―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》 作:えぴっくにごつ
広場の東方には、そこから通じ伸びる町路がある。
「――ヒ、ひぃぃッ!」
そしてそこには、暴れる触手や銃砲火の中を辛うじて、這う這うの体で逃れて来たオーク始めモンスター達が殺到していた。
「なんダよコレェ!」
「助ケて……!」
最早恥も外聞もかなぐり捨てての、逃走のそれ。
「ど、どけよォ!早ク……ヒギャッ!?」
その中でも仲間を掻き分け、我先に逃げんと先頭に出て来た一体のオーク。しかし直後にそのオークは悲鳴を上げ、そして脚を折りガクリと崩れた。
「う、ウワァァッ!?」
そしてまた別のオークが悲鳴を上げる。
彼等が逃走経路と望みを掛けた東側町路。その先から、巨大な鋼鉄の物体――他でもない89式装甲戦闘車が、キャタピラとエンジン音を荒げ上げながら、走り込んできて出現。その巨体で町路を塞ぎ鎮座、オーク達の逃げ道を奪ったのだ。
さらにその車体正面の傾斜装甲上には、そこに乗って構え、M870MCSをオーク達に向ける隊員の姿が在る。今しがた崩れたオークは、その隊員のショットガンから放たれた散弾に脚を撃ち抜かれたのであった。
「またカイブツだぞォ……!?」
「ウワ、ウわぁッ!?」
現れ逃走路を塞いだ装甲戦闘車を目の前に、オーク達はパニックに陥り、その体を返して来た方向へ戻り逃げようとする。
しかし瞬間、そのオーク達の後方で無数の小爆発が炸裂。それはオーク達の退路を断つべく投射された、装甲戦闘車の35mm機関砲からの砲撃。
「――き゜ェッ」
「ぴぇッ」
上がった無数の炸裂は、数体のオークをそれに巻き込み千切り四散させながら、オーク達の退路を奪って見せた。
「――ギャッ!?」
「ヒィッ!?」
前後を抑えられ断たれたオーク達に、追い打ちなまでに事態は動き襲う。
一体のオークがまた悲鳴を上げて脚を折り崩れ。別のオークの足元で何かが弾け、そのオークは驚き怯え、悲鳴を上げて体を竦める。
襲ったのはいずれも散弾、ショットガンからのもの。
「動くな、大人しくしろ」
見ればオーク達の目の前には、ショットガンを向けて構える3分隊隊員が立ち構えていた。
そして隊員から上がるはそんな冷淡な命ずる声。さらにオーク達は、その隊員を筆頭に数名の隊員にすでに囲われていた。
その後ろには、駆け出て射撃行動を行いながら、周囲へ展開して行く3分隊や14分隊の隊員等の姿が見える。
「クソ、こんな……ひッ!」
オークの内の一体がわずかに抗う動きを見せかけたが、直後にはそのオークの足元に散弾が撃ち込まれ。オークは抵抗の色を失い、惨めな悲鳴を漏らす。
「ヘンデ・ホッホだ、クズ共」
そしてオーク達に、別の隊員からドイツ語で「手を上げろ」を意味する言葉が。おふざけを交えてのものだろうが、反してまったく笑っていない視線と声色で告げられる。
「ぁ……」
それを受け、オーク達の顔が青ざめ、そして抗う色が消える。
そして一体のオークが、言われるでもなくその両膝を地面に崩して膝まづいた。
「ゥぁ……」
「ゥゥ……」
それは他のオーク達に伝播。オーク達は次々に膝まづき始め、抵抗の意思を放棄したことをその体で表していく。そして隊員等はそのオーク達に近づき、オーク達の身柄の確保へと掛かってゆき。
その場で十体少しのオーク達が、拘束される形となった。
「……クソッ、なんだってんだい……!」
広場の一角の端。そこにある一軒の家屋内に、潜む屈強な影があった。
それは女オーク。先に町の少年達を拘束し、甚振り楽しんでいた女オーク達の内の一体。女オークは突如として襲い来た砲撃や、仲間であったはずの触手達が襲い来た中。かろうじて一人逃げて近場の家屋に逃れ、身を潜めていたのだ。
ちなみにその甚振られていた少年達は、近場に居た何体かの女オーク共々。砲撃や火力投射の直撃を受けて、肉片血飛沫となって散らばり、やはりその命と引き換えに解放の日の目を見ていた。
「ッ……オス共ッ……普段威張り散らしてたくせに、だらしない連中……ッ」
