間が空いたりしますが
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「──朝ごはん食べた?」
部屋へ入ってきたコハルへそんなことを聞く。
時刻は、8時半。
全国の勤勉な学生や社会人であれば、登校出勤などをしている時間であるが、ここでは違う。どれだけ早起きしようと待っているのは、SAOを攻略するだけの日々。
そんな日々でもきちんと朝早く起きれるコハルの根は真面目な子なのだろう。
将来は、いいお嫁さんになるだろうなと思う。
「うん、食べたよ タカシは?」
「ちょっと調べ事してたからまだなんだ」
「そう──」
そう呟きながらコハルは、部屋を改めて見回す。昨晩は、暗かったから気がつかなかったが、物が何も無い質素な部屋。一回も使われていないキッチン。
SAOには、料理をする為のスキルがあるがそれがないと干し肉も黒焦げにしてしまう。よって多くのプレイヤーが街にある店や露店などで料理をテイクアウトしてから攻略へ向かう。
「──作ろうか? ご飯」
「え!?」
唐突な発言に俺は、目を丸くした。
攻略に勤しむ副団長補佐様が料理すると言うのだ。ラノベとかだとこういった場合、ゲテモノが出てくるはずだ。
「コハルさん、あの……料理スキルは?」
「持ってるけど……って、タカシまさか」
質問の意図を知ったコハルは、頬を大きく膨らませてしまう。攻略組とは言え、コハルも女の子。そういう質問はタブーだったのかもしれない。
「コハルごめん、料理楽しみにしてる」
「本当だよ、そんなこと言ってるとモテないよ!」
謝罪はしたが、へそを曲げてしまったコハル。部屋へ来て貰って料理すると言う彼女の気持ちを無下にしてしまった。
謝罪だけでは足りないよな。
「ちょっと、出かけてくる 詫びに何か買ってくる」
「あ、逃げた!」
コハルを置いて部屋から出る。扉の向こうから小言が、ブツブツ聞こえてくるが今は聞かないフリをしよう。
さて、謝罪の品何にしようか。
喜んでくれそうなものを考えながら俺は、街を散策する事にした。
◇◇◇
街を少し歩く。
いつもと変わらないはずなのだが、思考がいつもと違うだけで俺には、殺風景のように見えていた街並みが花の都のように華やかに見えていた。
何故だろうかと考え込む。
違いは、一つ。コハルが俺の生活に居るかの違いだ。今だって先程怒らせてしまった彼女へ謝罪の品を何にしようかと考えながら街を散策している。
これが今までなら街の酒場などに顔を出してプレイヤーの失踪や突然死などの情報を集めてたりアルゴと会うとショッカーについて話したりと街を楽しむということはして来なかった。
まるで、失くしたものを取り戻した気がしていた。
「──案外、損な役なのかも」
「あれ、タカシ君?」
そんな事を考えていた俺に声を掛けてくれたのは、アスナだった。白と赤を基調とした血盟騎士団の服に身を包んだ彼女の横を歩いているのは、彼女と真逆である黒一色の服を身につけているキリトだ。
「アスナそれにキリト、どうしてここに?」
「サチの見舞いに行ってたんだけど、それが困った事になってて……」
キリトがそう言うと空気が一変した。短い気休めの時間と別れを告げて俺は、場所を変えながらキリトとアスナから話を聞くことにした。
「──サチがトラウマ?」
「えぇ、意識が戻ってからずっと一人にさせて欲しいって言って部屋から出てこないの」
「そんな……」
俺は、アスナから聞かされた話を聞いていた。内容としてあれから目を覚ましたサチが部屋から出てこようとしないということだ。ギルドメンバーも心配しているのだが、アスナやキリトの話も聞こうとしない様子だそうだ。
命を落としかけたのだ、無理もないと思えた。
「──タカシ、頼みがあるんだ」
少し悩んでいたキリトが口を開いた。熟考の末に出した彼の答えを俺は、何となく分かる気がしていた。
「サチに会って欲しいってことか?」
そう聞くとキリトは、不意をつかれたかのように驚く。彼女の中で俺だけがまだ会っていない。コハルと話してたりして彼女の所へ出向いていないからだ。
しかし、それには月夜の黒猫団のメンバーに会う必要がある。
「無理だ……俺は、サチや月夜の黒猫団のメンバーに会えない」
仮面ライダーの噂はそれほど良くない。
きっとあの場に居たキバオウ達が嫌な噂を言いふらしているのではないかと思うが実際、俺も攻略組に参加して居ないのも事実。その上でショッカーと言う未知の殺人者達に狙われたのだ、関わりたくないと思うのが当たり前だ。
そう思うだけで手足が震える。
いくら改造人間で強くても心は、人間なんだ。
「分かったわ、無理にとは言わないけど出来たら顔出してあげて欲しいの」
