―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》   作:えぴっくにごつ

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2-5:「Vehicle CombatⅠ」

 翌朝、早朝。

 視点は再び制刻等の元へ。

 制刻等は、笑癒の公国の絹織の町を出発。何らかの事態が起こっていると思しき、国境付近に在る愛平の町を目指して、南下、行程を開始した。

 一夜越して時間を空けたのは、夜間戦闘を避けるため。そして、紅の国より出動する装甲小隊の準備時間を鑑み、現地での到着合流の時間を合わせるためだ。

 制刻等の編成は昨日と同じく、敢日の愛車のパジェロ、新型73式小型トラック、そしてGONG。

 件の愛平の町を目指して、轍の上を縦隊で進んでいる。

 

「――あれだな」

 

 先頭を務めるパジェロの車内、運転席でハンドルを操る敢日が声を上げる。

 彼の視線の先。2つ程連なる低く緩やかな丘の向こうに、城壁に囲われた町らしき物が見えた。

 

「エピックよりイシムラ。丘の向こうにそれっぽいのが見えた。二つ目の丘のてっぺんで、一度停まるぞ」

 

 助手席に座す制刻もそれを確認。

 同時に制刻はインカムを用いて、後続の小型トラックに指示の言葉を送る。

 

《はいはい……》

 

 通信での呼びかけには、直宇都の声で、何かウンザリした様子の返答が返って来た。

 この行程開始以来、その指揮音頭は、幹部である直宇都を差し置いて、当たり前と言うように制刻が執っていた。それが、直宇都のウンザリした声色の理由であった。

 車列はそのまま一つ目の丘を越えて通過。二つ目の丘を駆け上がり、その頭頂部で縦隊を解き、斜めの横隊を雑把に組み直して停車。各員は車上より、その先の緩やかな丘の上に立つ、町の姿を見止める。

 

「――見た感じ、変な様子は無いな」

 

 運転席からフロントガラス越しに、町の様子を観察した敢日が呟く。町は、外観を見た限りでは、特段変わった様子は無かった。

 

《あの町は、異常の原因じゃないのかしら……?》

 

 インカム越しに、直宇都からそんな勘ぐる声が寄越される。

 

「――いや、ここで間違いねぇ」

 

 しかしそんな敢日や直宇都の言葉に、制刻が意を挟む声を発した。制刻は助手席で双眼鏡を構え覗いている。

 

「何だ、何が見える?」

「町の北東側。ちょい離れた所」

 

 制刻が何かを見つけた事に察し気付き、敢日は尋ねる声を上げる。制刻はそれに答え、端的に今自分が見ている個所の位置情報を答える。

 

「――あれは?」

 

 敢日も予備のスコープを双眼鏡代わりに構えて覗き、目を凝らす。そして示された箇所に、何か複数の影が動く様子を見止めた。

 まず真っ先に見えたのは、町から離れるように走っている、二つの人影。よくよく見れば、それは二人の子供である事が分かった。

 そして、その二人の子供より後方に見えたのは、いくつもの緑色の大きな存在――オーク達であった。

 

「ッ――追われてるッ!」

 

 状況を掌握し、敢日は発し上げる。

 二人の子供は、オーク達に追われていた。

 子供達は必死に逃げているが、その足取りは頼りなくたどたどしい。さらに、町の方向からは徒歩のオークだけでなく、陸竜に跨り迫るオークの姿も見える。このままでは子供達が追い付かれ、捕らえられるのは明らかであった。

 

「やるぞ」

 

 制刻は肉声で敢日に、そしてインカム越しに直宇都や策頼、GONGに向けて端的に発する。

 

「オーケー」

 

 それを合図に、敢日はパジェロのアクセルを、力強く踏み込んだ。

 

 

 

「――え、ちょッ!?」

 

 パジェロに隣接して停車していた小型トラックの運転席上。そこで直宇都は、目を見開き驚きの声を上げた。

 制刻の端的な言葉を合図に、敢日のパジェロが。そしてGONGが、急加速で飛び出していったからだ。幹部でありこの場の最高階級者である自分に、何の断りも相談も意見具申も無く。

 

「待……っ!いくらなんでも勝手に戦闘を……!」

《染麗、遅れるな》

 

 困惑している直宇都の耳に、制刻よりインカム越しに、当たり前のように出遅れを咎める言葉が寄越される。

 

「二尉、発進してください」

 

 そして彼女の背後から、後席で軽機に着く策頼より、要請の言葉が降って寄越される。その言葉は端的だが、どこか微かに冷たい色を含んでいた。

 

「ッ……あぁ、もうッ!」

 

 そんな周りの動きに、直宇都はヤケを起こすように言葉を発する。そしてアクセルを踏み、小型トラックを発信させて制刻等を追った。

 

 

 

 町から数百メートルの地点を、二人の子供が走っている。

 一人は十代前半の少年。もう一人は、5~6歳程の男の子。

 十代後半の少年が男の子の手を引き、二人は必死の様子で走って――いや、逃げていた。

 

