―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》 作:えぴっくにごつ
場所はまた別地点へ移る。
町の西寄りを、南北に延びるそれなりの広さの町路。その上を南に向けて進む、いくつもの巨体があった。
それはいずれもオーク達。オーク達はバラけた隊伍を組み、得物を担いでノシノシと歩み進んでいる。
「ッタク、何が起こってンだぁ?」
行進しているオーク達の内の一体が、呟き漏らす。
オーク達は少し前に、町の南側――おそらく城門付近で上がった、謎の爆音と煙に気付いていた。そしてそれを異常事態、何者かの攻撃侵入と疑い、それを確かめ対処すべく、いくつかの隊が差し向けられ向かっている所なのであった。
「分かんネえよ。招き入れた獲物の中に、厄介な魔術師でも混じっテたかァ?」
先のオークの疑問の言葉に、別のオークが推測の言葉で返す。
「クソォ、面倒ダぜ」
そして先に発したオークが、また忌々し気に呟く。
「マっ。何だろうト、これを見りゃ手も足もデなくなルぜ」
「ゲヘ、確かニなッ」
しかし次に、オーク達は下卑た笑いを上げて交わし。何かを掲げる。
何体かのオーク達の手に掴まれ、あるいは手に握られる棒切れの先に刺さる物。
それは、人間の生首。
この町の騎士団や住民の男達の、無残な姿であった。
「極めつけハ、コレだぜ」
さらに一体のオークが発し、オーク達はそれぞれ自身の身体に視線を降ろす。
「……あぁ、このようなぁ……」
そこより漏れ聞こえるは、何か憂うようなか細い声。そしてオーク達の身体の前に見えるは、その緑肌とミスマッチな肌色。
そこにあったのは、一糸纏わぬあられもない姿に剥かれた女の体だ。
裸の女の体が、その手足を後ろに広げ回されて、縄によってオークの胴に巻き縛り付けられていたのだ。
それはどのオーク達にも同じ。どのオークの身体にも、裸に向かれた女が縛り磔られている。それは女達の体を利用した、肉の鎧。
オーク達は捕らえた女騎士達や住民の女達を、半ば面白半分に。悍ましい肉の鎧として使うことを思いついたのである。
晒される生首や、生きた女達の鎧。これらは先の肉のバリケードと併せて町を陥とす際にも使われ、騎士団や住民の戦意を挫き、絶望に陥れた。
「くぅぅ……こんなぁ……」
「お許しをぉ……」
オークの身に、あられもない格好で巻きつけられた女達は。最早抵抗の意思は完全に挫かれているのだろう、一様に弱々しい絶望の声や、許し慈悲を乞う言葉を漏らしている。
「ゲヘヘ、そうだ良い声で鳴きなぁ。それを見るだけで、人間ドモは面白れぇくらい狼狽えるからナぁ」
しかしそんな女達の声は、オーク達を楽しませるだけ。そしてオーク達はより鳴き声を上げるよう、女達に命じる。
「お?オイ、なんかいるゾ」
また一体のオークから、そんな言葉が上がったのはその時であった。
「あアん?なんだァ?」
オーク達は目を凝らし、進む町路のその先を伺う。
その先にある、交差路近くに見えた物。それは、何やら濃い緑色をした、背の低い箱状の物体であった。
さらにその上や周りには、遠目にも異質な格好をした者等の姿が見えた。
「何ダありゃ?」
「アイツ等が妙な音の原因カぁ?」
唐突に目の前に現れた異質な物体等に、オーク達は口々に訝しむ声を上げる。
「まァ、なんでもいいゼ。怪しいヤツは、ぶっ殺しちまエばいい!」
「マッタくだぁ!」
「ギャハハ!」
しかし次には。一体のオークがそんな言葉を荒々しく上げ、他のオーク達は賛同の雄たけびや笑い声を上げた。
そしてオーク達は動き始める。先までのバラけた隊伍を、雑な横隊へと組みなおし。得物を構え、そして騎士や住民の生首を掲げ晒し上げる。
「おぉラッ、鳴けや雌共!」
「ひぃっ……あぁ、どうかオーク様に逆らわないでぇ!」
