―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》 作:えぴっくにごつ
先の十字路上の一角では、オーク達が群がり、何かを囲っていた。それは一人の若い女であった。
「いやぁっ!やめてぇぇ!」
女は群がる内の二体のオークに捕まえられ、抑えられている。身を捩り必死の抵抗を見せているが、オークの腕力を前にはまったくの無意味であった。
「ママぁっ!」
その若い女とはまた別に、泣き叫ぶ高い声が上がる。見れば、そこには女とはまた別に、オークに捕まえられている、男の子の姿があった。
女と男の子は、この町に住まう母子であった。
町がモンスターの軍勢の襲撃を受けた際に逃げ遅れ、これまで住まいに身を隠していた彼女達。しかし先程ついにモンスター達に見つかってしまい、引きずり出され、今まさに襲われていたのであった。
「チッ、ガキはウるせぇなァ」
泣き叫ぶ男の子を捕まえているオークが、何か鬱陶しそうな様子で呟く声を上げる。
「おい、オスのガキは殺しチまっていいダろう?」
「いいや、待つンだ。オスのガキはガキで、好む物好きガいるんだ」
次いでそんな尋ねる言葉を発したオーク。しかしそれに傍にいた別のオークが、その厳つい顔に下卑た笑みを浮かべて返す。
「それに、ガキの目の前でメスを犯すのも、面白いじゃネぇか」
「へへ、確かニなぁ」
「ギャハハハハッ!」
次いで、オーク達はそんな下種な言葉を交わし合い、笑いあった。
そんなオーク達の視線の先では、若い母親が今まさに、纏っていたその服を破き脱がされ、裸に剥かれてしまった所であった。
オーク達は、戦利品である若い母親を、この場で犯し楽しむつもりなのであった。
「やめて!お願いします、許してください!」
若い母親は必死にオーク達に向けて懇願する。しかし、オーク達がそれを聞き入れる事などない。
「ママっ!ママぁっ!」
「だめ!ルミ君、見ちゃだめっ!見ないで!」
泣き叫ぶ男の子。子に向けて、必死に見ないよう懇願する若い母親。
そんな痛ましいまでの母子の姿を、囲むオーク達はニヤニヤとした表情で見、楽しみ笑いものにしている。
「ええィ、いい加減暴れるなヨッ」
「ゲゲゲ、泣くんじゃねぇ。すぐに、俺のモノに夢中になっからヨォ」
若い母親を抑え捕まえているオーク達が、声を荒げ、あるいは笑い上げる。
そして若い母親を抑えていたオークの股間のモノが、いよいよ若い母親を貫こうとした。
――ドゴッ――と。
それを遮り割り込むように、何かの衝撃音がオーク達の、そして娘達の耳に届いたのは、その瞬間であった。
「――何だ!?」
突然の事態に、オーク達の女を犯す行動は中断され、オーク達の視線は音の発生源を向く。
「ナ!?」
「……え?」
そしてオーク達は目を剥き、若い母親もその顔を驚きに染めた。
オーク達の眼に映ったのは、十字路の先で、鎮座し周囲を見張っていたはずのライマク。正確には、そのライマクが脚を折られ、地面に倒れ沈む光景であった。
「何が――」
突然の信じがたい光景。それに、驚愕の言葉を零しかけるオーク達。
「――どらッ」
「――ギェエッ!?」
しかしそれは、またしても割って入った何者かの声に。そして響いた悲鳴に阻まれた。
「ハ?」
「……え?」
オーク達からは、そして若い母親からも呆けた声が上がる。そしてその視線は一様に、一点に向けられた。
見れば、群がるオーク達の中心には、いつの間に踏み込み現れたのか、一人の存在の姿があった。
――あまりに禍々しい容姿、顔立ち。
――それと比べれば、囲うオーク達すら平凡な顔とも言える程の、恐ろしい存在。
そんな存在が、ヤクザ蹴りを放った直後のモーションを取って、その場に構えていた。
そして少し先には、その存在に蹴り飛ばされたのであろう。先に若い母親の自慢のモノで貫こうとしていたオークが、その自慢のモノを晒したまま、地面に叩きつけられ張り付き倒れている無様な姿があった。
「ごゥ!?」
さらに事態は続く。
若い母親を抑えていた内の、もう一体のオークから、悲鳴に近い声が上がった。
見れば、オークは現れた禍々しい存在に、その頭部を鷲掴みにされ捕まえられていた。
「がァ……」
「え……きゃっ」
