―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》 作:えぴっくにごつ
町に辿り着いた制刻等は予定通り、77戦闘団より発出して駐留している、一個班と合流。しかし制刻等は早々、その合流した一個班の様子に訝しむ事となった。
班の隊員等は、何か難しい様子で警戒態勢を取る、装甲車を回し陣取らせるなど、物々しい様子を見せていたのだ。
確かに、先の77戦闘団主力の位置する綿包の町では、戦闘が終結したばかりであり、その後方であるこの絹織の町周辺も、予断を許さぬ状況ではある。しかし班の様子は、それを鑑みても物々しさが過ぎた。
その理由の説明を受けるべく、制刻等は班の隊員の案内を受け、班の指揮官の元を尋ねた。
広くは無い絹織の町の町並みを抜け、中心部近くの一角へ出る。
すると真っ先に、町内の広場に鎮座する、異質な物体が目についた。
計8つの大きな車輪を備えた、鋼鉄の車。
22式装輪装甲車――開発段階ではMAVと通称された装甲車が、そこに鎮座していた。96式装輪装甲車の後継として開発、採用配備された車輛で、96式に似ながらも、よりなめらかとなった装甲処理が特徴的だ。
そしてそんな22式装輪装甲車の隣で、声を張り上げる一人の男性隊員の姿がある。
「――そう。整ったら、22も南側の門に持ってく」
22式装輪装甲車の車上のドライバーと、何等かの言葉を交わしていた隊員は、そこで自らに接近する気配に気づき、振り向いた。
「
振り向いたその隊員に、制刻等を案内して来た隊員が言葉を送る。その言葉と、振り向いたその隊員の襟に見える階級章から、菅立と呼ばれた彼が二等陸尉であることが分かった。
「菅立二尉。本部管理中隊、情報小隊の直宇都二尉です」
その菅立に、直宇都が先んじて己の所属姓階級を名乗り、敬礼。
「あぁ、来たのか――第7中隊、第1小隊の菅立二尉。悪いね、出迎えも出来ず。ちょっと、忙しくなってね」
それに菅立も己の所属姓階級を名乗り返し、そして、どこか柔らかい口調でそんな詫びる言葉を述べる。
「それと、懐かしい顔がいるね。話は本当だったのか」
それから続け菅立は。直宇都の隣に視線を移して、そこに居る制刻の姿を見止めてそんな言葉を発した。
「久しぶりだ、制刻予勤」
「えぇ、どうも。菅立二尉」
懐かしむ様子で、菅立は制刻の名と階級を呼ぶ。対する制刻は、いつもと変わらず端的な口調で、それに返した。
「無事、復帰したようで」
「あぁ。おまけに、当時は中隊付きの新米だった僕が、小隊を任せられるまでになったよ――あの時、君が救ってくれたおかげさ」
そして続け制刻が発した一言。それに、菅立はそんな言葉を紡ぎ、そして制刻に向けて、感謝する言葉を発した。
先の道中、直宇都と策頼の会話で上がった、樺太事件初期段階で慣行された、味方を巻き込んでの砲撃空爆。当時、菅立はそれに巻き込まれ、負傷を負った。そしてその際、制刻に救われた過去があったのであった。
「君の話も聞いてるよ。降任処分だなんて、憤りを感じて止まない――」
そして、制刻が降任された件を口にし、不服と残念さの混じった様子で言葉を零す。
「あぁ。それに関してなんですが、ついさっき予勤に戻されました。穂播のヤツの企みで」
「それは――本当かい」
「えぇ」
驚く様子を浮かべた菅立に対して制刻は、今しがた自分が階級を戻された件を、話して見せた。それに驚く様子を見せた菅立に、制刻はまだ縫い付けていない予勤の階級章を、取り出し翳して見せる。
「それはいい知らせだっ。――やっぱり穂播一佐も、本心では君を評していたようだね」
「どうですかね」
聞かされた報に、うしれそうな声色でそう発する菅立。しかし対する制刻は、どこか白けた様子で、そんな一言を零して見せた。
「あの、菅立二尉……そろそろ、よろしいですか……?」
