―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》 作:えぴっくにごつ
笑癒の公国の南地方。隣国、紅の国との国境線近く。
人々の往来で出来た轍を行く、馬に引かれる荷台の馬車があった。
「お、見えて来たぞ」
その内の先頭を行く御者席に座す、中年の男性が声を上げる。彼の視線の先、轍の続く向こうには、城壁で囲まれた町が見えていた。
見えた町は、国境線近くに存在する、愛平の町だ。
「やっとか」
「今回も、いい商売ができるといいわね」
荷台からは同乗していた男女が覗き出て来て、それぞれ声を上げる。
彼等は、商人の一行であり、商売のために愛平の町を訪れたのであった。
「ああっ。今回も、皆頼むぞ」
御者席の中年男性は、仲間達に明るく発し、そして馬を町へと進めた。
商人一行の二台の馬車は、愛平の町の城門前まで辿り着いた。しかしそこで、商隊一行は、妙な状況に出くわした。
町の城門は開け放たれていた。そしてしかし、外から来訪者が来たというのに、衛兵が出て来る様子などはなく、どころか周りに人の気配は無かった。
「……?おかしいな、誰も出てこないぞ」
呟く御者席の中年男性。
「……おーい!」
商隊一行が訝しんでいる所へ、城門の向こうより声が聞こえた。
見れば、城門の向こうで少し小柄な衛兵が、こちらに向けて手を振っていた。
「すまない、門の修理中なんだ!……そのまま入ってくれ!」
そして衛兵は手招きをしながら、商隊一行に向けてそんな言葉を寄越して来た。
「修理中だって」
「ふーん。にしても、なんだか不用心だな」
そんな衛兵の姿と呼びかけを受け、商隊一行はそれを少し妙に思いながらも、一応の納得の様子を浮かべる。
そして手綱を操り馬を進ませ、一行の二台の馬車は、開け放たれた城門を潜り、町の中へと入った。
――その直後であった。
キィィ、という心地の良くない音が一行の背後より聞こえ、そしてバタンという大きな音が響き超えた。
「うっ!?……え……?」
突然の大きな音に驚き、そして背後を振り向く中年の男性。
見れば先まで開け放たれていた、修理中と聞いた背後の城門扉が、固く閉ざされていた。
しかし――さらに巻き起こった事態に、そんなことは細事であった。
「え……ぁ……きゃああああッ!?」
商隊一行の中の、一人の女性から甲高い声が上がる。
そして、一行の全員がその理由を嫌がおうにも知る。
周辺近場にあった、家屋の扉や窓。路地やその他隙間。その至る所から、人ならざる異形の存在――オークや、そして触手の魔物が、湧き出るように姿を現していたのだから。
「な!?お、オーク!?それに……触手獣!?」
突然目の前に現れたそれ等に、中年の男性は驚きの言葉を上げる。
「これは……わ、罠だぁ……!?」
「に、逃げ……う、うわッ!?」
事態に、自分達が魔物達の張った罠に掛かった事に気付いた一行。そして彼等はその場より逃げようとしたが、しかしもう遅かった。
背後の門は固く閉ざされた。そしてなによりオーク達と、気色の悪い動きで這い迫って来た触手達は、あっという間に商隊一行を囲ってしまい、その逃げ道を塞いでいたのだから。
「そんな……ぎゃぁッ!?」
オークと、そして触手達は、馬に。そして商隊の人間に襲い掛かり出した。
踏み込んで来たオークの振るった斧に、商人の男の一人が無残にも切り殺される。
「やめて……うぎゃぁ!?」
「ぐぇッ!?」
「や、やめて……くれぇ……ぁ、ぎぇっ」
オーク達は商隊の男を切り殺し。触手達は男をその身で貫き、あるいは巻き付き絞め殺してゆく。
「いや……放して、やめて!」
「いやぁ!そんな……むぐぅ!?」
その一方で同時に、オーク達や触手達は、商隊の女達を乱暴に捕まえてゆく。そしてあろう事か、捉えた女たちの服を破り割き、その場で囲い犯し始めた。
オーク達はその股間の自慢のモノを。触手達は多数の触手の中でも、生殖に使用される部位を、容赦なく女たちに尽き込んで行く。
「そんな……こ、こんな……」
次々殺され、あるいは犯されてゆく商隊の仲間達の姿。突然として自分たちの身に起こった地獄のような出来事に、中年の男性は御者席で震え、しかし呆然としてる。
「ぐぇ!?ぁ……」
しかしそんな中年の男性にも、直後には触手の魔の手が襲った。
「ぁぁ……こぇっ」
中年の男性は、首に纏わりついた触手にその首を折られ、惨たらしい最後を迎えた。
