―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》   作:えぴっくにごつ

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2-10:「〝ハンマー攻撃〟/処理」

 愛平の町。その南南西側に設けられている城門のその内側。

 城門近くに立つ建物の影。

 

「ヘヘッ。今度の連中も、中々の収穫だっタな!」

「町だと思って、マヌケな人間共が次々ノコノコと来やがるからな。チョロくて笑いが止まらネぇぜ!」

 

 そこでは、先に襲った商隊より奪った、食料品を貪りながら、下品に笑い会話を交わす、オーク達の姿があった。

 

「おいッ!南の方向ッ!また来たゾ!」

 

 そんなオーク達の耳に、頭上より別の声が降りて来て届く。

 城壁上で見張りに付いている別のオークからの、町に接近するものがまた現れた事を知らせる声だ。

 

「オ、また新しい獲物カ!」

「今度は何が頂けっかな?ギャハハッ!」

「マヌケな人間共を、またぶった切ってやろうゼ!」

 

 新たな獲物、犠牲者の来訪を信じて疑わず、オーク達はまた下品に笑い上げる。

 

「そんじゃまた罠の準備だ!触手共をけしかける準備も忘れルな!」

 

 そして獲物を引き入れ、罠に嵌め襲うべく、その準備に掛かろうとするオーク達。

 

「な、なんだアりゃ……?」

 

 しかしそんなオーク達の耳に、城壁上の見張りオークより再びの、そして何か戸惑う声が届いたのはその時であった。

 

「あァ?どうしたンだ?」

 

 聞こえ来た仲間のその声に、地上のオークの一体が、訝しむ声を城壁上に向けて返す。

 

「なんか、妙なモンが出てきやがったンだ……!緑の箱みてェな……馬車じゃねェ。な、なんなんだ……?」

 

 尋ねる声に、しかし城壁上の仲間から返されたのは、そんな要領の得ない言葉。

 

「アぁ?」

「なんだそりゃァ?」

 

 返されたその回答に、地上のオーク達はその訝しむ色をより一層強くする。

 ――そのオーク達の耳が、何が異質な音を捉えたのは、その時であった。

 

「あぁ?」

 

 ヒュゥゥゥゥ――という、風を切り裂き、そして何かが迫り来るような、不気味な音。

 

「今度はなん――」

 

 一体のオークが、再びの訝しむ声を上げかける。

 しかし、それが最後まで紡がれる事はなかった。

 ――直後に、比類なき暴力が、彼等を襲ったから。

 轟音に、衝撃。

 突如として巻き起こったそれが、オーク達の身を切り裂き、引きちぎり、巻き上げ吹き飛ばし――略奪者であった彼等を、狩られる犠牲者へと一転させたから――

 

 

 

 数分前。

 愛平の町より南方角にある小高い丘を、73式装甲車がキャタピラを鳴らして越え、町の視界へと姿を現した。

 その73式装甲車の両サイドには、それぞれ3名づつ、計6名の随伴する隊員の姿がある。

 内の片方は、96式自走120㎜迫撃砲の弾着観測を行う、前進観測チーム。

 そしてもう一方は、他でもない制刻。そして敢日と策頼だ。

 これより制刻等は、偵察チームとして町へと踏み込む。そして73式装甲車と前進観測チームは、その援護支援を担っていた。

 

「――よし。微敷(びしき)、停車」

 

 丘を三分の一程度降った所で、73式装甲車の車上。その前方中央に設けられた車長用キューポラから半身を出す、車長の森高が操縦手に向けて発する。

 同時に森高は片腕で拳を掲げ上げ、随伴する各員にも停止指示を送る。

 車上の森高の合図と、同時に停止した73式装甲車を見て、随伴していた制刻等や前進観測チームも足を止める。そして身を低くし、警戒の姿勢を取る。

 

「ホロウストーム・コマンドへ。オニキスポイント、スナップ41、及びエピックは位置に付いた」

 

 停止した73式装甲車上で、森高はインカムに向けて言葉を紡ぐ。後方の野戦指揮所へ、所定の位置に付いた事を伝えるための通信だ。

 

《了解。ソブリンズの準備は完了している。スナップ41の準備が良ければ、始める》

 

