―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》   作:えぴっくにごつ

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2-7:「Armored PlatoonⅠ」

 時系列は少し遡る。

 位置、地点は、愛平の町より南へ数km地点。

 開けた平原の中を通る轍の上。従来であれば馬車や旅人が辿り、牧歌的な光景を描くはずのそれ。

――しかし今そこを行くのは、不気味な音を鳴らして進む、鋼鉄の怪物の隊列であった。

 轍を導として行進するのは、日本国陸隊の装甲車始め各車両から成る縦隊隊列だ。

 まず先頭を93式装甲戦闘車が行き、それに続き89式装甲戦闘車が。3番手を76式装甲戦闘車が行き、4番手を73式装甲車が。4輌の装甲車輌が、キャタピラを荒々しく鳴らし、しかし人が走るより少し早いか程度の速度で進んでいる。

 さらに4輌の装甲車輌隊列から車輛数台分の間隔を空けて、高機動車、96式120㎜自走迫撃砲、73式中型トラックが2輌、と自走迫撃砲以外はソフトスキン車輛を主とした車列が続き進んでいる。

 これ等は、第54普通科連隊、第2中隊の装甲車隊を中心に編成された、装甲小隊であった。内訳は、装甲車輛4輌と搭乗する普通科分隊からなる、小隊主力。そして自走迫撃砲を中心とした支援隊から成る。

 制刻からの要請を受けて編成されたこの装甲小隊は、今朝方に駐屯していた草風の村を出発。国境線を越えて笑癒の公国へと踏み入り、現在は、何か異常事態が起こっていると思しき愛平の町を目指して、北上。異質な行進を行っている最中であった。

 

「――たりぃ」

 

 計8輌からなる装甲小隊車列の、2輌目に位置する89式装甲戦闘車。その砲塔上の車長用キューポラ上。

 そこで言葉通りの気だるげな声が零され響く。

 声の主は、髄菩。

 新たに89式装甲戦闘車の車長となった髄菩は、しかしそれによる責任感等を微塵も見せる様子は無く、言葉通りの心底気だるげな様子で、キューポラ上に座していた。

 

《アンヴィルゲートより各車、警戒しろ》

 

 そんな髄菩の耳に、装着したインカムより警告の言葉が聞こえ届く。通信音声の主は、前を行く93式装甲戦闘車の車長の、芹滝だ。

 

《少し前から、人通りが途絶えてる。怪しい空気だ》

 

 続き芹滝から寄越されたのは、警告を促したその理由。

 装甲小隊は国境を越えてすぐの所までは、同様に轍を頼りに目的地を目指す、馬車や人などに何度か遭遇していた。そしてそのたびに驚かれ、酷いときにはモンスターの類と間違われて恐れられパニックを招き、その誤解を解く事に手間を割かれる事態も発生した。

 しかし、少し前を境に、そういった遭遇がとんと鳴りを潜めていた。

 件の愛平の町からの、人や流通が途絶えている旨は、当然装甲小隊にも一報され、掌握が成されている。

 その事から鑑み、行きかう人々が途絶え見られなくなった事を、予兆と見て芹滝は警告を発したのだ。

 

「エンブリー、了解――だと」

 

 その警戒要請の通信に、髄菩は嫌そうな顔と声を隠そうともせずに作り、返す。そして自身の隣に視線を移し、投げやりに一言を発する。

 髄菩の隣、砲手用のハッチ上に、上半身を出す一人の男性隊員の姿がある。隊員は、車長に任命された髄菩の代わりに、新たに砲手として配置された人員であった。

 名前は薩来(さつらい)と聞いている。階級は陸士長。

 

「了解」

 

 端的に了解の一言を返して来た薩来。その視線は、寄越された指示を反映してか、周辺へ抜け目なく向けられている。

 が、その薩来は、妙な異質さを醸し出していた。

 その口角は微かに上がり、目元も変に笑う形を作っている。いわゆる、ニヤニヤとした表情を作り、そして薩来はそれを終始変える様子は無い。

 彼は、新たな砲手として髄菩に紹介されて以来、すっとこの様子であった。

 今の所反抗的な様子や問題行動を見せる事は無く、指示等には素直に応じてくれている。

 しかし、その不気味な表情、様子は朝から晩まで潜む事は無かった。

 

(――チッ)

 

 ただでさえ車長という面倒の白羽の矢が立った上に、自分が指揮を執る事になったのは、何か不気味な人物。

 立て続く難儀に、髄菩は内心で舌打ちを打った。

 

