―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》 作:えぴっくにごつ
制刻等は建物家屋内へと進入し、手分けして生存者の捜索を開始。
「――ッ、酷いな……」
一軒の家屋内の一室。ネイルガンを構え警戒即応の態勢を取り、視線を各方へ向けながら進む敢日の身がある。
そしてその動作を取りつつ、敢日呟く。家屋内はこれまでの御多分に漏れず、引っくりかえされたように荒らされていた。
「フケン!ネンエル!ドゥクフレイさんッ!居たら返事を!」
敢日が隣室とを繋ぐドアを潜った所で、響き聞こえたのは重低音のしかし急き焦れるような、名を呼び訴える声。
隣室には、室内に視線を走らせ、発し上げるジューダの巨体があった。
その声で呼ばれた名前等は、いずれもジューダと交友のある町の住民のもの。それを口にしたジューダのその厳つい顔には、しかし険しくも焦る色が浮かび上がっていた。
「……ッぅ」
発し上げ呼びかけたジューダの声にしかし返答は聞こえず。ジューダはその顔により苦い色を作る。知る人々を本気で心配し、急いているのであろう様子が嫌でも伝わって来た。
「……大丈夫さ、抗う事を諦めない人々なんだろう?きっとどこかで身を潜めて無事でいるさ、信じよう」
ジューダのその姿を見た敢日はそんな言葉を送る。ジューダと交友のあるその人々は、いずれも生きる事を諦めずに逃げ隠れているらしい。それを信じ希望を持ち続ける事を促す物。
はっきり言って気休めであったが、ジューダの焦り不安を抱く姿を前に、敢日は言葉を掛けずにはいられなかった。
「あぁ……そうだな、すまない」
掛けられたそれに、ジューダもまだ不安心配の様子は消える事がないながらも、同意と礼の言葉を返す。
「よし、捜索を続け……――ッ!」
「ッ!」
そして捜索行動を再開しようとした、しかし直後。
敢日、そしてジューダは、同時に気配と物音を察知した。
出本は近場にあった窓の向こう、屋外。数は複数、多数。
敢日とジューダはそれぞれ窓の近くの壁際に取りつきカバー、外部からの死角の部分にその身を即座に隠す。
「……」
そして最低限視線を出して、窓の外を観察する敢日。
その向こう。家屋に面する町路に見えたのは、オークの一群であった。
どこかへの増援か、あるいはパトロールか。雑な隊伍を組んで進む様子を見せている。そして内の何体かは、窓の向こうすぐ側を通り、時折窓からこちらを軽く覗き見ながら通り過ぎる個体もある。
「……――」
敢日とジューダは視線を一度合わせ。息を潜め殺し、外の一群をやり過ごす事を狙い、通り過ぎるのを待つ。
しかし。
瞬間。窓の向こうにガシャっと音を立てて何かが取りつき。そして荒々しい吠える鳴き声がこちらに向けて飛び出した。
それはかなり大型の犬、いや狼か。それに類した生き物。先んじて明かせば、それはワーテウルフと呼ばれる、大型の狼に類した魔獣。
オーク達が番犬、軍用犬代わりとして飼い慣らし連れているそれが、家屋内に潜む存在を嗅ぎつけたのだ。
「ナんだッ、何が居ルッ!?」
ワーテウルフのそれを受け、近場に居た一体のオークが窓より内部を覗き込む。
「!、居やガる、隠れてヤがるぞ!オイ、ここに――」
そしてそのオークも、内部に潜む敢日やジューダの存在に気付く。そしてオークはそれを仲間に知らせるべき、声を発し上げ掛けた。
「――ぎェひッ!?」
しかしオークのその言葉は紡ぎ切られる前に、妙な悲鳴へと変わった。ほぼ同時にガラスが盛大に割れ砕け散り。そして吠え叫んでいたワーテウルフもまた、それを「ギャウッ」という悲鳴に転じさせ、窓の向こうでもんどり打つ。
見れば敢日の手には突き出し構えられたネイルガン。それより撃ち出された釘群が、オーク達を屠ったのだ。
「ッ、見つかったかッ!」
「ここをッ――」
発見された事に、ジューダが苦い色で発し上げ。同時に敢日がここよりの離脱を促そうと、言葉を発しかける。
しかしそれを遮る様に。
窓際で突如として大きな発火現象が巻き起こり。いくらかの衝撃と破壊、そして赤々とした光と高熱が襲い来た。
「ッ!?」
「ぅぉッ!?」
