―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》 作:えぴっくにごつ
愛平の町。その南南西側に設けられている城門のその内側。
城門近くに立つ建物の影。
「ヘヘッ。今度の連中も、中々の収穫だっタな!」
「町だと思って、マヌケな人間共が次々ノコノコと来やがるからな。チョロくて笑いが止まらネぇぜ!」
そこでは、先に襲った商隊より奪った、食料品を貪りながら、下品に笑い会話を交わす、オーク達の姿があった。
「おいッ!南の方向ッ!また来たゾ!」
そんなオーク達の耳に、頭上より別の声が降りて来て届く。
城壁上で見張りに付いている別のオークからの、町に接近するものがまた現れた事を知らせる声だ。
「オ、また新しい獲物カ!」
「今度は何が頂けっかな?ギャハハッ!」
「マヌケな人間共を、またぶった切ってやろうゼ!」
新たな獲物、犠牲者の来訪を信じて疑わず、オーク達はまた下品に笑い上げる。
「そんじゃまた罠の準備だ!触手共をけしかける準備も忘れルな!」
そして獲物を引き入れ、罠に嵌め襲うべく、その準備に掛かろうとするオーク達。
「な、なんだアりゃ……?」
しかしそんなオーク達の耳に、城壁上の見張りオークより再びの、そして何か戸惑う声が届いたのはその時であった。
「あァ?どうしたンだ?」
聞こえ来た仲間のその声に、地上のオークの一体が、訝しむ声を城壁上に向けて返す。
「なんか、妙なモンが出てきやがったンだ……!緑の箱みてェな……馬車じゃねェ。な、なんなんだ……?」
尋ねる声に、しかし城壁上の仲間から返されたのは、そんな要領の得ない言葉。
「アぁ?」
「なんだそりゃァ?」
返されたその回答に、地上のオーク達はその訝しむ色をより一層強くする。
――そのオーク達の耳が、何が異質な音を捉えたのは、その時であった。
「あぁ?」
ヒュゥゥゥゥ――という、風を切り裂き、そして何かが迫り来るような、不気味な音。
「今度はなん――」
一体のオークが、再びの訝しむ声を上げかける。
しかし、それが最後まで紡がれる事はなかった。
――直後に、比類なき暴力が、彼等を襲ったから。
轟音に、衝撃。
突如として巻き起こったそれが、オーク達の身を切り裂き、引きちぎり、巻き上げ吹き飛ばし――略奪者であった彼等を、狩られる犠牲者へと一転させたから――
数分前。
愛平の町より南方角にある小高い丘を、73式装甲車がキャタピラを鳴らして越え、町の視界へと姿を現した。
その73式装甲車の両サイドには、それぞれ3名づつ、計6名の随伴する隊員の姿がある。
内の片方は、96式自走120㎜迫撃砲の弾着観測を行う、前進観測チーム。
そしてもう一方は、他でもない制刻。そして敢日と策頼だ。
これより制刻等は、偵察チームとして町へと踏み込む。そして73式装甲車と前進観測チームは、その援護支援を担っていた。
「――よし。
丘を三分の一程度降った所で、73式装甲車の車上。その前方中央に設けられた車長用キューポラから半身を出す、車長の森高が操縦手に向けて発する。
同時に森高は片腕で拳を掲げ上げ、随伴する各員にも停止指示を送る。
車上の森高の合図と、同時に停止した73式装甲車を見て、随伴していた制刻等や前進観測チームも足を止める。そして身を低くし、警戒の姿勢を取る。
「ホロウストーム・コマンドへ。オニキスポイント、スナップ41、及びエピックは位置に付いた」
停止した73式装甲車上で、森高はインカムに向けて言葉を紡ぐ。後方の野戦指揮所へ、所定の位置に付いた事を伝えるための通信だ。