 

 

 南北に通る平原上の轍の、その西手。轍を外れて数百メートルの地点。周辺各所に生え並ぶ木立の一つ。

 その影に、這い潜むいくつもの大きく屈強な影があった。

 

「なんダありゃ……?」

 

 内の一体が、訝しむ声を零す。

 木立をかき分けた向こうを通る、轍の上。そこを、彼らが見たことも無い物体等が、列を成し異音を立てて、進んでいたからだ。

 

「後ろのいくつかは馬車だろウ?」

「けど、馬がねェぞ?」

「あの、変な脚で走ってるのはなんダ?」

 

 木立に身を潜める存在達は、口々に疑問の言葉を交わし合う。

 

「知るカ!なんでもイイ、これまでと同じデ、ぶっ殺して頂くまでダ!」

 

 しかし、内の一人がじれったく思ったのか、そんな言葉を荒々しく発し上げた。

 

「ハハッ!それもそうダ!」

「ギャハハ!」

 

 それに呼応同調し、他の屈強な影達も同調し、下品に笑い上げる。

 

「良し!杭に火ぃ付けロ!」

 

 そして、また別の一人が命じる声を発する。

 這い並ぶ彼等に混じり、置かれている物体があった。それは巨大な長弩。その上には、弓の代わりに太く長い杭が置かれている。

 屈強な影達は、そのそれぞれの先端に、火を付けてゆく。

 

「よぉし……放てッ!」

 

 そして屈強な影の一人が、威勢の良い言葉で合図を発し上げた――

 

 

 

 装甲小隊の先頭を行く、93式装甲戦闘車。

その砲塔上の車長用キューポラ上では、車長の芹滝が、周囲に警戒の目を走らせていた。

 

「――ッ、見通しが悪くなってきたな」

 

 しかし、周辺に木立や丘などの視界を遮る物が増え、芹滝は悪態を零す。

 

「そろそろ、警戒隊形を組みますか」

 

 砲手ハッチ上で同様に警戒を行う、砲手の上道(かみみち)陸士長より、意見具申の言葉が寄越される。

 

「あぁ、頃合い――」

 

 それに同意の言葉を返そうとした芹滝。

 ――グシャンッ、と。

 しかしその言葉を遮り、背後後方より何かの損壊するような、嫌な音が響きあがったのはその時であった。

 

「ッ――!?」

 

 驚きつつキューポラ上で身を捻り、芹滝は背後後方へ視線を向ける。

 そして目に映ったのは、装甲小隊車列の最後尾付近。車列の7輌目に位置する73式中型トラックの荷台に何かが突き刺さり、その幌より火が上がっている様子であった。

 さらに間髪入れずに事態は続く。

 装甲小隊の元に、何かが立て続いて飛来。

 それ等は、芹滝等の乗る93式装甲戦闘車や、後続4輌目の73式装甲車の装甲へぶつかり叩き、ガン、ガコン、と鈍い音を上げた。

 

「ヅッ――!」

 

 襲い来た衝撃に、身を竦め、鈍く苦々しい声を零す芹滝。

 しかし襲い来た飛来物――何か火の付けられた杭状のそれ等は、音を上げて各車の装甲表面に軽く傷を付けたのみで、そのまま装甲の堅牢さに弾かれ跳ねのけられる。あるいは被弾傾斜により反らされ、明後日へと飛び去って行った。

 

「入れ、入れッ!」

 

 詳細はともかく、それは明確な攻撃である事を芹滝は察し、砲手の上道やドライバーに、車内へ入るよう荒く声を張り上げる。

 それに応じてか、もしくはそれよりも早く、上道やドライバーはそれぞれ車内へと身を引き込み、荒々しくハッチを閉める。

 

「畜生――左だ、左ッ!」

 

 しかし芹滝だけは引き込まずに砲塔上に残る。悪態を吐きつつ、今しがたの攻撃が来た方向を判別。インカムを用いて後続各車に向けて、その方向を示す荒々しい言葉を送る。

 そして自身も、示した方向を見る。

 視線の先、装甲小隊の現在位置よりおよそ数百メートル離れた地点。そこに見えたのは、木立より飛び出し現れ、こちらへ向かって来る――襲い掛かって来る、多数の大きく屈強な存在。オークの集団の姿であった。

 

「ッ――各装甲車、停車し9時方向へ回頭ッ!後、散会配置ッ!」

 

