―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》   作:えぴっくにごつ

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チャプター6:「歪に状況は動く」
6-1:「帰着から」


 月詠湖の国、月流州。個人所有領スティルエイト・フォートスティートからそれほど離れていない地点。

 開けた草原の中の轍を行く、日本国陸隊の車輛隊の隊列があった。

 三菱パジェロ、新型73式小型トラック、73式中型トラック、そして走行モードのGONG。その4輛からなるそれは、他でもない制刻等の乗る車列だ。

 

 愛平の町での戦いを終えた制刻等は、当初の予定道理、豊原基地のあるスティルエイト・フォートスティートへの帰還を目指し南下を再開。

 途中。紅の国に入り、54普通科連隊、第2中隊の現在駐屯する草風の村へと立ち寄り。指揮官の井神へここまでの状況報告と調整を行い、さらに行程を続行。

 そしてようやく月詠湖の国へと入り。目的地であるスティルエイト・フォートスティートへ到着しようとしていたのであった。

 

「――おん?」

 

 行程中のパジェロの助手席で、リラックスした様子で座っていた制刻。

 その制刻が、その耳に音を聞き留めたのはその時であった。

 

「どした?」

「ジェット音だ」

 

 運転席でハンドルを預かる敢日からの尋ねる声に、制刻は端的に答える。

 直後に明確に、そしてどんどん大きくなり届くその音――轟音は、確かにジェット機のエンジン音だ。

 そして直後。劈くまでの音と合わせて、パジェロの前方上空、フロントガラスの向こうの高高度に、青い空を背景にそれは姿を現した。

 尖り流れるまでの、大小いくつもの翼を生やした異質なシルエットの飛行物体。

 それは、航空隊の実験制空戦闘機。〝F--〟の姿に他ならなかった。

 

「ヒュゥ――マジで〝シリアル・ハイフン〟だぜ。すげぇのがまた飛ばされて来たな」

 

 F--の新たな転移飛来の報は、すでに制刻等の元へも届けられ周知されていた。

 その姿を上空に。敢日は口を鳴らし、そしてF--の世間での通称を口にしながら、感嘆のそれを示した。

 

「どんどんこの世界に飛ばされて来る。いよいよ、きな臭くなってきたな」

 

 一方の制刻は。その姿を上空に、さらなる騒ぎの予感を思い浮かべ、淡々とそんな言葉を零した。

 

 

「――ッ」

「――!」

 

 車列中の73式中型トラック。その荷台の座席上に座すは一人の青年男性と、強靭な体躯を持つ緑肌の者等。

 それは、愛平の町の生き残りであるサウセイ。

 そしてオークの一部族であるユーティースティーツ部族のオーク等。

 リーダー各のジューダを筆頭に。

 女オークのサウライナス。

 少し荒々しい面のあるデュラウェロ。

 方眼鏡(モノクル)が特徴の静かな雰囲気のロードランド。

 以上五名。

 隊側の要請もあり、制刻等に同行して豊原基地を訪れる事になったサウセイやジューダ等は。彼等の移送用に車列に加えられた中型トラックの車上の人であったのだが。

 今は皆、少しの驚きの様子で上空を飛び抜けた、F--の姿を視線で追いかけていた。

 

「町に飛んできたのと、また違うね……」

「何にせよ、とんでもないな」

 

 女オークのサウライナスや、方眼鏡のロードランドが最早呆れに近い様子で発し零す。

 

「――皆、もうすぐ到着だ」

 

 そんな彼等に、中型トラックのキャビン。開け放たれた運転席側の窓から声が上がり届く。

 声の主は、現在ハンドルを預かる策頼。

 彼の言葉通り、豊原基地、スティルエイト・フォートスティートまではもう少しであった――

 

 

 

 スティルエイト・フォートスティートの領地内。

 その一地帯に突如として出現した、飛行場施設――豊原基地。

 その豊原基地を一望できる小高い丘があった。

 そこに見え在るは、一輛の新型73式小型トラック。これは航空隊仕様のものであり、その傍には降車して立つ、会部三等空佐を筆頭とした数名の航空隊隊員の姿が在る。

 そしてその隣に並ぶように、三頭の馬が合った。

 一頭の芦毛と二頭の黒鹿毛の、計三頭。そのそれぞれに跨るは、このスティルエイト・フォートスティートの所有主である中年男性のバルズーク。そしてその息子娘である兄妹のディコシアとティだ。