女オークは窓より外の様子を見ながら忌々し気に吐き捨てる。そこから見えるは、隊員に包囲され拘束されていく最中のオーク達の様子。
普段威張り散らし、そして女オーク達をメスと言う理由でどこか軽んじていたオーク達の晒す惨めな姿に。女オークはそれを見下げ、侮蔑の言葉を吐いたのであった。
「ッ……適当に人質を取って、それを盾に脱出と行くかい……」
そして、この場からの脱出の算段を口にする女オーク。
覗く窓の外に、人影が歩み現れたのはちょうどそのタイミングであった。
「っ!ちょうどいいじゃないかッ!」
いいタイミングで、利用できそうな鴨が来た。そんなような感情を浮かべつつ女オークは、とうに割れ破れていた窓を次には勢いよく乗り越え、飛び出し。ちょうどそこを通りかかった人影を捕まえるべく、襲い掛かった。
が――
「――ぇ?」
そこにいたはずの人影が、瞬間には消えていた。そして女オークの伸ばし突き出した腕は空を切り、女オークからは呆けた声が漏れる。
「――ぎッ!?」
そして目標を失った女オークの体は、飛び出した勢いのまま先の地面に突っ込み。女オークは格好のつかない悲鳴を上げた。
「ヅぐ……ッ!?」
地面にぶつかり落ちた痛みに唸りつつも、女オークは己の斜め先に気配を感じ取る。先よりズレている位置関係から、女オークは己の襲撃行動が避けられたのである事を察知。
「ッぅ――このッ!」
女オークは即座に体を起こして片膝を着く構えの姿勢に回復。そして己の格好のつかない姿を晒させた相手に怒りを覚え。
その感情を八重歯を剥く口元に表し、そしてその目標に再び飛び掛かるべく、視線を上げた。
「――ぇ……」
しかし、その女オークの顔は次には呆けたそれを作り。
「……――っ、ひッ!?」
そして直後に、獰猛さを現しつつも美麗なその顔は――目を剥き青ざめ、小さな悲鳴と共に驚愕と恐怖のそれへと変貌した。
女オークの見上げる先、その目の前。そこに在るは、あまりにも禍々しい存在だ。
嫌悪感を煽る、左右で不均等な歪な眼。
蠢く恐ろしい口内の覗く、また嫌悪感を煽る口。
そして、言い表し難い歪で禍々しい、生物の本能的恐怖を煽るオーラ。
歪な眼は女オークを見降ろし。口は女オークをその蠢く口内に喰らわんとするかのように開口。そして歪なオーラは、それだけで女オークを捕まえ体を硬直させた。
潰される、喰らわれる、壊される。
一瞬の内に女オークの脳裏を、体を駆け巡ったのは。彼女が思いつく限りの、己を襲うかもしれない残酷で恐ろしいその可能性。
「ぁ……」
女オークはまた小さく声を漏らし、そして先までの襲い掛かる姿勢を糸でも切られたかのように解き。ストンと地面に尻もちをついた。
そして軽防具を纏う彼女の股間から、チョロチョロと液体が漏れ出て地面に広がる。あまりの恐怖を前にしての失禁であった。
鴨など思い違いも良い所。
間違っても手を出してはいけない存在に襲い掛かってしまった。己が行動がとんでもない愚行であった事を、女オークはそこで悟る。
「ぁ……ぁぅ……」
その美麗な顔を顔面蒼白に染めて振るえる女オークは、次には弱々しいく姿勢を変える動きを見せる。
脚を揃えて正座の形を作り、両手を揃えて地面に三つ指をつき、次にはその頭を深々と下げて、その額を地面にこすりつけた。
それは完全な屈服の証。
目の前の恐ろしい存在に、己の無礼極まりない愚行を詫び。慈悲を、微々たるものでも容赦を乞うそれ。
明かせば女オークは、この町を襲ったモンスター派閥の女モンスター達の中でも、特に獰猛かつ猛々しく戦う様から一目置かれていた立場であり。それは女傑と評されるまでであった。
しかし、正体不明の比類なき恐怖は。
その存在を示すだけで、女傑と言われた女オークの心を完全に砕き支配。彼女にこの様を晒させたのであった。
「――変なのが沸いたが」
その屈服の姿を曝け出す女オークを足元に、禍々しく歪な存在――他でもない制刻は、淡々とだが呆れ訝しむ一言を零した。
家屋の近くを通りかかった際に、窓より飛び出して来た女オークの襲撃を受けた制刻。しかし持ち前のその体躯に反した俊敏さで、易々とそれを身を捻り回避してみせ。そこから襲撃者である女オークを相手に対応しようとしたのだが。