さらに肉の鎧として身に巻く女に、怒鳴り降ろし命令するオーク達。それを受け、最早従属することを受け入れてしまった女達は、オークの軍門に降る事を求める言葉を漏らし始める。
「ギャハハ、いいぜぇ……ヨォシ、行くぞ野郎共ォ!」
そして一体のオークの荒げた掛け声を合図に。オーク達はその太い脚を踏み出し、全身を開始した。目の前に現れた相手を、蹂躙すべく……
――ガン、と。
重々しく。同時に、パァンと何かが爆ぜるような音が。
そのオーク達の出鼻を挫くように響き聞こえたのは、その瞬間であった。
「びゃッ」
「ゴュェッ」
そして、コンマ数秒遅れて上がったのは、二つのそんな何か濁った音。いや、声。
さらにオーク達の中から内の一体が、突然何かに掻っ攫われるように、後方へ吹き飛びそして地面に叩きつけられ沈む。
「――ハ?」
事態に、その他のオーク達は振り向きそれを視線で追い、そして次には呆けた声を上げた。
オーク達の目に映ったのは、地面に身を放り出し倒れる仲間のオークの体と、それに巻き付け縛られた女の体。
その双方は、ぶちまけられたような真っ赤な液体で染まっていた。
そして女の体は、その頭部が見当たらない――当然だ。女の頭部は、潰された果実のように弾け飛び、散らばっていたのだから。
さらに、オークの方も首より上が見当たらない。
そして――ボトッ、と。
オーク達の間に何かが落ちて転がる。
それは体より千切れ離れ、さらに鼻より上半分だけとなった――オークの頭部であった。
「ァ?――な……ハッ!?」
「ウワぁッ!?」
唐突に目の前で起こった事態、そして仲間の無残な姿。それを目の当たりにし、そして理解したオーク達からは、動揺の声が上がった。
「な、なん――ギェぽッ!」
「ぎょッ!」
しかし直後、そんなオーク達の動揺の時間すら取り上げるように。また一体のオークが、そしてそれに巻きつけられる肉盾の女が。揃って悲鳴を上げて、千切れ血をまき散らしながら吹っ飛んだ。
――そこから、堰を切ったように。重々しい金属を叩くような音と、破裂音が連続的に響き聞こえ始めた。
「ビェェッ!」
「ギャッ」
そしてそれに合わせて、雑な横隊を組んでいたいたオーク達が。次々と何かに打たれ殴られるように吹っ飛び、散らかされ始めた。
よく感じ取れば、風を切り裂くように何かが飛来している事が分かる。しかし何体かのオークはそれに気づく事もできないまま。
胴に大穴を開けられ。
あるいは腕を、脚を、千切り持って行かれ。
あるいは頭部を破砕され。
地面に沈み、崩れ、叩きつけられ。腕や足などの〝パーツ〟を散らかし、その厳つい首を地面に転がす。
それに伴い、惨たらしく晒されていた町の人間達の首が、巻き添えを受けつつも解放されてゆく。
「びゃッ」
「ひ!?い、いや……ぎゃぱッ!」
むろん、それはオークの体に巻き付けられていた女達をも区別無く襲った。
女達はオーク共々身を千切り、破砕され飛び散り。その命と引き換えに悍ましい肉盾の役目より、解放される。
「な、なんだヨこレ!?アイツらなノか!?」」
かろうじてまだ生きながらえていたオークの一体が、狼狽えた声を上げる。オーク達は自分達を襲う今の現象が、先に現れた謎の箱状の物体からの元と察する。
「クソッ!――テメェらァッ!コレが見えねぇのカぁッ!」
そしてまた別の一体のオークが、先の物体と存在に向けて。
その身を、その身体に巻き付け肉盾とする女を晒し示し、荒々しく発し上げた。
「ひぃ!お願いやめてぇ!どうか……!」
示し晒された肉盾の女は、悲鳴に近い懇願の声を上げる。
オークはこれにより相手が攻撃をためらう事を期待した、実際、これまでこの方法は、相手を封じる絶大な効果を期待できる方法であった。
「ぱァッ」
「ビィェッ!」
――しかし、今においてはまったくの無意味であった。
正体不明の音は鳴り止む素振りすら見せず、謎の飛翔体の雨は容赦無く飛来。
