日も暮れてやってきたのは、俺が今使ってる宿の部屋だ。
一人ではなく二人でやって来た。
「──お邪魔します」
そう恥じらいながら部屋へ入るコハル。彼女を久々に部屋へあげたななんて考えているとコハルは、ベットへ座る。
彼女は自分の隣をトントンと叩き座るように促した。
「し、失礼します」
そう言いながらコハルの横へ座ると彼女は、クスクスと笑いながら言う。
「自分の部屋なのに緊張しすぎだよ」
「なんか、ごめん」
「うんん、私こそごめんね あのまま別れたら二度とタカシに会えないんじゃないかって不安で……」
そう心情を吐露するコハル。
そういうことを一度してしまった手前、コハルが不安になるのは仕方の無い事だ。
今更俺がなんて言おうともコハルの心から不安が取り除かれることは無い。
きっと、彼女の心の傷になってしまった。
そして、戦い続ける俺はまた同じように彼女を傷つけるだろう。
だから、離れた。
離れて忘れてもらった方が俺も戦いへ集中できると考えていた。
それが独りよがりな考えだと気づかないまま。
「──ごめん、コハル」
「なんで、タカシが謝るの? わがまま言ってるのは私なのに、タカシの戦いの邪魔になるのは分かってるはずなのに……」
気持ちが限界を超えてしまったのか、コハルから大粒の涙が流れる。
置いていかれた人の悲しみなど、俺には理解できない。アルゴから聞いていた第三者目線の話を聞いているだけでは彼女の心の奥にある本当の気持ちなど分からない。
戦いに没頭する中で人としての感情が欠落してたのかもしれない。
気がつくと俺は、泣いているコハルを抱きしめていた。めいいっぱいの謝罪を込めて彼女を優しく包み込む。
「俺が馬鹿だった、ごめんコハル」
数分後、泣き疲れたコハルはいつの間にか俺の膝の上で横になっていた。
普段から慣れないことをやった疲労などが重なった結果だ、ここまでさせてしまった責任を感じながら俺は、そんな彼女の髪をそっと撫でていた。
「──私はあなたのパートナーだから、もっと頼って欲しい」
「うん」
「約束……だからね」
「けど、ギルドは?」
「アスナに事情話して辞めるよ 私には荷が重いら」
今の環境を捨てて俺と共に行動したいと言うコハル。
「コハルの想いは、理解した いつ命を狙われるか分からない戦いだけどいいの?」
「大丈夫! 私を信じて」
彼女の強い視線や言霊に俺は、根負けしてしまう。しかし、ギルドの戦力であることも事実。そんなコハルを引き抜いてしまうとなると、ギルドにも狙われそうな予感がする。
「──わかった、けどギルドは続けてくれ じゃないと俺がギルドから命狙われそうだ」
「わかった、アスナに頼んで両立出来るように調整する!」
そう言うと少しは元気になったのかコハルは、俺の膝から離れて起き上がる。
「遅くまでごめんね、また明日!」
「あぁ、また明日」
そう言ってコハルは、部屋から出ていった。残された俺は、ベットの上で仰向けになりながら天井を見つめる。
脳裏には、今日のコハルが見せてくれた様々な表情が思い浮かぶ。
不安に駆られる姿。
悲鳴のような泣く姿。
そんな姿を見たくて戦ってきた訳じゃない。最後に見せてくれた彼女らしい明るい笑顔が見たくてこれまで頑張ってきた。今度は一番近くでその笑顔を守らないといけない。
考えれば考えるほどコハル事を特別視してる自分がいる。
守るべきものは他の人でも一緒のはずなのに。
「コハルの事好き……かも」
そう呟いた途端、顔が火傷するくらい一気に熱を帯びた。
だめだ、考えるのをやめようと思いながら寝ようとするが悶々とした気持ちは、落ち着くまでに時間がかかるのだった。
◇◇◇
タカシが悶々としている一方、コハルの部屋では夜に近所迷惑になりそうな悲鳴が響き渡っていた。
「私なんてことを……」
自身がしてきたことを振り返っていた。デートだと浮かれながら入った個室のカフェでカップルでも頼まなさそうなハート型のストローが付いてるドリンクを頼んだり、彼の部屋へ行くと泣いてしまい最後には、膝枕されてしまう。という結末だ。
