―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》   作:えぴっくにごつ

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2-4:「装甲車隊」

 場所は隣国、紅の国。その領内にある、草風の村へ。

 この村は、先日の日本国民――水戸美の回収作戦の際に、日本国隊の前進拠点となった。

 そして国民回収作戦こそ終わったが、今もこの紅の国内部で渦巻く陰謀、諸問題。それによる村への脅威は去っておらず、隊は引き続き草風の村へ駐屯していた。

 そして、その村内の一角。村内を通る道の上。

 そこには、村の牧歌的な景色と比べて、あまりにも異質な物体、存在の数々が列を成し鎮座している光景があった

 そこに鎮座するは、鋼鉄で形作られ、濃い緑色で塗装された巨体を有する怪物。

 それは、日本国隊、第54普通科連隊、第2中隊、装甲車隊に配備された、装甲車輛群であった。

 この異世界に存在するモンスター達もかくやという程の外観の、装甲車輛の群れ。

 しかしそんな装甲車輛の周りには、そこに集まり群れてはしゃぐ、子供達の姿があった。

 彼等彼女等は皆、この草風の村の子供達である。

 先日、傭兵隊の襲撃を受けたこの村を救った事に始まり、その後も隊は村に降りかかった諸問題を解決し、そして可能な限りの支援を行った。

 そんな隊に対して、村の子供達はすでに恐怖や警戒の色は無く、毎日興味深々と言った様子で、隊員や装備の元へ訪れていたのであった。

 今も、装甲車輛の搭乗員が子供達の相手をし、順番に装甲車輛に乗せてあげるなどのサービスを行っていた。

 

「――ペリスコープは視界が限られる、車内からだけでは視界情報が不十分だ。車長は可能な限り車上に出て、周辺を警戒する」

「ッ、難儀な役割だな」

 

 そんな賑やかな光景が広がる傍ら。列を成し鎮座する装甲車両群の内の一輌。

 89式装甲戦闘車の車体、砲塔上では、指南の声と、それに対して返された忌々し気な声が上がっていた。

 装甲戦闘車の車体上、砲塔の前には、そこに立つ男性三等陸曹、芹滝(せりたき)の姿がある。彼は転移の第2段階、ウェーヴ2により新たにこの異世界に飛ばされて来た隊員であった。

 その芹滝は、その視線の先、ハッチの開け放たれた車長用キューポラの、その中を覗き込んでいる。

 その中。装甲戦闘車の砲塔内部、車長用の座席スペースには、そこに座り収まるもう一人の隊員。髄菩(ずいぼ)陸士長の姿があった。

 

「ったく。そのまま車長にスライドとか、冗談じゃない――」

 

 車内、車長用席で、苛立ち混じりにぼやきながら、髄菩は事の経緯を呪った――

 ――先日行われた、国民回収保護作戦。

 その最中に、髄菩の上官。89式装甲戦闘車の本来の車長であった、穏原(おだわら)三等陸曹が、敵の攻撃により殉職。それ以降の作戦継続のため、髄菩が車長を代行した。

 しかし、それはあくまで一時的な役割と思われ、髄菩当人もそう思っていた。

 作戦終了後には、新たに転移して来た装甲車隊の合流もあり、装甲戦闘車の車長には新たな人物が任命され、自身は砲手に戻る事を、髄菩は疑わなかった。

 だが、そうはならなかった。

 髄菩にはそのまま引き続き、装甲戦闘車の車長の務めるよう、指示がなされたのだ。

 転移の第2段階により装甲車隊の人員こそ増えたが、装甲戦闘車のノウハウを有する隊員は限定されていた。そして89式装甲戦闘車の車長に当てるには、髄菩をスライドさせるのが一番適切――というより面倒が無いというのが、その判断の理由であった。

 髄菩はこの決定指示に、大変に嫌な顔を隠す事無く見せたが、余裕のない現状から、指示が覆る事は無かった。

 そして、89式装甲戦闘車の派生型である、93式装甲戦闘車の車長である芹滝が、車長としてのノウハウを教えるための教育役に選ばれ、こうして指南を受ける現在に至ったのである。

 

「人が足りてないんだ、仕方ないだろ」

 

 ぼやいた髄菩の頭上、ハッチの向こうから、芹滝の声が降りて来る。

 

「ハッ。無暗に首を突っ込まなければ、〝足りなく〟なる事なんぞ無かったんだ」

 

 しかし髄菩は、それに対して吐き捨てるように返す。

 髄菩は、この異世界に介入することに、良い顔はしていない立場であった。そしてそれは、穏原の殉職を以て、より強い物となっていた。

 

「――日が傾いて来た。今日はここまでにするか」

 

 この世界に来て間もなく、そしてこれまでの経緯を聞き及んだ所でしか知らない芹滝は、その言葉に対して難しい顔を作る事しか出来なかった。

 そして何気に視線を上げた所で、空の色が変わりかけている事に気付き、切り上げる言葉を口にした。

 

「はぁッ。やれやれだ」

 

 それを受け、髄菩はぼやき零し、被っていた装甲車帽を脱ぐ。そして車長用キューポラを登って潜り、砲塔上へと這い出した。

 

「各部確認を忘れるなよ」

「あぁ、はいはいッ」

 

 芹滝の掛けた忠告の言葉に、髄菩は手をひらひらとさせながら、投げやりに返す。

 補足すればこの二人。階級こそ違うが、教育隊の同期同班であり、また同い年同士であった。

 

「ったく――」

 

 そんな髄菩の様子に呆れの一言を零し、芹滝は装甲戦闘車の車上より飛び降りる。

 

「――ほら、子供達。今日は解散だッ。お父さんお母さんが心配するぞ」

 

 そして傍の装甲車に集っていた村の子供達に向けて、促しながら歩み近寄ってゆく。

 子供達からは「えー」と不服や残念そうな声が上がったが、芹滝に説かれ、やがてワラワラと散ってそれぞれの家路に付いていった。

 

「――ん?」

 

 そんな様子を車上、砲塔上よりつまらなそうに眺めていた髄菩。しかし直後、髄菩は別方より近づく別の気配と足音に気付く。

 そちらに視線を向ければ、その先よりこちらに歩いて来る一人の隊員が見えた。それは今現在、最初にこの異世界に飛ばされて来た54普連始め、各隊の陣頭指揮を代行している陸曹――井神(いのかみ)一等陸曹であった。

 

「芹滝三曹!」

 

 歩んで来た井神は、芹滝を呼ぶ声を発し上げる。

 そして89式装甲戦闘車の傍、髄菩の眼下を通り抜け、その先の芹滝へと近寄ってゆく。

 

「井神一曹?何かありました?」

 

 呼ぶ声に芹滝は振り向き、井神の少し急いた様子を見て、何らかがあった事を察し、尋ねる声を上げる。

 

「あぁ――戦闘団へ合流に向かった制刻から、新たな懸念事項の発生と、それに伴う部隊を出動要請があった」

 

 それに答え、井神は説明の言葉を紡ぐ。

 

「装甲小隊を編成して、出動してもらう。こんな時間からで悪いが、これから準備をしてくれ――」

 

 そして井神は、芹滝に向けて要請指示の言葉を発した。

 

「――チッ。また、面倒事だ」

 

 その言葉、やり取りを89式装甲戦闘車の砲塔上で聞いていた髄菩。彼は聞こえ来た内容と、これから自分等が当たる事になるであろう動きに、忌々し気にそう言葉を吐き捨てた。

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