目を覚ましたサチは、悲鳴をあげるのを堪えながら静かに周囲を見渡す。
部屋にいたはずの彼女がいるのは、昨日襲われたダンジョン。大きな鷲のエンブレムが壁に刻まれている。昨日見たからそれが何を示しているのかは、理解出来る。
ここは、ショッカーの部屋だ。
「目を覚ましたかね」
「貴方は……」
さそりの様な被り物を被った改造人間さそり男と彼を囲うように黒のマスクを被った戦闘員がナイフを構えながらサチが変な動きをしないか警戒している。
目を覚ましたサチを攫ってきたのは、彼らショッカーだった。両腕両足を縄で縛られているサチは、身動きすら出来ない状態だった。
「私をどうする気ですか?」
「何、私の崇高なる実験に付き合ってくれれば良いんだよ、健気なお嬢さん」
さそり男は、そう言いながら何やら薬の実験をしているように見えた。部屋の奥にある作業台の方に目を向けると紫色の液体がフラスコなどの実験器具に入っているのを確認した。
「──実験?」
「そう、プレイヤーメイドの毒にもっと多種多様にあったらいいと思わないか? 例えば、液体や錠剤、それに空気中へ噴射したり、それこそ猛毒の爆弾などあれば、プレイヤーを殺すことなど今よりもっと容易になるだろう」
「──そんなこと許されないよ」
「それが、許されるんだよな この世界は」
そう言いながらさそり男は、高らかに笑いながら様々な種類の猛毒を開発するべく奥の作業台へと向かった。
死期を悟ったサチの膝は、震えていた。
これから蝙蝠男が作った猛毒の実験台になりそして苦しみながら死んでいく。そう思うだけで怖くなる。
「──助けてキリト、タカシ」
◇◇◇
「──タカシ! 居るか、俺だキリトだ!」
扉を勢い叩くキリト。しかし、部屋から出てきたのは、コハルだった。彼女は、エプロンを身につけて料理をしていた。焼き魚のいい匂いが部屋から廊下へ流れるが、今のキリトにはいらない情報だ。
「入るぞ」
「キリトさん!? どうしたんですか?」
出迎えたコハルを押し退けて部屋へ飛び込むキリト。
いつもの彼ならやらない行動に驚くコハル。しかしながら部屋の中には一番伝えたいはずの彼が居ないことに気づく。
「ちょっと、キリトさん!?」
どうしてこうなってるか理解できないコハルは、驚きながらも彼の後を追って部屋へ戻る。
「──サチが攫われた」
「え!? サチさんが?」
「恐らくショッカーだ、早く知らせないといけないのにクソ!」
ショッカーに捕まっているのであれば、サチの命に刻々とタイムリミットが迫っているであろう。その事実だけがキリトを焦らせる。
壁を殴るキリト。攻略で何度か一緒にしていたコハルだが、彼が取り乱した姿を見るのは初めてであり、事は急を要していると見て取れる。
「あの、私も探します」
「頼む、サチが危ない!」
「はい!」
サチは、慌ててエプロンを脱ぎ捨ててからキリトと一緒に部屋から飛び出す。街へ出るとアスナと合流した。彼女も一旦月夜の黒猫団と別れてからタカシを探していた。しかしながら彼を見つける事は出来ず、合流しようとしてタカシの泊まってる宿まで走ってきたのだ。
「アスナ、タカシは?」
「まだ見つかってないの」
「時間が無いのにアイツ何やってんだよ!」
「アルゴさんにも連絡取ってみようよ!」
「分かったよアスナ、俺はもう少し探してみる」
再会して間もない状態だった為、誰も彼と再びフレンド登録してないのだ。
キリトはもう少し周辺を走りながら彼を探す。アスナは、アルゴへ連絡を取る。彼らの必死な姿をみてコハルは、手を握り祈ることしか出来なかった。
「タカシ……」
その時だった。何かを思いついたコハルは、離れたキリトへメッセージを飛ばす。別とはいえ大きなギルドの副団長補佐である彼女は、フレンド登録してなくても相手へメッセージを送れる唯一の方法を知っていた。
ギルドのチャットだ。
ギルド内であればメンバーである人間は、フレンド登録してなくても見れる。
言わばグループLI○Nみたいな感じだ。
「それがあったか!」
少し離れたことろでコハルからのチャットを読んだキリトは、その手があったかと足を止めて彼宛てへメッセージをギルドチャットで送る。
後は、運次第。
タカシがそれを見るかにかかっている。
「──お願いタカシ、サチさんを助けて」
そう呟くとコハルの声に反応するかのようにサイクロン号の加速音が微かに聞こえた気がした。
◇◇◇
月夜の黒猫団のギルドチャットに通知が来る。
俺は、それを開きチャットを読んだ。
「嘘……だろ?」
送り主は、キリトだった。
内容は、サチがショッカーに攫われたと言うことだ。それを知ったキリトは、どうやら俺の部屋までやってきたらしい。居合わせなかったからギルドチャットを利用してメッセージを俺に送ってきたらしい。
「──悪いことしたな」
そう呟きながら俺は、サイクロン号を召喚すると跨りエンジンをかけるともう一通通知が入る。宛名は、月夜の黒猫団のリーダーケイタだ。
「お願いします、コハルを助けてください」
ケイタだけではない、月夜の黒猫団全員から次々とサチを救って欲しいと言うメッセージが入ってくる。
みんなにどう思われても頼られたら断れないのが性分である俺は、ハンドルを掴む。
これは、ショッカーの敵だけではなく人類の味方としての仮面ライダーの初陣である。
「──任せてくれ、皆!」
そう言うと俺は、サイクロン号のアクセルを全開に捻り勢いよく加速して街を出る。風を切るように進むサイクロン号の後に襲う風圧に驚くプレイヤーも多かったがされらの反応は、全部無視だ。
人をひかないように進むが時間が無いのだから、ある程度は許して欲しい。
「──待ってろ、サチ」
そう言うと俺は、スイッチを押してからハンドルを勢いよく押し込むとサイクロン号は、オフロードからフルカウルへと変形する。
ベルトの風車が勢いよく回り出すと俺は、仮面ライダーへと変身した。