「ぎゃはハッ!また収穫だぜ」
「メスは二匹いたぜ、二匹!」
「ははハッ!触手共、がっついてやがる!」
男は惨たらしく殺され、女は囲まれ犯される地獄絵図。
しかしそれは一方で、オークや触手達にとっては、笑い喜ぶべく収穫の場であった。
オーク達は笑いながら、馬車に積まれていた荷をひっくり返して漁っている。一部のオークは、商隊の男達の死体を裂いて晒して、玩具のようにしている。そしてまた一部のオーク達は、捕らえた女を代わるがわるで犯していた。
またその脇では、触手が女を捕まえ群がり、同様に犯していた。
そんな地獄の宴の端で、震えながらそれを目の当たりにしている、一人の人間の姿があった。
それは、先に商隊を招き入れた衛兵。その兜の開口部から覗くのは、女の物である目元鼻立ち。衛兵は女であった――いや、違う、彼女は衛兵などではなかった。
「げへへ。お前のおかげで、うまくいったぜ」
「名演技だったゼ」
そんな彼女の元へ、オーク達が集まって来て囲う。
「ぁ……ありがとう……ございます……」
そんなオーク達に、女は明らかに怯えた震える声で返す。
彼女は、この愛平の町の一住民であった。
――この愛平の町は、数日前にオーク達の襲撃を受け、そして陥落していた。
現在、この笑癒の公国の北部地域で、活動攻勢を行っている魔物の軍団。
これに同調参加しようと、笑癒の公国国内や近辺では、いくつかのオークの部族が活動を開始していた。
その部族の内のいくつかが、その途中で合流、肥大化。
それが今回、愛平の町を襲ったのだ。
オーク達は、食料や物資。そして欲の履け口を求めて、軍団への合流を目指す道中に見つけた、愛平の町を襲撃。
肥大化していたオークの群れ。そしてオーク達の飼い伴っていた触手の魔物は脅威であった。
対して、中の下程度の大きさである愛平の町。そして規模兵力の限られる駐留騎士団。町の守りは、お世辞にも十分とは言えなかった。
かくして、抵抗も虚しく町の防御は崩され、そして町は陥落。
抵抗した男達は容赦なく殺され、惨たらしく晒され、それを見せつけられた町人達は降伏。オーク達の軍門に降り、虜囚の身となった。
それからオーク達は、食料や物資を好きな町から好きなままに奪い、そして町の女達を慰み物にした。
ばかりか、オーク達はこの町を一時的な拠点と、さらに罠として利用。まだ町の陥落した事実を知らず、町に訪れる商人や旅人を襲い、さらなる糧を得る事に利用し始めた。
今しがたの惨劇も、その一幕であった。
オーク達は、殺してしまった町の衛兵代わりに、捕らえた町の女に衛兵の恰好をさせ、衛兵の振りをする事を強要。商隊や旅人を誘い込み、罠に嵌めるための手助けをさせていたのだ。逆らえば、囚われている家族を殺されてしまうため、彼女に拒否は許されなかった。
「ぁぁ……ごめんなさい……」
震えながら、目の前で晒される男達の死体や、犯される女達に向けて、謝罪の言葉を漏らす女。
「おい、しみったれた声出すナ。気分が滅入るだろうガッ」
「そうだそうダ。それより、俺達もお楽しみといこうゼぇ」
そんな女と反して、何か下卑た声を口々に上げるオーク達。
「え……あ、ひ!?」
そして女の口から悲鳴が上がる。オーク達は、女を囲いその手足を乱暴に取り羽交い絞めに死、そして女の纏っていた衛兵の鎧を脱がせ、剥きだしたのだ。
「い、いや!そんな、お許しをぉ!」
「うるせェ!天国見せてやるから、覚悟しなァ!」
「ギャハハ!」
慈悲の言葉も届かず、女は笑い声を上げるオーク達に犯され始める。
またも町の一か所で始まった惨劇。
この愛平の町は、絶望と欲望渦巻く、絶望の渦中に落とされたのであった。
絶望、惨劇の舞台と化した愛平の町より、数百メートル地点。
広がる平原の一点に存在する、浅い窪地。
そこに這い身を隠す、何か巨大な体躯の存在が居た。
その存在は、体躯相応のその武骨な手に、遠見鏡――この世界で流通する、簡易的なフィールドスコープを持ち、それを覗き町の方向を観察していた。
「――なんという事だッ」
独特の重々しい声色で、そしてどこか苦々しい様子で、存在はその口から言葉を零す。
「ッ……急ぎたいが、忍び込むには夜を待つ必要がある……」
続け、焦れったい様子の言葉を発するその存在。
「前の抜け穴がまだ使えればいいが……サウセイ、どうか無事でいてくれ――ッ」
そして存在は、願うような口調でそんな言葉を零した。