―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》   作:えぴっくにごつ

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今回もまた残酷、不快な描写を含みます。ご注意ください。


2-9:「観測」※

 時系列は戻り、場所は愛平の町の近郊へ。

 制刻等は保護した子供達を連れ、一度安全のために町の南側に回って、町より距離を取り、装甲小隊の到着を待っていた。

 緩やかな丘の麓、影にパジェロと小型トラックを隠し、町の方向と、他周辺に警戒を向けている制刻等。

 

「――見ろ、ご到着だ」

 

 その内の敢日が、そう言葉を発すると同時に、自分等の現在位置から南方向を指し示し促した。

 敢日の指さした先。南方向に見える緩やかで広い丘。

 その稜線の向こうより、4つの影――装甲小隊の4輌の装甲車輛が、その姿を現した。

 間隔を空けた雑把な横隊を組んで、稜線を越え現れた4輌の装甲車輛は、警戒の様子を見せつつ丘を降り始め、こちらへと向かって来る。

 

「アンヴィルゲート及び装甲小隊各車、聞こえっか?エピックだ。そっちの進行方向正面にいる、見えるか?」

 

 制刻は現れた装甲小隊に向けて、インカムを用いて呼びかける。その隣では、敢日が装甲小隊に向けて大きく手を翳し、アピールしている。

 

《アンヴィルゲートよりエピック、確認した、そちらを視認した。――遅れて悪かった。途中で、ちょっかいを掛けられたモンでな》

 

 呼びかけに、装甲小隊から返答が。続け、到着を送れた事を詫びる言葉が寄越される。

 

「そりゃ、難儀だったな」

 

 その言葉に、淡々と返す制刻。

 装甲小隊の向かって右端に位置する、93式装甲戦闘車の砲塔上に、こちらに向けて手をかざす人影が見える。

 そして装甲小隊が近づくにつれ、そのエンジン音と、ギャラギャラと鳴るキャタピラ音が明確になる。

 

「な、なんだよ……あれ……」

 

 制刻等の一方。丘の麓のパジェロの傍に匿われていた子供達は、現れた装甲車輛群に、驚きそして微かに警戒する様子を見せていた。

 十代前半の少年が、目を剥き零しつつ、怯えている男の子を抱き寄せる。

 

「大丈夫。あれは、俺等の味方だ」

 

 そんな子供達の肩を、付き添っていた策頼が抱き、宥める言葉を掛けた。

 

 

 

 途中厄介に見舞われつつも、どうにか合流を果たした制刻等と、装甲小隊。

 小隊は早速、町より死角となる丘の麓を利用し、その場に野戦指揮所兼、重迫撃砲陣地の設営を開始。

 その中で、取り合えず置かれた長机に、地図、無線、タブレット類他、必要な物が準備――というより散らかされ、それを隊員が囲う。

この場の幹部の直宇都。装甲小隊を任された鷹幅。他、主要陸曹が集い、ここまでの状況、得られた情報の交換確認が行われた。

 

「――懸念は、見事に当たったわね……」

 

 一通りの情報交換、確認が済み、そして直宇都は苦々しく声を零す。

 制刻、直宇都等は、先に保護した子供達より、愛平の町がモンスターによる襲撃を受け、すでに陥落した事を聞き及んでいた。

 さらに、先に装甲小隊が拘束したオーク達から得られた、オーク達モンスターが町を拠点都市、周辺各所で襲撃行為を行っているという情報。

 隊側が疑っていた最悪の可能性は、見事に的中していた。

 

「あの町は、77戦闘団の後方を脅かし、77戦闘団と54普連の連絡路の阻害要因となっている――対応、排除が必要です」

 

 直宇都の声に続け、鷹幅が状況を言葉にし、事態への対応の必要性を発する。

 

「それだけじゃない」

 

 そこへさらに言葉が割り込む。

 各員が振り向けばそこに、この場に同席している敢日の姿があった。その背後には、保護した子供達の姿も見える。

 

「どうにも町にゃ、まだ無事で、身を隠してる人がいるらしい」

 

 敢日は隊員等に訴え、そして自身の背後に居る子供達に目を降ろす。

 

「……サウセイおじちゃんと、ジューダおじちゃん。ティウが……」

 

 そして二人の内の男の子の方が、泣きそうな声で、救いを求めるような声で、何名分かの名前と思しき言葉を発した。

 