結局身を大きく晒しただけに終わったオークと女は。連続的に飛来した数多の飛翔体に、胴を貫かれ、四肢を千切られ落とされ、仕舞には脳天を破砕され。共々木っ端微塵になって、地面に落ちて散らかった。
「おかシいッ!アイツ等ッ、人質無視してンのか!?」
「に……ニゲろォ!」
正体不明な異質な攻撃も脅威だが。
何より人質をまったく意に掛けない、その遠慮容赦の微塵も見られない様子気配に、オーク達は狼狽え臆し。
そしてついには身を返し、背を向け逃走しようとする個体が現れ出した。
「ぎヒぃッ!?」
「ェべッ」
しかし飛び来る殺意の雨のような攻撃は、そんなオークも見逃す事は無く。
御多分に漏れずにオークの身を巻きつけられた女ごと破砕、屠り沈める。
「コ、こンな……あギャッ!?」
「ぎょゥ!」
僅かに残るオーク達も、食われ攫われるようにその攻撃に身を貫かれ、弾け千切れて地面散らかってゆく。
「た、タスけ……ギェぅ――!」
さほど立たずに最後の一体のオークが地面に沈み。それを境に町路上に、動くものは無くなる。
自らの肉体と腕っぷしと。合わせての悍ましく人々を絶望に陥れる肉の盾の戦法に、己らによる一方的な蹂躙を信じて疑わなかったオーク達。
しかしそのはずは、異質で強力な。そして何より、一切の遠慮容赦の無い無差別攻撃の前に、片っ端から攫え弾かれ沈んだ。
オーク達と肉盾と利用された女達――だった物の破片、パーツが。血で染め上げられた町路上に混ざり散らかり、汚れ最早区別も難解となっている。
悍ましい肉盾の鎧で進軍するオーク達の群れは、物言わぬ肉片と変わり。
町路上は静けさが支配した。
「――沈黙。全部、蹴散らかしました」
町路の先に存在する十字交差路。その南側の交差路と町路の境目付近。
そこに、濃い緑色で背の低い箱状の物体――改め、73式装甲車の停車鎮座する姿がある。
そしてその車体上の銃座――12.7㎜重機関銃の搭載据えられるターレットより、そこに着き担当する隊員から、そんな淡々とした報告の声が上がった。
長身だが中性的で端麗な顔立ちを持つ男性隊員――
「――だいたい同じ感じ」
それに合わせ続けるように、今度は73式装甲車の前側から、何かゆるりとした声が上がる。
声の主は、車体の前方左側に設けられる前方銃手席。そこに収まり座してハッチから顔を出す、小柄な隊員の永海。彼は先の凄惨な光景を前に、しかし動じない――というよりも緊張感の無い様子で居る。
そして、統の着く12.7㎜重機関銃と、永海の扱う74式車載7.62mm機関銃。それぞれの担当する火器の銃口からは、うっすらと煙が上がっていた。
――オークの一隊を散らかし沈め屠ったのは、他ならぬそれ等の火器。それを操る彼等であった。
「――了解」
その統と永海のそれぞれ上げた報告の言葉に、了解の旨を返す声が上がる。
統の着くターレットの真横。73式装甲車の上面に堂々と構え立つ、一名の隊員の姿がある。73式装甲車に随伴する、普通科の第6分隊。その分隊長の
「――この町の女を利用した、文字通りの肉の鎧か――そんな浅知恵で、ビビるとでも思ったか?」
富士は双眼鏡を構えて、町路の先の肉片と慣れ果てて散らばったオーク達を観測しつつ。同時に不機嫌そうに言葉を零す。
――オーク達に向けて、攻撃を指示したのは彼であった。
担当するブロックの進行中であった分隊は、その途中、先程にオークの群れに遭遇。
住人の死体を晒し、町の女達を文字通り肉の盾にする、吐き気を催す行いを誇示し、我が物顔で町路を行進するオーク達の群れを確認し。
しかし富士は、呆れ不快に思い、青筋をその米神に浮かべこそすれど。光景に狼狽え躊躇する様子などまるで無かった。
富士は見えた光景に舌打ちだけを打つと、間髪入れずに統や永海に、構わずの機銃掃射を指示。そして容赦の無い機銃掃射がオークの群れへと唸り、襲い。物のわずかな時間で、それを丸ごと攫え散らかし、無力化せしめて見せたのであった。
