―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》   作:えぴっくにごつ

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今回。今までに輪をかけて残酷でグロテスク、なおかつ胸糞悪くキッツい描写を行っております。
ご注意ください。


2-20:「非道の代償」※

 広場より北へ延びる、それなりの広さの町路。

 その上を南下する、異形の一団があった

 まず目立つは、それまでと同じく多数体のオーク。これまでにも見られたように、雑な隊列を組んで行進している。

 そしてその両脇や周辺に見えるは、大小様々な触手獣。

 目測5m以上はある巨大なミミズ状、環形動物状の触手獣が3体程に、中~小型の蛸状の触手獣が十数体。これらはオーク達が飼い慣らし従えている物だ。

 そして、その組まれる隊列の中心部。そこに、一際目立つ大きな体を持つ一体のオークが見えた。身長は2m台半ばに達するか、他のオーク達よりも一際大きい。そしてその屈強な体には、悪趣味とも言える装飾類が目立つ。その一体は、この町を襲ったオーク達の中でも、頭クラスに値する個体であった。

 その頭オークは町路上を我が物顔でノシノシと行進しながらも、何か機嫌よさそうに、下卑た笑みをニヤニヤとその顔に浮かべている。

 頭オークの巨体周りを見れば、その周りには共に歩く、いくつかの女の体があった。いずれも裸に剥かれ一糸まとわず、首輪を付けられ、それから伸びる鎖を頭オークに握られている。それはこれまでの御多分にもれず、オーク達に捕らわれた町の女達であった。

 しかしその女達に、オーク頭を拒否し抗う様子は見られない。それどころか女達は、己からオーク頭の巨体に縋り寄っていた。

 そしてその内の何人かの女が、背後を振り向き見る。その女達の目に映ったのは、後オーク頭や女達より少し離れて続く、また別の人間の行列。

 そこに見えたのは女達同様に裸に剥かれ、そして首輪を嵌められ鎖に繋がれた、何人かの人間。町の男の行列であった。

 隊列のオーク達に引かれ、強制的に歩かされているは、いずれも町の住民や騎士であった男。その顔には今や生気はなく、誰も絶望に染まった虚ろな顔で、鎖に引かれ力なく進まされていた。

 今のこの光景は、オーク達始め魔物には敵わないと思い知らされ。魔物達からの温情と言う儚い希望を抱き、その軍門に下りに行った町の住民達の末路だ。魔物達に救いを乞い抵抗を諦めた住民達は、しかし女は軒並み奪われ汚され、男は家畜以下の扱いに落とされ。揃ってオーク達の戦利品の成り果てたのであった。

 そして、そんな繋がれた男の行列を振り向き見る女達の目は。しかしどれもどこか見下げ、そして侮蔑するような物であった。実は、今頭オークに縋りよる女達は、いずれも繋がれ引かれる男と想い人同士、あるいは結ばれた同士であったのだ。

 そしてそんな関係の住民達は、オーク達の悍ましい快楽を満たすための餌食となった。

 目の前で愛する女(ひと)を奪われ汚され、町の男は誰も心が壊れてしまい。

 そしてまた心壊され、そして支配さてしまった女達は。絶望の中で己の心を慰めごまかすために、生き物として敗北した想い人や愛する人を見下げ侮蔑し、強者であるオークに縋り媚びる事を選んだのであった。

 

「あぁ……人間のオスというのは、こんなにも浅ましく劣ったものだったのですね……」

「あなた達では、雄々しく逞しいオーク様達に敵うわけは無かったの……」

「オークの頭様……あのような劣ったオスと番であった愚かな私共に、どうかお慈悲をぉ……」

 

 今も女達は、進んで想い人や夫を見下げ貶める言葉で鳴きながら、オーク頭に媚びへつらい慈悲を乞うている。

 

「グググッ」

 

 そんな、自らに媚びて来る女達を見降ろし。逃れられぬ絶望の中にある男女を見て。オーク頭は何か気分良さそうに下卑た笑い声を漏らす。

 

