―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》 作:えぴっくにごつ
結局その後、制刻と鳳藤の間は拗れたまま、各種作業行動や調整は進められる事となった。
制刻、河義等、54普連の4分隊は、敢日と龍宮艶の民間人二名を、豊原基地の出現したスティルエイト・フォートスティートまで送り届ける事が、新たな任務となる。
龍宮艶の身は、鳳藤と河義が護衛し、KV-107にて先んじて豊原基地まで移送される事となった。
そして敢日に関しては、彼の愛車のパジェロとGONGの事もあるため、陸路で別ルートを取る事となった。これには、制刻と策頼が同伴し、護衛する。
すでに敢日側の準備調整は終わっており、今現在4分隊の各々は、離陸発進準備の整ったKV-107の傍で、龍宮艶の出発準備完了を待っている所であった。
「申し訳ありません!お待たせ致しました!」
そんな所へ程なくして声が聞こえ、そして龍宮艶が荷物を手に、慌て駆けながら姿を現した。恰好は引き続き、敢日から借り受けたツナギ姿だ。
「あぁッ、鎧さん!そんなに慌ててはダメですッ。転んで何かあったら……!」
現れた龍宮艶に、鳳藤がいの一番に駆け寄り、そんな言葉と共に龍宮艶の手を取る。
「んもう、剱様……」
過保護な様子を見せる鳳藤に、龍宮艶は困った様子で言葉を零し返す。
「ゆっくりで大丈夫ですよ。あなたのペースで」
そんな所へ、後ろに居た河義がフォローの言葉を飛ばす。
「いえ、ご迷惑はかけられませんわ」
その河義に、龍宮艶は改まった態度姿勢を作り、そう返す。
「ええと、あなた様が剱様――いえ、鳳藤の上官様であられる河義様で?」
そして龍宮艶は、鳳藤の身内のような振る舞いで、河義にその名前身分を確認する言葉を紡ぐ。
「はッ。河義三曹です。これより豊原基地まで、龍宮艶さんの護衛を務めさせていただきます」
河義は敬礼と共に、龍宮艶の言葉を肯定。そして自身の役割を説明する言葉を紡いで見せた。
「こちらこそ、何卒よろしくお願いいたしますわ」
対して龍宮艶は、優雅な動作で上体を下げ、挨拶の言葉を返して見せた。
「では、問題ないようでしたら、早速ヘリコプターへの搭乗を――」
「あ、ごめんなさい。少しだけ、お時間よろしいでしょうか?」
挨拶を終え、河義は早速、龍宮艶へKV-107への搭乗を促そうとした。しかし、龍宮艶はその途中でそんな願う言葉を挟んだ。
そう言うと、龍宮艶は隣に立つ鳳藤へと向き直る。
「――こちらを、剱様にお渡ししておかなければと思いまして」
そして龍宮艶は、手に下げていた旅行鞄と共に持っていた、布袋に包まれている細長い何かを、持ち直して鳳藤の前へと差し出した。
「鎧さん――これは、まさか――ッ」
それを目の前に差し出されると、鳳藤は少し驚いた色で、しかしその正体に気付いた様子を見せる。
鳳藤は龍宮艶の手よりそれを受け取り、布袋を解いてその中身を取り出した。
「やっぱり……ッ。私の、〝
布袋より姿を現し、鳳藤が手にしたそれ。
それは、日本刀であった。
そして鳳藤の口から、その日本刀に与えられた名らしき物が紡がれる。
続け、鞘に収まった刀を、慣れた手つきで抜き、その刀身を露にする。露となったのは、美しく光を反射する刀身。見る者が見れば、それだけでその刀が、かなりの業物である事が分かるだろう。
「まさか、また私の手に……ッ」
まるで旧友との再会を喜ぶように、手にし翳したその日本刀――誠皇の刀身に視線を走らせる鳳藤。
それもそのはず。誠皇は、鳳藤が幼き頃に与えられ、依頼愛用して来た、相棒だったのだから。
「私がこの世界に来た時に、一緒に手元にありましたの」
龍宮艶が、その鳳藤の相棒が、この世界に在る理由経緯を言葉にする。
「ふふ。この異世界まで、鎧さんと共に私を追って来たのか?」
それを聞き、鳳藤は少し妖艶に微笑み、誠皇に語り掛ける。
「相変わらず、オメェに似たイキり散らかしたシロモンだな」
しかしそんな所へ、無粋をお手本にしたような、煽るような声が飛んだ。
主は、他でもない制刻だ。
鳳藤が振り向けば、少し離れた所で、淡々と、そして白けた様子で制刻が視線を向けていた。
「フン。品の無い工具類を武器として好む、お前には分かるまいッ」
その制刻に対して、鳳藤は優雅なまでの動きで誠皇を鞘に納めながら、不敵な色を浮かべて言葉を返した。
「自由……ッ」
「剱様……」
そんな煽り合いの応酬を繰り広げた制刻と鳳藤を前に、敢日と龍宮艶は呆れあるいは困った様子で、手先を額に当てた。
面倒で鬱陶しい一悶着も区切りがつき、ようやくKV-107は、河義、鳳藤、そして龍宮艶の三名を乗せて、仮設駐屯地を発った。
仮設へリポートを離陸し、徐々に高度を上げ小さくなってゆくKV-107。
その後部ランプドアには、手を振る河義の姿が見え、敢日や策頼も地上よりそれに返しながら、KV-107を見送っていた。
