―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》   作:えぴっくにごつ

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チャプター5:「〝Utility〟」《多用途隊編》
5-1:「―超越的―」


 ――舞台、場所は海隊の戦いを繰り広げた内海を離れ。大陸中央部の小さな国、紅の国へ。

 

 先日に、この異世界に日本国隊とは別に迷い込んだ、日本国民を保護回収するための作戦を始めとし。いくつかの戦いの舞台となった地。

 そしてこの紅の国の政府、中央府は。この異世界の人類文明に見切りを着けて、この異世界を脅かす魔王の軍勢に寝返り着こうとしており。

 今もその企みは進み、この地は謀略と諍いの渦中にあった。

 

 

 その紅の国領の南部。

 町と町を結ぶ、草原に出来た轍の道を進む、騎馬や馬車の列の一団があった。馬車は要人賓客の上品なものから、軍用の機能性重視のもの。輸送用の大きく簡素なものまでいくつか。

 そして前後周囲には、武装した軽騎兵や重騎兵が並び警戒隊形を作っている。

それはこの紅の国の軍警察組織である警備隊と。

さらに傭兵崩れの者達が雇われ構成された用心棒などであった。

 

「……ッ、どこまでがどうなっておる……っ?」

 

 その列の中ほどに位置し進む要人賓客用の馬車の中で、唸る様な苦い声が響いている。声の主は壮年の男。馬車内の席に腰を下ろし、羊皮紙の束に視線を落としながらその顔を難しく染めている。

 男は中央府商議会、この国の政府組織の人間。その商議会内の一つの派閥、党に値するそれを率いる要人議員。そして、魔王の軍勢に寝返り着く謀略に深く関与する、首謀者の一人であった。

 名はヘクムと言う。

 そのヘクムが渋く苦い顔で唸る理由は、その企てに関する諸々――言ってしまえば不都合不具合が原因であった。

 

 つい最近まで、その計画は順調であった。

 計画に反対、邪魔となるであろう派閥は弱体化させ、抱き込める者は抱き込み。頑なに反対するものには〝消えてもらった〟。各街町に駐留する警備隊にも根回し掌握を進めている。もちろんそれ等に、後ろ暗い手立てがあった事は言うまでもない。

 そう、全ては順調であったはずなのだ。

 

 しかしだ。数週間程前よりそれは綻びを始めた。

 事の気配が見え始めたのは、その計画に関わる者達からとの音信が届かなくなったことだ。配下の、ないし企みを同じくする派閥の議員。掌握を進める各警備隊の隊長や幹部。

 中には腐れ縁の議員。先日に、その失脚を企む正義気取りの小娘共に、その汚職や不貞を暴かれる下手を討って投獄され。ヘクムが手をまわして釈放復帰させてやった男も含まれた。

 不信に思い連絡便りを送るも届かず。果てはつい数日前には、何人かの物の行方が知れないとの事態がもたらされる。

 

 そしてその不穏な気配の向こうに微かに、ある存在の気配あった。

 何か、正体不明の者等。それも個人や小さな集まりのような木っ端なネズミではない――明確な大きな組織の動きの噂が、その向こうに聞こえて来たのだ。

 

 これが真ならば容易ならない事だ。

 

 これ等を、調査に放った配下の報告につい昨日聞いたヘクムは。またある私腹を肥やすための企ての密会のために訪れていた、領地南の地の町を急遽発ち。

 中央府、この国の首都である紅風の街を目指している最中であった。

 補足するとその道中のための警護に同行している警備兵や用心棒は。いずれもその肥やした私腹によりヘクムが抱き込んだもの、及び自分のために用意した私兵であった。

 

「なぜ今まで情報が上がってこなかった……っ」

 

 その急き草原を走る馬車の中で、ヘクムはまた苦く焦る色で漏らす。

 そう、報が上がってこなかった理由に疑問を持つ声を紡いだヘクムだが。しかし内心では思い当たる所はあった。

 おそらく、何者かの手により情報が消され堰き止められている。それまで己達(商議会)が企ての上で行ってきたように。

 それを思い浮かべ、その心により一層の不安と懸念を抱くヘクム。

 

「へ、ヘクム殿っ!何かがっ!」

 

 そんなヘクムの心中を阻害するように。馬車の外より、手綱を操る御者の叫び狼狽えるまでの声が聞こえて来たのはその時だ。

 

「っ!」

 

 同時にヘクムがその耳に聞き留めたのは、馬の足音や馬車の車輪の音に混じり。そして次にはそれを上回り掻き消し届く、異質な唸るような音。

 ヘクムは跳ねるように席より立ち、馬車側面の窓に顔を押し付ける勢いで外を、

その向こうを見る。

 

