―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》   作:えぴっくにごつ

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2-16:「鋼鉄の急襲」

 時間は数秒遡る。

 並ぶ家屋建物のその中を、唸り声や鉄の擦れる音。そして破壊音を響かせて突き進む巨大な姿がある。

 他でもない、89式装甲戦闘車だ。

 エンジンを唸らせキャタピラを鳴らす装甲戦闘車は、行く手を阻む建物の壁をど突き壊し、破り、踏み倒し、強引に乱暴に進路を開通。埃を巻き上げ、さらには家屋内の家具類を踏みつぶして進む。

 ――装甲戦闘車は、この先で障害に足止めされている小隊本部班の元へ早急に駆けつけるべく、直進ルートを取ることを選択。

 その上で障害となる家屋をぶち壊し、ぶち抜いての、容赦の無い進行行動の最中であった。

 

「――すぐだ、備えろ」

 

 その装甲戦闘車の砲塔内、車長席に収まる髄菩。

 彼は伝わりくる大きな振動や、開けっ放しの頭上キューポラから舞い込む埃にその顔を不快感で顰めながらも、ペリスコープ越しに外部進行方向を注視。そしてインカムで他搭乗員へ一言告げる。

 髄菩の発した言葉の直後。進み続ける装甲戦闘車はその先にある屋内の壁に、その鼻面をそのままの速度でぶつける。そして壁をぶち破りねじ開け、その先のへと飛び出した。

 家屋の壁が倒壊し踏み倒され、薄暗かった景色が一転し、光に照らされ視界が開ける――

 

「――ギェえッ!?」

「――あビェッ!?」

 

 鈍い衝撃が。そして鈍く妙な悲鳴が複数聞こえ届いたのは、それと同時であった。さらに並行して、バキリバキリと何かを踏みつぶし壊す音と感触が、キャタピラ越しに伝え来る。

 89式装甲戦闘車が踏み出た先。そこはオーク達の築いた肉の盾のバリケードの、まさに丁度真横。

 装甲戦闘車は踏み出た瞬間、そこにあったバリケードを。そしてそこに立っていたオーク達を。その質量で跳ね飛ばし、あるいは踏み潰したのだ。

 

「――抜けた」

 

 心地良いとは言い難い衝撃や振動を感じながらも、髄菩は構わず一言零し、そしてキューポラから這い出し、上半身を砲塔上へと出す。

 髄菩のその動作の間にも、速度収まらぬ装甲戦闘車は進み、バリケードを側面から喰らうように潰し倒壊させる。

 もちろん、バリケードには町の住民達の死体や生首が。さらには肉の盾とされた女達が、晒され磔られたまま。――が。装甲戦闘車は何の容赦の遠慮もなく、それら〝ごと〟、バリケードを踏み倒し轢き潰したのだ。

 無残にも晒し磔られていた町人の死体は、解放される事と引き換えに、バリケードの破片と共に儚く散らかされる。

 

「え――ひぎぇっ!?ぴゃッ――」

「――ぱり゛ゃッ」

 

 そして磔られ、オーク達にただただ媚び絶望の嘆きを漏らしていた女達は、状況を理解する暇もなく装甲戦闘車に撥ねられ、キャタピラに巻き込まれ潰され、肉の盾から肉片へと成り代わる。

 〝障害〟となる物事に、装甲戦闘車は一切の遠慮も容赦も見せない。

 進路上に居た何体かのオークを跳ね飛ばし轢き潰し。バリケードを町人の死体や女達ごと蹴散らかし。

極めつけに、何かお立ち台に姿を置いていたオークを急襲。抱えられていた女ごと吹っ飛ばして地面に叩き出し、そのまま止まらぬ勢いで、左右の両キャタピラでそれぞれを飲み込み轢き潰し排除して見せた。

 

《小気味の良い音だな》

 

 髄菩の耳にインカム越しのそんな声が届く。それは装甲戦闘車を操る操縦手の藩童からの物。彼はキャタピラが伝える肉を引き潰す感触に、そんな感想をわざわざ述べて寄こしたのだ。

 

「ッ」

 

 しかし髄菩はその不快な感想に対して、顔を顰めるだけで返さない。

 踏み込み殴り込んだ勢いのまま、バリケード地帯の三分の一程を傍若無人なまでの動きで喰らい散らかした89式装甲戦闘車は、そこでようやく荒いブレーキを掛けて停車。

 