敢日とジューダは咄嗟に窓際より飛び退き、床に突っ込み倒れる。
微かに体に走る痛みを無視して、すかさず顔を起こし見れば。窓際は窓縁はじめ各所に火が付き燃え、損傷していた。
「ッぅ……――ここを離れるぞッ!」
具体的なそれの正体は不明だが、それがオーク達からの攻撃である事に関しては疑いようがない。
敢日は改めてジューダに訴える言葉を発し上げ。そして二人は身を起こし、その場よりの離脱逃走を開始した。
飛び出すように二人が窓際を離れた直後。ガラスの割れた窓より、さらには壁を貫いて。いくつもの矢撃や魔法攻撃であろう鉱石の針が、屋内へと注ぎ襲い来た。
敢日とジューダはそれに追い立てられるように、その一室の扉を駆け潜り、隣室へと逃れる。
しかし当然か、その隣室にも流れスライドするように、同種の攻撃が注がれ窓や壁を貫通し襲い来る。
そしてさらに。先の火炎現象攻撃の二発目が、近場の窓に叩きつけられ、窓ガラスを割って高熱で二名を襲った。
「ッ、火の弾なのかッ!?」
「中級のフィルエ・ベイル!マギエ・オークがヤツ等の中に居るッ!」
先行する敢日が駆け逃げ、また扉を潜りつつ。襲い来る火炎現象に推測の言葉を発する。それにジューダが答える。襲い来るそれは、魔法を使えるオーク個体が繰り出して来る火炎弾攻撃であった。
「数も多かった、自由と合流したほうがいいッ!」
「承知だッ!」
先に見えたオーク達の数から、先に制刻やGONGと合流すべきとの判断をしつつ。敢日は閉じられていたドアを蹴破り、さらに隣室へと逃れ踏み込む。
駆ける二名の背後よりは、追いかけるように壁を貫き矢や鉱石の針が、壁を貫き襲い。一定間隔で火炎弾が飛来して高熱でこちらを煽る。
「上に上がる、階段を上るッ」
さらに踏み込んだ隣室の端に、上階へ続く階段を見止め。敢日はジューダに促し発する。そして直後には階段に到達し、脚を駆けて駆け上がり出した。
「自由、聞こえるか!モンスターの一体に遭遇、追われて色々ばら撒いて来てる!合流してくれッ!」
階段を駆け上がりながら、敢日はヘッドセットに張り上げ通信を上げる。相手は別所で行動中の、他でもない制刻。
《見えてる、騒いでる連中をこっちからも確認してる。すぐに向かうから気張れ》
「頼むッ!」
制刻から帰って来たのは、向こうからもこちらの状況を視認掌握している旨。そして合流まで持ちこたえる様要請する言葉。
それに端的に返しながら、敢日は階段を上り切り上階へと出た。
「――ッ!」
上階へ踏み出て、視線を走らせ一室内を掌握する敢日。
しかしその暇も一瞬。一室内の反対にある別のドアが、向こうより荒々しくけ破られた。そして現れたのは、一体のオーク。
「見つけタッ、居やガ――ギョぅッ!?」
そのオークは敢日の姿を見つけ、発し上げ掛けた。しかしそれは紡がれ切る事も無く、オークの声を遮る様に上がった金属音と同時に、悲鳴へと変わる。
オークの相対遭遇と同時に、敢日は構えていたネイルガンを即座に撃ち、オークの頭部を貫き屠ったのだ。
「居たゾ!」
「殺セ!」
しかし扉の向こうには、さらなるオーク達の体が見える。
「後ろだ、反対だッ!」
敢日は背後に視線を向け、そちらに別の扉を見つけ、それを逃走経路と判断。続くジューダに発し知らせながら、身を翻してそれを目指し駆ける。
「オラァァッ!」
そんな二名の元へ、一体のオークが走り迫って、己を振り襲い来る。
「――ゲぁッ!?」
しかしそのオークは、敢日に続き身を翻す途中のジューダに。その彼より振るわれた鯨包丁のような鉈にバッサリと切られ、真っ二つとなり退けられ、床に転がされて鮮血をぶちまけた。
ジューダはその屠ったオークにはそれ以上見向きもせず、敢日を追い。そして二人はまた隣室へと踏み込む。
――そんな瞬間の二人を、衝撃が襲った。
「――ぉわッ!?」
襲い来たのは衝撃と高熱。〝何か〟が家屋の屋根を突き破り破壊し、屋内へと叩き込まれ落ちたように見えた。
襲い来たそれらの現象と。反射的な回避避難行動の意図から、敢日はほとんど吹っ飛ぶように、床に身体を投げ出し回避姿勢を取った。
続くジューダも、その身を低くし腕で身を庇う。
