―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》   作:えぴっくにごつ

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4-10:「移乗」

 『嵐鮫の大海団』の旗艦である、戦列艦に類する巨大船。

 雄大なまでの姿を誇ったその船であったが、しかし今や。そのまた巨大なマストは根本よりへし折られ、大海原を悠々と航行する事は叶わぬ姿となっていた。

 巨大なマストは船尾楼側へと倒れ、船尾楼設備を縦に真っ二つに割ってめり込んでいた。

 

「……がぁ……ッ」

 

 その損壊部の隙間、倒れたマストの下から、一人の人間が這い出し来て姿を現した。その正体は、この『嵐鮫の大海団』の船団総頭である男、デュオウ。

 デュオウは倒壊したマストに巻き込まれその下敷きになったのだが、その際に奇跡的にも僅かな隙間に落ち、巨大なマストに押し潰される事を間逃れていたのであった。

 

「クソがッ……何が……」

 

 唸るような声を上げながら、マストの下より這い出たデュオウ。

 彼の率い誇る船団は、しかし正体不明の攻撃現象によって、彼の見る前で次々と沈んでいった。理解が及ぶこともないまま、ただその事実だけがデュオウの脳裏に焼き付いている。

 

「……ッ!?」

 

 その彼の耳が。事態に対する理解整理の時間すら認められる間もなく、異質な音を聞いたのはその直後であった。音源は上空から。損壊した船尾楼の隙間から覗き見える曇天の空の中に、〝それ〟は現れた。

 なにか、おそらく翼であろうそれを回転させて激しい音を響かせ、宙に浮かび――いや、飛ぶ物体。白と灰で塗装されたずんぐりしたその胴体の、その中央に描かれた赤い丸が異様に目を引く。

 「空飛ぶ船」、そんな言葉がデュオウの脳裏に浮かぶ。

 その空飛ぶ船は、デュオウの船の真上で滞空を開始。

 そしてその空飛ぶ船からはロープが落とされ垂らされる様子が見え、次には空飛ぶ船の横腹から、人が繰り出て伝い降りて来る姿様子が見えた。

 さらに続け聞こえ来たのは、いくつかの何かが爆ぜるような音。果ては、人の短い悲鳴、断末魔。

 

「っ!……ヤロウ……ふざけやがってぇ……!」

 

 目の当たりにした一連のそれが、〝襲撃〟であること。そしてそれが、デュオウの船団をここまでの様に至らしめた、異質な存在の一端であろうこと。

 それらは最早想像に易過ぎた。

 それらの事態を前に、デュオウは犬歯を剥き出しにして憤慨の色で唸り。そして倒れ船尾楼を潰すマストに括りつけてあった、その〝得物〟を掴んだ――

 

 

 

 立入検査隊各隊を乗せた各RHIBは船団に――正確には船団であった。マストや舵を失い浮かぶ椀と化した、あるいは切れ端と化したそれぞれが浮かび漂う一帯へと進入。

 散開してそれらを縫い進み、それぞれの割り当てられた移乗対象の船を目指す。

 移乗の対象である船は、旗艦とおぼしき巨大戦列艦に類する船と、指揮船であろう2隻のガレオンに類する巨大船。

 存所等のRHIB「なにわ01」の分隊が巨大戦列艦への移乗を担当。護衛艦かまくらより発した「かまくら01」と「かまくら02」が2隻のガレオン船をそれぞれ担当し、「なにわ02」は不測事態発生の際の増援として待機する手はずだ。

 すでに目標の各船の真上では先行した2機のヘリコプター、HSS-2DとSH-60Kがそれぞれホバリングし、降下チームをラぺリング降下させる様子を見せていた。

 それを見つつ「なにわ01」は目標である巨大戦列艦へと接近。さした抵抗も無く、RHIBは戦列艦へと横付けした。

 

《レイン01よりタイフーン01。上は確保してる、梯子を降ろすぞ》

 

 そのタイミングで存所等各員の着けるインカムに音声が届き伝わる。

 それは戦列艦に先行降下した降下チームからのもので、すでに移乗に伴う船上の確保は完了していることを伝える言葉だ。そして言葉を証明するように船上より一名の海隊隊員が半身を乗り出し見せて、そしてその隊員の手により縄梯子が降ろされた。

 

「んじゃ、各々心構えを」

 

 存所は降ろされた縄梯子の固定が確かな事を確認しつつ、RHIB上の分隊各員へと告げる。そしてあらかじめの手筈通り先陣を切るべく、縄梯子に脚を掛けると、その巨体に似合わぬ軽々とした動きで船上を目指して登って行った。

