―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》 作:えぴっくにごつ
翌朝、早朝。
視点は再び制刻等の元へ。
制刻等は、笑癒の公国の絹織の町を出発。何らかの事態が起こっていると思しき、国境付近に在る愛平の町を目指して、南下、行程を開始した。
一夜越して時間を空けたのは、夜間戦闘を避けるため。そして、紅の国より出動する装甲小隊の準備時間を鑑み、現地での到着合流の時間を合わせるためだ。
制刻等の編成は昨日と同じく、敢日の愛車のパジェロ、新型73式小型トラック、そしてGONG。
件の愛平の町を目指して、轍の上を縦隊で進んでいる。
「――あれだな」
先頭を務めるパジェロの車内、運転席でハンドルを操る敢日が声を上げる。
彼の視線の先。2つ程連なる低く緩やかな丘の向こうに、城壁に囲われた町らしき物が見えた。
「エピックよりイシムラ。丘の向こうにそれっぽいのが見えた。二つ目の丘のてっぺんで、一度停まるぞ」
助手席に座す制刻もそれを確認。
同時に制刻はインカムを用いて、後続の小型トラックに指示の言葉を送る。
《はいはい……》
通信での呼びかけには、直宇都の声で、何かウンザリした様子の返答が返って来た。
この行程開始以来、その指揮音頭は、幹部である直宇都を差し置いて、当たり前と言うように制刻が執っていた。それが、直宇都のウンザリした声色の理由であった。
車列はそのまま一つ目の丘を越えて通過。二つ目の丘を駆け上がり、その頭頂部で縦隊を解き、斜めの横隊を雑把に組み直して停車。各員は車上より、その先の緩やかな丘の上に立つ、町の姿を見止める。
「――見た感じ、変な様子は無いな」
運転席からフロントガラス越しに、町の様子を観察した敢日が呟く。町は、外観を見た限りでは、特段変わった様子は無かった。
《あの町は、異常の原因じゃないのかしら……?》
インカム越しに、直宇都からそんな勘ぐる声が寄越される。
「――いや、ここで間違いねぇ」
しかしそんな敢日や直宇都の言葉に、制刻が意を挟む声を発した。制刻は助手席で双眼鏡を構え覗いている。
「何だ、何が見える?」
「町の北東側。ちょい離れた所」
制刻が何かを見つけた事に察し気付き、敢日は尋ねる声を上げる。制刻はそれに答え、端的に今自分が見ている個所の位置情報を答える。
「――あれは?」
敢日も予備のスコープを双眼鏡代わりに構えて覗き、目を凝らす。そして示された箇所に、何か複数の影が動く様子を見止めた。
まず真っ先に見えたのは、町から離れるように走っている、二つの人影。よくよく見れば、それは二人の子供である事が分かった。
そして、その二人の子供より後方に見えたのは、いくつもの緑色の大きな存在――オーク達であった。
「ッ――追われてるッ!」
状況を掌握し、敢日は発し上げる。
二人の子供は、オーク達に追われていた。
子供達は必死に逃げているが、その足取りは頼りなくたどたどしい。さらに、町の方向からは徒歩のオークだけでなく、陸竜に跨り迫るオークの姿も見える。このままでは子供達が追い付かれ、捕らえられるのは明らかであった。
「やるぞ」
制刻は肉声で敢日に、そしてインカム越しに直宇都や策頼、GONGに向けて端的に発する。
「オーケー」
それを合図に、敢日はパジェロのアクセルを、力強く踏み込んだ。
「――え、ちょッ!?」
パジェロに隣接して停車していた小型トラックの運転席上。そこで直宇都は、目を見開き驚きの声を上げた。
制刻の端的な言葉を合図に、敢日のパジェロが。そしてGONGが、急加速で飛び出していったからだ。幹部でありこの場の最高階級者である自分に、何の断りも相談も意見具申も無く。
「待……っ!いくらなんでも勝手に戦闘を……!」
《染麗、遅れるな》
困惑している直宇都の耳に、制刻よりインカム越しに、当たり前のように出遅れを咎める言葉が寄越される。
「二尉、発進してください」
そして彼女の背後から、後席で軽機に着く策頼より、要請の言葉が降って寄越される。その言葉は端的だが、どこか微かに冷たい色を含んでいた。
「ッ……あぁ、もうッ!」
そんな周りの動きに、直宇都はヤケを起こすように言葉を発する。そしてアクセルを踏み、小型トラックを発信させて制刻等を追った。
町から数百メートルの地点を、二人の子供が走っている。
一人は十代前半の少年。もう一人は、5~6歳程の男の子。