「人間共はチョロいし傑作なザマを見せてくれるから、思しれェなァ」

「グハッ、笑いがトまんねェぜ」

 

 追従する多数体のオーク達にも、同様に下卑た笑みを浮かべている個体が散見される。オーク達はいずれも、生き物としての勝者となり、人間のメスを服従させた現状に。そして同時に人間達の生殺与奪の権利を握った現状に。心を良くし、そしていかに甚振り楽しむか、加虐的な喜びに浸っていたのだ。

 

「頭ァ」

 

 そんな悍ましい冒涜的な行進を行うオーク達の元へ、その前方から声が聞こえ届いた。それは隊列より少し先を行く、先陣を担当する一体のオークから。

 オーク頭を始めとするこの隊列はまたこれも。少し前に聞こえ届いた謎の爆音から、侵入者の存在を疑い差し向けられた一団の一つであった。

 

「この先の頂きモンを積んでる広場が、何カ騒がしいようでスぜ」

「アー?あァ、さっきから妙な音が聞こえて来てンなぁ」

 

 その先陣のオークからの報告の声に、オーク頭も返す。

 隊列の進行方向。その先にある戦利品の積載場と使われている広場より、何かおかしな音がいくらか響き届いてきており、オーク達はそれを微かに訝しんでいた。

 

「魔術師の潰し残しデもいたかぁ?」

 

 一体のオークから疑問の含まれる推察の声が上がる。

 

「ゲハッ、ナんだろうと構ワねェぜ」

 

 しかし、オーク頭は独特の一笑と共にそれを一蹴。

 

「小賢しいネズミ共は、ぶっ潰して吊るし上げるダけだ」

「ギャハハ、頭の言う通りダ!」

「また人間共が、ブザマにビビっておっ死んで行くのを見るのが、楽しみダぜ!」

 

 そして周りに向けて発するオーク頭。それに同調し、オーク達はドッと笑い声を上げる。

 

「どォら――もう一度奪って、ぶち殺すかァ」

 

 そしてオーク頭はまた発すると共に、その肩に担いでいたあまりにも大きな戦斧を持ち上げ。勢いよく地面に叩き落とした。

 それを合図とするように、周囲に付き従っていた触手獣達が、それに答えるようにその身を奮い立たせる。

 

「おォら、踏みこめぇ。叩き潰せェ!」

 

 そしてまた上げられたオーク頭のそれに答え。大から小まで全ての触手達は、その身をうねらせ這い進み。先に見える広場目掛けて、その先に潜むであろう敵を屠るべく、一斉に突撃を開始した。

 

「行くぞおメぇらァ!」

 

 触手獣達を放ち向かわせたオーク頭は、さらに命ずる声を張り上げる。

 それに答え、周りのオーク達もまた行動を開始。雑に隊伍を組み始める。

 そしてまた捕らえた住民達を利用すべく、オーク達はそれを繋ぐ鎖を乱暴に引っ張り出す。女はオーク頭の盾とされるべく首輪を引かれ、誰も媚び慈悲を求める言葉を漏らしながら頭オークに縋る。男は晒され肉の盾として利用されるため、絶望に満ちた生気のない表情で、されるがままにオーク達に乱暴に引き出される。

 そして触手獣達に続き、オーク達も突撃行動を開始。

 すでに広場までわずかな距離となっていた町路を、我が物顔で行進。

 先に触手達を踏み込ませ、潜んでいるであろう敵にとって、阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられているであろう広場に。その光景の愉快さを期待し、下卑た笑みを浮かべながら向かい進み。

 そして程なくして、オーク頭達は広場へと到達。繰り出たその先の光景が、開け広がる露になる――

 

 

 ――かに思えた。

 

 

「――?」

 

 しかし。町路より広場へ繰り出た瞬間、頭オーク始めオーク達が感じそして視認したのは、何かの影。壁。

 自分達を阻む巨大な何か。自分達を差し覆う、周囲を薄暗くする影。

 オーク頭始め全てのオーク達が、予測していなかった現象に、その一瞬呆けた色を浮かべる。

 ――直後。

 上がったのは鈍くしかし巨大な衝撃音。何かが盛大に叩きつけられ落ちる音。そして衝撃。地面が叩かれ振動するそれに、建造物が潰され崩落する音。

 