 その会部やバルズーク等各々は、今はそれぞれの位置から上空を見上げている。そしてそれぞれの耳に届くは、遠くより響き来る轟音の片鱗。それは次第に大きくなり、そしてそれぞれの視線の向こうの大空に一つのシルエット――F--の機影が現れ見えた。

 現れたF--は視線の向こうで、異質なまでの機動でバンクして旋回行動に入る。そして豊原基地の滑走路へ着陸するための、シークエンスへと移行していく姿を見せた。

 

「――最征までも、こちらに飛ばされてきたか」

 

 そんな姿を見せるF--を上空に見上げつつ、会部は一言を零す。

 会部は姿を見せたF--を操るパイロット――最征の事を良く知っていた。なぜなら会部も最征と同じ、飛行開発実験団、豊原臨時隊を所属とする身であったから。そして最征は、会部にとっての直接の部下であったからだ。

 その最征までもが搭乗機であるF--と一緒に転移して扱いた事実に。驚き他諸々の感情から、思わず零された一言で会った。

 

「――バルズークさん、騒がしくなってしまい申し訳ありません」

 

 しかし会部はそこまでで気持ちを切り替え、隣で馬上に座すバルズークに謝罪の言葉をまず紡ぐ。

 豊原基地は、隊側の意図したものでないとは言え。バルズーク――スティルエイト家の所有する個人領に、勝手に居座ってしまっている状態だ。

 会部は現在。その所有主たるバルズーク等に、改めて基地を実際に見てもらいつつ。説明や詳細の調整を行っている所なのであった。

 

「ったく、面倒事を起こしてくれるなと言ったにのよ」

 

 それにバルズークは遠慮なく、仏頂面でそんなぼやく一言をまず零して寄こす。

 同時に、自らの跨る芦毛馬を宥める動きを見せる。バルズークの愛馬の芦毛の馬は、先から落ち着かない様子を見せていた。しかしそれは怯えたり動揺の様子では無い。どうにも飛来したF--を始めとする日本国隊の諸々に、面白がり興味を抱いているようであった。 

 先までも会部始め航空隊の隊員等や、小型トラックに。鼻先を寄せてあるいは突っ込み、興味深げな色を見せていた程だ。

 

「本当に、申し訳ありません。現在、対策を我々の方で考えている所です」

 

 バルズークのぼやきに重ねての謝罪を、そして現在対策を講じている旨を紡ぐ会部。

 

「はぁ、まぁ別にいい。どうせ持て余して放置してた土地だ、こうなった以上、無理に出ていけとは言わん」

 

 しかしバルズークは別に怒っている訳では無い様子で。そして次には、そんな旨の言葉を寄こして見せた。

 

「それは――願っても無い事ですが、よろしいのですか?」

「聞くに、お前さん等にもすぐにどうこう出来る問題じゃないんだろう?無理強いはせん」

 

 それに尋ねる言葉を返した会部に、バルズークは続けての言葉を紡ぐ。

 

「ただ、俺は面倒事は苦手だ。細かい所は、後はディコシアに言ってくれ」

 

 そしてしかし。バルズークは次には投げやりな様子で、横でまた愛馬に跨る息子のディコシアを顎でしゃくる。

 

「俺はもう帰らせてもらう――クルース、行くぞ」

 

 そしてそう告げると、バルズークは芦毛の愛馬をそう名で呼び。手綱を引く。

 しかしそれに対して、そのクルースは少し抗う色を見せた。それはまるで、「えー、もう行くのかよ。つまんねー」とでも駄々を捏ねるようなそれであった。

 しかし再び主であるバルズークに、促すようにやんわりと手綱を引かれ。クルースは渋々と言った様子でその身を反転させ、スティルエイト邸への帰路に就くべく、丘を駆け下りて行った。

 

「はぁ、まったく親父は」

 

 そんな我が父親の去る姿を見届け。詳細を丸投げされたディコシアは、呆れたように一言を零す。

 

「申し訳ありません、ディコシアさん」

 

 会部は今度は、ディコシアに対して先と同様に謝罪の言葉を紡ぐ。

 

「あぁ、謝らないで、俺達は別にいいんだ。むしろあなた方には先日は助けてもらった身だ」

 

 しかしディコシアに在っては、それに困り遠慮する様子でそう言葉を返す。

 