オークの身体はそのまま禍々しい存在に持ち上げられ、宙に浮かぶ。それに伴い、オークに囚われていた若い母親は、オークより放され地面に崩れ落ちる。
「あが……なん……放……!」
禍々しい存在の手により、オークの頭は締め付けられる。
持ち上げられるオークは、事態を把握できないまま、覚える痛みに手足身体をばたつかせ藻掻き、必死の抵抗を見せる。
しかし禍々しい存在を前にそれは全て無駄に終わる。オークの頭からはミシミシと、ゴキュプチと。聞こえてはならない音が響き聞こえ。
「やべで――」
パァン――と。
オークの頭部が割れた果実のように弾けたのは、その瞬間であった。
オークの眼球が、脳症が、他パーツが周囲に飛び散る。
そして支えと、何より頭を丸ごと失ったオークの身体が、ドサリと地面に落ちた。
それから、周囲に訪れる一瞬の沈黙。
「――悪ぃが。オメェ等のお楽しみは、没収だ」
それを破るように、禍々しい存在――制刻は、オーク達に向けて端的に発した。
「……う、うワぁぁぁ!?」
「な、なんだコいつッ!?」
制刻の一言を皮切りに、堰を切ったようにオーク達に動揺が広がり走った。
「み、見た事ない種族だゾッ!」
「俺タチの獲物を、横取りする気カッ!」
しかし、続けオーク達が見せた反応は、何か少し変わった物であった。
オーク達は禍々しい姿の制刻の事を、母子を救いに来た者等では無く、自分達の戦利品を横取りしに現れた、また別の未知のモンスターだと認識したのだ。
「こ、こノォ!」
「させるカァ!」
そしてオーク達は、果敢にも斧等の得物を手に、制刻に向かって四方より一斉に襲い掛かる。
「――ギェッ!?」
「――ガァッ!?」
しかしその得物が届くよりも早く、オーク達の内から悲鳴が上がり、内の数体がもんどり打つ、あるいは横殴りに吹き飛ぶ姿を見せた。
制刻がチラリと視線を移せば、先の倒れたライマクの方向に、その現象の発生源が見えた。
ネイルガンを構え、撃ちながら歩み進む敢日の姿が、そこにあった。
敢日の操るネイルガンより放たれた五寸釘の群れが、オーク達を襲ったのだ。
「な、なんダこれ――ぶぉッ!?」
「な、どうし――もゴォ!?」
動揺が広がり出したオーク達を、さらに新たな事態が襲う。
群れの内、二体程のオークが、突如として視界を奪われる。そして頭を何かに鷲掴みにされる、身体が宙に持ち上げられる感覚を、オーク達は覚えた。
「うワぁッ!?」
「な、何だァ!?」
その他のオーク達からは、さらに狼狽える声が上がる。
オーク達の視線の先には、GONGの巨体があった。
制刻に続きその場に踏み込んだGONGは、手近な所にいた二体のオークを、左右それぞれのアームで捕まえたのだ。
「もご――ビョッ!?」
「ばびぇッ!?」
そして次の瞬間、GONGは鷲掴みにして持ち上げたそれぞれのオークの頭を、合掌でもするようにおもいきりぶつけ合った。
互いの頭をぶつけられ、さらにGONGにアームハンドに圧され、オーク達の頭は果実の言うにグシャリと潰れた。
手中のオーク達の絶命を確認し、GONGが両アームを放すと、頭の潰れた二体のオークは、支えを失いグシャリと地面に落ちた。
「わ、ウワァァッ!?」
「う、ウソダロウッ!?」
立て続いた正体不明の存在の襲撃。そして仲間達の凄惨な死に、まだ残るオーク達はより一層狼狽。
「な、なんナんだコイツ――びぇぅッ!?」
しかし、それすら僅かな時間しか許されなかった。
残るオーク達を、先の釘弾に似た現象が、いくつも襲い来た。それは5.56mm弾や7.62mm弾の火線であった。
制刻が火線を辿れば、その先には射撃行動を行いながら、追いついて来た鳳藤や鐘霧、朱真の姿。彼等の射撃が、十字路周囲に残るオーク達を襲い射貫いたのだ。
「展開しろ!」
制刻等に遅れて十字路へと踏み込んで来た鳳藤。鐘霧等。
そして鐘霧の発し上げた指示の声で、各員は十字路の周囲へと展開してゆく。
「片付いたか――ねーちゃん、大丈夫か?」
そんな鐘霧等の様子と、そして十字路周りから抵抗を見せるオーク達の姿が無くなったことを確認した制刻は、そこで初めて足元すぐ傍でへたり込んでいる、若い母親を見下ろし声を掛けた。
「ひッ!」
しかし、その若い母親から返って来たのは、小さくそして震えた悲鳴であった。その瞳は未だ絶望の色を見せ、怯えた様子で制刻を見上げている。