「――びゅクぇッ」

 

 そしてそれに交じり微かに聞こえたのは、何か妙な音――悲鳴。そしておそらく肉の潰れ拉げる、気持ちの悪い音。

 

「――ハ?」

 

 その近場に居た、一体のオークが気の抜けた声を上げる。

 そのオークの目の前。オークの視界を占拠してそこに鎮座していたのは、赤黒く巨大な、横倒しになった巨木のような物体。

 その正体は、ミミズ型の大型触手獣。たった今さっき、広場へと放ち差し向けたはずの個体の内の一つ。それが、オーク達の隊伍を割り、町路上を占めて分断するように、地面に沈み落ちて横たわっていた。

 しかし。それに対してオーク達は一様に呆け、その理解判別は追い付かず。

 それをよそに、ミミズ型触手獣の巨大な体は重々しい動きでのっそりと持ち上がる。

 そして再び露になった、地面上に現れ見えた物。

 

「……びッ……ぃゥッ……ェッ……」

 

 それは、オーク頭の巨体――の変わり果てた姿。

 地面に沈み、潰れ。その巨体はしかしピクピクと痙攣している。グリンと白目を剥いて、その獰猛な口元からはしかし血と泡を噴き出し。その太く屈強な四肢は、しかしどれも拉げ折れ、あってはならない方向に曲がっている。

 

「ォこ……ぽ……」

「びェっ……ぅェッ……」

 

 ついでに。オーク頭に縋り囲っていたせいで、共に巻き込まれ似たような有様となった女が数体。

 

「エ――……う、ワアアアアッ!?」

 

 そこでようやく。その光景への理解が追い付いた一体のオークから、狼狽の叫び声が上がる。

 そしてそれを合図とするように。オーク達への、さらなる暴力のラッシュが堰を切った。

 

「――ビェえッ!?」

「ギュェべッ!?」

 

 オーク達より、複数の鈍い悲鳴が一斉に上がる。

 オーク達を襲ったのは、一度身を持ち上げたミミズ型触手からの、反復しての二度目のその身を叩き下ろす攻撃。

 斜めにスイングを利かせるように薙ぎ落とされた触手の身は、4~5体程のオークを掻っ攫い、打ち。そのまま町路に沿って並び立つ、家屋群に叩きつけるように激突。並ぶ家屋を破壊し、掻っ攫ったオーク達を、家屋と触手の身で圧し潰し、屠った。

 

「な、ナんダよォッ!?」

「触手ドモがナんで――!?」

 

 従えていたはずの、そして放ち向かわせたはずの触手獣が、戻って来て自分達を襲いだした事態に。今はまだそれから辛うじて外れていたオーク達から、しかし狼狽え叫ぶ声が上がる。

 だがそんなオーク達にも、直後には別の暴力が届けられた。

 

「――ぴェッ」

「ぱリャッ」

 

 散らばっていたオーク達の身が。頭が、胴が、四肢が。果実のように爆ぜ、消し、弾け飛び出したのはその瞬間。

 オーク達は襲ったのは、風を切り裂く不気味な音と共に飛来した、数多の、複数種の〝何か〟。

 そして同時に一帯で巻き起こり出したのは、いくつもの小爆発。

 それ等はオーク達の身を、貫き千切り。また、弾き巻き上げ、片端から肉片へと変えてゆく。

 

「ぁぺッ?」

「ひギュッ」

 

 さらに、その正体不明の暴力が薙ぎ弾くは、オーク達のみに留まらなかった。

 鎖に繋がれ引かれ、絶望の中されるがままであった町の男の列に。

 媚び諂っていたオーク頭の、潰れ変わり果てた姿を前に、呆け、腰を抜かしていた残りの女達に。

 異質な暴力の雨は、一切の差別も区別も無しに注ぎ襲い。その体を千切り消し飛ばして命を攫うと引き換えに、住民達を絶望より解放した。

 