十代後半の少年が男の子の手を引き、二人は必死の様子で走って――いや、逃げていた。
「兄ちゃ……もう、ダメ……」
「頑張れ!捕まったらおしまいだ!」
すでに限界なのか、男の子は苦し気な声を零す。しかしそれに対して、少年は声を張り上げる。
そして一度後ろを振り返る少年。彼等の後ろからは、多数の恐ろしい魔物――オーク達の追いかけて来る姿があった。
――二人は、背後にある愛平の町に住まう子供達であった。
その二人の故郷は、数日前にオーク達の群れに襲撃され、陥落。ほとんどの町人は殺され、あるいは囚われた。
しかしその中を、二人は身を隠し潜め、奇跡的に魔物達の手を逃れていた。
そして、隙を見て町からの脱出を図った彼等。だが、その際中についに見つかってしまい、今こうしてオーク達に追われる状況となっていたのだ――
「あぅっ!」
追ってのオーク達より必死に逃げていた二人。
しかし男の子の方はすでに限界だったのだろう、その脚をもつれさせ、転んで倒れてしまった。
「っ、しっかりしろ!」
十代前半の少年は、足を止めて必死の様子で男の子を再び立ち上がらせようとする。しかし、そんな二人を何か多数の気配が近づき囲う。
「あ……」
少年が見上げれば、周囲にはオークの跨り操る数体の陸竜が見えた。少年達はすでに先回りされており、逃げ道を塞がれていたのだ。
まるで得物を見定める鷲のように、少年たちの周りを回って走る陸竜。さらに徒歩で追いかけてきていたオーク達も、得物を手に追いついて来た。
「追いついたゾ!」
「糞……!ガキ共が、手間かけさせやがっテ!」
オーク達は、息を切らしながら、そして苛立ち混じりの言葉を発しながら、少年達を取り囲む。
「あぁ、面倒をッ。オスガキなんて、数匹いりゃ後はいらねェのに!」
「だが、逃げられると面倒だからな――そうだな、町の連中への見せしめに、絞めちまうカ」
「そりゃいいヤ!吊るして、晒しちまおうゼ!」
オーク達は、逃走した子供達を追うという手間を取られた事に、苛立ち怒りを覚えているらしい。その鬱憤を晴らすためか、恐ろし気な算段を交わす声が、オーク達より聞こえてくる。
「に、兄ちゃん……」
「ッ……」
男の子は恐怖に震え、少年に抱き着く。少年は、彼自身も恐ろしさに震えながらも、男の子を抱きしめ庇う。
「おらッ!とっとと来いヤ!」
そんな子供達を捕まえようと、一番間近にいたオークの太い手が、少年達へと伸ばされる――
――ベギャッ、と。
何かが衝突するような音。そして肉が拉げるような音が響いたのは、その時であった。
「――え?」
そして、十代前半の少年は、それまでの恐怖の様子から一転。その口から呆けた声を漏らす。
その理由は、今まさに自分達を捕まえようとしていたオークの姿が、目の前から突如として消えたからだ。
「――びぇえッ!?」
一泊の時間を置いて、少年達の元より少し離れた先から、何か悲鳴が聞こえ来た。そちらを見れば先には、その太い手足をあってはならない角度方向に曲げ、壊れた人形のようになって地面に叩きつけられた、一体のオークの姿があった。
「え……?」
理解が及ばないまま、視線を戻した少年は、そこで目を剥いた。
先まで自分達を捉えようとしていたオークが立っていた場所。そこに、何と形容したらいいのか全く分からない、異質で巨大な物体が鎮座していたからだ。
おそらく鉄か何かでできた物体。少年にはそれ以外、まったくその正体の見当が付かない。
しかし、少年の目はすぐさままた別の存在に奪われた。
その異質な物体の側面、そこに片足を
今自分達を襲おうとしていたオーク達、それが可愛く思えるほどの、異質で歪で禍々しい存在の姿が、そこにあった――。
「なッ!?うわァッ!?」
「な、なんダコイツッ!?」
呆ける少年達の一方。少年達を捕まえようとしていたオーク達にも、動揺が走り驚きの声が上がっていた。
無理もない。突如として正体不明の物体が突っ込んできて、仲間の一人が轢き飛ばされたのだから。
その正体不明の物体。――それは、走行モードのGONGであった。
GONGは少年達の傍に走り込んで突っ込み、彼等を捉えようとしていたオークを、轢き飛ばして排除したのだ。
「――こ、コイツッ!」
オークの内の一体が、混乱から回復してその事実を理解する。そしてそのオークは、目の前に現れたGONGを敵と見なし、手にした斧を振り上げ、襲い掛かろうとした。
「――もごッ!?」
しかし、オークのその行動は叶わなかった。