 

 

 さほど掛からず存所は縄梯子を登り切り戦列艦の船上へと到着。船の縁を越えて甲板上に脚を着けば、そこでは4名1組の降下チームが展開しその一点を確保。「なにわ01」の分隊の移乗を援護する姿が在った。

 そして今も上空でホバリングし上空援護に着いているHSS-2Dからのダウンウォッシュが甲板上に吹き付けている。

 

「どんなです?」

 

 真上にローターの回転する荒々しい音を聞きつつ。

 存所は自身も9mm機関けん銃を控えて警戒の意識を周囲に向けつつ。チームの内の指揮官である二等海曹に近づき、端的にシンプルな状況を尋ねる声を掛ける。

 

「甲板上からの抵抗はわずかで全て排除。現在の所、支障は無し」

 

 それに二等海曹も端的に返し、最低限の言葉で状況情報の交換を行う。

 その間に背後からは、御堂院や笹植等分隊のそれぞれが続き縄梯子を上がって来て、甲板上に乗り込んで来る。

 そして各々は警戒カバー範囲を広げるように展開、配置して行く。

 

「砲雷長。甲板上はクリア済、支障無し」

 

 内の近づいてきた御堂院に向けて、存所は確認した状況を最低限の言葉で端的に伝える。

 

「いいわ、上出来よ」

 

 それに御堂院は9mmけん銃を控え、周囲へ警戒の意識を走らせながらも、そんな言葉を返した。

 その直後、上空で警戒のために滞空していたHSS-2Dは。船上での立入検査隊の移乗展開を確認し、支障無しと認めたのだろう。緩やかな前進航行の動きへの移行で、船上より飛び去って行った。これよりHSS-2Dは距離高度を取っての警戒態勢に付く。

 

「さぁ、モタモタせずに次の幕に移りますわよ」

 

 HSS-2Dの離脱の動きを上空に見つつ、御堂院はその妖艶な声で各々へ紡ぎ始める。

 

「笹植二曹、三名連れて後ろ甲板構造物を抑えてちょうだい。存所先任兵長は二名を伴い、全甲板から船内へ降りて――」

 

 各員へ指示を伝えていく御堂院。立入検査隊第1分隊はこれより何手かに分かれ、船内を検査し抑える手はずだ。

 

「明宇井三曹と岬江三曹は私と来てちょうだい。中甲板から船内に降りるわ」

 

 笹植や存所に人員を割り振り。そして御堂院は、長身の女三曹の明宇井始め三名に、自身への同行を要請。

 

(げ)

 

 しかし。その要請に名を呼ばれた明宇井は、内心で明確な嫌悪の言葉を浮かべる。

 

「二曹さん、ここは任せていいですわね」

 

 そんな事を思われている事は知らずに、御堂院は降下チームの指揮官の海曹に向けて、そんな尋ね任せる言葉を向ける。

 

「えぇ、問題ありません」

 

 海曹はそれに返しながらもその声色や顔色には、御堂院を「変な女幹部だな」と思っているのだろう色が浮かび見て取れた。

 

「さぁ、舞台の開始よっ。華麗な演舞を見せて頂戴!」

 

 そんな海曹の変な物を見る視線をよそに、御堂院は分隊各員に向けて高らかに発し上げた。

 

「ん」

「了」

 

 しかしそれに対して、存所や笹植他の各々は。さして真面目に受け取っていない様子で、要点だけは掌握した旨を返す端的な言葉をそれぞれ返し。

 

(笹植さんか存所ちゃんとが良かったな)

 

 明宇井は、御堂院に同行随伴する事になった〝外れクジ〟を内心でボヤきつつ。

 各員各チームは、この巨大戦列艦を制圧すべく、散開して行動を開始した。

 

 

 

 数手に分かれて船上の検査制圧を開始した立入検査第1分隊。

 内の笹植率いる4名1チームは、後甲板の船尾楼を抑えるべく動いていた。

 

「尾張と登は左側から行け、倶入(くいり)は俺とだッ」

 

 船尾楼構造物へ辿り着き、船尾楼へ上がるための両舷の階段を、二手に分かれて駆け上る笹植等。

 そしてさほど掛からず階段を上がり切り、船尾楼上の後甲板に脚を着き踏み込んだ。

 

「――クリアーッ」

「クリア」

 

 踏み込むと同時に、構えた火器を向けて視線を走らせ、後甲板上の索敵を行う笹植等。しかし後甲板上に人影は一つも無く、それぞれからはその旨を知らせる声がすぐに上がった。

 