「何ガッ……ドウなって――?」

 

 極めつけに。ヒュゥゥ――という異質な音が聞こえた直後。狼狽え慌てふためくオーク達のど真ん中で、一際大きな爆発が上がり起こった。

 それの餌食となり。消し飛び、巻き上がり千切り散らかされるオーク達。

 一発に留まらず、数秒の間隔でその音は聞こえ届き。その度に爆発が起こり爆煙が巻き上がり、その場に居る全てを区別なく消し飛ばし屠る。

 暴れ襲う、仲間であったはずの触手。

 そして襲い来た数多多種の、正体不明の異質な暴力。

 征服者として君臨し。次なる勝利蹂躙を信じて疑わず、この場に馳せ参じたオーク達のその一団は。しかしその異常事態と、注いだ暴力を前に、ものの僅かな時間で壊滅した――

 

 

 

「……な、ナんなんだよコレぇ……ッ?」

 

 地面に伏して、その巨体をしかし縮こめていた一体のオークから、狼狽の声が上がる。

 突然自分達に向いた暴力により、大半が壊滅したオークの一団のだったが。その内の一部少数は、辛うじて生き残っていた。

 

「か、頭が……コんな……」

 

 しかし、残ったオーク達は状況に――頭オークが潰れ、仲間や町の住民の入り混じった血肉が広がる状況に、明らかに狼狽し、最早腰が引けている。

 

「ひぃ……ッ」

 

 そして、その凄惨な一帯から逃れようと、背を向ける個体が現れ出す。

 

「――ギェッ!?」

 

 ――しかし瞬間。破裂音が響き、そしてオーク達の背を、何かが食らいつくような激痛、衝撃が襲った。

 

「ぎゃッ!」

「ヒッ、いぎゃッ!?」

 

 飛来、襲い来た何かは、端から縫い付けるようにオーク達を襲い貫く。

 そして直後には。辛うじて残っていオーク達もまた地面に崩れ沈み、一帯に活発に動く影は居なくなった。

 ――先まで町路を、我が物顔で行進していたオークの一団は軒並み地面に伏し。死屍累々の様相を広げ、申し訳程度に静けさを取り戻した一帯に。

 しかし一拍置いて、別の足音が割り込み聞こえる。

 そして一名、二名と。それまでとはまったく異なる様相の者等が、現れその場へと駆け踏み込んでくる。

 陸隊の14分隊の隊員等だ。

 警戒の姿勢を保ちつつ駆けこんで来た隊員等は。地面に散らばり転がるオークや町の住民達の死体や、一部で混ざり区別のつかなくなった肉片や血を。なんのお構いも無く踏みあるいは蹴飛ばして、周辺へ散開展開してゆく。

 そしてさらに聞こえ来るは、異質な音――エンジンの唸る音と、キャタピラの擦れ回る音。見れば背後からは、隊員等より少し距離を取って援護位置を保ちつつ。続き乗り込んできた76式装甲戦闘車の巨体。

 最早説明はいらないかもしれないが、オークの一団を襲い全てを攫え屠ったのは、14分隊各員と装甲戦闘車から行われた火力投射であった。

 

「――ッ」

 

 さらに少し遅れ、装甲戦闘車の横を一名の大柄の隊員が抜けて来る。

 その正体は辺里。その太い腕に抱えられたFN MAGからは、微かに煙が上がっている。先に戦意喪失し逃走を図ろうとしたオーク達を貫き屠ったのは、片里であった。

 そしてさらに。辺里の後ろからは、何か悠々と歩いてくる一名の隊員。

 他でもない、讐だ。

 変わらぬ陰険そうな顔にシラけた色を浮かべ、片手にはナガン・リボルバー。

 しかし驚くべきは、讐の横に見え、そして讐がそのもう片手で掴み引きずる巨大な物体にあった。

 そこに見えるは、触手。全長5mを越える、巨大なミミズ状の触手モンスター。それは、間違いなく先にオーク頭の命により放たれた個体の一つ。

 しかしそのミミズ型触手は今、その巨大な胴のほとんどを地面に落とし。なんと讐の片手にその表面の肉を乱暴に鷲掴みにされ、無抵抗のまままるで首根っこを捕まえられた犬のように引きずられている。よくよく見ればミミズ型触手は、何かその巨体全身を震わせている。先までの獰猛さは見る影も無く、明らかに弱り、そして怯えているようにも見えた。