「聞くに――こちらの世界情勢の動きと、そこへあなた方の現れた事は、色々関係していそうとの事だしね。なんだか俺達にも、他人事ではなさそうだ」

 

 続け、昨今のこの異世界の世界情勢を顧みて。少し難しそうな色でそんな言葉を紡ぐディコシア。

 

「ご理解に感謝致します」

 

 それに会部は、今度は礼の言葉で答えた。

 

「――会部三佐。54普連の地上経路班が、もう近くまで戻って来ているとの事です。77普連からの連絡幹部と、例の介入した町の方々も一緒とのことです」

 

 そこへ。背後から航空隊隊員の言葉が来て掛けられる。振り向けば、隊員は小型トラック備え付けの無線機を片手間に取り扱っている。基地からの連絡を伝えた言葉であった。

 

「あぁ、戻って来たか」

 

 それに会部もそんな言葉を返す。

 54普連の地上経路班とは、すなわち制刻等の事だ。

 元は、この世界に点在する〝力〟の一つ、古代の剣を回収しに発出した制刻等が。紆余曲折、いくつかの面倒事へ介入した後に、ようやく豊原基地へと帰着したのだ。

 

「ん?ひょっとしてジユウやサクラが帰って来たんですか?」

 

 会部等の言葉を聞き留め、ディコシアが察し尋ねる言葉を掛ける。制刻等が豊原基地を離れている事は、ディコシア等も知っていた。

 

「えぇ。あぁ、彼等とはお二方の方が見知った間柄でしたね。もう、ご領地の近くまでも戻って来ているそうです」

 

 それに会部も回答を返す。

 

「私等は帰った彼等との連絡調整に、一度基地へ戻らせていただきますが。お二方はどうされますか?」

「せっかくだしジユウやサクラに会ってこうよ兄貴」

「だな。アイベさん、俺達も少しそちらにお邪魔させてもらいたいです」

 

 そして続けての、伝え尋ねる会部の言葉。

 それにティとディコシアはそう算段の言葉を交わし。そして断り求める言葉を会部に紡いだ。

 

「分かりました。では一度、一緒に基地に戻りましょう」

 

 それを受けた会部はそう促す言葉を返すと、身を翻して、他の航空隊隊員等と小型トラックへと飛び乗った。

 そして会部等を乗せた小型トラックは、ディコシア等を先導するように発進。

 

「ジレイニー、行くぞ」

「ロイドル、行くよー」

 

 そしてディコシアは。騒がしい状況に少し怯えた様子を見せていた、黒鹿毛の愛馬に宥めるように紡ぎ。

 ティも。また同じく黒鹿毛の、静かに大人しく状況を見守っていた愛馬へ声を掛け。

 そして小型トラックを追いかけ続き。

 それぞれを乗せた一両と二頭は、豊原基地を目指して丘を降って行った。

 

 

 

 制刻等はそれから、無事に豊原基地へと到着帰着。

 車輛装備を軽く整えて返納し。

 制刻始め一同は、まずは現在の豊原基地での最高階位者である会部に各種報告を上げるべく。豊原基地の司令部庁舎を訪れていた。

 

「――おん」

 

 階段を上り、上階の会談前休憩室空間に出た一同。そこで制刻は複数の姿を見止め、声を零す。

 そこで待っていたのは、先んじてKV-107で基地へ帰着していた、河義に鳳藤、そして龍宮艶であった。

 

「制刻、策頼、戻ったか。直宇都二尉と敢日さんも、よくご無事で」

 

 その中から河義が。まずは先日一度別れてからの無事の再開を、歓迎する言葉を寄こした。

 

「えぇ、どうも」

 

 それに制刻は代表して、端的な言葉と雑把な敬礼動作で返す。

 

「三曹、報告すべきことが色々あるわ。手配しなければならない事も。こちらの最高階位者の三等空佐の方はどちらに?」

 

 続け直宇都が。これより取り掛からなければならない諸々に、少し気だるげな様子を見せつつ。まずは最高階位者たる会部の所在を尋ねる言葉を発する。

 

「今は、ここの領地の方との調整のために離れられてます。しかし無線連絡はしましたので、すぐに戻られると」

「親父さんに、ディコの兄ちゃんたちか」

 

 それに河義は解答を返し。それに上がった存在が示す所を、制刻が呟く。

 