「兄ちゃ……もう、ダメ……」

「頑張れ!捕まったらおしまいだ!」

 

 すでに限界なのか、男の子は苦し気な声を零す。しかしそれに対して、少年は声を張り上げる。

 そして一度後ろを振り返る少年。彼等の後ろからは、多数の恐ろしい魔物――オーク達の追いかけて来る姿があった。

 ――二人は、背後にある愛平の町に住まう子供達であった。

 その二人の故郷は、数日前にオーク達の群れに襲撃され、陥落。ほとんどの町人は殺され、あるいは囚われた。

 しかしその中を、二人は身を隠し潜め、奇跡的に魔物達の手を逃れていた。

 そして、隙を見て町からの脱出を図った彼等。だが、その際中についに見つかってしまい、今こうしてオーク達に追われる状況となっていたのだ――

 

「あぅっ!」

 

 追ってのオーク達より必死に逃げていた二人。

 しかし男の子の方はすでに限界だったのだろう、その脚をもつれさせ、転んで倒れてしまった。

 

「っ、しっかりしろ!」

 

 十代前半の少年は、足を止めて必死の様子で男の子を再び立ち上がらせようとする。しかし、そんな二人を何か多数の気配が近づき囲う。

 

「あ……」

 

 少年が見上げれば、周囲にはオークの跨り操る数体の陸竜が見えた。少年達はすでに先回りされており、逃げ道を塞がれていたのだ。

 まるで得物を見定める鷲のように、少年たちの周りを回って走る陸竜。さらに徒歩で追いかけてきていたオーク達も、得物を手に追いついて来た。

 

「追いついたゾ!」

「糞……!ガキ共が、手間かけさせやがっテ!」

 

 オーク達は、息を切らしながら、そして苛立ち混じりの言葉を発しながら、少年達を取り囲む。

 

「あぁ、面倒をッ。オスガキなんて、数匹いりゃ後はいらねェのに!」

「だが、逃げられると面倒だからな――そうだな、町の連中への見せしめに、絞めちまうカ」

「そりゃいいヤ!吊るして、晒しちまおうゼ!」

 

 オーク達は、逃走した子供達を追うという手間を取られた事に、苛立ち怒りを覚えているらしい。その鬱憤を晴らすためか、恐ろし気な算段を交わす声が、オーク達より聞こえてくる。

 

「に、兄ちゃん……」

「ッ……」

 

 男の子は恐怖に震え、少年に抱き着く。少年は、彼自身も恐ろしさに震えながらも、男の子を抱きしめ庇う。

 

「おらッ!とっとと来いヤ!」

 

 そんな子供達を捕まえようと、一番間近にいたオークの太い手が、少年達へと伸ばされる――

 ――ベギャッ、と。

 何かが衝突するような音。そして肉が拉げるような音が響いたのは、その時であった。

 

「――え?」

 

 そして、十代前半の少年は、それまでの恐怖の様子から一転。その口から呆けた声を漏らす。

 その理由は、今まさに自分達を捕まえようとしていたオークの姿が、目の前から突如として消えたからだ。

 

「――びぇえッ!?」

 

 一泊の時間を置いて、少年達の元より少し離れた先から、何か悲鳴が聞こえ来た。そちらを見れば先には、その太い手足をあってはならない角度方向に曲げ、壊れた人形のようになって地面に叩きつけられた、一体のオークの姿があった。

 

「え……?」

 

 理解が及ばないまま、視線を戻した少年は、そこで目を剥いた。

 先まで自分達を捉えようとしていたオークが立っていた場所。そこに、何と形容したらいいのか全く分からない、異質で巨大な物体が鎮座していたからだ。

 おそらく鉄か何かでできた物体。少年にはそれ以外、まったくその正体の見当が付かない。

 しかし、少年の目はすぐさままた別の存在に奪われた。

 その異質な物体の側面、そこに片足を

 今自分達を襲おうとしていたオーク達、それが可愛く思えるほどの、異質で歪で禍々しい存在の姿が、そこにあった――。

 

 

 

「なッ!?うわァッ!?」

「な、なんダコイツッ!?」

 

 呆ける少年達の一方。少年達を捕まえようとしていたオーク達にも、動揺が走り驚きの声が上がっていた。

 無理もない。突如として正体不明の物体が突っ込んできて、仲間の一人が轢き飛ばされたのだから。

 その正体不明の物体。――それは、走行モードのGONGであった。

 GONGは少年達の傍に走り込んで突っ込み、彼等を捉えようとしていたオークを、轢き飛ばして排除したのだ。

 

「――こ、コイツッ!」

 

 オークの内の一体が、混乱から回復してその事実を理解する。そしてそのオークは、目の前に現れたGONGを敵と見なし、手にした斧を振り上げ、襲い掛かろうとした。

 

「――もごッ!?」

 

