―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》 作:えぴっくにごつ
荒々しく走行するパジェロの車内。
その運転席に座す敢日は、片手でハンドルを操りつつ、しかしもう片手にはネイルガンを持ち構えていた。
《解放、ナイスだ》
その敢日の身に着けるハンズフリーマイクに、制刻からの声が届く。それは、陸竜の乗るオークを仕留めた事を称する物。
先の陸竜乗りのオークは、敢日がその手のネイルガンにより仕留めたのであった。
《そのまま、他のヤツも頼むぞ》
「了解」
続けて寄越される制刻からの要請。それに端的に答えつつ、敢日はハンドルを操り切る。
制刻等中心に、パジェロは反時計回りを描き、オーク達を囲う様に走行していた。
敢日は愛車のパジェロを走らせながら、また新たな一体の陸竜とオークを、その先に見止める。
そして、開け放っていた運転席側の窓よりネイルガンを突き出し構え、トリガーを引いた。
ネイルガン音を立てて、複数本の五寸釘が撃ち出されて飛ぶ。五寸釘の群れは一瞬の内に目標へ到達。オークの身を叩き刺し、陸竜上よりオークを叩き落した。
「二体ッ」
敢日は仕留めた数を発しながら、巧みなハンドル操作で陸竜や仕留めたオークの死体を避け、パジェロを走らせ続ける。
険しいカーブを描くパジェロ上で、さらなる獲物――オークを乗せた陸竜を探し見つけ、敢日は再びネイルガンを突き出し構え、そのトリガーを引こうとした。
「――っと」
しかし敢日がネイルガンを撃つ前に、そのオークと陸竜は視線の先で、横殴りにされるように打ち飛び、地面に叩きつけられる姿を見せた。
敢日は撃つことを中断し、そして視線をまた別方へ向ける。その先に、新型73式小型トラックの走る姿が見えた。小型トラック上にはMINIMI MK.3に着く策頼の姿が見える。
小型トラックからの射撃が、敢日よりも先にオークと陸竜を仕留めたのだ。
敢日のパジェロと逆――時計回りを描き走行する小型トラックは、程なくしてパジェロに接近。荒い動きを見せながら、パジェロの傍をすれ違い抜けて行った。
新型73式小型トラックは、中々の速度を出しながら、草原の上を弧の軌道を描いて走行している。
その後席上では策頼が、据えられた軽機に付き射撃行動を行っている。彼は的確な射撃で、オークや陸竜達を一体また一体と、射貫き屠っていた。
「――二尉、膨らみ過ぎです。敵に近寄って下さい」
その途中で、策頼は視線は周囲に向けたまま、運転席に向けた要請の言葉を発する。
その言葉通り、小型トラックは少し膨らむ軌道を取り、オーク達との距離が空いていた。
「ッ……そんな事……!」
しかし要請が向けられた先。運転席では、ハンドルを預かる直宇都が、その端麗な顔にしかし今にも泣きそうな様子を作っていた。
直宇都は、本来は本部管理中隊の情報小隊付きの人間である。そんな彼女に取って、正面に身を置いての戦闘行動は不慣れ――と言うよりすでに門外漢に近かった。
加えて明かせば、彼女は普段高飛車な態度が目立つが、その本性は臆病であった。
そんな彼女に取って、敵中――まして未知の世界のモンスターの中へ飛び込んでの戦闘行動は、その余裕を失わせるには十分過ぎた。
「一体ッ、自由さんの方に向かってるッ。右に切ってください、近寄ってッ」
しかしそんな彼女に、策頼からは容赦なく、断るという選択肢は無い要請の言葉が飛ぶ。
そして彼女の背後頭上で響く、軽機の激しい射撃音。
「分かったわよぉ……ッ!」
それに追い立てられるように、直宇都は必死にハンドルを切り、アクセルを踏み続ける。
「んもぅ……なんだって……――ッ!」
必死に運転しながらも、せめてもの抵抗のように愚痴を零し掛けた直宇都。しかし、その彼女の眼が、小型トラックの進路上に障害を見止めた。
小型トラックの進行方向上に、一体のオークの姿があったのだ。それは、制刻等の方向より戦意を喪失して逃走して来た個体であった。
「まずッ……――ぃ!?」
進路上に現れたオークを見止め、慌てハンドルを切ろうとした直宇都。しかしそのハンドルは、背後から突如として伸びて来た何かに、力強く押し留められた。
ハンドルを乱暴に押さえ固定したのは、脚――戦闘靴。
直宇都が目を剥きつつ、脚を辿り振り返れば、それが背後後席より突き出された策頼の物である事が判明した。
「ちょ、な……ッ!?」
「真っすぐですッ!そのまま轢いてッ。アクセルそのままッ!」
突然の行為事態に、混乱する直宇都。それに対して策頼から寄越されたのは、激しく、しかし冷淡な声での要請。
「そんな……ッ」
ハンドルの主導権を奪われ、しどろもどろになりながら、零す直宇都。
そして視線を前に戻せば、小型トラックとオークの距離はすでに目と鼻の先。
「ひッ――」
直宇都は思わず小さく悲鳴を上げ、そして目を瞑る。
瞬間――ドゴッ、という鈍い衝突音が、響きあがった。
「ぎぇびぇッ!」
そして同時に直宇都の耳が、鈍い悲鳴らしき物を聞く。
さらには、何かが頭上を通り越えてゆく気配。
「――ッ……?」
