―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》 作:えぴっくにごつ
制刻等は、戦いの舞台であった綿包の町を発し、後方の77戦闘団の仮設駐屯地へと向かう事となった。
河義と策頼は、KV-107にて先んじて発ち、空路で仮設駐屯地へ向かった。
そして制刻、敢日、鳳藤の三名とGONGは、敢日の愛車であるパジェロを用い、陸路での肯定を取っていた。
現在、敢日のパジェロは、仮設駐屯地へ一度戻る77戦闘団の車輛隊に同伴し、その最後尾に着いて平原を通る轍を進んでいる。
ちなみにパジェロの後ろには、走行モードへとその姿を変形させたGONGが追走していた。
パジェロの車内では、運転席で敢日がハンドルを操り、助手席には制刻が。そして荷物で占められていた後席に、どうにか作ったわずかなスペースに、鳳藤のいささか窮屈そうにしている鳳藤の姿があった。
「……あの、解放さん。私に合わせたい、その民間人の人というのは……?」
そんな現状にいささか難儀しつつも、鳳藤は運転席で愛車を操る敢日に向けて、戸惑いの混じった様子で質問の言葉を送る。
「すぐ分かるよ。きっとビックリするぜ」
しかし敢日はそれに明確な答えを寄越す事は無く、何か悪戯っぽい口調で、そんな台詞を寄越した。
程なくして車輛隊とパジェロは、仮設駐屯地へと到着した。
傍に87式偵察警戒車の鎮座する出入り口を抜けて通り、同伴していた車輛隊と分かれ、天幕や車輛、各種機器機材が並びひしめく中を、パジェロは縫い進んで行く。
そしてパジェロは、仮設駐屯地のおよそ中心部付近に乗り入れ、その一角で停車した。
「着いたぞ、ここだ」
運転席側から、他の二人に促しながら敢日が先んじて降り立つ。
「で、剱に合わしてぇ民間人ってぇのは?」
続き助手席側から降り立った制刻が、パジェロの車体越しに、敢日に向けて尋ねる。
「――ぁ」
しかしその時、制刻の背後よりそんな零された声が聞こえた。
それは、制刻と同時に後席より降り立った、鳳藤より零されたもの。彼女の視線は、パジェロより先の一方向を向いてる。
鳳藤の視線を追った先。そこに建つ天幕の前に、一人の人――女性の姿があった。
ハーフと思しき色白で整った顔立ちと、緩やかなロールをかけた長く淡い色の金髪が目を引く、美少女と言って過言ではない女性。
「あぁ」
鳳藤に続いてその金髪の美少女の姿を目に止めた制刻は、何か納得したように、そしてどこか興味無さげな様子で、一言呟き零す。
「そんな事……」
その傍ら、微かに目を見開き、そんな言葉を零す鳳藤。
そして直後、鳳藤はその金髪の女性に向けて、小走りで駆けだしていた。
慌て急くように駆けた鳳藤は、間もなくその金髪の女性の前へと辿り着き、相対。そのキリリとした鋭く特徴的な瞳を、また凛とした女性の瞳と合わせる。
「……
そして鳳藤は、その金髪の女性を名前と思しき物で呼ぶと、同時に女性の元へと踏み込む。そして自身より小柄な女性の身体を、その両腕で抱きしめた。
「剱様――」
そして金髪の女性――鎧と呼ばれた彼女は、それを当然と言った様子で受け入れる。そして鳳藤を下の名で呼び、そのか細い腕で鳳藤の身を抱き返した。
「会いたかった……ッ、ひょっとしたら、もう会えないかと……ッ」
泣き出しそうなまでの声色で、腕中の金髪の女性に向けて、そんな言葉を告げる鳳藤。そんな鳳藤をまるで宥めるように、金髪の女性、鎧は、鳳藤の背を優しく撫でた。
それから少しの間、互いの身体を抱き合っていた両者。
やがて鳳藤は一度腕を解いてから、金髪の女性の肩を抱き直し、その顔に視線を落とす。
「……しかし……どうして鎧さんも、この世界に……?」
そして、抱いた疑問を、戸惑いながらも腕中の金髪の女性に問う。
「それに、その恰好は……?」
続き鳳藤は、金髪の女性のその姿恰好を見て、また戸惑いの声を上げる。彼女はその麗しい容姿と大変に不釣り合いな、濃い青色のツナギをその身に纏っていた。
「えぇ、全てお話いたしますわ。剱様――」
鳳藤のその疑問に答えるべく、金髪の女性は、その口より説明の言葉を紡ぎ始める。
――彼女は名を、〝
その淡い金髪と顔立ちから来る印象は、一見、この異世界の民と見まがう程であるが、それは彼女が日本人とドイツ人のハーフであることが所以であり、彼女は日本国籍を有するれっきとした日本国民であった。
そして、彼女――龍宮艶は、鳳藤と〝非常に近しい〟間柄の人間であった。