「――また派手にいったな」

 

 引き続き警戒の意識を周囲に向けつつ、しかしどこか呆れた零す笹植。彼の視線は足元、船尾楼の真ん中に向いている。

 そこにあるは倒れた巨大なマストが、船尾楼設備を真っ二つに割ってめり込む光景だ。

 

「上はクリアだな、俺等も船内に降りるぞ――」

 

 その派手な光景からはしかしすぐに視線を外し。笹植は指揮下の各員に次の行動を促す言葉を発する。

 ――笹植が、その背後に何か大きな動きの気配を感じたのはその瞬間であった。

 

「――は?」

 

 再び背後、マストに割られた船尾楼側へと素早く振り向いた笹植。しかし直後に見えた光景に、彼は思わず呆けた声を上げてしまった。

 マストに割られた船尾楼の亀裂から、何かが現れて天に向かって真っすぐ伸びている。つい今までは無かった物、それはおそらく金属製の巨大な何か。

 そして直後、それはぐらりと傾く姿を見せる――

 

「ッ――伏せろッ、飛んで避けろォッ!!」

 

 直後。笹植は何より真っ先に怒号を張り上げた。それはチーム各員へ回避行動を促す物。

 そしてその次に――それは襲い来た。

 目測全長20mはあるその金属の長大な何かは、ぐらりと傾く動きから急激に加速。その先端で斜めに弧を描く軌道で〝薙がれ〟、笹植等へと襲い来たのだ。

 

「――ッ゛オぉッ!?」

「ッァ――!?」

 

 笹植の怒号を聞いた各員はすんでの所で。跳躍、あるいは身を落すようなスライディングでそれを間一髪回避して見せた。

 

「ッ――」

 

 笹植自身もまた身を落してそれを回避。紙一重で自身の傍を撫で浚えて行った、長大な鋼鉄のそれを視線で追いかける。

 

「――剣ッ?」

 

 そしてその正体を口にする笹植。

 言葉通り、それは剣であった。全長20mを越える長大すぎる代物を、剣と表現してもよい者かはいささか謎だが、少なくともその加工形態は両刃の剣を確かに模した姿をしていた。

 

「ッ――無事かァッ!?」

 

 回避から構える態勢に復帰しつつ、そして自身の9mm機関けん銃を突き構えつつ。笹植はチーム各員の無事を確認する言葉を発し上げる。

 

「ッ――ヨシッ!」

「被害無しッ」

「生きてます、生きてますッ!」

 

 各員からの返答と、そして各方にその無事な姿を笹植は確認。それに一瞬ほっとした感情を抱きつつも、笹植は警戒の視線を甲板中央へと向ける。

 その先に、それは見えた。

 マストに割られた船尾楼の亀裂より、ダンと足を掛けて現れた一人の男。離れた距離からも鋭く屈強そうな体が分かり、獰猛な気配雰囲気が嫌でも伝わってくる。

 そしてその腕の持たれ担がれるは、20mもの長さの長大な大剣。

 その男こそ、この『嵐鮫の大海団』の船団総頭であるデュオウ。

 そして巨大剣を担ぐ姿から最早言わずもがなだが、今しがた巨大剣を振るい薙いだのは、デュオウであった。

 

 明かせば。デュオウは今でこそ、この半分海賊の傭兵崩れの頭へと身を落していたが。辿ればその祖先には名をはせた勇者を持つ、勇者の血を引く者なのだ。

 どういう経緯を辿って今の身の上となったのかは分からない。

 ともかく。その勇者の血が与える驚異的なまでの身体能力が、その巨大剣を扱う事を可能としていた。

 

 己の船団を壊滅に追いやり、己が船に乗り込んで来た正体不明の〝敵〟に。デュオウは怒り狂い、最早言葉で罵る域すらとうに過ぎ。その相棒たる巨大剣をもって、笹植等へと襲い掛かったのだ。

 

「止まれェーーッ!」

 

 そんなデュオウに向けて、笹植は9㎜機関けん銃を突き出し構えて、停止を命じる怒号を張り上げ送る。

 しかしデュオウの動き様子に、それに従う様子は微塵も見えなかった。

 

「ヤロォッ」

 

 すでに攻撃を受け、停止命令を聞く様子も無い。最早躊躇う理由も無いと、笹植の相方を務める倶入は構える93式5.56mm小銃の引き金を引き、デュオウに向けての射撃行動を行った。

 しかし。

 直後に響いたのは、儚さすら感じる金属の衝突音。

 

「あァッ!?」

 