「あれは……っ!?」

 

 そしてヘクムもまた、戸惑いの声を上げた。その向こう、馬と馬車の列の後方の各方に見えたもの。

 それは異質な荷車の数々。引く馬も無く、そして異様なまでの速度でこちらへ向かって――追いかけて来る、不気味な色合いのそれの数々。

 こちらを追い走りながら散開した様子から、こちらを包囲し捕らえようとしているのは明らか。

 

「へ、ヘクム殿……!」

「止まるな、走り続けろっ!」

 

 狼狽える声を降ろして来た御者に、ヘクムは叱りつけるまでのそれで命ずる言葉を飛ばす。

 最早その追いかけて来る存在の正体に、当たりを付ける事は容易。しかしともかく今は、逃げる事を考えるしかなかった。

 しかし――そのヘイム達の、いや馬車隊列の全員の耳が。より異質で轟く何かの音を聞いたのはその直後。

 そして、馬車隊列が進むなだらかな上り坂の先。その進行方向にある稜線の向こうより。

 ――グァ――と。

 宙に浮かぶ、いや空を飛ぶ。異質な翼の羽ばたきを見せ、その轟音を轟かせる、怪物の如き何かが。

 ――ヘリコプターが。その進路を塞ぐように姿を現した。

 

 

 

 稜線の死角より、潜めていたその機体姿をダイナミックに登場させたのは、一機の小型ヘリコプターだ。

 

 その機は――H-14Sと名称される。

 ヘリコプターという存在の中でも最初期の存在である、ベル47(H-13)の発展後継機だ。

 その全形、シルエットは先代に似ながらも。スマートさを増した楕円形キャノピーや、トラス組剥き出しから変わったテールムーブなど。より滑らかに完成された印象を受ける。

 当機は――日本国多用途隊にて運用される機体機種だ。

 多用途隊の中でも航空機の運用を担う部隊の一つ、〝第1航空飛行隊〟の〝東部ヘリコプター隊〟の所属機。

 それを示す、多用途隊の所属機に施される濃灰色と臙脂色の二色で塗り分けられた配色が特徴。旧陸隊や一部の海隊の航空機の彩色にも似るか。

その機の役割は観測、偵察、連絡、輸送、時に戦闘攻撃と多岐に渡る。多目的機だ。

 

 馬車隊列の目の前に姿を現したH-14S。

 その機は間髪入れずに、そのスタブウィングに備える2門の74式車載7.62mm機関銃を唸らせる。そして馬車隊列の先頭を務める騎兵の、そのすぐ前方の地面に火線を注ぎ宇都込み。警告射撃にてその駆ける動きを封じて止めて見せた。

 他に連装の軽SAMポッド。そして1門の25mm機関砲という凶悪な得物もH-14Sは備えたが。これが使用されなかった事は、警備兵達にとっては幸運と言えた。

 

 そして狼狽、いやパニックの域のそれを見せる隊列前方の警備の騎兵達の前に。

 H-14Sは地面までギリギリの高度へとその身を降ろしながら進入。低空のホバリングでその進路を物理的に塞いで見せた。

その流れで後続も、果てに馬と馬車の隊形全体が滞り停止。

 そして、その強制停止させられた馬、馬車の列に。今度は後方より追いかけて来ていた、馬も無しに動く馬車――多用途隊の車輛隊形が追い付き現れた。

 

 追いつき現れたのは、旧型73式小型トラック。そしてトヨタ ハイラックスサーフSUV。それぞれ数輛づつからなる車輛隊形。

 いずれも濃灰色と臙脂色で塗り分けられた塗装が、また多用途隊の保有装備する車輛である事を示していた。

 追いつき現れたそれ等からなる車輛隊は散開。停止した馬車列の後方や左右へ展開し、包囲の形成を始めた。

 

 

 

 そしてさらに。後方側方の上空より、轟音を響かせて大きな飛行物体が現れる。

 その正体は、KV-107輸送ヘリコプターだ。

 また多用途隊の運用機である事を示すように、その塗装は濃灰色と臙脂色の二色。そしてその中に日の丸が主張する。

 そのKV-107は、一帯へ低空で進入して来ると。展開包囲行動を進めるする車輛隊の最中に、割り入りお邪魔するように着地の行程に入る。

 そのKV-107の機種側側面の、開放されているキャビンドア。そこより、まだ地面に着地しておらず宙にあるKV-107から、何者かが飛び降りる姿を見せた。

 