 一方の、その出所不明の超常的な怪力を見せる讐は。しかし掴み引きずるその触手個体にはさして興味も無い様子で。別方へと歩む。

 そこに在るは、今先程に仲間であるはずのオーク達を襲い蹴散らかした、もう一体のミミズ型巨大触手。観察すればその触手個体も、先の暴れっぷりから一転、何か震えその動きは目に見えて弱々しくなっている。

 

「ヨォ」

 

 そんな触手の尾にあたる部分を、讐は思いっきり踏みつけた。

 同時に。触手はその力なく持ち上げていた頭にあたる部分を、ビクリと。まるで痛み、そして怯えるように跳ね上げた。

 

「あとちっと、働け」

 

 そんな触手へ向けて、讐は変わらぬ静かな冷たい声色で。しかし同時に触手の尾を捩じる抓るように戦闘靴で踏みつけながら、そんな命ずる言葉を紡ぐ。

 だがそれを受けた触手は、しかしその身の異変をより一層加速させる。その巨体全身をガクガクとより激しく痙攣させ始め。そしてその直後には、持ち上げていた頭部分を糸が切れたかのように落とし、ドシンと地面に沈んで砂埃を上げた。

 

「はッ。こっちは〝使用期限切れ〟か」

 

 それを最後に動かなくなった触手。

 その姿に対して、讐はつまらなそうにそんな表現の一言を紡ぎ零す。

 見えたそれは、町への侵入時に制刻や策頼も見せた効果現象。その特異体質により、触手モンスター影響を与え無力化する効果。そして今さっき讐にも発現の確認されたそれが、触手モンスターを今の有様に変えてみせたのだ。

 

「じゃぁ、お前。役に立て」

 

 続け讐は、掴み引きずり連れていたもう一体の触手を、その表面の肉が千切れんばかりの乱暴な力で引き寄せ。静かに囁くようにそんな命ずる言葉を紡ぐ。

 対するそれを受けた触手は、怯え震え上がる様に一度身悶えし。最早虫の息といった様子のその巨体を、弱々しく唸らせ答えるような動きを見せる。

 それを興味無さげに一瞥した讐は、また触手の表面の肉を乱暴に掴み、触手の巨体をしかし悠々とまた引きずり。歩みを進める。

 

「――……ォぷ……ぁォ……」

 

 その先にあったのは、オーク頭の巨体。

 その生命力から触手に潰されてなお生きて――いや一撃で死ぬことのできなかったオーク頭は。四肢が軒並み拉げ折れて匍匐も叶わくなったその巨体を、うつ伏せにしてまるで芋虫のようにウゴウゴと這い進み、その場より逃れようとしていた。

 

「――ぐェゥっ!?」

 

 しかしオーク頭は瞬間、その身を強く圧される感覚に襲われ、苦しみに声を漏らした。

 見れば、大型触手がその先端を頭オークの体に落とし。先まで付き従っていたはずのオーク頭の身を、圧して押さえ捕まえていた。

 

「ぅァ……ナん――ゴビュッ」

 

 苦し気な色を見せ、オーク頭は自らの体に襲った事態を確認しようと振り向こうとした。しかしそれよりも早く、オーク頭の頭は何かに抑えられて地面に勢いよく沈み落ち、オーク頭はくぐもった悲鳴を漏らす。

 見ればオーク頭の後頭部には、それを踏みつける脚――戦闘靴がある。

 

「逃げられると?」

 

 その戦闘靴の主は、他ならぬ讐。

 オーク頭の這いつくばる巨体の上に、登りそして片足でオーク頭の頭を踏みつけ沈め。悠々と構える讐の姿があった。

 

 

 

「――……ッ」

 