そんな会話が交わされていた所へ、おずおずとした言葉が割り込まれる。見れば傍に立った直宇都が、少し困った様子を浮かべていた。
「あぁっ、ごめんごめんッ。つい、話し込んじゃった――っ」
割り込まれた直宇都の言葉に、菅立は困り笑いを浮かべながら、謝罪の言葉を発する。
「えっと……どうにもこちらの班は警戒態勢に入っているようですが……何かあったのですか?」
「うん。説明するよ――」
そんな菅立に、状況を尋ねる直宇都。それを受けた菅立は、その顔を真剣な物に変え、そして説明の言葉を紡ぎ始めた。
菅立の話によれば、どうにもこの絹織の町より南方から来る予定となっている、商隊や荷物、他来訪予定者が、二日前から悉く到着していないのだという。
ここより南方には、愛平の町という国境線近くの町があるという。
不審に思った絹織の町は、その愛平の町に便り馬を出したが、それすらも帰ってこなくなったと言う。
「そりゃ、臭うな」
一連の説明を聞き、制刻が一言零す。
それ等の出来事により、いよいよ町の住民達が事を大きく見始めたのがつい先ほど。そしてその事態は菅立等にも伝わり、班は警戒態勢に入ったとの事であった。
「さっき、戦闘団本部にも報告の一報を送った所だよ。君達とは、入れ違いになってしまったみたいだね。――窓陽(まどひ)一士、地図をお願い」
菅立そう説明の言葉を発し、それから一緒に居た陸士に地図を要請。
陸士はこの世界の物であろう、地図を取り出し広げ差し出し、制刻始め各々は、それに視線を落とした。
それはこの近隣の地形配置を描いた物であった。
「ここが、今僕等がいる絹織の町。そこからほぼ真っすぐ南下していった先、隣国との国境付近にあるのが、愛平の町。おそらくこの町で、何か起こっている物と思われる」
菅立はその地図上で指先を走らせ、それぞれの位置関係を説明して見せる。
「――面白くねぇ、位置関係だな」
そんな所へ、制刻がそんな言葉を零した。
制刻は、菅立と入れ替わり引き継ぎ、地図上でその禍々しい指先を走らせる。
制刻の指先は、愛平の町よりさらに南下し、国境を描く線を越える。そして入ったのは、隣国、〝紅の国〟の領地。そこからさらに南下して行った先にあったのは、〝草風の村〟。
そこは、制刻等の所属原隊である54普連を中心とする各隊の指揮所が置かれ、そして現在活動の中心となっている場であった。
「ここ――確か54普連が指揮所を置いている所ね……?」
制刻の隣でその指先を追っていた直宇都も、その事に気付き言葉を発する。
「あぁ――丁度、延長線上に面倒事が居座ってやがる」
制刻はそれを肯定。そして面倒臭そうに発する。
その問題が起こっているとされる愛平の町は、77戦闘団の現在位置と、54普連の現在位置を結んだ、直線上に存在していたのだ。
「ッー……これは、歓迎し難いね……」
それを聞き、菅立も難しい顔で呟く。
その愛平の町で何が起こっているのかはまだ分からない。しかし、懸念すべき要因が77戦闘団、54普連それぞれの近隣に存在し、その後方を脅かしている。そして両者を結ぶ連絡路を隔てている今の状況は、菅立の言葉通り、歓迎し難いものであった。
「まず、状況を把握しないと……しかし……」
そう言葉を零すも、しかし菅立は続き渋い様子を見せる。
何が起こっているか分からない以上、偵察隊を向けるのであればそれ相応の備えをさせる必要がある。しかし今の77戦闘団は、綿包の町に主力を投入している他、各方にも偵察警戒のための分~小隊を派遣している状況であり、これ以上の余力は無いのが現状であった。
「こっちから隊を出すのは、難しいか……」
「んじゃ、ウチから出しましょう」
苦い言葉を発した菅立。そんな所へ、制刻がおもむろに発した。
「向こう(54普連)からなら、装甲小隊が出れるはずです――」