 その人物は、そして堂々と地面に脚を着く姿を見せた。

 歳は20代後半程。それなりの高身長。

そして覗くその顔は、端正さと厳つさを併せ持つの絶妙なラインの、凛々しくも他者に畏怖を与える顔立ち。

 そして纏うは。濃灰色の内にいくらかの臙脂色のラインが入る、戦闘作業服。これは現行の多用途隊の迷彩服より、古い形式の服装装備だ。

そしてその戦闘作業服の上からでもその人物の、自然な闘いの中で意図せず鍛え上げられたその体躯が見て取れた。

 

 

 ――その者の名は、侵須(しんす) 信康(のぶやす)

 多用途隊の東部多用途方面隊、第1多用途編制隊、第1処分制圧隊の予備中隊に所属する隊員だ。

 階級は多用途准曹勤務予備士。通称、勤務予備。これは多用途隊に置いて、多用途士長と三等多用途曹との間に設けられている階級だ。

 多用途編制隊とは、多用途隊において師団、旅団、団に値する部隊。その内の処分制圧隊とは、陸隊で言えば普通科。海隊や航空隊における警備、地上戦闘職に値する職種部隊だ。

 

 

 侵須の第1処分制圧隊、予備中隊は。航空隊豊原基地に間借りする形で駐屯しているのだが、そこを転移に巻き込まれた。

 そして、〝特定の荒事〟を任務の一角として担当する多用途隊は。

 今この場に、要人確保の目的で現れ展開したのだ。

 

 

 侵須の降り立った一点のその周辺では。展開包囲行動を進める、あるいは所定の位置に付いた車輛隊の各車両の姿が見せる。

 すでに目標である馬車列の警備兵や用心棒からは、矢撃や魔法攻撃による攻撃が来ている。それに応戦すべく、車輛隊の各車からは搭乗していた各ユニットが降車展開し。あるいは車載火器をもっての戦闘行動を開始していた。

 さらに侵須の背後では。着陸脚を着けて地上に巨体を降ろしたKV-107の、その後部ランプより1個戦闘ユニットが降機展開して来る。

 

「――」

 

 侵須は視線を一流ししてそれ等を一度見ると。自身も踏み出し歩み、行動を開始。

 一帯では、警備隊や用心棒の放つ矢撃や魔法攻撃が少なく無い数飛び掠め、それに多用途隊側も射撃投射で応戦。各方のそれが飛び交い、戦闘行動が本格化している。

 その最中を、侵須はカヴァーを見せる様子も無く。堂々としたまでの様子姿でズカズカと突き進み始めた。

 無論、そんな侵須を狙う敵が出てこないわけもなく。侵須を狙い放たれた魔法の火炎弾が近くを掠め抜け、飛来した矢が足元に突き刺さる。

 しかしそれ等にまるで臆する様子も無く、侵須は続け戦闘の中を割る様にズカズカ進み。

 そして歩きながら同時に、その右手に片手で持ち備えていた自身の得物――火器、小銃を突き出し構えた。

 

 ――その火器装備は、67式7.62mm小銃と呼ばれた。

 名の示す通り、1960年代に正式採用されたもの。日本国隊にて同時期に開発採用された、60式7.62mm小銃(現実における64式7.62mm小銃)とは別系統で開発された小銃だ。

 60式と異なる点として、減装薬弾ではなく常装薬弾を使用。安定性や取り回しを度外視して、射撃威力を優先した点が主としてあり、60式以上に強い癖を持つ。

 陸隊、海隊、航空隊では60式が主として採用されたが。火力威力を優先する傾向のある多用途隊は当銃を採用した。

 

 そんな、癖の強い銃を。

 しかし侵須はなんと片手の手先だけで悠々と支えて突き出し構えて見せ、直後にはその7引き金を引いて、まるで拳銃でも扱うかのように撃ち放った。

 7.62㎜弾の撃ち込まれた先に居たのは、馬上で声を張り上げている用心棒の組頭らしき者。その組頭の用心棒は次にはその身に撃ち込まれ、もんどり打って馬上から弾き飛ばされ、地面に身を打ち落ちた。

 侵須はそれに長く注視するでもなく。手中の67式をスッと動かしその銃口の向く先を変え。また撃ち放つ。

 次に銃弾を撃ち込まれたのは、馬車列の傍で魔弾を放とうとしていた用心棒の術師。術師はしかしその詠唱を叩き込まれた銃弾により阻まれ、その衝撃で背後の馬車に叩きつけられ、身を崩して絶えた。