 町の先へ散開展開した14分隊隊員各位。その内で一名の隊員――辺里は、足元周囲に視線を走らせ、そして苦く険しい色をその顔に浮かべていた。

 その理由は、周囲に散らばる町の男、女、そしてオーク達だったの血肉肉片だ。

 一部に残るオークの緑肌などが辛うじて判別できる程度で、その大半は混ざり散らばり最早どれがどの物かの区別はつけようが無かった。

 

「……ッ!」

 

 そんな凄惨な光景に顔を顰めていた辺里。しかし直後、彼は自身の斜め背後に気配にを感じ、振り向いた。

 

「……ぁ……ぁぁ……」

 

 振り向き視線を降ろした辺里の目が見たのは、彼の足元で四つん這いの姿勢でこちらを見上げる一人の女。オークに寄り添い従属していた町の女の一人だ。先の火力投射の中を奇跡的に生き延びたらしい女は、今は震え、その顔を青くして恐怖を浮かべながら、辺里にすり寄ってくる。

 

「逞しいお方……ど、どうか……お慈悲を……」

 

 どうやら敵か味方も不明な。そしてオーク達も町の男も女も区別なく屠って見せた分隊を前に、恐怖と命の危機を覚え。なりふり構わずの助命懇願を求めて来たようであった。

 女は這い擦り寄り、その片手で辺里の迷彩服ズボンの裾に触れようとした。

 

「――ぎぃェッ!?」

 

 しかし次の瞬間。その女の顔面がど真ん中から凹み潰れ、女は眼を剥き出しその顔を崩壊させ、そしてえげつない悲鳴を上げた。

 見れば辺里とはまた別の隊員の脚が、辺里の横方より伸び。その脚の履く戦闘靴の先端が、女の顔面に見事にめり込んでいた。

 脚撃の主は、先に讐と一緒に居た米央という名の陸士隊員。

 その米央に蹴り飛ばされ、女は顔面を潰し舌を突き出し、吹っ飛ぶようにもんどり打つ。

 

「びェッ――」

 

 そして間髪入れずに、ガンという独特の破裂音――発砲音が響く。そして女からは、また妙な悲鳴のような音が上がる。そしてそのままべちゃりと地面に叩きつけられる女。

 見れば、女の頭部は半分以上が。まるで果実のように砕け無くなり。血と、脳漿始め構造物を、地面に撒き散らかしていた。

 

「――辺里さんに汚い手で触れるな」

 

 失われた脳からの命令を受けられなくなり、ビクビクと痙攣する女の体。

 それに向けて吐き捨てるように紡がれたのは、米央の冷たい台詞。

 見れば彼の手にはショットガンが持たれ、銃口からはうっすら煙が上がっている。

 そして彼はその、男性としては美麗なまでの作りの中性的な顔に。しかし汚物でも見るような冷たい色を浮かべ、死体となった女を見降ろしていた。

 最早説明はいらないだろうが、女を退け屠ったのは彼、米央。

 彼――いや隊員等からすれば。侵略者であるモンスター達に対する抵抗を諦め、その軍門に己から下りに行き。そして全てを剥奪されたにも関わらず、挙句その侵略者に媚び売り縋り寄りに行った町の人間達に対して。同情も無ければ、救いの手を与え差し伸べる気など、さらさら無かった。

 

「……」

 

 辺里を庇い立てするように立つ米央。その米央を横にしながら、辺里はもう一度、周囲足元に散らばる町の人間の成れの果てに、視線を一周させる。

 

「――……ッ――抗う事を止め、敵に降りになど行けば……無残な末路を辿ることが分からなかったのかッ!」

 

 そして変わらぬ苦く険しい顔で。訴え問うように、そんな台詞を荒げ発し上げた。

 

「そんな頭も無いから、こんなザマに陥ったんだな」

 

 その辺里に。背後より、反した冷たくそして白けた言葉が届き聞こえる。

 辺里が振り向けば、その先には横たわり沈むオーク頭――と、その上に立ってオーク頭の頭を踏みつける、シラけた様子の讐の姿が在った。

 

「まぁ、一応仇は打ってやる――他は?」

 