 そして視認したものに、倶入は目を剥き荒げた驚きの声を上げる。

 視線の先では、デュオウが巨大剣をその体の前に翳し構えている姿がある。そしてまた動く様子から、デュオウのそれは健在の姿であることが分かる。

 驚くことにデュオウは巨大剣を盾とし、襲い来た小銃弾を防いで見せたのだ。

 さらに続く動きで、デュオウはその巨大剣を天に向けて振るい上げ――そして、それは断つ動きで振り下ろされた。

 

「ッ――!」

 

 咄嗟の直感、危機感で笹植と倶入はそれぞれ背後へと飛び退いて割れた。その間を、何か殺気を伴う風圧のようなものが飛び抜けていったのは直後。

 ――そして一拍置き、背後遥か後方の海上より何かの衝撃音が届いた。

 

「――マジか」

 

 振り向き視線でそれを追った笹植が見た物。

 それは、洋上で航行不能に陥り漂っていた一隻のキャラベル船が――真っ二つに割れ、いや〝断ち切られ〟。そしてそこから巨大な水柱の上がる光景であった。

 それはやはり、デュオウの成したもの。

 笹植等を狙いデュオウの放った一太刀の、それから生み出された衝撃が。結果流れ弾となってキャラベルをその有様としたのだ。

 

「――ざけてやがる」

 

 その驚愕の、驚異的な現象光景を目に、思わず声を零す倶入。

 

「これは、勇者か――!」

 

 そして笹植は視線を戻して、デュオウの姿を見止めながらそんなワードを口にする。

 この異世界に存在する驚異的な存在である勇者については、日本国海隊もすでに聞き及んでおり、情報としてある程度は掌握していた。

 そしてその情報と、今相対する存在の特性の合致から、笹植はその判断結論に至った。

 

「!」

 

 その笹植は、そこへ背後上空に荒々しい轟音を聞く。振り向き見上げれば戦列艦のすぐ近くの上空に、HSS-2Dが飛来し現れていた。

 異常事態を見止め援護のために飛来したのだろう。HSS-2Dはほぼホバリングに近い飛行形態で戦列艦周りを旋回し始め。そして搭載している74式車載7.62mm機関銃による射撃行動を開始、その火線をデュオウに向けて注ぎ始めた。

 しかし。デュオウは煩わし気な色を見せつつも、しかしその巨大剣を翳して盾とし。機関銃からの銃火を容易く退け跳ね退ける姿を見せた。

 

「サイクロン86、危険だ接近を控えろッ!あれは勇者だ、ふざけた攻撃を繰り出して来る!低空での滞空は的になるぞッ!」

 

 その面白く無い光景を先に見つつ。笹植はヘッドセットを通して上空のHSS-2Dに向けて張り上げ伝える。

 勇者の力を持つ者の一太刀は、今先に見た通り巨大な船をも断ち切る程の驚異的なものであり。その近くでヘリコプターが滞空する事は大変に危険な状態であった。

 

「こちらの援護はいい、離脱するんだッ!」

《――ッ、了解。かまくらに、こちらから応援要請を送っておく》

 

 HSS-2Dの機長からは、離脱することに少しの後ろめたさを感じているのであろう声色で、しかし了承の言葉が。合わせて事態への別案、護衛艦かまくらへ応援要請を送っておく旨が返される。

 そしてHSS-2Dは機体を傾け、離脱に移る姿勢を見せる。

 だが、デュオウは己を襲った存在を逃がす気は無いのか。その巨大剣を再び振りかぶり、飛び去ろうとするHSS-2Dを狙う動きを見せた。

 

「まずいッ」

 

 それに気づき。笹植はそれを阻止しようと9mm機関けん銃を構える。

 しかし、その引き金が引かれるよりも早く。デュオウの振りかぶった巨大剣は、HSS-2Dを狙って勢いよく振るい薙がれた――

 

 

 ――ドッ――と。

 

 

 何かの衝撃音が。そして衝撃が、甲板上で上がり巻き起こったのは瞬間であった。

 

「ッ――!」

 

 最初。笹植はそれが巨大剣が流れ、HSS-2Dがそれに断ち切られた音かと覚悟する。

 しかしローターブレードの激しい回転は引き続き上空に轟いており。振り向き見れば、健在でかつその場より飛び去っていくHSS-2Dの姿が見えた。

 

「今の――!?」

 

 HSS-2Dの無事に微かに胸を撫でおろしつつ。では今の敵の攻撃行動はどうなったのか、その回答を得るべく再び視線を前へと向ける笹植。

 

「ッ――!」

 

 そしてその先に笹植は、衝撃の光景を見た――

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