そんな彼女が、なぜこの異世界の地にいるのか。
聞けば大まかな所は、制刻や鳳藤等、そして敢日と同じであった。
龍宮艶は元の世界――日本で自らの仕事に従事していた最中に、突如として異常現象に巻き込まれた。そして気付けばこの異世界の只中に転移させられていたとの事であった。
突然の理解の及ばぬ事態状況に、驚き困惑し、そして恐怖すら覚えた龍宮艶。
そんな彼女の前に現れたのが、他でもないパジェロに乗った敢日であったという。付け加え明かせば、敢日と龍宮艶も、元より互いを知る中であった。
そして龍宮艶は敢日により拾われ、さらにその後に二人は、同じく転移して来ていた陸隊の77戦闘団と合流。回収保護されたとの事であった。
「解放様にお会いできなければ、私はどうなっていた事か……この作業着も、解放様からお貸し頂いたものですの」
龍宮艶はその時の事を思い返しながら発する。そして付け加え、今のツナギ姿の出所と理由を説明して見せる。
「鎧ちゃん。最初会った時はスーツ姿だったからな」
そんな所へ、背後より別の声で説明の言葉が飛び来る。鳳藤が振り返れば、そこに敢日と制刻の姿があった。
「鎧ちゃんには少し似合わないが、ツナギの方が何かと楽かと思ってな」
「解放様、そして隊の皆様には、救われそして良くしていただいておりますわ」
敢日が続け説明し、それに続いて龍宮艶は敢日や陸隊に感謝する言葉を紡ぐ。
「そ、そうですか……」
しかしそれを受けた鳳藤は、何か少し難し気で、面白くなさそうな様子の言葉を零した。
「そして――自由様も、お久しぶりですわ」
そんな鳳藤の様子には気付いていない様子で、龍宮艶はその視線を制刻へと移すと、制刻を下の名前で呼び、挨拶の言葉を紡ぐ。
制刻と龍宮艶もまた、元より互いを知る間柄であった。
「ん?あぁ」
しかし対する制刻は、何か興味無さそうな、というよりも少し不快感のような物すら見せて、龍宮艶の言葉に適当な返事を返す。
「別に、好き好んで会いたくはなかったがな。アンタもそうだろ」
そしてどころか、突き放すように、そんな不躾な言葉を発して見せた。
「おい、自由ッ!」
そんな制刻の態度に、敢日が咎める声を発する。しかし制刻はその姿勢を揺るがす様子は無い。
「自由様……確かに、〝あの件〟は簡単に解ける事柄ではないと、理解しています。しかし――」
一方の龍宮艶は、その顔色に少し悲し気な様子を浮かべ、制刻に向けて一歩近づこうとした。
しかしその刹那。龍宮艶の行く手を阻むように、一本の腕が差し出された。
差し出された腕の主は、鳳藤だ。
鳳藤はまるで龍宮艶の身を庇う様に立ち、そして制刻に向けて鋭く険しい視線を向けている。
「鎧さん。コイツに、こんな醜悪な存在に近づいてはダメです――ッ」
そして、制刻をまるで仇敵でも前にしたかのように評し、龍宮艶に向けて警告の言葉を発する。
「ハッ。こっちから、お断りだ。誰が好き好んで、近づきたがるか」
一方の制刻は、鳳藤達に向けて、まるで煽るようにそんな言葉を端的に発して見せた。
「自由ッ!」
「剱様ッ!」
そんな互いに煽り悪態を飛ばし合った両者に向けて。敢日は制刻に、龍宮艶は鳳藤に向けて、それぞれ咎める言葉を発し上げる。しかしそれをもってなお、制刻と鳳藤は互いを睨みあったままだ。
「自由。私は忘れていないぞ――お前が、鎧さんにしようとした事をッ」
そして鳳藤は、制刻を睨んでそんな言葉を飛ばす。
「相変わらず、被害者面か。オメェ等が、解放にした事は棚上げか」
対する制刻は、呆れと微かな怒りの混じったような口調で、またも煽るように言葉を返した。
「剱様!自由様も!おやめください!」
「あぁッ――失敗したか……ッ?折り合いどころじゃないッ。俺等四人が揃ったせいで、ぶり返しちまったか……ッ」
そんな二人に向けて、龍宮艶は制止し収めるべく言葉を発し上げる。そして敢日は片手を額に当て、苦々しくそんな言葉を零す。
明かせばこの四人。過去に大きな諍いがあり、決して良好な間柄では無かった。
特に制刻と鳳藤は、その心の内では互いを忌み嫌っていた。これまでは曲がりなりにも同部隊員で同じ脅威を相手取る立場という事で、最低限のラインを維持し、間柄を保ってきた。
しかし今回。過去の諍いのキーとなった、それぞれの大事な存在。敢日と龍宮艶を伴い相対した事がスイッチとなり、互いへ抱いていた負の部分が、再燃してしまったのだ。
「おい、どうした!?」
「何をしてるの?揉め事?」
そんな、一触即発の空気が漂っていた所へ、端より別の声が飛び来た。