「――ッ!?」
直後にすぐさま身と視線を起こした敢日。その彼の目が見たのは、大穴の空いた家屋一室の天井、そして床。さらにその周囲は火が伝い燃え、あるいは焼けこげていた。
「んだこりゃ……隕石……ッ!?」
「ミテュア……初級だがミテュアだ!星を落とす魔法だッ!」
驚愕の光景に、敢火は目を剥きつつも推測の言葉を零し。続けジューダが、その正体を明かす言葉を同様に驚く色で零す。
「隕石って……――ッ!」
さらに驚愕を現す声を零しかけた敢火。
しかし直後。敢日の目は視界の端に、揺らめき光る何かを見る。それを辿り敢日は、そしてジューダは真上を見上げる。その先、大穴の空いた天井からその向こうに見えた大空に。赤々と燃えながら降下して来る物体――隕石が。魔法で生み出されたであろうそれが見えた。
「冗談……――」
最早乾いた笑いに近い声で、呟いた敢日。
「――窓だッ!」
続けジューダが促し示す言葉を発した瞬間。両名は跳ね上がる様に身を起こし、あるいは床を踏み切り。家屋の壁際の窓へ、ほぼ飛ぶように駆けた。
「飛べェッ――!」
ジューダは張り上げ。同時にその巨体を持って体当たりを敢行、窓を周りの壁ごと破り破壊。
破られた壁際の開口部より、二人は宙空へと飛び出す。
直後――降下して来た隕石が天井の大穴を抜け、家屋内へと直撃。巻き起こった衝撃と炎が、二名の背後で巻き上がり広がった。
「ッぅ!」
後方背中より襲う熱と衝撃に顔を顰めながらも。敢日とジューダは宙空を降下。
「――ヅッ!?」
「――ぐォッ!」
咄嗟の退避行動の先であったため、満足な受け身の態勢を取る事は敵わず。二名は気休め程度の受け身態勢で地面に叩きつけられるように着地。その体を少なからず打ち、地面を転げあるいは滑った。そして家屋の破片がバラバラと降り注ぐ。
「ッゥ……!」
落ちた周囲には、家屋に囲われた小さな広場空間。
少なくない痛みに苛まれつつも。まだ敵中である状況下で、すぐさま態勢を復帰させようと体に鞭打つ敢日。
しかし、彼の意思に反して身体は痛みを訴え動きは緩慢。思うように動かない。
「イやがっタぞッ!」
「こっチだッ!」
そんな所へ。聞きたくはなかった、荒々しく明らかな害意の込められた声が響き聞こえる。そして視線の先、家屋の間の小道より、複数体のオーク達がワラワラと沸き出て来た。
「ニンゲンと、裏切りモンだッ!」
「ふざけやガって、焼き殺しちマえッ!」
憤慨した様子で、両名を遠巻きに囲いだすオーク達。その中には、少し趣の異なる装飾の個体もいくつか見え、そしてその異なるオーク達の手には、1m程の火の玉が生み出されている。おそらく先にジューダが説明した、魔法現象を扱うオーク個体であろう。
「ッ――!」
まずい――全身がそう危機感を訴え、敢日は自身の手中にあるネイルガンを、突き出し構えようとする。しかし敢日の完全ではない緩慢な動きよりも早く。魔法を使うオーク達は炎の玉を保持する腕を振るい上げ、敢日等を焼くべくそれを放とうとした。
「――ッ゛ェッ!?」
――しかし。その魔法使いのオークの内の一体が、何か妙な悲鳴を上げると共に、吹っ飛ぶように崩れたのはその時であった。見れば、そのオークは何か細めの杭、いや太い矢か。そんな物にその頭部を貫通されている。
「ギェァッ!?」
「ナ!?――ビェェッ!?」
それを皮切りに。敢日とジューダを取り巻いていたオーク達は、次々に倒れ――いや、射抜かれ始めた。いずれも細めの杭のような矢にその身を貫通され、崩れ倒れてゆく。
「な、何ダよ、こ――ギャゥァッ!?」
さらに極めつけは。狼狽する一体のオークが悲鳴を上げて、真っ二つになり鮮血を噴き出し、そして崩れる。
オークが崩れ落ちたその背後にあったのは、オークを越える巨大な存在。
身長は3m近く。筋肉を蓄えたあまりに太い腕に脚、そして妊婦のように出た肥満腹が特徴の――トロルであった。
その手には、ジューダが持つものと同じような、鯨包丁のような鉈。
さらにその背後、その広場空間の向こう奥から。バラバラと複数の大きな人影が現れ、散開しながら駆けてくる。
それは、なんといずれもオークであった――