「その人達は?」

 

 それを聞き留め、鷹幅が尋ねる言葉を子供達に掛ける。

 

「……ティウは俺達と同じ町の子供。サウセイおじさんと、ジューダおじさんは、俺達を逃がしてくれた人達だ……」

 

 問いかけに、今度は十代前半の少年が答えた。

 

「でも……俺達を逃がすときに、魔物達に見つかって、今はどうなってるか……なぁ!あんた達、よくわかんないけど、魔物を倒す力があるんだろぅ?おじさん達を助けてくれよ、頼むよ……ッ!」

 

 そして少年は一度表情を暗くして零し、それから、身を乗り出して隊員等に向けて、必死の様子で訴えた。

 

「大丈夫だ坊や。俺等が、そのおじさん達と友達も助けてやる。だから落ち着け」

 

 そんな少年を、敢日が宥め落ち着かせる。

 

「――でも、すぐには踏み込めないわ」

 

 しかしそこへ、今度は直宇都からそんな言葉が飛ぶ。

 

「あの町は、すでにモンスターの拠点と化しているわ。そんな場所に踏み込むのならば、事前の偵察、情報収集は不可欠よ」

 

 直宇都はそう、すぐには踏み込む事のできない理由を、言葉にして説く。

 

「――無人機は?」

 

 そして振り向き、背後で机上の大型無線機を操る陸曹に向けて、尋ねる言葉を飛ばした。

 

「すでに射出し、こちらへ飛んでいるそうです。間もなく、到着する頃かと――」

 

 直宇都の問いかけに、そう返答を返す陸曹。

 

「視認しましたッ!」

 

 その陸曹の言葉を遮るように、別方より声が上がった。声を辿り視線を向ければ、その先で上空を仰ぐ陸士の姿がある。

 その陸士の見上げる方向を追えば、南の方角の空高くに、小さなシルエットが見えた。

 一見、鳥のように見えるシルエットは、しかしよくよく見れば異なる物である事が分かる。そして微かに聞こえる、連続する異質な音。

 シルエットの正体は、54普連が駐屯する、草風の村より射出され飛来した無人観測機――正式名称〝地域観測無人航空機〟の物であった。

 安全のために高高度を飛行する無人観測機は、装甲小隊の野戦指揮所ぼ真上を通過。先にある愛平の町の上空へと進入し、旋回行動へと移行する。

 

「――よし、映像が来た」

 

 無人観測機の様子を追っていた直宇都だったが、そこへ横から聞こえた声に、視線を降ろし戻す。

 直宇都の少し先には、タブレット端末を手にしている陸曹。――54普連、第2中隊、第3分隊の指揮官であり、同隊の古参でもある、峨奈(がな)三等陸曹の姿があった。

 

「無線を貸してくれ――ホロウストームからオープンアーム・コントロール。こちらでも映像を正しく受信した」

 

 峨奈は、先の大型無線機を担当している陸曹から無線機のマイクを受け取り、それを口元に寄せて言葉を紡ぐ。無線通信の相手は、遠く離れた草風の村に置かれている無人観測機の操縦室だ。峨奈の言葉は、無人観測機からの映像送受信が正常である事を伝える物であり、峨奈が持ち視線を降ろすタブレット端末の画面には、無人観測機が捉えた愛平の町の全形が、動画で映し出されていた。

 

《了解、ホロウストーム。そちらから指示指定はあるか?なければこちらの判断操作で、町の観測調査を開始するが》

 

 無線通信の向こう、無人観測機の操縦室からは、峨奈の呼びかけ報告への返答が。続いて問いかけの言葉が寄越され返って来る。

 補足すると、ホロウストームというのは装甲小隊に割り当てられた無線識別名だ。

 

「二尉、どうします?」

 

 操縦室からの問いかけを受け、峨奈は直宇都に判断を仰ぐ。

 

「いいわ。カメラ操作は、操縦室に任せる」

 

 直宇都はそれに、同意の言葉を返した。

 

「オープンアーム・コントロール、それで構わない。そちらで調査を始めてくれ」

《了解、ホロウストーム》

 

 直宇都の判断を、峨奈は取り次いで操縦室に伝える。

 それに通信で了解の返答が返る。そして操縦室側の操作で、上空の無人観測機のカメラが動作を始めたのだろう。峨奈の手にするタブレット端末の画面も、それにリンクして動き始めた。