敢日や龍宮艶がそちらを振り向き、制刻や鳳藤も相対したまま、視線だけでそちらを向く。
その先あったのは、先んじてKV-107で仮設駐屯地に到着していた、河義と策頼。そして先に綿包の町で相対した、女幹部の直宇都の歩いて来る姿であった。
「おい、何があった?」
その中から、制刻と鳳藤の直接の上官である河義が駆け寄ってきて、両者の間に割って入り、そして状況を尋ねる。
「ッ……なんでもありません――鎧さん、行きましょう!」
しかし鳳藤は河義の質問に回答する事は無く、背後に居た龍宮艶の腕をやや荒々しく掴むと、彼女を引っ張って連れ、その場を立ち去った。
「あ!――ちょっとそんな、剱様!――み、皆様!すみません、また後程――!」
龍宮艶は戸惑いながらも、しかし力で勝る鳳藤に引っ張られ連れて行かれてしまう。龍宮艶からは皆に向けた謝罪の言葉が聞こえ、やがて二人の姿は建ち並ぶ天幕の中へと消えてしまった。
「……な、なんだって言うんだ?おい、制刻……?」
そんな様子を呆気に取られて見送った河義は、それから制刻に向けて再度尋ねる言葉を発する。
「こっちの事です。他所に、話す事じゃねぇ」
しかし制刻もまた、そんな言葉を零すだけで、詳細を説明する様子は見せなかった。
「?……よく分からんが……今の人が、穂播一佐の言っていた、もう一人の民間人か?鳳藤の知り合いなのか?」
良く知れない状況に戸惑いつつも、河義は今しがた鳳藤と一緒に去って行った龍宮艶の姿を思い返し、推察の言葉を発する。
「えぇ」
その疑問には、傍で額に頭を当てていた敢日が答える。
「鎧ちゃん――あの金髪の子は、剱ちゃんの〝許嫁〟なんですよ――」
敢日の口から紡がれたのは、そんな説明であった。
「な、なんですって……?い、許嫁……?」
しかし、敢日の口から出て来た予測していなかったワードに、河義はより困惑し、そして訝しむ様子を見せた。
「本当なの?龍宮艶さんも、今の陸士長も、どっちも女じゃない」
続け、直宇都も同様に、同様に訝しむ様子を見せて零す。
「あぁ、本当さ。あの二人は、どっちも実家がハンパじゃない良いトコでさ。その関係で色々家同士の面倒な取り決めがあって、その上で決められた事なんだと」
河義や直宇都の発した疑問の言葉に、敢日は噛み砕いた説明をしてみせた。
「……待って。あの陸士長、鳳藤って言ったわよね?まさかあの鳳藤?」
そこで、何か思い当たった様子で、直宇都が鳳藤の名字を口に出す。
「あぁ、そうさ」
「驚いた。名家中の名家じゃない……」
敢日の肯定の言葉。それを受けて、直宇都は驚いた様子で発する。
明かせば鳳藤の実家は、歴史深く、そして各方に多大な発言力を持つ家柄であった。それは、歴史の教科書に名が出て来る程の。
「なんでそんなトコの娘が、陸隊で陸士なんてやってるのよ……?」
それを知った直宇都は、どこか呆れにも近い様子で、傍らにいた、鳳藤の同僚である制刻に尋ねる。
「ヤツの事なんざ、知るかよ」
しかし制刻は、不躾にそう返すだけだった。
「ちょっと待てよ……じゃあ、民間人の彼女の方。龍宮艶と言ったが……まさか龍宮艶財閥か?」
続き今度は、河義が何かに思い当たり、驚きの様子で発する。
それは、龍宮艶の出身を明かす物。龍宮艶もまた、巨大な財力や影響力を持つ所を実家とする身であった。
「とんでもない、お嬢様達じゃない……」
それを聞き、感嘆の声を上げる直宇都。
「まったく……信じられない。鳳藤に龍宮艶よ?まともな神経なら、喧嘩を売るなんて間違ってもしない相手よ。何があって、あの子達に何をしたわけ……?」
そして再び制刻を見て、呆れと微かに恐ろし気な色を見せながら、発し尋ねる直宇都。
「ヤツ等が、ふざけた事をしでかして来ただけだ」
しかし制刻は、漠然とそんな言葉を返すだけだった。
「――今や、〝身等主義〟の拡大台頭で、どちらも大分、影響力を失ったと聞いてますが」
そんな所へ、それまで状況を見守っていた策頼が唐突に言葉を発し、そんな台詞を割って入れる。
「どうでもいい。俺からすりゃ、どっちも、ヤツ等も、気色悪ぃだけだ」
しかしその言葉にも、制刻は端的に返す。
「んで、水に流した覚えもねぇ。まだ何かしでかすようなら、今度こそヤツ等の全部を潰す」
続き、いつも通りの口調で、しかしどこか冷たくそんな言葉を発して見せる制刻。
「自由……ッ」
「解放。オメェに何か危害が及ぶようなら、なおさらだ」
困った様子で声を掛けた敢日。
制刻はその敢日をまっすぐ見据え、そして発した。