はじまりの街の路地裏。
アルゴから教えてもらったのは、この辺りだ。
深夜の時間帯、NPC以外のプレイヤーは、出歩く時間では無い為、普段より増して人が居ない。
その方が俺にとっては有難い。
第一層のボス攻略時に少し目立ってしまった俺は、人気を避けないと悪目立ちしてしまう。
「──ここか」
アジトとされるダンジョンの出入口についた俺は、そう呟きながらダンジョンへと入っていくと入口や通路を巡回している黒い全身タイツに覆面を被った戦闘員達が一斉にこちらを向くと「侵入者だ!」と叫びながら短剣と槍を取り出して構える。
「──行くぞ!」
俺は、彼らにそう言って構えると戦闘員は、俺へ向かって走り出して来ては順番に斬りかかってくる。武器を持っている腕を掴んで防ぐと思いっきり殴り飛ばす。そのダメージ効果は、凄いのか飛ばされた戦闘員は、あっという間にHP全損で消失する。それに目を向けず俺は、次々と斬りかかって来る戦闘員を殴る蹴るなどして吹き飛ばしては、戦闘員達を消失させてからゆっくりと下へと降りていく。ダンジョンの奥の方には、蜘蛛男が一人で待っていた。
「──来ると思っていましたよ」
「答えろ、ショッカーはこの世界で何をするつもりだ!?」
薄暗い部屋の中に外から持ち込んだテーブルと椅子に座っていた蜘蛛男がゆっくりと立ち上がると引き出しにしまっていた黒いチップを取り出して俺に見せる。
「この改造用のチップをインストールすることによって人を超えた存在──改造人間へとなる これには事前に他生命体の遺伝子情報が組み込まれており、融合することによってアバターが変化する仕組みになってます 私のような正規品になることもあれば、失敗して下級戦闘員のような失敗作になることがあります」
「アバターを改造しているというのか!?」
「──その通り、貴方が倒してきた戦闘員たち失敗作には、克己心を消滅させる様に仕組まれており、心のない人間兵器として働いてもらってたんですよ」
蜘蛛男の話を聞き何となく理解した。
ショッカーは、改造チップをインストールさせてプレイアバターを改造していた。上手く融合出来なかった失敗作は、心のない忠実な人間兵器に変えるとの事。この世界の技術を使えば人の脳をいじることなどは、容易な事なのだろう。
そうでなければ仮想世界など夢のまた夢だ。
心のない人などもう人では無い。ましては、みんな生き延びる事に必死なこの世界で許される事でない。
「──それを知って貴方は、どうするのですか? 私たちの仲間になりますか」
「決まってるだろ、全力でそれを阻止するのみだ!」
「なるほど、交渉決裂ですか──同じ改造人間ですので手を下したくはなかったんですが、古来よりバッタは厄災の象徴、ここで消えてもらいます」
先に攻撃を仕掛けてきたのは、蜘蛛男だ。彼は、間合いを詰めてから前蹴りをするもそれを躱しながら数発両手で交互に殴るも上体を反らして躱されてしまう。
「良い打撃力ですね──ですが、当たらなければ意味が無い」
俺が繰り広げる打撃を全て躱した蜘蛛男。避けるだけかも思えば、少ない反撃が飛び拳を交える。余裕なその態度とは、裏腹に飛んでくる拳や蹴りには、殺意がぎっしり込められている。
「──戦闘員を殺した時は見事でした、貴方も人を殺す快楽を知りましたよね!」
「──そんな快楽俺にはいらない!」
羽織っていたロングコートを脱ぎ捨てて彼に掛けてから蜘蛛男の顔面を思いっきり殴る。凄まじい衝撃が彼を襲い少しばかりふらつかせる。
「──今のは効きましたね」
「これで終わりだ、ライダーパンチ!」
そう言って一気に間合いを詰めると勢いよく蜘蛛男の顔面を殴り飛ばす。
ライダーパンチを受け、壁まで吹き飛ばされると壁にめり込んでしまう蜘蛛男。それを見て俺は、蜘蛛男の方へかけ出すと少しジャンプして飛び蹴りを放つ。
「ライダーキック!」
外のような限界までの跳躍ではなく天井に当たらない程度の高さへ飛んでからライダーキックを顔面へ放つと衝撃でめり込んでいる壁に更に亀裂が走る。彼が着けていた仮面がライダーキックの衝撃に負け砕けて素顔が目に入る。その顔は、異形な形へと成り果てていた。改造チップをインストールした際に他生命体の情報を取り込んで素顔を見せられないくらい変わっている。それを隠すために仮面が必要なのだろう。
「──ショッカーに栄光あれ」
それだけを言い残して蜘蛛男は、消滅していく。
ショッカーの企みは、一筋縄では解決は難しそうだ。現実にも彼らのアジトがありそこからSAOへ出入りして人を改造する為のチップを配っている。そして、その毒牙がコハル達攻略組の方へと迫りつつあると言う事も今の俺なら理解ができる。
「──やはり、この手しかないか」
そう呟くと戦場であったダンジョンを背に建物から外へ出る。そこには、アルゴが居た。
「本当に良いのカ?」
「あぁ、俺は俺に出来る最大限をしたい! 人間の自由の為に」
「──分かった、じゃあオレっちも協力するヨ!」
「逆にいいのか? それがどういう意味か」
「──分かってるサ、オレっちもショッカーのやり方によってこの世界が穢されるのは、嫌なんだヨ」