その女オークは追撃の獰猛さを見せたのもわずか一瞬。直後には悲鳴を上げたかと思うと、何か酷く怯え出すと同時にへたり込み。挙句失禁を晒し。
そして勝手に何かを詫びる姿勢なのか、制刻の脚元で縮こまって見せたのであった。
「どうした?」
そんな少し訝しむ制刻に、背後より声が掛かる。視線をやれば歩み寄ってくる峨奈の姿があった。
「えぇ、今しがた襲われましたが」
峨奈からの尋ねる言葉に、制刻は回答の言葉を返しつつ、再び足元の女オークに視線を降ろす。
「対応しようとした矢先、なにぞ勝手にビビりはじめまして。今のコレです」
続け、事の流れを端的で最低限の言葉で説明し、女オークを顎でしゃくった。
「――あぁ」
引き続き、顔にこそ出さないが不思議そうな様子で女オークを見降ろす制刻。
しかし一方の峨奈は。その禍々しく歪な制刻の容姿を見。それから地面で震え縮こまる女オークの姿を見て、現状の大体の理由や原因を察し理解。少し呆れ脱力するような声を零した。
制刻は引き続き「よく
ともあれ女オークは制刻の特性を前に無力化され。確保拘束されたモンスター達の内の一体へと加わる末路を辿った。
広場に蠢いていたモンスター達は、それから程なくしてそのほとんどが無力化――消し飛ばされる、潰される、千切り散らかされ沈黙。
制刻、策頼等の特異体質の影響を受け、暴走し仲間を襲っていた触手モンスター達は。その〝使用期限〟を迎えてこと切れ多くは死肉と化し、わずかに虫の息の個体が悶え横たわり。どちらにせよ邪魔な大きな肉と塊となって沈んでいた。
そんな広場に。モンスター達や町の男女の肉片を区別なく踏み潰し、死肉と化した触手モンスター達の肉塊を押し退け。89式装甲戦闘車が微速で乗り入ってくる。
装甲戦闘車の車上では車長の髄菩と、車体正面傾斜装甲上に登り搭乗同行している隊員の、何か言葉と手振りを交わす様子が見える。そして車上の隊員は、髄菩から何らかの指示を受けたのだろう、車上より飛び降り装甲戦闘車に先んじて駆けて行った。
さらに装甲戦闘車の両横を、バラバラと隊員が数名抜け通って行く。そして、その後ろより少し遠慮を見せる色で続き現れる、巨大なシルエットがあった。
トロル――ジューダ等、ユーティースティーツ部族と行動を共にしている、トロルのハープンジャーだ。
「ッ――」
ただ傍観はしていられず、隊に続いて広場に踏み入って来た彼は。肉を付けつつも厳ついトロル特有のその顔に、しかし険しく顰めた難しい色を作り、周囲へ視線を走らせている。
それは、モンスター達の地獄の宴を終わらせる代償として、無差別の死の広がる光景と化した広場一帯を見て、複雑な感情を露にするものだ。
「――!」
そんなハープンジャーであったが、彼は直後に自身の側方にいくつかの気配を感じ取り。臨戦の意識と視線をそちらへと向けた。
「ひぃっ……」
「ぉ……おぉ……」
しかし、そんなハープンジャーは直後には別種驚きを抱いた。彼の足元少し先にあったのは、いずれも裸の女達。年齢は若いものから妙齢のものまでで、計三人ほど。それはモンスター達の慰み物となっていた、町の貴族の女達であった。広場の混乱下を、奇跡的に生き残ったのであろう。
「ぁ、あぁ……どうかお慈悲のお恵みを……!」
「り、立派なお方……どうかぁ……」
しかしそんな女達は、怯えそして必死に媚びるような姿で、次にはハープンジャーへと這いより縋って来たではないか。見るにどうにもハープンジャーをこの場の新たな支配者の一人と認識し、命乞いをしに来ているようだ。
「ッ……よしなさい、落ち着くんだ!私達は……!」
そんな女達を前に一瞬困惑を見せたハープンジャーは、しかしすぐに女達にその行為を止めるよう発し。そして自分等が害を加える者では無い事を紡ごうとした。
「な、なんて雄々しい姿のでしょう……魔物達よりも……!」
「あぁ、どうか劣る魔物達になんて従った私共にお恵みをぉ……!」
「どうか、どうかぁ……!」