 指揮所からは、峨奈の声で返信が来る。補足すると、ソブリンズは96式自走120㎜迫撃砲に。スナップ41は前進観測チームに、それぞれ割り当てられた無線識別だ。

 

「了解――だそうだ。どうだ?」

 

 森高は車上より傍らに視線を降ろし、随伴の前進観測チームに尋ねる声を掛ける。

 

「問題無い」

 

 73式装甲車の傍らで、前進観測チームはすでに観測態勢を整え終えていた。そしてチームの長の陸曹から、準備は完了している旨が言葉で帰ってくる。

 

「了解――コマンド、スナップ41も準備を完了している。〝ハンマー攻撃〟を始めてくれ」

 

 それを受け、森高は再びインカムを用いて野戦指揮所に向けて、そう要請の言葉を紡いだ。

 

《了解》

 

 野戦指揮所の峨奈からは、端的な了解の声が返ってくる。

 それを境に通信始め各音声は鳴りを潜め、制刻等と73式装甲車の周囲には、微かなそよ風の音色だけが伝わる。

 ――ボッ、と。

 少しの間を置いた後。

 制刻等の背後、小高い丘の向こうから、そよ風の音色を割って、何か鈍く爆ぜるような音が響き聞こえた。

 そして、さらに一拍の間を置いた後。進行方向、愛平の町の方向より、ヒュゥゥ――という風を切り裂くような音が、微かに聞こえ来る。

 ――次の瞬間。それは盛大な爆音、炸裂音へと変貌した。

 爆音は愛平の町より聞こえ来、さらに続いて、町の城門城壁の向こうより、黒い煙が巻き上がり立ち上る。

 丘の向こうで配置した96式自走120㎜迫撃砲より撃ち出された120㎜迫撃砲弾が、制刻等の頭上を飛び越え、町へと飛び込み着弾。爆発炸裂したのだ。

 

「――初弾着弾確認」

 

 弾着観測チームの隊員から、声が上がる。チームの隊員等は、双眼鏡で町の観測。あるいは手にしたタブレット端末に視線を落としている。タブレットの画面には、無人観測機が送ってくる、町の上空からの映像が映っている。

 観測チームは直接観測と上空映像の双方から弾着状況を観測掌握し、砲撃を支援誘導する。

 

「門のすぐ裏側に落ちた。初手から良い(たま)だ」

 

 タブレット端末には、町の城門裏手で、着弾炸裂による爆煙がもうもうと上がる様子が映し出されている。

 チームの長の陸曹はそれを見ながら、重迫撃砲の照準技術を評する言葉を呟く。

 

「41よりソブリンズ。効力射確認、そのまま数発続けてくれ」

《了解、41》

 

 陸曹は砲撃の継続を要請。無線の向かうからは、了承の声が返り来る。

 そして、再び背後の向こうより、ボッ――という鈍く爆ぜる音が聞こえ来る。

 数拍置いた後に、再び町の方向より風を切る音が響き聞こえ来る。そしてそれは爆音へと変わり、爆煙を生み出し立ち上らせた。

 それから、3発、4発、5発――と、制刻等の頭上を飛び越えて、町に迫撃砲弾が次々飛び込み、その度に爆音と爆炎が上がり聞こえ来る。

 

「さらに効果確認。うまく入ってる」

 

 観測チームの陸曹が、タブレット端末に視線を落としながら、さらに無線の向こうに声を送る。

 タブレット画面には、無人観測機が上空から観測した、町の城壁の向こう側の様子が――飛び込んだ迫撃砲弾が炸裂し爆煙を巻き上げ、混乱し逃げ惑うオークや触手達を、巻き上げ引き千切る様子が映し出されていた。

 略奪行為の企みのため、家屋建物に身を隠し潜めていた様子のオークや触手達。

しかしそれは、その浅はかな企みのすべてを丸裸にする、無人観測機の空からの目。そして、家屋建物ごと獲物を吹き飛ばし巻き上げる、重迫撃砲からの暴力。

それらの存在の前に、まったく無意味で、そして無力であった。

 120㎜迫撃砲弾の投射は、10発に達し、さらに続く。

 迫撃砲弾は城門城壁の向こうだけでなく、城門城壁そのものにも直撃。元は町を守っていたであろう堅牢なそれを、しかし易々と吹き飛ばし、崩落瓦解させた。

 