「うワぁぁぁッ!?」

「な、何ダこいつはァッ!?」

 

 バリケードの内にはまだ多数のオークの姿がある。しかしオーク達は突然踏み入ってきた正体不明の存在に、狼狽える声を上げている。

 一方。キューポラ上の髄菩は、急停車の影響で少し揺られながらも、視線を流して一帯を雑把に掌握。狼狽えるオーク達を眼下に見る。

 

「――攫えろ」

 

 そしてインカムに向けて冷たく淡々とした一言を告げる。それは、砲手の薩来に攻撃を支持する物。

 直後――装甲戦闘車の主砲である35㎜機関砲が、咆哮を上げた。

 

「――ビョッ」

「ほごッ」

「ぱぁッ」

 

 35㎜機関砲の火力投射の初撃は、少し先に固まり群れていたオーク達に飛び込んだ。内の数体が35㎜機関砲弾を諸にその身に受け、ある一体はその頭が消し飛び。ある一体は腹を貫かれ真っ二つに千切れ。ある一体は上半身が爆ぜる。

 

「ギャッ!?」

「ギェェッ!?」

 

 そしてその先で地面に着弾した35㎜機関砲弾は、次々に炸裂。爆発と破片飛散の暴力を持って、固まっていたオーク達をまとめて引き千切り飛散させ、舞い上げた。

 

「フフフ――」

 

 装甲戦闘車の砲塔内砲手席では、照準越しにその光景を見ながら、不気味な笑いを零す薩来があった。彼はそんな様子を見せながらも、砲塔を旋回させて火線でオークの群れを薙ぎ始める。

 

「ギャァッ!?

「ヒッ――ギェッ!?」

 

 砲塔の動きに合わせて炸裂爆発が連なり上がり、オーク達は次々に巻き上げられ、散らかされて行く。

 

「い、いやっ――ぎゃッ!?」

「助け――ぶぇッ!?」

 

 そして機関砲弾はバリケードの方にも流れ、磔られていた女達を問答無用で巻き込んだ。女達は炸裂に巻き込まれ、バリケードごと四散飛散。命と引き換えに解放されて行く。

 

「な、なんダこれッ!?」

「く、クソッ……!」

 

 その一方。別方には幸いか火力投射の一撃目を逃れたオーク達の姿がある。オーク達は正体不明の怪物の急襲に狼狽えながらも、慌てある一か所に向かって走る。

 オーク達が走り群がったのはバリケード端の一角、家屋の壁際。そこあるのはバリケードの『材料』及び慰み物として取り置かれていた、鎖に繋がれた裸の女達。

 オーク達は女達に殺到すると、首輪に繋がる鎖を乱暴に引っ張り、女達を引きずり出す。そして自分たちを囲い庇うように並び立てさせた。

オーク達は女達を肉の盾とし、相手の攻撃を封じようと企んだのだ。

 

「オラッ!鳴けメス共ッ!」

 

 そしてオーク達は、焦れ荒んだ声を女達に浴びせ命ずる。

 

「ひぃっ……お願い、やめてぇ……!」

「どうかオーク様に逆らわないでぇ……!」

 

 引き出され肉の盾として並ばされた女達は、悲観の表情で、オーク達に媚び縋るような色で、求め鳴き漏ら始める。

 

「オラぁッ!これが見えてんだロッ!?大人しく――」

 

 そして代表して一体のオークが、女を一人前に立たせ見せつけながら、勧告の声を発し上げかける。

 

「――ぴェッ」

「――こぇッ?」

 

 しかし、オークのそれが最後まで紡がれる事は無かった。代わりに上がったのは、何かおかしな二つの音、いや声。

 その発生源は外ならぬ、今の声を荒げ掛けたオークと、盾に使われた女。

 

「――ハ?」

 

 その隣に居たオークが、呆けた声を漏らす。

 見れば、女の方は顎が微かに残るのみで、その頭がほぼ爆ぜ飛んでいた。そしてオークの方も、胸より上が同様に無く、赤黒い内臓が覗いている。

 そして直後。オーク達と女達の前に、ボトンと何かが落ちて現れる。バウンドしてゴロゴロと転がったそれは。それは、オークの生首であった。

 

「エ……ア……う、うわ……――びげッ!?」

 