しかし女達は聞こえていない様子で、媚びる声を並べる事を止めない。そしてそそれは、今さっきまで媚び下っていたモンスター達を侮蔑し、ハープンジャー等を持ち上げようとする言葉。
助かるために、慈悲を求めるために、女達は最早恥も外聞も何もない。見ればその目は最早一種の狂気にすら染まっている。
――ゲジェッ、と。
肉が打たれる鈍く嫌な音が響き。
「ギュェッ!?」
女の内の一人が、白目を剥いて弾け飛んだのはその時だった。
女はそのまま受け身も取れずに地面にグシャリと投げ出される。
「ピェッ」
そして、パーン――と乾いた音、銃声が響き。同時に女の頭が爆ぜて欠けて、鮮血が巻き散った。
「ッ!」
それに目を剥いたのはハープンジャー自身。そして視界の端には、そこに立つ一人の隊員――第6分隊分隊長、富士三曹の小銃を構えての姿が在った。
「ひ、ひぃっ!」
方や、そんな光景を前に悲鳴を上げたのは、残る女達。
「ひ……ぁ……」
「お、お慈悲を、支配者様……!どうかぁ……!」
その内の片方はへたりこんで失禁し。もう片方は今度は富士へと縋り寄り、慈悲を求め媚びる言葉を並べようとする。
「ギャッ!」
しかし媚びようとした女からまた鈍い悲鳴が上がり、そして女はもんどり打ち吹っ飛ぶ。
見れば、富士の脚が蹴りの形で繰り出されている。
「ピャッ」
「ピェッ」
そして続け響くは数発分の銃声、そして女達の悲鳴のような音。女達は頭から血と脳漿を撒き散らしてもんどり打ち、果てに揃って地面に沈んだ。
「――救いようがねぇな」
女達が軒並み屠られ。そして間を置いてから、そんな言葉が冷たい声色で上がる。それの主は富士三曹。彼は今しがた撃ち放った小銃を跳ね上げつつ、そんな呆れたそれの言葉を紡いだのだ。
――別隊と合流調整すべく移動していた富士は、その先で今の場に遭遇。
女達に這い縋られるハープンジャーに一応手を貸してやるべく場に踏み込み、女を蹴っ飛ばし退け。後は今見た通り、女達を何の容赦も無く屠ってみせたのであった。
「ッ――ッ!君!なんてことを……ッ!?」
しかし、そこへ。
そこまで絶句していたハープンジャーから怒号に近い声が、富士へ飛んだ。
それは曲がりなりにも助けを求めて来た女達を、敵も同然に屠って見せた富士へ、その行為を問い詰めるものだ。
「敵に媚び降り、抗う事を諦めた輩に、救う価値は無しだ」
向けられぶつけられたハープンジャーからのそれに対して。富士は冷淡に、そしてわずかだが面倒臭そうな色をその顔に見せて、そんな言葉を返す。
それは言葉通り。抵抗を諦めモンスター達に媚びに行き、挙句状況が一転すれば今のように、新たな支配者に媚びに行くような連中に。
救う価値も、生かす価値すらもないと断じるものだ。
「殺してやるのが、最低限与えられる慈悲だ」
「君は……ッ!」
続け付け加えられた富士の言葉に、ハープンジャーはまた感情を乗せた声を返しぶつけようとした。
「それより、あまりうろついてくれるな。君達は誤認誤射の危険がある」
しかし、この場で論じ意見をぶつけ合う気はさらさら無いと言うように。富士はピシャリとした言葉でそれを遮り、そしてそんな忠告の言葉を告げる。それは現在の混乱残る中で、ジューダ等ユーティースティーツ部族とハープンジャーを敵性モンスターと誤認してしまう懸念が在る事を促すもの。
一応現在。ジューダ等やハープンジャーは、隊から貸された赤テープをその纏う軽防具に張るなり巻き付けるなりして。それを敵性モンスターとの識別にする対策は取っていた。
しかしそれも十分な施策とは言えず。状況が落ち着くまで、ユーティースティーツ部族やハープンジャーには行動を控えてもらいたいというのが、隊側の都合であった。
富士はその旨だけを冷たい色で告げると、目的である別隊と合流すべく、その場を立ち去ってしまう。
その先では、這い逃げようとしていた生き残りの敵性オーク達が。隊員に首根っこを捕まえられ、引きずり連れていかれる姿などが見える。
「ッ――」
そんな周囲の光景を見ながら。
ハープンジャーは心を整理し切れないといった姿で、苦い色で口を鳴らした。