「──ごめん、役に立てなくて」
そう謝るとアスナは、首を横に振り長がらキリトの手を握りながら立ち上がる。
「君はキリト君と一緒で頑張りすぎる所があるからちゃんと休んでね 行きましょ、キリト君」
「お、おいアスナ どこへ行くんだよ?」
「サチちゃんのお見合いの品買いに行くのよ、付き合いなさいよ」
そう一言二言揉めながらもアスナは、キリトを連れてその場から去る。一人残された俺は、ため息を吐きながら空を見上げながらどうしたものかと考えてしまう。
一人の頃は、人付き合いなんて考えてる場合ではなかった。だから、コハルと会うことはしなかった。
当然、トラウマを抱えた少女を介抱した経験も無い。
これも一人の間に失くしたものなのだろう。しかし、今となってはどうにも出来ない。
「まずは、目の前の人からきちんと見ていくか」
考えても答えなんてでない。
何もいきなり多くの人を見ろという訳ではないのだ。
自分の近くにいる一人一人を大切にする。
そう思えば何とかなる気がした。まずは、コハルへの謝罪の品から動くことにした。
「あ、折角アスナにあったのに詫びの品何がいいか聞くの忘れた……」
こうして俺は、また一人街を散策するのだった。
◇◇◇
タカシが一人で街を散策してる中、キリトとアスナは、お見舞いの品を持ってサチの部屋までやってきた。それぞれの心境は、不安で胸が一杯だった。
元々、弱気な彼女のことだ。恐怖に負けて部屋から出てこない。そんなことも有り得る。そして、そうなった人たちの行く末を一番知っているのは、他ならぬ最前線を走る二人なのだ。
「サチちゃん、今日は会ってくれるかな?」
「分からない、でもこれが何日も続くってなるとアスナもどうなるか分かるだろ?」
帰れない現実に耐えられなくなって絶望してしまったプレイヤーがその後どうなったかは、キリトやアスナも嫌という程見てきた。
分かっていても無力な自分を責めたくなる程に悲しい結果が簡単に思い描けてしまう。その結末を変えたくて二人は、今日もサチの所へ会いに行く。
少しでも彼女の支えになればそう思いながら。
部屋の近くまで行くとそこには、月夜の黒猫団のメンバーたちも心配そうな顔をしながら居た。彼らもキリト達と同じ気持ちなのだろう。
「キリト、アスナ、二人とも毎回ありがとう」
「ケイタ、顔色悪いぞ? 寝れてないのか?」
ギルドリーダーであるケイタの顔色が優れていない。
サチのことを心配して寝れずにいたケイタ。ギルドリーダーだから全てに責任を感じている彼の様子を見て心配するキリト。
しかし、親身になって見舞いに来てくれる彼らを見ているとどうしても来ない人物を否定したくなる。
「しかし、タカシの奴は何してんだよ……ギルドメンバーが大変だってのに!」
「ケイタ、あいつにも事情が……」
「事情なんて知るかよ! サチが苦しんでるのにアイツは、仮面ライダーは、噂通りの臆病者だ!」
テツオの言葉に一同が静まり返る。
在籍期間が少ないとはいえ、ギルドとして活動していて命の危機に瀕してたキリトでさえ、こうして時間を作りお見舞いに来ている中、一度も来ていないタカシの事は批判されても仕方ない。しかしながら事情を知ってるキリトは、少しでも彼の名誉の為に弁明しようとするも誰も聞いてくれない。
「──そうだ、お花持ってきたの 部屋ノックしてもいい?」
「どうぞ」
沈黙を破るようにアスナがケイタに確認を取ってから部屋の扉をノックする。
「サチさん、アスナです 部屋に入ってもいいかな?」
「……」
何も聞こえない。
時間的に起きているはずだから何か返答があるはずなのだが、サチから返って来る言葉は無い。昨日は、少なからず返事をしてくれた。
おかしいと思ったアスナは、再び扉をノックする。
「サチさん?」
「……」
また、聞こえない。
サチは、二度の問いかけを無視する人では無い。全てを拒絶するかのように部屋に篭っていた彼女が部屋から出るはずがない。メンバーから次第に不安の声が聞こえる中、動いたのはキリトだ。
「──まさか!」
キリトの血相を変えた表情に周りは一気に凍りつく。
彼女の部屋の扉を思いっきり突進して突き壊して部屋へ入る。
「サチ! 居るなら返事してくれ!」
「……」
部屋に入って彼女の名を叫ぶが、そこには彼女の姿はない。
ベット周辺は、多少争った形跡がある。
「不味い!」
「キリト君待って!」
そう言い残してキリトは、タカシの宿へと走り出す。
ケイタは、今度こそ終わりだと言わんばかりに雪崩込むように地面へ膝をつけてしまう。
「──おい、ケイタしっかりしろよ!」
そんな彼を支えながら叫ぶテツオの声が虚しく響くのだった。