 芹滝は、その光景に小さく舌を鳴らす。そして続け、各車へインカムで指示を怒鳴る。

 迫るオーク達を明確な害意ある集団と見止め、それ等と正面対峙するため。なおかつ立ち往生に陥った支援隊を守るための、配置を命じる指示だ。

 芹滝の93式装甲戦闘車始め4輌の装甲車輛は、走行を停止。

 側面より、迫るオークの集団を正面に見るべく、その場でそれぞれ、キャタピラを利用した信地旋回を開始。

 

「――あれが、噂のか」

 

 荒々しく旋回行動を行う装甲戦闘車上で、芹滝は揺られながらも腕を掲げ振り、各車へ指示のジェスチャーを送る。そして同時に、先のオークの集団を見止めて、呟く。

 現れたオーク達は、見るに小隊規模。数はおよそ40体前後。それが、荒い横隊を組んで、こちらに向けて明確な攻撃の様子を見せていた。

 

「小隊規模か――オニキスポイント、森高(もりたか)――一応、広報しろ」

 

 そしてまたインカムに向けて支持の声を発する。相手は、後続の73式装甲車の車長だ。

 

《本気か?モンスターだぞ?》

 

 しかし、広報――言葉による呼びかけを行えと言う指示に、相手の森高からは訝しむ声が返される。その心情も当然、相手は得体の知れないモンスターだ。

 

「一応だッ」

 

 そんな事は分かっていると言わんばかりに、芹滝は荒く投げやりな様子で、そう返した。

 その間に各車は90度回頭を終えてオークの集団を前方に見、轍上より外れ出て進み、散会配置を開始。

 

鷹幅(たかはば)二曹、そちらは無事ですかッ?」

 

 芹滝は視線の先に、迫るオークの集団を捉えたまま、呼びかける相手を変えてインカムに問う声を発する。

 車列後続、支援隊の高機動車には、この装甲小隊の指揮を任された鷹幅二等陸曹が乗車している。その彼に安否、被害状況を尋ねる言葉を送ったのだ。

 振り向けば、背後の轍上で停止した支援隊の各車輛から、隊員が慌て飛び出て展開してゆく様子が見える。

 

《――私は無事だ、しかし……後続は分からない……ッ!安全を確保し、被害確認の必要がある……!》

 

 呼びかけた相手の鷹幅からは、当人は無事な旨が。しかし同時に、苦々しい色でそんな旨の言葉が送られてくる。

 

「了解、そちらは自分の身を守ってください。連中は――こっちで、潰しますッ」

 

 それを聞き、芹滝は鷹幅に要請の言葉を送る。そして最後に、少し怒気を込めた声で、そう伝えた。

 その通信を終えると同時に、93式装甲戦闘車は少し荒く停車。他、各装甲車も大体同じタイミングで停車。4輌は雑把な横隊を完成させ、迫るオークの集団と対峙する。

 

《繰り返します――こちらは、日本国陸隊です。直ちに現在の行動を停止しなさい――》

 

 そして同じタイミングで丁度、73式装甲車の森高から行われていた、拡声器越しの広報音声が一区切りした。

 しかし当たり前、分かっていた事ではあるが、オーク達の襲撃行動が収まる気配はまるで無かった。オーク達は距離を詰め、挙句火矢まで放って来ている。

 今も飛来した火矢が各車の装甲を叩き、頭上や側面を掠め飛んで行く。

 

《――ダメだ。分かってたろう?》

 

 そして73式装甲車の森高から、投げやりな声での通信音声が寄越される。

 

「あぁ。――おっぱじめるッ」

 

 それに一言返し、そして芹滝は荒々しく発する。

 

「処分対象、前方。害意を有するモンスター集団」

 

 各車に向けて、先のオーク集団を明確な排除対象とする言葉を紡ぐ芹滝。

 

「各車、火力投射用意――上道、主砲装填。弾種、多目的榴弾ッ」

 

 続け芹滝は各車に要請。それからさらに、砲手の上道に指示。

 

《多目的榴弾、了解》

「目標、集団の向かって右端。装填完了と同時に撃て」

 

 砲手の上道から返る了解の声。それに畳みかけるように、芹滝は目標を指示し、そして主砲発射のタイミングを委ねる。

 

 

 

 芹滝の乗る93式装甲戦闘車は、89式装甲戦闘車の簡易派生型だ。

 誘導弾発射装置を撤廃。そして主砲を90口径35㎜機関砲KDEから、国産の90㎜低圧砲に換装。強力な誘導弾の恩恵こそ失ったが、代わりに大口径砲を用いた柔軟な戦闘を可能とした戦闘車両だ。