俺は、アルゴに聞く。それがなんの意味を持っているのか。しかし、アルゴも既に決意が固まっていたからか、戦う決意が返ってきた。
「ありがとう、アルゴ」
俺は、アルゴに言ってサイクロン号に跨り、エンジンをかける。この二人でショッカーと戦う事になったが、恐らくアルゴに改造人間との戦闘と言うよりSAOでの情報屋としての技術を使いショッカーの企みやアジトを教えてもらった方が俺も動きやすい。
「アルゴは、基本的に奴らの情報収集を頼む」
「おうヨ、よろしくナ!」
「──よろしく、また何かあったら連絡して欲しい」
そう言って人知れずにショッカーと戦うべくサイクロン号を走らせる。
◇◇◇
翌日、窓から差し込む日差しを受けながら目を覚ましたコハルは、いつもより早めに身支度を整えていた。今日から新たな階層へ挑むからか少し浮き足立っていた。この世界に心が順応してきている証拠なのだろう。
「第2層ってどんな感じなんだろう」
呟きながら部屋から出て廊下へ出る。いつもならそこに居るはずのタカシの姿が見えない。まだ、寝てるのだろうかと思ったコハルは、部屋の扉をコンコンとノックする。
「──タカシ、朝だよ?」
しかし、反応は返ってこない。いつぞやの仕返しと言わんばかりにタカシの寝顔を見ようと彼の部屋へ入る。
しかし、そこに荷物などない空の部屋だった。
「──タカシ?」
まさかと思いコハルは、急ぎ宿を飛び出す。よくよく振り返ると昨日の彼は、少し様子が変だった。第1層をクリアした喜びと新しい階層に来れたというぬか喜びで、彼の様子の変化を見抜けなかった。あんなに思い詰めた顔をしてたのに……。
連絡を取ろうとフレンドリストを開くとそこには、彼の名前がなかった。
「嘘……でしょ」
それからコハルは、第1層のはじまりの街をひたすら周り顔見知りの全員にタカシを見なかったか声をかける。しかし、帰ってくる言葉は、NOの一言だ。不安が募っていくにつれて彼女の顔は、真っ青に変わっていく。
もしや先の層で一人レベリングしてるのではないか。そうであってくれと願いながらコハルは、第二層へ移動した。
「──やぁ、コハル」
アクティベートした転移門を使って来た第二層。しかし、声をかけられたのは聞きなれた彼の声では無い。
「キリトさん、それにアスナさん」
キリトとアスナ。第一層クリアした際、パーティを組んでいたプレイヤーだ。コハルは、彼らにも同じ質問をした。
「すみません、あのタカシ見ませんでした?」
「いや、俺は見てないな──アスナは?」
「私も見てないわ、タカシくんがどーしたの?」
「今朝から姿を見てないんです」
その言葉を聞いて驚く二人。
「メッセージ送ってみたか?」
「送ろうとしたら」
そう言いながらコハルは、メインメニューを操作してフレンドリストを開きそれをキリト達に見せる。
「フレンド解除されてて繋がらないんです」
「酷い……」
「俺達も解除されてる」
キリト達もフレンドリストを開くとコハルと同じでタカシの名前だけが消えていた。
「──良かったら俺達も協力するよ」
「ありがとうございます!」
キリト達も加わり三人で探せる箇所は、手当り次第全て探したが見つからなかった。
時間だけが無情に過ぎていき気がつくとタカシを探してから数時間が経過していた。
「タカシ、どうしてなの……」
再び集まった三人は、お互い成果を報告し合うも全員が成果なしとなってしまった。コハルは、落胆しながら消えてしまったタカシの事を心配する。
そんな中、アルゴがやってきた。
「──やぁ、どうしたんダ?」
「アルゴさん! タカシ知りませんか?」
「嫌、知らないけど預かり物ならあるヨ」
アルゴは、そう言うとアイテムストレージから正八面体の形をした記録結晶をオブジェクト化させる。
「──これ、コハルっちにって」
「タカシがこれを……」
「一人の時に聞いて欲しいってさ」
「わかりました……聞いてきます」
そう言ってコハルは、アルゴから記録結晶を受け取り一人になるべく急ぎ宿屋へと戻る。
宿屋へ着くと部屋に勢いよく入り込みコハルは、記録結晶を操作する。
「──確かこれでこう」
記録結晶を操作することは初めてなコハルは、たどたどしくも結晶に記録されている音声を流し始めた。
「──コハルへ」
流れ始めた声の主は、コハルがずっと探し求めていた人物の声だった。
「タカシ……」
「急に居なくなってごめん、これから成すべき戦いに向けて1人になる選択肢を選んだ」
「そんな……どうして?」
「理由は言えないけど、この戦いに君を巻き込めないんだ……だから、俺のことは忘れてキリトやアスナ達とこの世界の攻略に励んで欲しい」
「──嘘つき、一緒に居てくれるって約束……したのに」
彼が一人で戦いへ赴いたのもそうだが、パートナーだと言ってくれたのに肝心な時に頼ってくれない現状に惨めになる。
「一緒にいてあげれなくてごめん、さようなら」
そう言い残して録音されていた音声は消える。部屋には、悲しみに浸るコハルの泣き声のみが響き渡るのだった……。