「ッ、不快な事を……ッ」
その富士の前側足元。73式装甲車の車体前方中央に設けられる車長用キューポラ上では、装甲車車長の森高が、半身を乗り出して先を見据え。彼にあっては、複雑そうな難しい顔色を作り苦い言葉を零している。
「連中、こっちを舐めてるな」
そんな森高をよそに、富士は双眼鏡を降ろし。そのなかなかに濃い顔立ちを面白く無さそうに顰め、オーク達に垣間見えた態度傲慢に、苛立ちや不愉快さを覚える言葉を零す。
「富士三曹」
そんな富士に、呼ぶ声が掛かる。
富士が声を辿り視線を降ろせば、それが装甲車の傍らに立つ、第6分隊隊員からの物である事が分かった。
「新手です」
続けその隊員は、手にしたタブレットを翳し示しながら、そんな報告の言葉を寄こす。
富士は73式装甲車の車上より飛び降りて、その隊員の横に立ち、差し出されたタブレットの画面に視線を落とす。
画面に映し出されるは、無人観測機が送って来た町の上空からの映像。今は町の一角がズームアップされている。
その位置は現在の富士等の位置より北側、さほど遠くはない地点。そしてそこには、雑な隊伍を組んで歩み進む影――また別のオークの群れがあった。
「同じような事してますね」
分隊員は富士に、呆れつまらぬ様子で紡ぐ。
その群れのオーク達は、今さっきの物と同じように。町の住民の生首を晒し上げ、そして剥いた女達をその身に巻き付けて、堂々と行進している。
無人機からの映像解像度は非常に鮮明とまではいかないが、その吐き気を催す光景は映像越しにも判別できた。
「低能の一つ覚えだな――腹立たしい」
そんな映像から確認できた新手のオーク達の、しかし変わらぬ浅知恵行為を見止め。
富士は毒のある台詞でそれを評し。同時に、それでオーク達がこちらをどうにかできると思っているであろう事を推察し、また不愉快そうに零す。
「分からせる必要があるな――」
そしてタブレットより視線を起こし、そんな一言を紡ぐ富士。
「
それから富士はまた別方に視線を向け、その先に居る別の分隊員へと声を掛ける。
その隊員は無線機を装備する通信担当であり、富士の掛けた言葉はその彼に、後方より追従しバックアップについている本部班――鷹幅等へ回線を繋ぐよう要請する物。
「――どうぞ」
葛籠居と呼ばれたその無線担当隊員は、無線機を少し弄る様子を見せると。本体より蛇腹コードで繋がるマイクを、富士へと放って寄こした。
「――ジャンカー6、6ヘッドからアルマジロ1-1。――〝ハンマー攻撃〟を要請したい。指揮所との調整願う」
受け取ったマイクを口元に寄せると、回線を開き繋いだ相手方に向けて、富士は言葉を紡ぎ始めた。
町の外、南下した方向に連なる丘を越えた麓。町より死角となるその場に設けられた、陸隊の野戦指揮所兼重迫撃砲陣地。
「――ッぅ……」
そこでこの場、現作戦での最高指揮官である直宇都は。その端麗な顔をしかし苦く難しく歪め、そして目の前の長机に置かれた無線機を睨んでいた。
彼女が苦い色を浮かべる理由は、今まさにその無線機より流れ寄こされた、通信の内容にあった。
寄こされた通信は、本部班を通しての第6分隊指揮官の富士からの、重迫撃砲による砲撃要請。それ自体はいい、問題はその富士が指定して来たターゲットだ。
富士が指定して来たターゲットは、捕らえた町の女達を鎧替わりとして身に巻き付け行進するオークの群れ。そこへの砲撃要請はすなわち、オークの群れを町人を無視して〝ごと〟吹き飛ばす意思に他ならなかった。
「人質ごとやる気だと……ッ」
それを嫌でも察し、手にしていた無線機のマイクを置き、また顰めた苦い色で零す直宇都。彼女も、この可能性を考えていなかった訳では無い。