彼女もまた、制刻の事を新たに現れた別種のモンスターだと思っていたのだ。
「自由……また、お前の姿に怯えている……ッ」
「あ?」
そこへ傍から、呆れた声が飛んでくる。
制刻が見れば、背を向け銃を構え警戒姿勢を取っている鳳藤の姿がそこにあり、彼女は顔だけを振り向かせて呆れた色を覗かせていた。
「お前の容姿は、初見さんにはハードルが高いな」
さらに続け、今度は反対方向から揶揄うような声が飛んでくる。
制刻と鳳藤が同時に視線をそちらへ向ければ、そこには敢日の歩いて来る姿が。そして敢日の腕には、先にオークに囚われていた男の子が、抱きかかえられていた。
「ほら、お母さんは大丈夫だ」
敢日は制刻等の傍まで来ると、発しながら男の子を腕中より降ろしてやる。
「ママぁっ!」
「ルミ君!」
男の子は涙声で若い娘に駆け寄り抱き着く。そして若い母親も、男の子をその腕中に抱き寄せ、抱きしめた。
「んじゃ、剱。こっちはやっとけ」
そんな若い母親達の姿を見つつ、制刻は鳳藤に向けて不躾に要請する。
「ふん。言われるまでもない」
それに対して鳳藤は不機嫌そうに返すと、若い娘達の前に近寄り屈み、目線を合わせた。
「お身体は大丈夫ですか?」
「は、はい……あ、あの……あなた方は……?」
鳳藤は少し艶っぽい笑みを作り、母子に声を掛ける。
対する若い母親は、禍々しい存在に変わって目の前に現れた見目麗しい女に、それまでとはまた別種の戸惑う色を見せながら、答えそして質問を返す。
「心配いりません、もう大丈夫。私達は、日本国陸隊です――」
それに対して、鳳藤はお決まりの名乗り文句を紡ぎ始めた。
十字路上に散らばった多数のオークの死体の中に、一つ、未だ這い動く一体のオークの姿があった。
先に制刻のヤクザ蹴りを食らい吹き飛ばされた、真っ先に若い娘を犯そうとしていたオークだ。
(なんダコイツら……クゾ……)
突然の得体の知れない存在の襲撃により、瞬く間に屍と化していった仲間達。そんな中で未だ生き残っていたオークは、ひっそりとその場を這い逃げようとしていたのだ。
「――ぎぇッ!?」
しかし、そんなオークの胴を突如として、半端でない圧が襲った。
何か大きな脚に踏まれるような感覚――いや、それは正しかった。
地に這うオークの胴は、その傍に立ったGONGのレッグにより、踏みつけられ圧されていた。
「ぁが……ごぅ!?」
圧迫され苦し気な声を零したオークだが、今度はそんなオークの視界が阻まれ、そしてオークは頭から宙に持ち上げられる。
見れば、GONGがまたもオークの頭を鷲掴みにし、そのその身体をぶら下げていた。
「一抜けなんか、させねぇよ」
さらにオークの身に、そんな声が掛けられる。
GONGの傍には敢日の立つ姿があった。しかし彼の様子はこれまでとは違っていた。
普段、陽気な様子のその顔は、眼は、氷のように冷たい物に豹変していた。
「ぁが……はなセ……!」
頭を鷲掴みにされて宙にぶら下がるGONGは、手足をばたつかせて必死に藻掻く。
「――GONG」
そんなオークをつまらない物でも見るように一瞥し、それから敢日はGONGに何か促す言葉を発する。
GONGはそれに呼応し動きを見せる。
空いたもう片方のアームの、その先を変形させ、何かの工具デバイスを展開させる。
――それは、複雑な形状の刃が絡み合う装置――小型のボーリング装置だ。
ボーリング装置は展開されると同時に、起動。モーター音を響かせ回転を始める。
本来、掘削作業が必要とされる場合に備えて、GONGのボディに搭載されているそれは、しかし今、オークの制裁のために使われようとしていた。
「――やれ」
再び、藻掻くオークを冷たい眼で一瞥した後に、敢日は冷たい一言を発する。
それが合図であった。
「!?――ぎゃぁあああアアッ!?」
次の瞬間、鷲掴みにされたオークの頭部、その牙の覗く口より、えげつない悲鳴が上がった。
そして視線をオークの下腹部に移せば、オークの股間部には、GONGのアーム先のボーリング装置が付き込まれていた。
これが、母親と男の子を毒牙に駆けようとした、オークに対する制裁であった。
「いぎゃぁぁ!?あぎゃぁぁア!?」
ボーリング装置は激しく駆動し、オークの股間を掻き、堀り、血と肉を飛び散らせる。
背筋の凍るような肉の音、機械の音が。そしてオークの悲鳴が上がる。