《了解。ソブリンズの準備は完了している。スナップ41の準備が良ければ、始める》
指揮所からは、峨奈の声で返信が来る。補足すると、ソブリンズは96式自走120㎜迫撃砲に。スナップ41は前進観測チームに、それぞれ割り当てられた無線識別だ。
「了解――だそうだ。どうだ?」
森高は車上より傍らに視線を降ろし、随伴の前進観測チームに尋ねる声を掛ける。
「問題無い」
73式装甲車の傍らで、前進観測チームはすでに観測態勢を整え終えていた。そしてチームの長の陸曹から、準備は完了している旨が言葉で帰ってくる。
「了解――コマンド、スナップ41も準備を完了している。〝ハンマー攻撃〟を始めてくれ」
それを受け、森高は再びインカムを用いて野戦指揮所に向けて、そう要請の言葉を紡いだ。
《了解》
野戦指揮所の峨奈からは、端的な了解の声が返ってくる。
それを境に通信始め各音声は鳴りを潜め、制刻等と73式装甲車の周囲には、微かなそよ風の音色だけが伝わる。
――ボッ、と。
少しの間を置いた後。
制刻等の背後、小高い丘の向こうから、そよ風の音色を割って、何か鈍く爆ぜるような音が響き聞こえた。
そして、さらに一拍の間を置いた後。進行方向、愛平の町の方向より、ヒュゥゥ――という風を切り裂くような音が、微かに聞こえ来る。
――次の瞬間。それは盛大な爆音、炸裂音へと変貌した。
爆音は愛平の町より聞こえ来、さらに続いて、町の城門城壁の向こうより、黒い煙が巻き上がり立ち上る。
丘の向こうで配置した96式自走120㎜迫撃砲より撃ち出された120㎜迫撃砲弾が、制刻等の頭上を飛び越え、町へと飛び込み着弾。爆発炸裂したのだ。
「――初弾着弾確認」
弾着観測チームの隊員から、声が上がる。チームの隊員等は、双眼鏡で町の観測。あるいは手にしたタブレット端末に視線を落としている。タブレットの画面には、無人観測機が送ってくる、町の上空からの映像が映っている。
観測チームは直接観測と上空映像の双方から弾着状況を観測掌握し、砲撃を支援誘導する。
「門のすぐ裏側に落ちた。初手から良い
タブレット端末には、町の城門裏手で、着弾炸裂による爆煙がもうもうと上がる様子が映し出されている。
チームの長の陸曹はそれを見ながら、重迫撃砲の照準技術を評する言葉を呟く。
「41よりソブリンズ。効力射確認、そのまま数発続けてくれ」
《了解、41》
陸曹は砲撃の継続を要請。無線の向かうからは、了承の声が返り来る。
そして、再び背後の向こうより、ボッ――という鈍く爆ぜる音が聞こえ来る。
数拍置いた後に、再び町の方向より風を切る音が響き聞こえ来る。そしてそれは爆音へと変わり、爆煙を生み出し立ち上らせた。
それから、3発、4発、5発――と、制刻等の頭上を飛び越えて、町に迫撃砲弾が次々飛び込み、その度に爆音と爆炎が上がり聞こえ来る。
「さらに効果確認。うまく入ってる」
観測チームの陸曹が、タブレット端末に視線を落としながら、さらに無線の向こうに声を送る。
タブレット画面には、無人観測機が上空から観測した、町の城壁の向こう側の様子が――飛び込んだ迫撃砲弾が炸裂し爆煙を巻き上げ、混乱し逃げ惑うオークや触手達を、巻き上げ引き千切る様子が映し出されていた。
略奪行為の企みのため、家屋建物に身を隠し潜めていた様子のオークや触手達。
しかしそれは、その浅はかな企みのすべてを丸裸にする、無人観測機の空からの目。そして、家屋建物ごと獲物を吹き飛ばし巻き上げる、重迫撃砲からの暴力。
それらの存在の前に、まったく無意味で、そして無力であった。
120㎜迫撃砲弾の投射は、10発に達し、さらに続く。