ここまでで確認出来ていたモンスター達の非道の行いや町の状況から、人質の絡む状況に遭遇する事は容易に想像ができ。そしてその解決が理想論では通らず、強硬策の敢行が必要とされる事も心の片隅には置いていた。
しかし、いざそれがリアルな形となり。その非情な現実と、指揮官である自分に迫られた判断決定に、直宇都は強い重圧や抵抗を感じていたのだ。
「直宇都二尉」
そんな直宇都に声が掛かる。
彼女が視線を起こせば、長机を挟んだ対面に声の主が。96式自走120mm迫撃砲の車長である陸曹の姿がそこにあった。
「自走120(こちら)は即応待機中、投射は直ちに可能です。決定願います」
車長は端的に、そしてしかしどこか冷淡な色口調で、直宇都に重迫撃砲が即応可能である旨を。同時に少し急かす様子で、彼女に攻撃の可否判断を願う旨を発する。
それは、人質の存在を切り捨てての攻撃に抵抗を――いや、はっきり言って腰が引けている直宇都を、焦れったく思う物であった。
「っ、待ちなさいッ……町内には、まだ逃げ隠れている人がいる可能性があるわ。砲撃は危険性が……」
しかし直宇都は、それに待ったを掛ける言葉を紡ぐ。それは、先に情報として上がってきていた、町内で未だ逃げ潜む一部の人々の存在を鑑み。砲撃ではそれを巻き込む危険があることを示す言葉。
だが彼女のそれは、合理性や無事な住民の安全を考える物というよりも。どこか煮え切らず、判断を先送りにしているような意図が滲み出ていた。
人質ごと葬る策を前に。自らが権限責任でそれを容認する事を、あからさまに躊躇っている。
「誘導弾があります。精密砲撃を行えば、観測しているモンスターの部隊だけを、ほぼピンポイントで撃破可能です」
しかし車長からは、間髪いれずに対応策が進言され、それが問題無い旨が返される。まるで直宇都の逃げ道を塞ぐように。
「しかし……」
「――狼狽え行動を躊躇えば、それこそ連中の浅知恵の思う壺ですぞッ」
なおも躊躇の様子を漏らしかけた直宇都に。
車長は畳みかけ。冷たく叱責がまでの進言の言葉を上げた。
「ッぅ……」
年上の下階級者からのそれに、直宇都は困惑や狼狽、不快感などのない交ぜになった苦い顔を作る。
「……いいわ、認めます――」
そして、最早覚悟を決めたと追うよりも。追い詰められ言わされたと表現した方が正しいまでの様子で。直宇都は絞り出すように発する。
「迫撃砲による火力投射を許可っ!ただし、寸分の狂いも無く確実にやりなさいッ!」
そしてその端麗な顔にハリボテ染みた毅然とした色を作り。
虚勢を精一杯張り、命じそして釘を刺す言葉を発し上げた。
「了解、開始します」
対する車長は「やっとか」と言う様子でそれにただ端的に返し。そして身を翻し、先に鎮座配置する自走迫撃砲へと向かっていった。
野戦指揮所が広げられた一帯の、その端一角に配置鎮座し、重迫撃砲陣地を形成する96式自走120㎜迫撃砲。
そして、その自走迫撃砲に横付けで停車する73式中型トラック。その荷台から、積まれていた武骨な外観の物体が、隊員の手で降ろされる。
それは砲弾。自走迫撃砲の主武装である120㎜迫撃砲 RTによって用いられる、迫撃砲弾。それも正確に言えば、通常用いられる無誘導の榴弾では無く、無人観測機等との連携により精密誘導砲撃を可能とする、特殊な誘導弾であった。
その誘導迫撃砲弾が、それ降ろし運んだ隊員の手から、自走迫撃砲の砲室に乗る装填手隊員へと持ち上げ渡される。
砲弾を受け取り支えた装填手の背後では、砲手隊員が砲室内に鎮座する120㎜迫撃砲 RTの照準設定行っている。細密な照準誘導は砲弾自体を遠隔操作する事により行われるが、基準となる射角は砲側で調整しなければならない。
「――設定ヨシ」
砲手は照準設定を終え、そして砲本体から伸びるロープを手に取る。