 砲塔内に備え付けられた自動装填装置が作動し、90㎜低圧砲に多目的榴弾が装填される。

 その間に、砲手の上道の操作により、砲塔はすでに目標方向を向いていた。そして装填完了に伴い、90㎜低圧砲の砲身が俯角を取り、砲口が。そして同軸された照準器越しに上道の目が、オークの集団の端を睨み認める。

 

「装填確認。目標照準――発射ァッ」

 

 射撃に必要とされる手順の完了。そして砲の安定を確認したと同時に、上道は発し上げ、射撃装置のトリガーを引く。

 瞬間――90㎜低圧砲がドンッ、ともガンッ、とも聞こえる音声、咆哮を上げ、車内では駐退復座機が後退。

 第一射が撃ち放たれた――

 

 

 

 現れた異質な乗り物の隊列を新たな獲物と定め、襲撃行動を開始したオーク達。

 しかし攻撃を続けながらも、彼等の内には動揺が広がって行った。

 

「な、なんダあの緑のデカブツ……身体が鉄でできてんのカ……?」

「矢も、杭も、全部弾きやがル……ッ!」

 

 オーク達はまず、全体を緑で覆った異質な物体等のその様子に、狼狽えていた。

 その物体等は、オーク達の放つ火矢や、長弩から放たれる火杭を、悉く弾き退けて見せた。

 

「ビビリも、逃げもしねェ……ッ」

 

 さらに一体のオークが唸る。

 大体であれば、自分達――オーク達の襲撃を前に、獲物となった者達は恐れ臆し、混乱し逃げ惑うのが、彼等に取って見慣れた光景であった。

 勇者や精鋭騎士団クラスの、よっぽどの手練れ。あるいは数や装備の整った軍隊であれば話は別だ。しかし目の前の異質な隊列は、数も中規模であれば、勇者や騎士の類にも見えない。

 にも拘わらず、混乱逃走するどころか、そのこちらと対峙する様子を見せて来た。

 

「えぇい、ゴタゴタ言うんじゃねェッ!」

 

 しかしそんな中で、一体のオークが声を荒げ発する。

 

「聞いたろ?悠長に攻撃を止めろと言ってきやがるヤツ等だッ!鉄の箱に籠って、安心だと思ってる平和ボケに違いねェッ!そんなトロいヤツ等は、踏み込んで叩き潰しちまえばいいんだッ!」

 

 仲間達の動揺の様子に、苛立ち焦れたのだろう、そのオークは言葉を並べ、乱暴に鼓舞する言葉を発した。

 

「そ……そうだナッ!」

「いつも通り、やっちまえバいいッ!」

「珍しい獲物だと、他の奴らに自慢してやるかッ!」

 

 それに、他のオーク達も同調。彼等は士気を向上させ、口々に声を上げる。

 

「おら行くぞお前らぁッ!ヤツ等をビビらせて、ぶっ殺すんダァッ!」

 

 そしてそれを扇動するように、一体のオークが得物を掲げ、高らかに発し上げる。

 しかし、直後――

 ――ヒュゥ――と、オーク達の耳が、何か風を切るような音を捉える。

 

「あ――?」

 

 一体のオークが、疑問の声を上げる。

 ――瞬間。

 オーク達を、暴力が襲った。

 あまりにも強烈な力が、突如としてオーク達の元で発現したのだ。

 それは爆発炸裂現象。そしてまき散らされる、何かの破片の暴力。そして爆音。

 瞬間的に発せられたそれ等は、屈強なオーク達の身を、容易に吹き飛ばし、叩き、巻き上げ、傷付け裂き、引き千切った。

 

「ギッ――な、なん――」

 

 現象の巻き起こった地点より、少し離れた位置に居たオークが一体いた。

 そのオークは、飛び散り来た何かの破片にその身を傷つけられながらも、なんとか無事でいた。そして、突然の減少に驚きと疑問の声を上げかけたオーク。しかしオークは、その言葉を最後まで紡ぎ切る事が出来なかった。

 

「……ハ……?」

 

 顔を起こし、視線を横へと向けたオークの目に映った物。

 それは、もうもうと巻き上がる、灰色の黒煙。

 そして、その周辺に散らばる仲間のオーク達――いや、オーク達だった物の、切れ端、肉片、成れの果てであった――

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