 オーク頭の図体の上で、片手の先で手持ち無沙汰気味にナガン・リボルバーを弄びつつ。讐は一言呟き、そして尋ねる言葉を続けて寄こす。

 それにあっては周囲に、オークの生き残りが居るかを尋ねる物。

 

「数匹、息があります」

 

 問いかけには米央が返答を返す。その言葉通り、周囲には火力投射に晒され転がりながらも、未だ息のあるオークが数体あった。

 

「引きずって集めろ」

 

 返答に、さらにそう端的な命ずる言葉で返しながら。讐は踏みつけ沈めていたオーク頭の頭をわざわざステップにして、その図体から地面へと降りる。

 

「おィ」

 

 そして、オーク頭の図体を押さえつけ拘束していた大型触手に、一言促すような命令するような言葉を飛ばす。

 それを受けた大型触手は、またその巨体を苦しそうに怯えるように震わせながら動く。触手はその先端をオーク頭のその太い首へと伸ばし、絡みつき巻き付くと。オーク頭のその図体を、首を絞め上げながら強制的に持ち上げ起こさせた。

 

「こェ……ぇげ……っ……」

 

 無理やりその体を持ち上げられたオーク頭は、その首を触手に締め上げられながら、膝まづく姿勢を取らされる。その獰猛な口からは、しかし反した弱々しく苦し気な声が、涎と併せて漏れる。

 

「でメぇ……ら……ナん……」

 

 そんなボロボロの状態となっても、まだ反抗心を残しているのか。オーク頭は弱々しい声色ながらも、牙を剥こうとしながら問いかける声を、眼前の讐に向けて発しかける。

 

「――ぎゅヒッ……!?」

 

 が、それが紡がれ切るより前に。

 パーンという乾いた音が響き上がり、そして同時にオーク頭の口から惨めな悲鳴が上がった。

 見れば、オーク頭の下腹部。膀胱などの器官が内臓されるあたりに、数ミリサイズの穴が開き、血が流れだしている。そしてそこから辿り見れば、そのオークの下腹部に銃口を向けてうっすらと煙を上げるナガン・リボルバーと、それを突き出し向ける讐の姿があった。

 讐はオーク頭の余計な口を封じるべく、オーク頭の下腹部を片手間感覚で撃ち抜いたのだ。

 

「ぃァ……!?ぁ゛ぁ……っ!」

 

 下腹部を撃ち抜かれた痛みに、オーク頭は締め上げられ拘束された図体を悶えさせ、苦悶の色を見せる。

 

「ヨぉ」

 

 しかし一方の讐は、そんなオーク頭にはまるで興味を示さず。側方へ振り向いてそちらへ、促すような一声を発し送る。

 その先に停車配置している76式装甲戦闘車より、丁度と言ったタイミングで一名の陸士隊員が歩み向かってきた。

 そしてその隊員の腕中に見えたのは、物々しく禍々しい物体。

 電気工具――チェーンソー。

 隊員は歩みこちらへ来ながらチェーンソーのエンジンを起動。エンジン音が唸り響き、そしてガイドバーに沿ってその刃が、荒々しく回転を始める様子を見せる。

 

「〝やっても〟?」

 

 そして歩み到着した陸士隊員は、否やおもむろに讐に向けて。冷めた色でそんな尋ねる意の言葉を発する。

 

「あぁ、構わん。やれ」

 

 それに対して同様に端的にそんな言葉を返し、そしてオーク頭を顎でしゃくる讐。

 

「ッ――!?……ぉメ……ナに――」

 

 一方のオーク頭は、襲う激痛に苛まれながらも、しかしそれに――目の前で不気味に呻き動く、異質な機械に気付く。

 そして、朧気ながらもそれが。それを持つ隊員が己に何をしようとしているのか察し、獰猛なその顔をしかし青く染めて、声を漏らしかける。

 しかし――

 

 

「――!――ぃぎゅぁァアアアアアアアッッ!??――」

 

 

 直後瞬間。

 オーク頭の物である悲鳴、絶叫が。町の周辺と上空へ木霊した――

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