その傍らで、装填手は手に抱えた誘導迫撃砲弾を持ち上げて砲口にあてがい、そして落とし入れる。しかし、従来であれば砲底の撃針に触れて即座に打ち出されるはずの砲弾が、今は撃ち出されない。これは今よりの砲撃が従来の墜発形式ではなく、砲手が射撃装置のロープを用いて、任意のタイミングで発射を行う拉縄形式で行われるためだ。
誘導弾の遠隔操作は町内の第6分隊側で行われるため、そちらとのタイミングを合わせな等の都合上での選択であった。
「車長、装填ヨシ。準備ヨシ」
砲手は砲室より視線を外へと降ろし、自走迫撃砲の傍ら。そこに立つ車長へと報告の言葉を告げる。
「了解――リンク確認――」
それに答えた車長は、続け手にしたタブレットの画面に視線を落とし、零す。それは誘導砲撃の要である上空の無人観測機とのデータリンクが、正常である事を確認するもの。
「ソブリンズよりジャンカー6、こちらは準備ヨシ待機中。いつでもどうぞ」
そして身に着けている指揮官用無線を用いて、回線を開き端的な呼びかけの声を紡ぐ。相手は砲撃の要請元である第6分隊。
《――了解、こちらもヨシ。ただちに願う》
すぐさま返り来るは、その第6分隊からのただちに射撃砲撃を願う言葉。
「了解――撃ッ」
それにまた端的に返し。そして車長は自らの傍らに鎮座する自走迫撃砲の車上へ視線を向け、発すると同時に翳した片手を勢いよく降ろして見せた。
それを聞くと同時に、砲室内で待機していた砲手は、手にしていた射撃ロープを思いっきり引く。
――瞬間。
ボッ、という鈍い音が上がり。砲口からその第一発目が飛び出した――
重迫撃砲より撃ち出された誘導迫撃砲弾は、一瞬の間に愛平の町の上空真上へと到達。そしてきつい弧を描いてその弾頭を下げ、地上へと向ける。
そのタイミングで、折り畳み格納されていた誘導翼が展開される。これが、遠隔操作による砲弾の誘導を実現する。
そして砲弾は垂直に近い軌道で、町に向けての降下を開始する――
場所は、再び町内の第6分隊の元へ。
停車鎮座する73式装甲車の傍らでは、隊員の一人が手にしたタブレット端末に、その尖る視線を落としている。
画面に映るは、先から引き続きの無人観測機からの上空映像。映る町並みの一点には、町路を行進するオークの群れ。
そしてそのオークの群れには、画面上に表示される菱形のマーカーが合わさっていた。
隊員はそれを目に捉えつつ。タブレット端末にコネクタで接続された、コントロールスティックを親指で操る。
その隊員の操作意思が反映され、マーカーが画面上を移動。行進を続けるオークの群れを、追いかけマークし続ける。
これこそが、誘導砲弾の遠隔操作行動。そして、隊員のそれに文字通り導かれ。
空気を切り裂くような音が、響き始めた――
町路をまた一つのオークの群れが行進している。
それもまた、異常事態の確認対処に差し向けられた隊の一つ。
先に変わらず、オーク達は住民の首や死体を晒し上げ。そしてその身には捕らえた女達を肉の鎧として巻き付けている。
漏れ聞こえるは、オーク達の下卑た会話と、女達の慈悲を乞い媚びる声。
「今度ハどんなマヌケだろうなァ?またコレを見て、傑作なツラを拝むのが楽しミだぜ!」
「手も足も出なくなったトコを、ぶっ殺して犯すのが最高だよナぁ!ギャハハ!」
人質を盾とするオーク達は、その効果。そして自分達の蹂躙と勝利を信じて疑わず、下品に笑い上げている。
そんなオーク達の耳へ割り込んだのは、何か異質な空気を割くような音。
「あ?ナん……――」
――そして瞬間。
衝撃。エネルギーの暴力が、オーク達の真ん中で炸裂。
オーク達の屈強な身を消し。そして晒された住民の首や、肉の盾とされた女達を、その命と身の消滅と引き換えに解放。
その場で、畏怖を体現するまでの爆裂が上がり広がった――
実際の所、鎌倉武士が人質無視して矢を引いたという話のソースは無いらしい事を記しておきます。
作者も正確な事は分かっていません。申し訳ない。