そして――ボトリ――と。オークの股間部より何かが地面に落ちた。
地面に落ち転がったもの。それはオークの陰茎であった。
本来なら猛々しく立派な代物であるそれも、持ち主の身より切り離された今、一切の存在意義を無くしたのであった。
GONGはそれから程なくして、オークの股間部よりボーリング装置を引き抜く。
ボーリング装置が引き抜かれると、掻き掘られたオークの股間部から、ビチャリビチャリと精巣等の内臓物が零れ落ちた。
GONGはさらに追い打ちとばかりに、その大きなフットで、地面に落ちたオークの陰茎と内臓物を、ぐちゃりと踏みつけミンチへと変えた。
「ひぁ……びぁ……」
もはや悲鳴にならない悲鳴を上げ、GONGのアームよりぶら下がりピクリピクリと痙攣しているオークの身体。
「――ぴゃッ」
そんなオークの頭部が、次の瞬間、パァンと爆ぜた。GONGがハンド、マニピュレーターに力を込め、オークの頭部を圧し潰したのだ。
支えを失い、凄惨な姿となったオークの身体は、ドチャと地面に落ちる。
「お前の行いの、対価だ」
そんな地面に崩れたオークの死体に向けて、敢日は冷たい目を向けながら、静かに言葉を吐き捨てた。
「相変わらず、この手に容赦が無いな」
冷たくオークの死体を見下ろしていた敢日に、背後より端的な声が掛けられる。
敢日が振り向けば、制刻の姿がそこにあった。
その向こうには、近場の家屋より拝借して来た毛布で、母子を包んでやっている鳳藤の姿も見える。
「あぁ、当然だ。外道には、制裁をだ」
対する敢日は、引き続きの変わらぬ冷たい口調で返す。
普段は陽気で人当たりの良い敢日であるが、しかし敢日は、外道を前には徹底して冷酷な姿勢となる一面を持っていた。
「気持ちは分かるが、頭に血が上りすぎねぇようにな」
そんな敢日の様子に、一方の制刻はいつもと変わらぬ淡々とした様子で、忠告の言葉を発した。
「――おい、やたら来たぜぇ!」
発し上げる声が、十字路上に響き渡ったのはその時であった。
声の主は朱真。彼の視線と構える小銃は、制刻等が来た町路の反対方向を向いている。その向こうには、迫る新手の姿が見えた。
響く重々しい足音。見えるは、ライマクの巨大な姿が、縦列で2体。
さらにその足元には、少なくとも一個小隊規模のオークやゴブリンから成る群れ。
「北東からも新手だッ!」
次いで上がったのは、鐘霧の声。
見れば十字路のまた別方、該当方向からも、迫る新手の姿が見えた。
数にしてライマク3体。モンスター達がこちらも一個小隊規模。
「ッ、本隊のお出ましか!?」
「配置しろ、防護陣形を取れ!」
二方向から現れ迫るモンスター達の群れ、部隊。その姿に敢日が忌々し気に発し上げ、鐘霧は指示の声を発し上げる。
「かなりの数だぞ……!」
その数を前に、剱は若干の狼狽えの声を上げながらも、母子の肩を抱いて、二人を近場の家屋へ避難させる。
「第3ラウンド――ちと、しんどそうだなッ」
敢日はどこか皮肉気に発しながら、ネイルガンを構え直す。
「んだが、蹴っ飛ばし散らかすしかねぇ」
そして制刻だけは、いつものように淡々と、そんな言葉を発する。
そして各々が、迫る手勢に対応行動を始めようとした――その時であった。
制刻等の後方、十字路の南西方向より、ドッ――という音と、それに伴う衝撃が伝わり来たのは。
「ッ――!?」
そして制刻等は、直上を何かが掠め飛ぶ感覚を覚える。
――直後であった。
十字路の北東方向町路より、重々しい足音を響かせて迫りつつあった3体のライマク。
その先頭に位置していた1体の頭部で、突如として爆炎が上がった。
上がった爆炎は、ライマクの頭部を完全に包み込み、焼き尽くす。そしてライマクは、悲鳴を上げる事すらなく、その太い脚を折り、地面に沈んで砂埃を上げた。
「今の――」
「あぁ」
今しがた起こった現象に、鳳藤が目を剥きながら声を零し、そして制刻は予測が付いている様子で一言発する。
「見ろよ、来やがった。こっちの〝モンスター〟の到着だ!」
そして朱真から、そんな歓喜の色の声が発し上がった。朱真始め各々の視線は、背後南西方向の町路の向こうへと向く。
その先に姿を現していたのは、待ちかねていた、鋼鉄の怪物――
日本国陸隊、機甲科戦車隊の保有運用する、〝90式戦車〟の姿であった。