彼女の中で今日は、アスナが用意してくれた初デートの機会だ。
それが、みっともない姿で終わってしまったのだからアスナへ合わせる顔がない。
「明日からどうしよう」
タカシはまた明日と言ってくれたが、本当に明日宿へ行ったらタカシが居るのか既に不安でしかない。あの時、帰らずに残っていればと後悔していた。
しかし、今となってはタカシの顔をしっかり見れるか不安でしかない。
「──タカシ、いるかな?」
別れてから何かある度に考えていた彼の名前を口にする。
久々に会えて嬉しかったのは事実だ。
それと同時に窮地に立っていた彼を見て怖くもなった。
再会した途端にたかしが死んじゃうと思ったら怖くて何とか助けになりたいと思った。
パートナーとして、そして一人の女性として。
「明日、アクセサリーとか付けていこうか」
でもタカシの好みが分からない。
こういう時は、アスナに頼ってみよう。
彼女なら万人受けしそうなアクセサリーなど知ってそうなくらい女子力には定評がある。
コハルは、そう考えながらアスナへメッセージを送ることにした。
その後、興奮気味のアスナと今日の話などで盛り上がり寝不足になったのは言うまでもない。
翌朝、目を覚ましてからコハルは急ぎ身支度を済ましてからタカシの宿へ向かう。
心配で心が潰されそうになる中、呼吸を乱しながらコハルは、走り続ける。
そこに彼がいることを願って。
階層を移動して一人でタカシの部屋まで向かうコハルは、扉の前に立つと大きく深呼吸する。この扉の先に彼が居ない姿が簡単に想像出来てしまう。
「──タカシ、いる……よね?」
返事する声は聞こえない。
彼女が思わず小さく吐露したからだ。
あまりの不安に心は耐えれるだろうか。考えれば考えるほどマイナスな方へ気持ちが流れてしまう。
それでも……今は勇気を出さなきゃ
決意とともにコハルは、扉のノックする。
「──どうぞ」
声が聞こえた。
彼からの返事だ。
あの時とは違う、彼はそこに居るのだ。
それだけで救われた気持ちになったコハルは、ゆっくりと扉を開ける。
部屋には、既に身支度を済ましてメッセージを確認してる彼の姿があった。彼は、コハルの方へ顔を向けて挨拶してくれた。
「おはよう、コハル」
「──おはよう、タカシ!」
彼女の止まっていた時間がどこかまた流れた気がした。
◇◇◇
コハルが部屋へ来る前、いつも通りの朝だった。
窓から入る日差しを浴びて目が覚めるといつも通り身支度を済ませる。
今日は、特に予定を入れてなかったがアルゴの元へ行くかなんて考えながらも不意に昨日のことを思い出す。
「コハルが来るのか」
明日と言っていた手前、彼女はきっと来るだろう。
後悔がないと言えば嘘になる。
コハルを巻き込んでしまったという罪悪感、もっと賢く立ち回りできたのかもしれない。
けど……、それを言っても仕方ないとも思ってしまう。いずれショッカーは俺と関わる全ての人を殺そうと仕向けて来るだろう。
「むしろ、キリトたちをもっと頼るべきか」
今後の立ち振る舞いについて考える。
何が正解は、俺でも分からない。
少なくともこれまでのやり方は、間違いであるということ。巻き込んでしまうのであれば、それらも守れるくらい強くなればいいこと。
力が欲しい……。
そう願っても具体的に何が欲しいのだろうか、サイクロン号がなくても変身できる力とか?
昨日の際は、やむを得ない事態だった為サイクロン号を手放してしまい変身出来ずになった。
密閉空間で風がないと変身できない。
今の俺の弱点でもある。
確か、原作では……。
そう考えにふけながら天照大神からのメッセージをもう一度確認していると扉をノックする音が聞こえた。
コハルがやってきたのだ。
「どうぞ」
扉の向こうで待ち構えている彼女へ声をかけると恐る恐る扉が開きコハルがゆっくり俺の部屋へと入ってくる。
「おはよう、コハル」
「──おはよう、タカシ!」
俺の顔を見れてほっとしているのか元気よく挨拶するコハル。
やはり、彼女は元気よく笑うのが一番だ。
改めて実感するのだった。