 別のオークが、目の当たりにしたそれに青ざめ悲鳴を上げかける。しかしそれは、直後に巻き起こった炸裂の暴力により、悲鳴へと変わりそして掻き消された。

 

 

 今更な事ではあるが、髄菩等は人質の事などまるで気にかけておらず、オーク達の企みはまるで無意味であった。

 

 

 装甲戦闘車は一帯の一方向へ向けていた火力投射を完了させると、薩来の操作で砲塔を旋回させ、流れるように女達を盾にしたオーク達を続く目標として照準。

 そして一切合切の躊躇なく、トリガーを引き機関砲弾をオークと女達の塊へ投射。その初撃が、女一人とオークを貫き屠ったのであった。

 

「――ギャっ!?」

「なんでっ……ひゅげッ」

「ぴぇげッ!?」

 

 それから立て続けに容赦なく投射される機関砲弾。オークと女の塊に飛び込んだそれ等は、炸裂しオークと女達を面白いように巻き上げ吹き飛ばし、千切り四散させる。

 そして物の数秒で、オーク達の卑劣な肉盾の陣形は、散らばるミンチへと成り果てた。

 

「――フフ――綺麗になった」

 

 砲手席で照準越しにそれを確認した薩来は、トリガーから指を離して射撃行動を止めると、何か不気味な笑みと声色で、満足そうに言葉を零した。

 

 

 

「ど、どうなってんダよッ…!?」

「なんダよコレぇッ!?」

 

 動揺の声を上げるのは、まだ辛うじての脅威の餌食になっていないオーク達。各所に散らばるオーク達は、立て続く常識外れの事態に統率立て直しもままならず、浮足立ち狼狽えている。

 

「――ギャァッ!?」

 

 そしてそんなオーク達の内の一体から悲鳴が上がる。そして同時に響き聞こえ出したのは、連続的な重々しい破裂音。

 

「ナ――ギャッ!?」

「痛゛イッ!?」

「ぎぃッ!?」

 

 オーク達を襲ったのは、鉛の雨の暴力だ。烏合の衆と化していたオーク達を舐め攫えるように降り始めたそれは、オークの胴を貫き打ち飛ばし。あるいは顔面を削ぎ視力を奪い。あるいは足を射抜き崩し沈める。

 それはまごうこと無き、機銃掃射。しかし、装甲戦闘車とはまた別方からそれは降り注いでいる。

 見れば、装甲戦闘車の背後。今しがた突破してきた壁に大穴の開く家屋建物の上階。そこに開け放たれた窓から、銃身が突き出されている。

 唸り続けるそれは、7.62mm機関銃FN MAGの物。窓の向こうには射手である隊員と、観測手の隊員の姿が確認できる。

 3分隊に付随する機関銃要員が配置し、装甲戦闘車に続いて火力投射を開始したのであった。

 

《――ジャンカー3ヘッドよりエンブリー。そちらの両翼へ出て展開する》

 

 同じタイミングで装甲戦闘車上の髄菩の耳に、インカム越しの通信音声が届く。それは3分隊の峨奈からの物。

 

「了解――薩来、3分隊が出張る。投射停止しろ」

 

 髄菩は聞こえ来た知らせに返答。そして続け、砲手の薩来に火力投射の停止を指示する。

 

《了――フフ――》

 

 薩来からは何か不気味に零された笑いを添えての、了解の言葉が寄こされた。

 装甲戦闘車がその咆哮を治めると入れ替わりに、背後家屋の倒壊した大穴を抜けて、随伴の3分隊の隊員等が駆け出て踏み込んできた。

 3分隊の各員は数名づつ、装甲戦闘車の両翼に割れて側面を駆け抜けて行く。そしてその先で散開展開。

 

「ギェゥッ!?」

「ヒギュッ!?」

 

 わずかに残っていたオーク達の、各装備火器を持っての掃討が開始された。

 近接戦闘要員等の持つM870MCSショットガンが、オーク達に散弾を浴びせ、あるいはスラグ弾をその顔面に叩き込む。各小銃手の持つ93式5.56小銃から放たれた小銃弾が、オーク達を縫い貫いてゆく。

 

「――」

 

 装甲戦闘車上の髄菩は、冷めた目で眼下にそんな様子を見ながらも、砲塔内の手元に控えていた、折り畳み銃床型の小銃を手元に寄せる。

 