「――ソブリンズ、そこまでだ。大分蹴散らかした、一度停止してくれ」

 

 叩き込まれた迫撃砲弾が20発を越えた所で、観測チームの長の陸曹は、無線の向こう、重迫撃砲に向けて砲撃停止を要請する言葉を紡いだ。

 要請が反映され、それを境に背後の丘から響いていた砲撃の音が、鳴りを潜める。

 

「――玄関口は、大分吹っ飛ばしたようだが」

 

 観測チームの隣。73式装甲車の車長用キューポラ上では、車長の森高が双眼鏡を手にして覗き、先の愛平の町の城門近辺を、呟きつつ眺め観測している。

 

「どうする制刻予勤?念のため、もう少し叩き込むか?」

 

 そして森高は、73式装甲車の反対側側面に視線を降ろし、そこで同じく町を観測してる、制刻に向けて尋ねる声を飛ばす。

 

「いえ、こんなモンでしょう」

 

 しかし制刻からは、それに対して否定の言葉が返る。

 

「残りは、踏み込んで俺等で蹴っ散らかします」

 

 そしてこれよりの自分等の行動を、端的に進言して見せた。

 

「了解――だそうだ。砲撃はそのまま待機」

 

 それを受けた森高は、また装甲車反対側の観測チームへ、砲撃待機の支持を伝える。

 

「――オニキスポイントよりホロウストーム・コマンド。これよりエピックが踏み込むとの事。オニキスポイントはこれの支援に付く。これより両ユニットは、前進する」

《了解、オニキスポイント。両ユニット、侵入の際は十分警戒せよ》

 

 そして野戦指揮所へ向けて、これより前進し町へと踏み込む旨を、無線にて送信。指揮所からは了承と、忠告の言葉が返ってくる。

 

「おぉし、行くぞ」

 

 その端。自身のインカムでやり取りを聞いていた制刻は、指揮所よりの侵入許可の旨を聞くと同時に、言葉を発して歩み出した。

 

「あぁ」

「了」

 

 傍らで待機していた敢日や策頼も、それに答え、制刻に続き歩き出す。

 

「っと、おぉい――微敷、前進だ」

 

 そんな勝手に前進を再開した制刻等に、装甲車の森高は少し慌て困った声を上げ、それから操縦手に前進を支持。73式装甲車は制刻等を追いかけるように再発進し、キャタピラを鳴らし出した。

 

 

 

 制刻、敢日、策頼の三名は雑把な隊伍を組み、なだらかな斜面を歩み降りて、先に見える町の城門へと距離を詰める。

 制刻等の斜め後方には、制刻等の援護支援のため、73式装甲車が続く。

 

「止まれ」

 

 先頭を行く制刻が、片腕を翳し上げて停止指示を出したのは、町の城門へ数十メートルの距離まで近づいた所であった。

 制刻の支持に、敢日と策頼はすかさず呼応し、身を低くして警戒姿勢を取る。

 そして一拍置いて、後続の73式装甲車も停車。

 

「前だ」

 

 前進を停止した各員に向けて、制刻は重々しくも、しかし明瞭な声で。そして片手のジェスチャーで、前方を指し示す。

 示され、そして各員の視線が向いたのは、町の城門付近。

 重迫撃砲の砲撃により城門周りは崩壊し、瓦礫の山がと化し、最早城門城壁としての役割を成していない事が、ありありと分かる。そして着弾炸裂により発生した煙が、もうもうと立ち込めている。

 肝心なのは、その立ち込める煙の向こうより、うっすらと浮かび上がり見える、いくつかのシルエットだ。

複数の何かが、煙を抜けてくる。

それに気づき、敢日や策頼は。そして73式装甲車の乗員各員は、警戒し構える動作を取る。

 しかし、そんな各員の耳が、直後に何らかの音声を捉えた。

 

「あ゛ぁ……」

「ぃ゛ぁぁ……」

 