 峨奈は長机上にタブレットを置く。そして傍に居た直宇都や鷹幅、さらには敢日が、長机に寄って囲い、タブレットの画面上に視線を落とす。

 町の全形を移し出していたカメラ映像は、そこから町の一角へとズームアップする。

 

「――人っ子一人居ないな」

 

 映し出された町の一角の映像に視線を走らせ、解放が呟く。

 少なくとも映像越しには、その町の一角には、一人の住人の姿も見えなかったからだ。

 カメラはそこからスライドを始め、町の区画から区画へと移ってゆく。しかし区画を移せど確認できる光景は変わらず、住人の姿はまるで確認できなかった。

 

《――ホロウストーム、そちらでは何か見えたか?コントロール側では、何も動きが確認できていない》

「オープンアーム・コントロール。こちらも同じだ」

 

 無人観測機の操縦室から呼びかけの通信が来て、峨奈がそれに返す。何も発見できなかったのは、操縦室側も同じであるようだった。

 

《了解、一度ズームアウトする》

 

 操縦室からは続けそう言葉が来て、タブレット端末画面上の映像はズームアウトしてゆく。

 

「――ッ!ちょい待ち!」

 

 しかしその途中、敢日がタブレットに落としていた目を見開き、そして声を発し上げた。

 

「動きが――人だかりが見える!」

「どこ?どこを見てるの?」

「町のど真ん中から北西寄り。広場みたいなトコだッ」

 

 続き発し上げた敢日。直宇都がその位置の詳細を尋ね、敢日はその位置情報を告げる。

 

「コントロール。町の中央より北西よりで動きを見た。そこを拡大してくれ」

《了解》

 

 敢日の言葉を聞いた峨奈が、その位置情報を無線を通じて操縦室に告げる。

 操縦室から了承の声が返り、そしてカメラ映像はスライド。

 移動したカメラが捉えた一角。広場のような場所には、確かに蠢くいくつもの何かが見え、カメラはその場へとズームアップする。

 ズームアップしたカメラのピントが修正され、その一帯の状況、光景が明確になる。

 

「――なんだこりゃ」

 

 最初にそんな訝しむ声を上げたのは、峨奈であった。

 タブレット端末を囲い視線を落とす一同は、最初、映像に映った光景を、すぐに理解する事は出来なかった。

 

「……冗談だろッ」

 

 しかし、その中で真っ先に光景、状況を理解した敢日が、その顔を険しく顰め、そして圧の籠った言葉を零した。

 画面映像上に映し出された、町の一角の広場。

 そこには無数の緑色の物と、赤黒い何か。そして肌色の物が蠢いていた。

 緑色の物はオーク達。赤黒い何かは、触手の集合体。そして肌色の物は人間の女達。それらが、いくつも絡み合い蠢いている。それは、裸に剥かれた人間の女達が、オークや触手達に犯されている光景だった。

 広場のあちらでも、こちらでも。オーク達がその屈強な体で、そして触手達がその不気味な体で。おそらく町の住人であろう女達を捕まえて、股間のモノを、触手の生殖器を、女達に尽きこみ、貫いて、汚している。

 カメラはタブレット上端末に、そんな凄惨な光景を移し出したのだ。

 

「こんな……!」

 

 遅れその光景を理解した鷹幅が、目を見開き、驚愕の声を零す。

 

「う、そ……」

 

 その隣では、直宇都がその顔を真っ青に染めていた。

 

「これは――戦利品を、ご堪能中という所か?」

 

 一方。峨奈は少し顔を険しくしつつも、しかし冷静な様子でそんな言葉を零す。

 

「ッ――ふざけやがってッ!」

 

 そして、こういった非道を人一倍憎む性質である敢日が、怒気の籠った声を上げた。

 

「ヤツ等、少し外れたモンスターだってのは感じてたが、ここまで救いようの無い連中だったとはなッ!……根絶やしにしてやるッ」

 

 続け、憤慨した色を隠さずに見せ、荒々しく言葉を発する敢日。

 

「落ち着きなさいな」

 

 しかしそんな敢日へ、峨奈よりそう言葉が飛んだ。

 

「確かに反吐の出る光景だが、それに気を取られて考え無しになってはダメだ」

 