「――所で。オメェはなんで、さっきから付きまとってんだ?〝染麗(そまれ)〟」
そのKV-107が空の向こうに消えて見えなくなった所で、それまでそれをいつもの読めない不気味な顔で見送っていた制刻が、口を開いた。
〝染麗〟という名前らしき物を口にし、呼びかけた相手は、隣に立つ一人の女隊員。
女幹部の、直宇都であった。
染麗というのは、彼女の下の名であった。
「私も、あなた達に同行するからよ」
制刻より不躾に投げかけられた質問に、顔宇都はどこか高飛車な色を無駄に滲ませながら、そう返す。
「あん?」
「私は連絡幹部として、あなた達の帰路に同伴、向こうの部隊に合流します。これは、穂播一佐の命令よ」
訝しむ声を発した制刻に、直宇都はその詳細を紡ぎ、説明して見せた。
「あぁ――また面倒なヤツが増える」
その説明により彼女が一緒に居る理由を理解、そして制刻は皮肉気な言葉を、端的に吐き捨てる。
「ふん、こっちの台詞よ」
それに対して、直宇都も同様に不機嫌そうに言葉を返す。
「おいおい、こっちも面倒事かよ……」
そして端からそのやり取りを見ていた敢日から、呆れと困惑の混じった声が零れて来た。
「ともかく、そういう訳だから。――あぁ、それと……」
そこで直宇都は話しを区切ると、自身の纏う迷彩服の胸ポケットに手を伸ばす。
「これを、あなたに渡しておくわ」
そしてポケットより何か折りたたまれた封筒を取り出し、それを制刻へ突きつけるように差し出した。
「あぁ?」
差し出されたそれに、制刻は訝しむ色を浮かべる。
「あんだこりゃ?」
「見れば分かるわ」
疑問の声を発した制刻に、対する直宇都は何か、気に入らなそうな様子でそう返す。
制刻は訝しみつつも、差し出された封筒を荒く受け取る。封筒には複数の何かが入っている様子で、制刻は封筒を広げ開いて、その中身を自身の手の平に開けた。
「あぁん?こりゃぁ――」
制刻の手の平に落ちて姿を現したの物、それは、2つ一組の布辺であった。
色は濃い緑色。将棋の駒を連想させる、縦長の五角形の形状をしている。
それは陸曹の階級章の物――いや、厳密には違った。
陸曹の階級章は、三等陸曹なら一本のくの字が。二等陸曹なら二本、というように、階級に応じた数のくの字が、刺繍されているはずである。
しかしその階級章には、一本のくの字も刺繍されておらず、尖った上部に桜のマークだけが刺繍されていた。
あまり見ない、いささか変わった階級章――これは、〝予勤〟階級者。
正式名称、〝准曹予備勤務者たる士〟に着用が義務付けられる階級章であった。
補足すればこの階級は、陸隊において三等陸曹と陸士長の間に置かれる物であり、陸軍時代における伍長勤務上等兵に類似した物である。
「あなたを、予勤に戻すそうよ。これも、穂播一佐の判断よ」
階級章に視線を落として、訝し気な色を浮かべている制刻に向けて、直宇都は引き続きのつまらなそうな口調で、そう発して見せた。
「穂播が?一体何を企んでやがる?」
制刻は、元々この予勤階級者であった。しかし過去に身を投じた樺太事件の際に、上層部と諍いが起こり、それによって陸士長への降任を受けた身であった。
そんな自身へ、今唐突に舞い込んだ昇任、いや復任とも言うべき話。
しかし制刻はそれを正直に素直に受け取る取る事はせず、より訝しむ色を浮かべた。
それもそれを判断したのは、自身と確執のある穂播だと言う。制刻の疑いも、無理は無かった。
「人聞きの悪いことを言う物じゃないわ。穂播一佐は、これまでと今回のあなたの行動を、評価しているのよ」
そんな制刻に、直宇都は説明の言葉を紡ぐ。
穂播には、先の戦闘での制刻の活躍。さらには河義を通じて、この異世界に降り立って以来の行動活躍も伝えられていたそうだ。
穂播はそれ等の功績を鑑み、制刻を予勤に戻すことを決定したようだ。
「まぁ、卑しくも〝樺太事件の特異点〟なんて呼ばれているんだから、その自覚を持てという忠告の意味もあるのかも知れないけど」
直宇都は説明に付け加えるように、どこか皮肉気な様子でそんな言葉を付け加える。
「いい?表立っては厳しく接しているけど、心内では穂播一佐は、あなたの事を評価し、そして気にかけているのよ。あなたも変にやさぐれてないで、その辺りを考えてみる事ね」
そして厳しい顔を作り、そんな忠告の言葉を制刻へ叩きつけた。
「ハッ」
しかし制刻は、その言葉を端的に嘲笑の様子で一笑。そして直宇都との間合いを一歩詰め、その顔を微かに険しくする。
「ヤツはあん時、俺を――いや、残された味方を、まとめて吹き飛ばしたんだぞ?そんなヤツが、信用できるかよ」
そしてそう言葉を紡ぎ、直宇都に叩きつけ返した。
「ッ!それは――!」
制刻の言葉に対し、直宇都は少し気圧されつつも、反論の言葉を返そうとする。
「ゴタゴタ、価値観を交わす気はねぇ。一緒に来るなら、とっとと準備を終えろ」
しかし制刻は、直宇都の反論を遮り突っぱねる。
そして彼女に促すと、身を翻してその場を立ち去った。