 さらに侵須は続く動作で67式を繰り出し突き出し、その向こうへと発砲。

今度は馬車列の後方で、馬車に機関銃の如く装備されていた重弩に着く警備兵をまた撃ち仕留め。弾き屠って見せた。

 的確に優先目標を見極め、撃ち抜き排除して行く侵須。

 

「ヨォ!ターミネーター、絶好調かッ!?」

 

 そんな侵須の元へ。近くでハイラックスサーフの開いた助手席扉に身を隠しながら、射撃戦闘行動を行っていた一名の多用途曹から。侵須をそんな様に表現しての、揶揄う様な声が飛び来る。

 しかし当の侵須は、それに答えるでもなくハイラックスの傍を通り抜け。さらに敵中へ向けてズカズカと歩み続ける。

その時点で、すでに一部と敵との白兵距離に踏み込んでいた。

 

「――オラぁぁぁッ!」

 

 そして想像に難く無く。

 一人の体格の良い、荒くれと言った用心棒が。彷徨っていた馬の影より飛び出し現れ、懐に入り込み、その得物の大剣を振り上げて襲い掛かって来た。

 

「べり゛ぁッ!?」

 

 しかし、その大剣が振り下ろされて届く事は無く。そして肉が打たれ何かが折れ砕ける音と同時に、おかしな悲鳴が上がる。

 見れば、その用心棒は吹っ飛び。その横面は拉げて首はあってはならない方向に曲がっている。

 そして辿り見れば。その元には腕を突き出し拳骨を放った姿の、侵須の様子が見えた。

 見えるがまま、侵須は拳骨一つで大柄の用心棒を屠って見せたのだ。

 

「このッ!」

 

 近場で別の荒んだ声が上がる。そこにはクロスボウを構える別の用心棒。攻撃を放った直後の侵須を無防備と見て狙ったのだろう、その用心棒は今まさに弓を放つ動きだ。

 

「――ビョッ!?」

 

 しかし、爆ぜるような音声が、クロスボウより矢が放たれるよりも早くに木霊。そして弓手の用心棒から、妙な悲鳴が上がる。

 弓手の用心棒の顔面には、大穴が開いていた。そして膝を着き、崩れ地面突っ伏し弓手は事切れる。

 また辿り見れば、そこには67式7.62mm小銃をまた突き出し構える侵須の姿。

 侵須は先の拳骨の挙動から流れるような素早い動きで、67式を繰り出してからの照準を完了。隙など無い事を示すように、弓手を仕留め屠って見せたのだ。

 またそれに長く注視する事は無く、侵須は前進の歩みを続けようとする。

 しかし、そこへそれを遮るように。ヌォ、と差す何か大きな影と気配があった。

 

「――おっと、そこまでだよ」

 

 そして頭上少し高くより聞こえる声。

 侵須が静かに見上げれば、そこには巨大な姿体があった。

 侵須の行く手を阻害しそこに在ったのは、一人のあまりに巨大な体躯の女の姿だ。

 顔こそ端正だが、その身長は2mを優に越えている。その女を主張しながらも屈強な体をレザーとアーマーの軽防具で包んでいる。

 そして一層目立つは、その黒光りする頭髪から生え覗く、同色の短い獣の耳。そして首回りを覆うフサフサの毛や、組んだ腕の先に見える、太く鋭い人のものではありえない爪も目を引く。

 女は、熊の獣人であった。

 また傭兵崩れで、議員のヘクムに雇われた一人だ。

 

「ちょっとは腕が立つみたいだけど……調子扱いてるみたいだねぇ――」

 

 侵須の行く前に立ちはだかったその熊の女獣人は、その端正な顔にしかしニヤニヤとした笑みを浮かべ、そんな声を降ろして来る。

 

「そんなヤツには――おしおきが必要だなッ!」

 

 そして次には、そんな威勢の良い言葉を発し上げると同時に。そのあまりに太い熊の腕を、拳を、侵須目掛けて振るい降ろした。

 その破壊力は、熊のそれそのもの。

 それを受け喰らえば。その身は拉げ、臓物を撒き散らして血に散らばる事は間逃れないであろう。

 その結末を確信しているのか、熊の女獣人の顔には、牙を剥いた獰猛な笑みが浮かんでいた。

 しかし。トス――と。

 何か気の抜ける様な、静かな音が上がったのはその時であった。

 

「――はぇ?」

 

 そして次に、熊の女獣人は酷く気の抜けた声を漏らしてしまった。

 見れば、無残な結末を迎えるはずの目の前の存在――侵須は、未だ涼しい顔でそこに立ち構えている。

 そして熊の女獣人の降り下ろした自慢の一撃は、しかし侵須に届いておらずなぜか途中で止まっている。

理由は簡単。その一撃は――侵須に〝受け止められて〟いたのだから。

 