 峨奈は落ち着かせる言葉を解放に向けて紡ぎ、そして手にしていた大型無線機のマイクを、再び口元に寄せる。

 

「オープンアーム・コントロール、住人の所在は分かった。続け、町への進入路を探したい。カメラを町の南側城壁に沿って、動かしてくれるか?」

 

 そして無人観測機の操縦室に向けて、要請の言葉を送る。

 

《……ッ。あぁ、了解》

 

 おそらく操縦室側も、目の当たりにした光景に驚き、そして嫌悪感を抱いていたのであろう。苦い色の含まれた声で、了解の言葉が返ってくる。

 そしてタブレットのカメラ映像は、地獄絵図の繰り広げられる広場の光景を、画面外へ追いやるように消し、町の南方向へと移動を始める。少し町並みが流れた後に、カメラは町の南側城壁を映し、そこからカメラは城壁に沿って移動を始める。

 

「――ストップ」

 

 峨奈が無線機のマイクに向けて、カメラの停止要請を発したのは、それから数秒後。要請に呼応し、カメラは移動を止め、城壁の一角を移し出す。

そこは、町の南南西側に設けられた城門を中心とする一角であった。

 

「城門だ、何か動きが見えるな――オープンアーム・コントロール、拡大してくれ」

 

 峨奈からの再びの要請に答え、無人観測機のカメラはその城門付近にズームアップする。

 

「――ッ」

 

 拡大し画面に映し出された光景に、タブレットを横から覗き込んでいた敢日が、再び憎々し気に口を鳴らす。

 敢日が見たのは、城門近くにある家屋の影。そこには壊れた馬車が引き込まれ、そしてそれを囲い漁る、オークや触手達の姿がある。さらにその近くには、地面に散らかされた人間の死体が見えた。それ等からその場の光景が、モンスター達が襲い奪った馬車から、戦利品を持ち出し吟味している様子である事は、疑いようが無かった。

 

「何も知らずに訪れた人間を、招き入れ襲っているのか」

 

 怒りの様子を露にする敢日の横で、峨奈は分析の言葉を発する。

 開け放たれた城門や、家屋に隠れるように配置しているオークや触手達など。城門周りの様子から、それがモンスター達の張った罠である事が推察できた。

 

「いよいよ遠慮の必要は無さそうだな――急ごうッ!坊や達の言う、その人等がまだ無事の可能性があるなら、手遅れになる前にッ!」

「だから、落ち着きなさいって。気持ちは分かるが、考え無しに突入は危険だ」

 

 少し焦った様子で捲し立て、訴えた敢日。しかしそんな彼に、峨奈は再び宥める言葉を発した。

 

「……このモンスター達は、見ただけでも相当の脅威と見える。ただでさえ屈強な上に、数を揃えたオーク。それにこの触手状のモンスターは、銃火器――特に小銃類の小火器で相対するには、かなり相性が悪そうだ……」

 

 続き、タブレットを注視していた鷹幅が、その美少年顔に難しい色を作りながら推察の言葉を発した。

 

「――まずは重迫でこじ開けるか。城門周りには、生存者の姿は見えない」

 

 再びタブレットの画像を観察した後に、峨奈はそう提案の言葉を上げる。

 

「だが……それから先はどうする?住人の居る箇所に、大きな火力投射は行えない……ッ」

 

 その提案に対し鷹幅が、タブレットより視線を起こして、引き続きの難しい顔で言葉を返す。

 

「先のような気色悪い光景は、いっそまとめて吹き飛ばしたいくらいですが」

「おい……ッ!」

 

 鷹幅の問いかけに、峨奈は淡々とした顔と口調で、そんな言葉を発した。

 容赦のない、そして倫理を疑うその言葉に、鷹幅は咎める声を発し上げる。

 

「冗談です」

 

 その咎める声に、峨奈は再び端的に返した。

 

「――そうだな、彼――策頼一士が、状況打破の切り札になりそうだ」

 

 そして少し考える様子を見せた後に、峨奈は策頼の名を上げ、そしてそんな言葉を紡いで見せた。

 

「策頼一士?4分隊の?」

 

 その提案に、鷹幅が訝しむ声を上げる。

 

「あぁ。鷹幅さんは、あの時あの場にいませんでしたね――」

 

 鷹幅の様子から、峨奈は何かを思い返し、それから先日の出来事――傭兵隊、剣狼隊との戦いの間にあった出来事について――説明の言葉を紡ぎ始めた。

 