「ひ……ヒィ……!」

 

 周辺一帯の端には、すでに戦意を完全喪失した一体のオークがいた。そしてそのオークは、ついに悲鳴を漏らしながら、身を翻してその場から逃げ出そうとした。

 

「――ギャッ!?」

 

 しかし瞬間。連続的な破裂音が響き、そのオークの背から後頭部に駆けて、食らいつくような衝撃が襲った。同時にオークの口から悲鳴が漏れ、そしてオークは衝撃に合わせるようにビクビクと身を震わせながら、突っ込むように転倒。それを最後に動かなくなった。

 

「ハ――」

 

 再び装甲戦闘車上を見れば、そこにはキューポラ上で小銃を構え、微かに白けた声を零す髄菩の姿。その銃口からは微かに煙が上がっている。髄菩の行ったフルオート射撃が、逃走を図ろうとしたオークを、食らい仕留めたのであった。

 そして髄菩が再び前方眼下に視線を流せば、展開した3分隊や機銃掃射の手によって、陣取っていたオーク達はそのほとんどが屠ら無力化されていた。

 

「――髄菩陸士長ッ!」

 

 眼下のそんな様子を眺めていた髄菩に、何か荒げたしかし透った声が掛かったのは、その時だった。

 髄菩がキューポラ上で半身を捻り、装甲戦闘車の側面眼下に視線を下ろせば、そこに声の主――本部班を率いていた鷹幅の姿があった。

 装甲戦闘車と3分隊が殴り込み、そして掃討を完了させた事を見て、駆け寄ってきたのであろう鷹幅。

 しかし今、髄菩を見上げるその整った童顔は、険しい色に染まっていた。

 

「一体何を……!なんて事をしたんだ……ッ!?」

 

 鷹幅は、少し動揺の混じる色で、髄菩に対して明確に咎め非難する言葉を荒げた。

 そして、周辺一帯を目を見開いて見渡す。

 先まで吐き気を催す肉の盾のバリケードが築かれ、オーク達が立て篭もり蠢いていた一帯は、このわずかな時間で更地と成り代わっていた。

 装甲戦闘車の急襲。その巨体により食い散らかされ、火力によって木っ端みじんにされ、バリケードは見る影もない。

 そして、一帯のそこかしこには生き物〝だった〟物が散らばっている。

 それはこの場の支配者であったオーク達の物。無残に死体を晒されていた町人の物。そして捕らわれていた女達の物。

 しかし今やその全てが、何の区別も差別も無く。キャタピラに引き潰されてミンチへと変わり。あるいは機関砲の砲撃によって四肢五体を破裂四散、肉片へと成り果て。そこかしこに散らばり地面を赤く染めていた。

 

「町の人達を……!何をしたか分かっているのかッ!?」

 

 鷹幅はその凄惨な光景を腕を翳して示しながら、髄菩に荒げた言葉を発し上げる。

 それは、救うべきはずであろう町の住民を、あろうことか無視し巻き込み、オーク共々攫えて見せた行為行動を咎め非難する物だ。

 

「――峨奈三曹の指示を、遂行したまでです」

 

 しかし、対する髄菩はそんな鷹幅を、白けそして面倒臭そうな顔色で見下ろし、そして淡々とそんな言葉だけを返し下ろした。

 

「何……?」

 

 その返された言葉に、困惑と訝しむ色を零す鷹幅。

 

「鷹幅二曹」

 

 そんな所へ、別方向より鷹幅に別の声が聞こえ掛かる。

 鷹幅が視線を移せば、装甲戦闘車の先。更地となった一帯より歩いてくる、峨奈当人の姿が映った。それまで3分隊の指揮を執っていた峨奈は、オークや町の住民、そして女達〝だった物〟の〝パーツ〟がそこかしこに散らばる町路上を、平然とした様子で歩み抜けてくる。

 

「た、助ケ……――ギャぱッ!」

 

 さらにその道すがら、ついでと言ったように。路上を這いつくばり芋虫のように蠢いていたまだ息のあるオークに、小銃を用いてその後頭部に小銃弾を一発叩き込み、止めを刺す。

 

「そちらは大丈夫でしたか?」

 

 そして鷹幅の前まで来て相対すると、また平然とした様子でそんな言葉を発した。

 

「峨奈、三曹……これは……君が命じたのか……ッ!?」

 