「二尉、制刻。そちらが、連絡に在った例の町からの方々か?」

 

 そこへ今度は、河義が言葉を返す。

 制刻等の背後には、会話を見守っていたサウセイやジューダ等の姿が在った。

 

「えぇぇ。町の住民の生き残りおっちゃんと、オークの一族の兄ちゃんたちです。町でのゴタゴタじゃ、色々力を貸してくれた」

 

 それに合わせて制刻は背後を振り向き、そんな不躾な様子でサウセイやジューダ等を紹介する。

 

「皆さん、長旅お疲れ様です。この制刻の上官の河義と申します。合わせて、この制刻から失礼が色々あったでしょう事をお詫びします」

 

 河義はサウセイやジューダ等に向けて歓迎し労う言葉を。合わせて、決定事項だろうでも言うように、制刻の無礼を代わりに詫びる言葉を紡いだ。

 それに対してサウセイやジューダ等は、河義の苦労を早くも察した様子で。少し困った色を浮かべつつも、それぞれ河義に会釈を返した。

 

「こっちの長が来るまチトかかる。おっちゃんや兄ちゃんたちは、少し休んでくれ」

 

 そして当の制刻はまるで構わぬ様子で。河義の言葉に続けてそんな促す言葉を紡いだ。

 

 

 

 幹部、曹である直宇都と河義は各種必要な行動手配に掛かっていき。

 サウセイとジューダ等には、会部到着まで、会談前の休憩スペースで小休止取ってもらう流れとなった。

 今は策頼により、備え付けの自動販売機から各種飲料を提供され。サウセイやジューダ等は、疲れた体ながらも興味深い様子を見せている。

 そんな様子を端に見つつ。

 制刻、敢日、そして鳳藤と龍宮艶の。一種の因縁ある四名は、再び集い相対していた。

 

「ヨォ、チト久しぶりだな」

「ふん、別に会いたくは無かったがな」

「気が合うな、俺もだ」

 

 開口一番。制刻と鳳藤は皮肉気な言葉を交わし合う。

 

「お前がいない間は、快適だったよ」

 

 そしてその端麗な顔に、不敵で高慢気な表情を作り、そんな台詞を制刻にぶつける鳳藤。

 

「あぁ。鎧のねーちゃんを侍らせて、乳繰り合ってご満悦だったか?そいつぁ終わって残念だな」

「ッ……お前っ」

 

 しかし制刻もまた、その歪な顔に不気味な笑みを浮かべ。不敵に揶揄う言葉をぶつけ返す。

 それを受け、気分を害した内外顔を作る鳳藤。

 

「自由……!」

「剱様……!」

 

 そんな面倒臭いやり取りを見せる二人に、互いの相方である敢日と龍宮艶は。呆れながらも咎める言葉をそれぞれに飛ばす。

 しかしそんな面倒臭い相対から、ギスギスとした空気を振りまきつつも。両者は別れてからここまでの、互いの状況の情報交換を行った。

 

「――まったく。本当に行く先々で暴れて来るなお前は」

 

 情報交換からまた知れた制刻の暴れっぷりに、鳳藤はまた呆れた色の零す。

 

「そんくらい、マジで色々事欠かねぇからな。この世界は」

 

 それに制刻は淡々と答える。

 

「ハハハ」

「驚きです……」

 

 これにあっては、その隣で敢日はカラカラと笑っており。龍宮艶にあってはその凛とした目をしかし可愛らしく丸くしている。

 

「……しかし、いよいよもってこの世界は動乱の渦中にあるようだ。さらに色々起こりそうだ……」

「あぁ、そいつぁマジだな。色々、見込んどいた方がいい」

 

 しかし直後に。二人はこの異世界を取り巻く状況、そこから見える事件や騒ぎの気配を察し。それにあっては考えを同じくする言葉を発する。

 

「――所で、〝超保〟の件はなんか掴めたか?」

 

 しかし直後に。制刻は話題を切り替え、そんな名を出すと合わせて尋ねる言葉を鳳藤に向ける。

 

「……いや。それにあっては、本当に何も分かっていない……」

 

 それに鳳藤は。険しい、と言うよりも不気味そうに思っているような色で返す。

 それはこの異世界の動乱とはまた別件の、ある事態に関するもの。

 

 

 ――ある一名の隊員が。その行方を忽然と眩ませていたのだ。

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