 

 

「――そんな事が……しかし、個人の特異体質を作戦の要として組み込むのか……」

 

 峨奈からの説明が終わり、鷹幅は驚きの様子を、しかし続けて何かあまり感激的ではない様子を見せる。

 

「それがスマートに進む手段であるなら、それに頼るべきです。それとも、やはりまとめて吹き飛ばしますか?」

「ッ……仕方がない……」

 

 そんな鷹幅に向けて、峨奈は説き、そして続けて端的にしかし皮肉の言葉を投げる。年上の下階級者からのそれに、童顔美形の上官は少し苦い顔を作りつつも、その案を受け取った。

 

「二尉、よろしいですか?」

 

 そして鷹幅は、その視線を横へと向けて、尋ねる言葉を送る。

 

「え?」

 

 そこには、未だに青い顔をしている直宇都の姿があった。

 先の惨劇のショックに加え、実際の作戦立案は門外漢である彼女は、周りの意図した物ではないが蚊帳の外状態となっていた。

 そこへ唐突に振られた具申の言葉に、彼女は呆けた言葉を上げてしまった。

 

「え、えぇッ……構わないわ、それで進めて頂戴……ッ」

 

 そして直宇都は慌て凛とした表情を作り直そうとし、しかし取り繕い切れないまま、承諾の返事を返す。

 

「よし、まずは策頼当人に話をつけないとな。彼の性格から、断られることは無いと思うが――」

 

 一応の了承を得、峨奈は発する。

 そして各員は、続く行動に掛かって行った。

 

 

 

 野戦指揮所、兼重迫撃砲陣地の近く周囲には、装甲小隊の各装甲車輛が展開している。

 その一輌。

 76式装甲戦闘車、その車上後部。

 隊員搭乗スペースの真上であるそこに、脚を放り出して座し、何かだるそうにしている一人の隊員の姿があった。

 正直言って極めて印象の悪い、陰湿そうな顔立ち。そして他の隊員等の纏う1~3型迷彩服とはまた意匠の異なる、独特の色合いで迷彩柄を描く戦闘服が酷く目を引く。

 54普連、第2中隊。第14分隊の分隊長代行。

 (あだ)予勤であった。

 ――元々、最初の転移で、第14分隊より唯一飛ばされて来た彼は、これまでは予備要員として表立って動くことは無い状況立場を享受していた。

 しかし、ウェーヴ2。転移の第2段階により予期せずして人員が補填され、第14分隊は彼――讐を筆頭者として再編。そしてこの度の事態に対応するため、装甲小隊に編成され、この地に赴いていたのだ。

 

「――讐ッ」

 

 気だるげな様子で装甲車上に身を置いていた讐の耳が、自身を呼ぶ声を聞く。

 視線を地上へ降ろして向ければ、そこに体格の良い一人の隊員の姿があった。讐の指揮下にある、分隊支援火器射手の隊員だ。

 

「動くそうだ、まず偵察が町に入ると。俺等にも、準備指示が来た」

 

 その隊員から告げられたのは、装甲小隊がこれより町に向けて、対応行動を始める旨。

 

「あぁ――はッ、やれやれ」

 

 そんな隊員からの言葉に、讐は変わらぬ気だるげな様子で、そしてどこか皮肉気にそんな声を発して零す。

 

「どうにも町の中は、緑のデカブツやタコモドキのモンスターでぎっしりらしい。おまけにモンスター共は、町中を荒らして、捕まえた女達でお楽しみ中なんだとッ」

 

 続け体格の良い隊員は、聞き及んだ町の状況を。その中で行われているらしい、阿鼻叫喚を説明。そしてそれの対する、不快の様子をその顔に見せる。

 

「ほぉう」

 

 その説明に、他人事のように返す讐。

 

「おそらく俺等も踏み込む事になるだろう。放ってはおけんが――不快なモンを見る事になりそうだ……ッ」

 

 一方の体格の良い隊員は、引き続きの不快の色を浮かべた顔で、忌々し気に呟く。

 

「そいつぁ――」

 

 しかし讐はと言えば、その印象の悪い顔の、その口角を微かに上げている。

 

「――そっからまたひっくり返してやれば、さぞ面白そうだ――」

 

 そして、そんな何かを企む言葉を紡いで見せた。

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