 対する鷹幅は、状況に加えて、反して涼しいまでの様子の峨奈に困惑を覚えながらも、追及の言葉を荒げ発する。

 

「えぇ。応援の要請をこちらで受け取りましたので、対応のため強襲行動を実施しました」

 

 しかし言葉を受けた峨奈は、ただ淡々とそんな旨を返す。

 

「確かに要請したが……こんな、町の人々を巻き込むなど……!」

「人質に意識を取られては、打開が困難に。引いては隊員の身の危険にも繋がりかねません。その上での判断指示です」

 

 狼狽えつつも、追及の言葉を続けようとする鷹幅。しかし峨奈は変わらず淡々と、自身が指示した策の理由と述べて見せる。

 

「だからと言って……!」

「端的に言いましょう。人質に気取られては相手の思う壺――悪手に他ならない」

 

 それでも尚、追及の言葉を続けようとした鷹幅。しかし、顔にこそ出さないが内心で少し煩わしく思ったのか、そこで峨奈は先回りするように言葉を紡ぐ。

 

「っ!」

 

 それは、暗に人質に気取られてしまった鷹幅を、非難する物。

 

「それと――個人的な意見を言えば。抵抗を放棄して敵に降り、利用され挙句媚びへつらう者達など、救うに値しない」

「っ!?」

 

 続けて発されたのは、峨奈自身の持つ容赦の無い意見。そこから垣間見えた峨奈という人物の本性に、鷹幅はその童顔を強張らせる。

 

「憎き相手共々、全てを攫え蹴散らしてやるのが、最低限の慈悲だ」

 

 そんな鷹幅をよそに、峨奈は最後に一言付け加える。

 ――徹底的に相反する価値観。

 それが溝を生み、両者の間に不穏な空気が漂う。

 

「――峨奈三曹」

 

 そんな張り詰めた空気が支配しかけた所へ、しかしそれを破るように峨奈の背後より声が掛かる。振り向けばこちら向かってくる、3分隊の近接戦闘要員の姿が見えた。

 

「脅威はすべて排除、一帯は無力化完了です」

 

 その隊員は峨奈の傍に駆け寄ってくると、警戒の姿勢意識を維持しながらも、報告の言葉を上げる。その言葉通り、元はオーク達のバリケードが構えていた一帯は、今や瓦礫と肉片が散らばるだけの更地と化し、すでに隊員以外に動く者の姿は無かった。

 

「了解――鷹幅二曹。細かい議論は後にしましょう、今は行動を優先するべきかと」

 

 隊員から報告を受けた峨奈は、それに返すと、それから鷹幅に向けてそんな促す言葉を発する。

 

「我々もしばらくそちら――本部班に同行し、このまま押上げます。その方がいいでしょう――髄菩陸士長、装甲戦闘車で前に出るんだ」

 

 そしてこれよりの行動を一方的に提案具申。しかしそれに対しての鷹幅の返事は待つことはせずに、峨奈は鷹幅から視線を外して、装甲戦闘車上の髄菩に命じる。

 

「了――藩童、聞こえたな?」

 

 それまで眼下の峨奈と鷹幅のやり取りを白けた様子で見下ろしていた髄菩は、上がって来た峨奈の指示に、気だるそうに淡々と返す。そして続け、操縦席の藩童に言葉を降ろす。

 89式装甲戦闘車はエンジンの唸り声を上げて、再び動き出す。そして鉄の擦れる不気味な音を立てるキャタピラで、そこかしこに散らばるオークや人間の肉片やパーツを踏み潰しながら。旋回し、町路上を北へ向けて進み始めた。

 

「3分隊、再編だ。ここから押上げを再開する」

 

 峨奈は周囲に展開していた3分隊の各員に、発し上げ命じる。それに呼応し、各員は再編成するために動き始める。

 

「鷹幅二曹、そちらも願います」

 

 そして鷹幅に向けて峨奈は、最低限言葉でそんな要請の旨を投げ、返事を待たずに自身も行動に移って行ってしまう。

 

「……ッ!……本部班。私達も再編し、行動再開する……!」

 

 依然として整理し切れない内心に、その整った童顔を険しく顰めていた鷹幅。しかし彼は、それを無理やり抑え切り替えるように、追従していた本部班各員に向けて、指示の声を発し上げた。

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