オークは自身の顔、頭が、何かに掴まれる感覚を覚える。
それは正解であった。オークの頭部は、何者かの手に、腕に、鷲掴みにされていた。
その腕の主は――他でもない、制刻だ。
――制刻は、パジェロからGONGに飛び移り、GONGと一緒にこの場に突入。
そこへ、GONGに真っ先に襲い掛かろうとして来たオークを見止め、その頭部を鷲掴みにして捕まえ、押し留めたのだ。
「おがッ……!?なん……!?」
オークは、頭部を鷲掴みにされたまま制刻に持ち上げられ、制刻のその腕より宙にぶら下がる。オークは必死に藻掻く様子を見せるが、制刻のその片腕はビクともしない。
そしてオークの頭部からは、ゴキ、プチという、あってはならない気味の悪い音が上がる。そして――
「や――ぴぇァッ」
パァン――と、オークの頭部は制刻の手中で、握り潰され果実のように爆ぜた。
そして、支えを失ったオークの巨体は、しかし頼りなくドサリと地面に落ちて崩れた。
「……うわアアアッ!?」
「なんだコイツ等!?なんの魔物ダッ!?」
突然現れた、正体不明の禍々しい外観の存在。
それによりえげつなく屠られた、仲間の惨状。
それ等の口径に、オーク達に一層の動揺が広がった。
「び、ビビるんじゃねェッ!一斉に――」
しかし中にはまだ戦意を保つオークも存在。そのオークは、周りに怒鳴り上げ、攻撃を促そうとした。
「――ごぅッ!?」
しかし、そのオークの言葉が最後まで紡がれることは無く、オークからは代わりに、何か濁った悲鳴のようなものが上がった。
「エ……?」
近くにいた別のオークが目を剥く。
そのオークの目に映ったのは、先の怒鳴り上げたオークが、宙でその巨体をくの字に曲げている姿。
オークは、何か鉄製の杭のような物に貫かれていた。
その杭を辿れば、その元には鋼鉄の怪物――GONGの、アームを掲げ上げた姿があった。
GONGは走行モードより歩行モードに変形復帰。そして手近な所にいた一体のオークを最初の目標と定め、排除に掛かったのだ。
オークを襲ったのは、GONGのアームに備え格納されていた、直径4㎝、長さ70㎝、チタン製の、白兵戦用の専用バヨネット。
それが、オークの屈強な身を易々と貫き、串刺しにしたのだ。
「ヒィ!?」
「ご、ゴーレムかァ!?」
光景に、またもオーク達に広がる動揺。上がる悲鳴や困惑の声。
「GONG、坊主達の近くのをやれ。他は、俺が蹴っ散らかす」
そんなオーク達をよそに、制刻は周囲に視線を走らせながら、GONGに指示の声を発する。それに対して、GONGは電子音を鳴らして答える。
――そして、オーク達を犠牲者とした、一方的な虐殺、いや散らかしが始まった。
「ほが――べりゃッ!?」
制刻は、手近に居たオークを捕まえ、その顔面を自身の膝に叩き込み潰す――
「この――ごぶッ!?」
襲い掛かって来たオークを、腹パンを食らわせてその内臓を潰し、死に至らしめる――
「に、逃げ……ひ!?――こげぇッ」
逃走を図ろうとしたオークの首根っこを捕まえ、その首をへし折って屠るなど――
歩い周りながら、超常的ムーブでオークを迎え撃ち、あるいは捕まえ、まるで作業のように屠ってゆく。
「ぁア゛……や、やべデ……――びぇッ!?」
GONGは子供達を守りつつも、近場のオークを捕まえ、アームで引っ張って真っ二つに引き裂く様子を見せている。
現れた異質な存在等に、オーク達はただただ無残に、散らかされ捨てられていった。
「――オオオ!」
そんな所へ、暴れていた制刻の耳が、何か雄たけびのような物と、荒い足音のような物を捉える。
「あん?」
制刻がその音源の方向へ目をやれば、その向こうに、こちらに向かって走ってくる、陸竜の姿が見え。その背には、得物を掲げたオークの姿が見える。
少年達の包囲の外周に位置していた、オークの竜兵だ。
おそらく陸竜の巨体と速度、勢いを以て、こちらに向けて攻撃を仕掛ける腹積もりであろう。
「――オ゛!?」
しかし直後、陸竜上のオークは、妙な悲鳴と共に、打たれるように仰け反った。そしてオークは陸竜より落ち、地面にグシャリと叩け付けられて動かなくなる。
主を失った陸竜は、明後日の方向へ走り抜けて逃げてゆく。
そして同時に制刻の耳に聞こえたのは、聞きなれたエンジン音。
「解放、ナイスだ」
事態を把握し、制刻はインカムに向けてそんな一言を発し送る。
そんな制刻の視線の先に、パジェロがその巨体を現し、荒々しく駆け抜けていった。