 しかし、オークのその行動は叶わなかった。

 オークは自身の顔、頭が、何かに掴まれる感覚を覚える。

 それは正解であった。オークの頭部は、何者かの手に、腕に、鷲掴みにされていた。

 その腕の主は――他でもない、制刻だ。

 ――制刻は、パジェロからGONGに飛び移り、GONGと一緒にこの場に突入。

そこへ、GONGに真っ先に襲い掛かろうとして来たオークを見止め、その頭部を鷲掴みにして捕まえ、押し留めたのだ。

 

「おがッ……!?なん……!?」

 

 オークは、頭部を鷲掴みにされたまま制刻に持ち上げられ、制刻のその腕より宙にぶら下がる。オークは必死に藻掻く様子を見せるが、制刻のその片腕はビクともしない。

 そしてオークの頭部からは、ゴキ、プチという、あってはならない気味の悪い音が上がる。そして――

 

「や――ぴぇァッ」

 

 パァン――と、オークの頭部は制刻の手中で、握り潰され果実のように爆ぜた。

 そして、支えを失ったオークの巨体は、しかし頼りなくドサリと地面に落ちて崩れた。

 

「……うわアアアッ!?」

「なんだコイツ等!?なんの魔物ダッ!?」

 

 突然現れた、正体不明の禍々しい外観の存在。

 それによりえげつなく屠られた、仲間の惨状。

 それ等の口径に、オーク達に一層の動揺が広がった。

 

「び、ビビるんじゃねェッ!一斉に――」

 

 しかし中にはまだ戦意を保つオークも存在。そのオークは、周りに怒鳴り上げ、攻撃を促そうとした。

 

「――ごぅッ!?」

 

 しかし、そのオークの言葉が最後まで紡がれることは無く、オークからは代わりに、何か濁った悲鳴のようなものが上がった。

 

「エ……?」

 

 近くにいた別のオークが目を剥く。

 そのオークの目に映ったのは、先の怒鳴り上げたオークが、宙でその巨体をくの字に曲げている姿。

 オークは、何か鉄製の杭のような物に貫かれていた。

 その杭を辿れば、その元には鋼鉄の怪物――GONGの、アームを掲げ上げた姿があった。

GONGは走行モードより歩行モードに変形復帰。そして手近な所にいた一体のオークを最初の目標と定め、排除に掛かったのだ。

 オークを襲ったのは、GONGのアームに備え格納されていた、直径4㎝、長さ70㎝、チタン製の、白兵戦用の専用バヨネット。

 それが、オークの屈強な身を易々と貫き、串刺しにしたのだ。

 

「ヒィ!?」

「ご、ゴーレムかァ!?」

 

 光景に、またもオーク達に広がる動揺。上がる悲鳴や困惑の声。

 

「GONG、坊主達の近くのをやれ。他は、俺が蹴っ散らかす」

 

 そんなオーク達をよそに、制刻は周囲に視線を走らせながら、GONGに指示の声を発する。それに対して、GONGは電子音を鳴らして答える。

 ――そして、オーク達を犠牲者とした、一方的な虐殺、いや散らかしが始まった。

 

「ほが――べりゃッ!?」

 

 制刻は、手近に居たオークを捕まえ、その顔面を自身の膝に叩き込み潰す――

 

「この――ごぶッ!?」

 

 襲い掛かって来たオークを、腹パンを食らわせてその内臓を潰し、死に至らしめる――

 

「に、逃げ……ひ!?――こげぇッ」

 

 逃走を図ろうとしたオークの首根っこを捕まえ、その首をへし折って屠るなど――

歩い周りながら、超常的ムーブでオークを迎え撃ち、あるいは捕まえ、まるで作業のように屠ってゆく。

 

「ぁア゛……や、やべデ……――びぇッ!?」

 

 GONGは子供達を守りつつも、近場のオークを捕まえ、アームで引っ張って真っ二つに引き裂く様子を見せている。

 現れた異質な存在等に、オーク達はただただ無残に、散らかされ捨てられていった。

 

「――オオオ!」

 

 そんな所へ、暴れていた制刻の耳が、何か雄たけびのような物と、荒い足音のような物を捉える。

 

「あん?」

 

 制刻がその音源の方向へ目をやれば、その向こうに、こちらに向かって走ってくる、陸竜の姿が見え。その背には、得物を掲げたオークの姿が見える。

 少年達の包囲の外周に位置していた、オークの竜兵だ。

 おそらく陸竜の巨体と速度、勢いを以て、こちらに向けて攻撃を仕掛ける腹積もりであろう。

 

「――オ゛!?」

 

 しかし直後、陸竜上のオークは、妙な悲鳴と共に、打たれるように仰け反った。そしてオークは陸竜より落ち、地面にグシャリと叩け付けられて動かなくなる。

 主を失った陸竜は、明後日の方向へ走り抜けて逃げてゆく。

 そして同時に制刻の耳に聞こえたのは、聞きなれたエンジン音。

 

「解放、ナイスだ」

 

 事態を把握し、制刻はインカムに向けてそんな一言を発し送る。

 そんな制刻の視線の先に、パジェロがその巨体を現し、荒々しく駆け抜けていった。

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