損して次々と消えていく。彼らを示すカーソルがオレンジなどになっていたせいか、俺のカーソルが色を変えることは無かった。
全ての戦闘員が消えたのを確認すると俺は、ぶつけれない怒りをぶつける為に地面を思いっきり殴りクレーターを作る。
「──クソ!」
アイツらは、危険だ。
絶対に野放しには出来ない。まさか、ショッカーがこの世界にも存在していたなんて。
「──許さんぞ、ショッカー」
「──あ、居た! おーい、タカシ!」
ショッカーへの怒りをぶつけてると何も知らないコハルが俺の所へやってきた。キリトやアスナも一緒だ。
「もう、勝手にどこか行かないでよ」
「──ごめん」
素っ気なく答える俺に対してコハルが少し不安になる。キリトは、俺が作ったクレーターを見て驚きながら俺へ質問する。
「なぁタカシ、その力を教えてくれないか? ボス戦での身体能力にこの破壊力、説明して欲しい」
「これは……このベルトのアイテム効果だよ、この姿に変身すると常人を遥かに超えたパワーとバッタの様な跳躍力を得るんだ」
怒りにより乱れた呼吸を整えながら俺は、キリトへそう説明する。仮面ライダーの力といってもこの世界では通じない為、これが最大限の説明だ。
「──ごめん俺、疲れたから先に戻る」
「じゃあ、私も」
「──ごめん、一人にさせて欲しい」
サイクロン号を呼び俺は、コハルの誘いを断ってから跨ってその場を去ってしまったのだ。
◇◇◇
「──タカシ」
そう彼の名前を口にしたコハルは、少し不安な表情で遠のいて行くサイクロン号を眺めていた。まるで遠い世界へ行って二度と会えなくなってしまうのかと思えるぐらいに颯爽と消えていくサイクロン号。
「タカシの奴、結構疲れてるみたいだったけど大丈夫かな?」
彼のことを心配しているのは、キリトやアスナも同じだ。いつか正義に取り憑かれて周りが見えなくなるのではないかとそれぞれが心の奥でそう思っていた。
「──仕方ないからここらで少しレベリングしようか」
「そうね、いつか彼と同じ立場に立てるようにならないと悩みを教えてくれないわ」
黙っていても誰も助けてくれない。その現状を打破するのは、一つしかない。
それは、強くなることだ。キリトとアスナも同意見でそれぞれ愛剣を鞘から抜いた。
「──コハルちゃんも行こ!」
「は、はい!」
そう言ってコハルも装備してるレイピアを鞘から抜いて構える。新エリアに適正出来る為にクリアを目指してキリトとアスナは、剣を振るうのであった。
今まで頼りにしてた相棒が居ないコハルは、どこか寂しそうだが、その弱気な気持ちを仮面で隠すようにひたすら剣を振るい続けた。
◇◇◇
その日の夜。俺は、ボス戦でクリアして手に入れたラストアタックの黒いロングコートに身を包みある人と待ち合わせしていた。気持ちいい夜風がトールバーナに吹く中じっとその場で静かにそいつが来るのを待っていた。
「──よう、ター坊」
待ち合わせしていた人物はアルゴだ。昼間、アルゴへ依頼する為にメッセージを飛ばしていた。
「珍しいナ、お前から誘ってくるなんテ」
「すまないが急いでいるんだ、例の件呼んだってことはまさか……」
「もちろん出てきたヨ、奴らの情報」
それを聞いた俺は、コルの入った袋をアルゴに渡した。
「──教えてくれ、蜘蛛男のアジトを」
「良いのかイ? 見るからに怪しい宗教みたいだったけド」
「問題ない」
言葉に魂が乗ったのだろう。アルゴはそれ以上何も言わずにコルを受け取り情報を教えてくれた。蜘蛛男は、第一層はじまりの街にある地下ダンジョンをアジトに構えているみたいだ。既に何人か彼のような怪人に姿を変えているのがいるみたいだ。
また、失敗作と呼ばれていた戦闘員は、その改造に耐えれず中途半端な力を手にした人達の事を指すみたいだ。
「──そこは、いつものショッカーだな」
「なぁター坊、コハルっちの事は良いのカ?」
大人しく情報を教えてくれたアルゴ。しかし、最後に彼女は俺に質問を投げかけてきた。それは、コハルの事だ。これまで一緒に来たコハルをここで置いていくのは、あまりにも非情とも言えるだろう。しかし、巻き込めばショッカーに狙われてしまうかもしれない。それだけは、避けたい。
「コハルのことはアルゴやキリト達にお願いするよ、まだまだ未熟だけどきっと強くなるから」
「ター坊──、コハルっちに恨まれるゾ?」
俺は、隣に止めて居たサイクロン号に跨りエンジンをかける。
「──アルゴにはすまないと思ってる、ショッカーに唯一巻き込んでしまった」
「それは良いけどサ、何も知らずに置いていかれる人の身にもなってやれヨ?」
「分かってる、生きて戦いが終わったら必ず会いに行くから」
システムメニューからコハルとキリト、アスナから順番にフレンドを解消する。それぞれの名前が消えていくと俺の心から何かが零れる音がした。この数日だけでも、この世界でいい思い出ができたと思うとこれで良かったのかもしれない。
最終的には、フレンドリストにアルゴの名前だけが残った。
「ター坊……ショッカーはそんなに恐ろしい組織なのカ?」
「あぁ、人をあんな異形の姿に変えるのは許せない! じゃあ、行ってくる」
俺は、そう言い残してサイクロン号を発進させてその場を去る。勿論、無計画に一人になった訳じゃない。
ショッカーと戦う覚悟やコハルを巻き込みたくない気持ちは、俺のわがままでしかないけど、これしか方法が思いつかなかったのだ。
「──行くぞ、ショッカー!」
俺は、そう言って左ハンドルのスイッチを捻りハンドルを押し込んでサイクロン号をオフロードからフルカウル状態へ変形させる。フルスロットルで加速するとベルトに風圧が当たり風車が回り出すと俺の体は、仮面ライダーへと変身するのだった。