迫撃砲弾は城門城壁の向こうだけでなく、城門城壁そのものにも直撃。元は町を守っていたであろう堅牢なそれを、しかし易々と吹き飛ばし、崩落瓦解させた。
「――ソブリンズ、そこまでだ。大分蹴散らかした、一度停止してくれ」
叩き込まれた迫撃砲弾が20発を越えた所で、観測チームの長の陸曹は、無線の向こう、重迫撃砲に向けて砲撃停止を要請する言葉を紡いだ。
要請が反映され、それを境に背後の丘から響いていた砲撃の音が、鳴りを潜める。
「――玄関口は、大分吹っ飛ばしたようだが」
観測チームの隣。73式装甲車の車長用キューポラ上では、車長の森高が双眼鏡を手にして覗き、先の愛平の町の城門近辺を、呟きつつ眺め観測している。
「どうする制刻予勤?念のため、もう少し叩き込むか?」
そして森高は、73式装甲車の反対側側面に視線を降ろし、そこで同じく町を観測してる、制刻に向けて尋ねる声を飛ばす。
「いえ、こんなモンでしょう」
しかし制刻からは、それに対して否定の言葉が返る。
「残りは、踏み込んで俺等で蹴っ散らかします」
そしてこれよりの自分等の行動を、端的に進言して見せた。
「了解――だそうだ。砲撃はそのまま待機」
それを受けた森高は、また装甲車反対側の観測チームへ、砲撃待機の支持を伝える。
「――オニキスポイントよりホロウストーム・コマンド。これよりエピックが踏み込むとの事。オニキスポイントはこれの支援に付く。これより両ユニットは、前進する」
《了解、オニキスポイント。両ユニット、侵入の際は十分警戒せよ》
そして野戦指揮所へ向けて、これより前進し町へと踏み込む旨を、無線にて送信。指揮所からは了承と、忠告の言葉が返ってくる。
「おぉし、行くぞ」
その端。自身のインカムでやり取りを聞いていた制刻は、指揮所よりの侵入許可の旨を聞くと同時に、言葉を発して歩み出した。
「あぁ」
「了」
傍らで待機していた敢日や策頼も、それに答え、制刻に続き歩き出す。
「っと、おぉい――微敷、前進だ」
そんな勝手に前進を再開した制刻等に、装甲車の森高は少し慌て困った声を上げ、それから操縦手に前進を支持。73式装甲車は制刻等を追いかけるように再発進し、キャタピラを鳴らし出した。
制刻、敢日、策頼の三名は雑把な隊伍を組み、なだらかな斜面を歩み降りて、先に見える町の城門へと距離を詰める。
制刻等の斜め後方には、制刻等の援護支援のため、73式装甲車が続く。
「止まれ」
先頭を行く制刻が、片腕を翳し上げて停止指示を出したのは、町の城門へ数十メートルの距離まで近づいた所であった。
制刻の支持に、敢日と策頼はすかさず呼応し、身を低くして警戒姿勢を取る。
そして一拍置いて、後続の73式装甲車も停車。
「前だ」
前進を停止した各員に向けて、制刻は重々しくも、しかし明瞭な声で。そして片手のジェスチャーで、前方を指し示す。
示され、そして各員の視線が向いたのは、町の城門付近。
重迫撃砲の砲撃により城門周りは崩壊し、瓦礫の山がと化し、最早城門城壁としての役割を成していない事が、ありありと分かる。そして着弾炸裂により発生した煙が、もうもうと立ち込めている。
肝心なのは、その立ち込める煙の向こうより、うっすらと浮かび上がり見える、いくつかのシルエットだ。
複数の何かが、煙を抜けてくる。
それに気づき、敢日や策頼は。そして73式装甲車の乗員各員は、警戒し構える動作を取る。
しかし、そんな各員の耳が、直後に何らかの音声を捉えた。
「あ゛ぁ……」
「ぃ゛ぁぁ……」
それを声――いや、呻き声。もしくは悲鳴だ。