 それを声――いや、呻き声。もしくは悲鳴だ。

 煙の向こうから、重く濁った。しかしそれが苦痛の物である事が、嫌でも分かる呻き声が聞こえてくる。

 そしてその呻き声と共に、先のシルエットが煙を抜け、姿を露にした。

 ――各々が予測していた通り、現れたのは先に上空偵察で確認していた、オーク達であった。

 しかし――先まで町の征服者であったはずの彼らのその姿様子は、一転していた。

 

「い゛だぁぁ……」

「あじガぁぁ……」

「なにモ゛……みエない……」

 

 最初の一体目に始まり、三体、四体、五体と、砲撃の煙の抜けて、オーク達が姿を現す。

 そのオーク達はいずれもヨタヨタ、ふらふらと覚束ない足取りだ。

 当然だ。

オーク達は120㎜迫撃砲弾の雨。暴力により、その身を容赦なく傷つけられていたのだから。

 全身が血だらけのオーク。両腕を失っているオーク。足を失い這い進んでいるオーク。

 視力を失ったと思われるオークも見える。おそらく、鼓膜が破れ聴力も失っている物と思われる。

 その強靭な肉体故、奇跡的に砲撃の中を生き残った――いや、死ぬことが出来なかったと言うのが正しいか。

その身を引き裂かれ壊されたオーク達は、地獄の痛み苦しみに苛まれながら、まるで亡者の群れのように、彷徨い歩き出てきたのだ。

 

「……ッ」

 

 阿鼻叫喚の様子で出てきたオーク達。

 その姿に敢日は、ネイルガンを構え警戒を維持しながらも、その顔を険しくしている。オーク達の蛮行に憤怒していた敢日だったが、しかし今オーク達が見せるその痛ましい姿には、難しい感情を覚えずにはいられないようであった。

 

「オニキスポイント」

 

 そんな敢日の傍ら。制刻は先のオーク達の様子を観察しつつ、後続の73式装甲車に向けて端的に発し上げる。

 

「……了解」

 

 制刻の呼ぶ声に、装甲車車長の森高は、それだけでその意図を理解。了解の声を返す。

 

永海(ながみ)……楽にしてやれ」

 

 そして、装甲車搭乗員の一人の名を呼び、苦い口調でそう支持を下した。

 

「了」

 

 車長の森高の支持を受け取ったのは、73式装甲車の前方左側。前方銃手席に収まり、ハッチより頭を出している、前方機関銃を担当する小柄の隊員。

 永海と呼ばれた隊員は、森高の指示に静かに答えると、同時に自身の座席の手前に備わる、74式車載7.62mm機関銃のグリップを取る。

 そしておおよその目測で、視線の向こうでヨタヨタと彷徨うオーク達に照準を定め――そして押し鉄に力を込めた。

 

「だずげ――あ゛ッ」

「オ゛っ――」

 

 撃ち出された7.62㎜弾の成す火線は、彷徨うオーク達に飛び込み、彼らを生き地獄から解放した。

 

「え゛?――お゛ッ」

「な゛、な゛ニ――あ゛っ」

「びょッ」

 

 永海の操る車載機関銃は、死に体のオーク達を端から順に、その火線で弾き貫き、薙いで行った。

 7.62弾はオーク達の身を貫き、頭を爆ぜ、文字通り処分してゆく。

 銃火がオーク達の端から端まで一文字を描き終わった所で、永海は機関銃の押し金より指を放し、射撃行動を停止。

 発砲が止んだ車載機関銃、装甲越しに前方外部に突き出た銃身銃口からは、微かに白い煙が上がる。

 

「完了」

 

 一連の射撃、処分行動が完了。その効果を確認すると、永海は再びの静かでシンプルな一言で、車長の森高にその旨を告げた。

 

「了解」

 

 それに森高は、キューポラ上で先の光景を観測しつつ、静かに、しかし少し難しい声色で返答を返す。

 

「他は、出てこないですかね」

 

 装甲車の前方。警戒姿勢で観察していた策頼が、端的に推測の言葉を発する。

 

「ようだな」

 

 それに制刻も、端的に返す。

 

「こっから、俺等で踏み込む。オニキスポイントは待機、支援を」

 

 そして制刻は敢日と策頼に。それから装甲車にそれぞれ促し、町に踏み込むべく歩み出した。

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