「は――はァ……!?」

 

 一瞬後に状況を理解し、熊の女獣人は驚愕の声を上げた。

 熊の女獣人の降り下ろした渾身の一撃は。しかし侵須の翳した片手の、それもその指先の数本だけで、綿でも受け止めるかのように悠々と、その勢いを完全に殺されていたのだから。

 

「な……この――ッ!?」

 

 衝撃の光景から驚愕し、次には熊の女獣人のそれは激怒に代わり。熊の女獣人は一層腕に、拳に力を込めて、受け止める侵須を押し崩し破ろうとする。

 しかし、悠然と立つ侵須はビクともしない。

 どころか熊の女獣人の腕は、まるで万力に固定されたかのように。押せども引けども捻れども、少しも動かずに侵須の指から逃れる事が出来なかった。

 

「こ……んの……人間如きが……!――もッ!?」

 

 己をコケにされたまでのそれに、怒り吠える声を唸り上げようとした熊の女獣人。しかし直後、熊の女獣人のその顔面に、何かに覆い掴まる感触が走った。

 それはその通り。見ればそれまで捕まえられていた熊の女獣人の腕は易々と退けられ、そして侵須の肩腕は変わって熊の女獣人の顔面を鷲掴みにしていたのだ。

 

「ッ!?コイふっ……ふはけ――ッ!」

 

 屈辱的なまでのそれに熊の女獣人は憤慨。いよいよもって侵須を拉げ潰さんと、その両腕で侵須を捕まえ返そうとした。

 

「――!?――ぁ、あぎゃあぁぁぁぁッ!?」

 

 しかし――直後に熊の女獣人の、その獰猛な口からしかし絶叫が漏れた。

 それは己の顔面に走る圧力、痛みによる悲鳴。

 そう、侵須の手が、鷲掴みにした熊の女獣人の顔面を圧し始めたのだ。

 

「がぁぁっッ!?あぎッ、ぎぎゃぁぁッ!?」

 

 さらに熊の女獣人の巨体は。しかし侵須によって、その体格差を何でもない事と言うように、悠々とした動作で片手で持ち上げられ宙に浮かぶ。

 熊の女獣人は中でアワアワと藻掻きながらも。己を捕まえ鷲掴みにする侵須の片腕を、その太い両手で掴んで必死に引き剥がそうとする。しかし侵須の腕はそんなものではビクとも動かない。

 

「ぎぅっ……やめ゛っ……はな゛じっ、だすげっ……っ!?」

 

 ついに熊の女獣人は、慈悲を乞う言葉を漏らしだす。しかし侵須の腕はまるで容赦を見せない。

 

「――あ゛ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ――」

 

 熊の女獣人の口からは。最早女の、人語を介する者それとは思えぬ悲鳴が漏れ上がる。そして――

 

「――ぴゃ゜っ――」

 

 熊の女獣人の顔面頭部は――拉げ潰れた。

 まるで深海で圧された物体のように。

 頭骨は砕け、眼球は飛び出、歯はまた砕け飛び散り。獰猛さを醸しながらも端正であったそれは、見るも無残に砕け散った。

 

「……ぴょ゜っ……も゜っ……」

 

 半端に強靭なその生命力のせいで、即死出来なかった熊の女獣人は。その口だった箇所よりおかしな音を漏らし。捕まえる侵須の腕からぶら下がり、その巨体をビクリビクリと痙攣させている。

 

「――」

 

 そんな熊の女獣人を自身の手中に見つつ。しかし侵須の顔は、勝利に気を良くするでもなく、淡々とした様子だ。

 そして指を開き、熊の女獣人の顔面を解放。熊の女獣人の巨体は、グシャリと地面に落ちて崩れ、あらゆる体液を漏らし流して地面を汚し、己もその汚液に浸る。

 

「――」

 

 侵須はと言えば、自身の足元のそれを、また長く注視するでもなく。最早長くはないであろう、熊の女獣人の横たわる巨体を踏んで通り越え。歩み進む行動を再開。

 そして立ちはだかるもの全てを、退けて押し進み始めた。




「作者の頭はどどどどーなってんの?」なコーナーその1。

Q 多用途隊って結局のところ(なに)でどういう登場意図なの?(ぽよんぽよん)
A ただの作者の私隊にごつ、ぼっくんが考えた最強で最凶の組織にごつよ。(ぼよんぼよん)
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