煙の向こうから、重く濁った。しかしそれが苦痛の物である事が、嫌でも分かる呻き声が聞こえてくる。
そしてその呻き声と共に、先のシルエットが煙を抜け、姿を露にした。
――各々が予測していた通り、現れたのは先に上空偵察で確認していた、オーク達であった。
しかし――先まで町の征服者であったはずの彼らのその姿様子は、一転していた。
「い゛だぁぁ……」
「あじガぁぁ……」
「なにモ゛……みエない……」
最初の一体目に始まり、三体、四体、五体と、砲撃の煙の抜けて、オーク達が姿を現す。
そのオーク達はいずれもヨタヨタ、ふらふらと覚束ない足取りだ。
当然だ。
オーク達は120㎜迫撃砲弾の雨。暴力により、その身を容赦なく傷つけられていたのだから。
全身が血だらけのオーク。両腕を失っているオーク。足を失い這い進んでいるオーク。
視力を失ったと思われるオークも見える。おそらく、鼓膜が破れ聴力も失っている物と思われる。
その強靭な肉体故、奇跡的に砲撃の中を生き残った――いや、死ぬことが出来なかったと言うのが正しいか。
その身を引き裂かれ壊されたオーク達は、地獄の痛み苦しみに苛まれながら、まるで亡者の群れのように、彷徨い歩き出てきたのだ。
「……ッ」
阿鼻叫喚の様子で出てきたオーク達。
その姿に敢日は、ネイルガンを構え警戒を維持しながらも、その顔を険しくしている。オーク達の蛮行に憤怒していた敢日だったが、しかし今オーク達が見せるその痛ましい姿には、難しい感情を覚えずにはいられないようであった。
「オニキスポイント」
そんな敢日の傍ら。制刻は先のオーク達の様子を観察しつつ、後続の73式装甲車に向けて端的に発し上げる。
「……了解」
制刻の呼ぶ声に、装甲車車長の森高は、それだけでその意図を理解。了解の声を返す。
「
そして、装甲車搭乗員の一人の名を呼び、苦い口調でそう支持を下した。
「了」
車長の森高の支持を受け取ったのは、73式装甲車の前方左側。前方銃手席に収まり、ハッチより頭を出している、前方機関銃を担当する小柄の隊員。
永海と呼ばれた隊員は、森高の指示に静かに答えると、同時に自身の座席の手前に備わる、74式車載7.62mm機関銃のグリップを取る。
そしておおよその目測で、視線の向こうでヨタヨタと彷徨うオーク達に照準を定め――そして押し鉄に力を込めた。
「だずげ――あ゛ッ」
「オ゛っ――」
撃ち出された7.62㎜弾の成す火線は、彷徨うオーク達に飛び込み、彼らを生き地獄から解放した。
「え゛?――お゛ッ」
「な゛、な゛ニ――あ゛っ」
「びょッ」
永海の操る車載機関銃は、死に体のオーク達を端から順に、その火線で弾き貫き、薙いで行った。
7.62弾はオーク達の身を貫き、頭を爆ぜ、文字通り処分してゆく。
銃火がオーク達の端から端まで一文字を描き終わった所で、永海は機関銃の押し金より指を放し、射撃行動を停止。
発砲が止んだ車載機関銃、装甲越しに前方外部に突き出た銃身銃口からは、微かに白い煙が上がる。
「完了」
一連の射撃、処分行動が完了。その効果を確認すると、永海は再びの静かでシンプルな一言で、車長の森高にその旨を告げた。
「了解」
それに森高は、キューポラ上で先の光景を観測しつつ、静かに、しかし少し難しい声色で返答を返す。
「他は、出てこないですかね」
装甲車の前方。警戒姿勢で観察していた策頼が、端的に推測の言葉を発する。
「ようだな」
それに制刻も、端的に返す。
「こっから、俺等で踏み込む。オニキスポイントは待機、支援を」
そして制刻は敢日と策頼に。それから装甲車にそれぞれ促し、町に踏み込むべく歩み出した。