直宇都が恐る恐る、再び目を開いた瞬間、背後後方で微かに、何かが叩きつけられ拉げるような音が聞こえた。
「一体排除です、二尉」
そして、後席の策頼からの、端的な言葉。
直宇都が涙目でバックミラーにちらりと目をやれば、後方地面上に、おそらく今しがた轢き屠ったであろう、オークの身体が転がっていた。
「残敵、あと少しです。頑張って」
続け策頼から、同じく端的な言葉で、しかしおそらく気遣い励ます物と思しき言葉が飛んでくる。
「……」
しかし直宇都に最早、何か反応を返す気力も余裕も無く、彼女は涙目のまま運転を続けた。
「な、なんなんだよコイツ等ァ!?」
「糞、逃げ――ひぎッ!?」
追う側、狩る側であったはずのオーク達。
しかし、その立場は制刻等の登場割り込みにより一転。
オーク達は、内より制刻とGONGにより散らかされ、外よりパジェロや小型トラックに囲われその攻撃に晒され、みるみる内に数を減らしていった。
場所、視点は再び、戦いの中心となった制刻等の元へ。
「ごぶッ……」
制刻の持つその、人の物とは思えない程長く大きく、そして尖り禍々しい左腕。
その指先に貫かれ、一体のオークが口と腹から血を零してる。
丁度その場では、制刻の手により残った最後のオークが、屠られた所であった。
「――これで、片付いたみてぇだな」
制刻は周囲を見渡し、オーク達が全て排除された事を確認。そして自身の左手先に突き刺さっていたオークの身体を、放るようにして抜き、地面に投げ捨てる。
「GONG、坊主達は無事か」
そして制刻は近場にいるGONGに呼びかける。
そこに居たGONGは頭部モノアイで振り向き、電子音を鳴らして返事をする。
GONGの背後には、身を寄せ合い、驚き呆けた様子の子供たちの姿が見える。
「だす……けデくで……」
そして、GONGのアームハンドには、その太い手足を千切られ壊れた人形のようになった、オークの身体が掴まれぶら下がっていた。
「上出来だ」
そんなGONGに評する言葉を投げ、制刻はGONGの横を抜けて、その背後の子供達の前へと立つ。
「坊主達、大丈夫か?」
そして子供達に向けて、尋ねる言葉を投げた。
「ッ……!」
「ぅぁ……」
しかしそんな制刻を前に、子供達はその表情をより強張らせた。
十代前半の少年は、震えながらも制刻を威嚇する表情を見せ、男の子の方は今にも泣きそうな顔をしていた。
「おん――あぁ」
そんな子供達の様子を訝しんだ制刻。しかし制刻は直後に何かに気付いた様子を見せ、自身の手元に視線を落とす。
制刻の右腕中には、首を絞められ白目を剥き、泡を吹いているオークの身体があった。もうすでに息は無い。
「悪ぃな、ビビらせたか」
制刻は子供達の怯える理由が、そのオークの死体だと思い、子供達に詫びながら、腕中のオークの身体を放っぽって捨ててみせる。
しかし当然の事ながら、子供達が怯える一番の原因はそれではない。
その一番の原因たる、禍々しい容姿の制刻を前に、子供達は未だ震えていた。
「厄介だな」
そんな子供達への対応に微かに困り、呟く制刻。
そんな所へ、制刻の耳は近づくエンジン音を捉えた。
振り向いた所で丁度、敢日のパジェロが。続いて小型トラックが傍へと走り込んできて、それぞれ各所で停車した。
「――うまくいったな」
先んじてパジェロの運転席からは、敢日が降りて駆け寄ってくる。そして敢日は制刻の足元に子供達の姿を見止め、彼等を救い出せた事に胸を撫でおろし、言葉を零した。
「……あ、あんた等……ねぇ……ッ!」
敢日の言葉に続いて、何か苦し気な、しかし憤慨したような声が聞こえたのは直後であった。
制刻等が声の方向へ視線を向ければ、小型トラックの運転席から、何か這う這うの体といった様子で降りて来る直宇都の姿が見えた。
策頼だけは引き続き車上銃座に付き、軽機を旋回させて周囲への警戒を行っている。
そして直宇都はよれよれの様子で、制刻等の元へと歩み寄ってくる。
「何、勝手に飛び出して……挙句戦闘なんて始めてるワケ……ッ!?分かってるの……?この場の最高階級者は……私っ!」
そして余裕の無い途切れ途切れの言葉で、制刻等が自分に指示も仰がずに戦闘行動を始めた事を、咎め叱責する言葉を吐いてぶつけた。
「あの状況で、選択肢なんぞ無かっただろが」
しかしその言葉に対して、対する制刻は変わらぬ淡々とした言葉で、子供達を救うための行動が必然の物であった事を紡ぎ返す。
「だからって……一言、許可くらい取りなさいよ……っ!」
そんな制刻に、再び言葉をぶつける直宇都。そして彼女はそこまでが限界と言った様子で脱力。頭を垂れて両手を両膝に着いた。
「大丈夫か?直宇都さん」
そんな様子の直宇都に、敢日は困り心配する言葉を掛ける。
「あぁ、気を付ける。それよか、ビビっちまってる坊主達を頼む」
一方の制刻は、直宇都の訴えに適当に答え、そして足元の子供達を敢日等に任せる言葉を紡ぐ。
「やれやれ――坊や達、もう大丈夫だ――」
そんなそれぞれの様子に、少し呆れた色の言葉を零した敢日。
そして敢日は制刻に変わって、子供達の前にしゃがみ、彼等を安心させるべく言葉を紡ぎ始めた。