―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》   作:えぴっくにごつ

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8-2:「迷い人の邦人、その帰する安寧の場所」

「――なんだかなぁ……」

 

 同じくスティルエイト・フォートスティートの領地内。さらにその内にある、航空隊 豊原基地の敷地内。

 施設建物の一つである、売店や食事所に休憩コーナーなどが入る厚生舎。

 その前の自販機と並び置かれたベンチに座る、一人の少女が力の無い声色で零した。

 

 一本の三つ編みに結った淡い金髪に飾られる、整いつつもモンゴドイロとは違うその顔立ちは、この異世界の民のもの。

 その正体は、異世界に迷い込んだ日本人である水戸美が救われ。そして一時的に身を寄せた勇者一行の、その勇者――ファニール・マイケンハイトだ。

 

「勇者様、何を気の抜けた色を……と言いたいが、同じ気持ちだよ」

 

 それに咎める色を見せかけ。しかしそれを取り下げ同意の言葉を紡いだのは、そのファニールの側に立つ美女。ファニールの護衛を務める騎士、クラライナ・アルティナシアだ。

 

 二人は水戸美の捜索回収作戦の際に、彼女と一緒に日本国隊に回収保護され。

 それから今日まで、豊原基地に一時的なものではあるが身を置いていた。

 

「!」

 

 そんな二人の耳が、次には何か異質な音を捉える。

 次にはそれは轟音へと変わり、そして直後には二人の上空を異質な飛行体――T-4練習機が劈く音を立てて飛び抜けて行った。

 

「ニホンコク、そしてニホンコクタイ――ミトミさんの故郷、そしてその軍隊……」

「彼らは軍では無いと言っていたが……細事だな。どこまでも、とてつもない……」

 

 日本国隊と彼女たちが邂逅して以来、彼女たちは驚かされっぱなしであった。そして今や二人の様相は、驚くのも億劫だと言うそれだ。

 

「極めつけには……」

 

 そこでファニールはベンチに預けていた半身を起こし、自身の膝元を見る。そこに置かれていたのは、刀身2mは越えようかという大剣。

 それは先日に自由等が打ち捨てられた遺跡より見つけ、回収して来たもの。そしてそれこそが、ファニールたちが探し求めていた――〝力〟。

 この世界の各地に散らばり存在する、魔王を打ち倒す程の力を有するとされる、古代の武器や装備・法具のその一つであった。

 

 本来は見つけ出し、手にするために多大な労と試練を有するはずのそれ。

 しかし日本国隊は、正確には自由等は。ファニールたちに代わってそれを見つけ出し、そして対価の一切も求めずに渡して見せたのだ。

 おまけに空飛ぶカラクリの力でたった半日で行って帰って来て、その様相はまるでちょっとした所用でも済ませるかの様であった。

 

「……」

 

 そのことを思い返して。複雑な、なんとも言えない感情を浮かべながら。その届けられた膝元の大剣に手を置くファニール。

 そして感じるは、確かでそして大きな力――魔力。

 大剣は、ただの古びた大きなだけの剣では無い。その内には強大な、そして錬成された魔力が込められ宿っていた。

 そして無論、その古びた見た目に反して。剣そのものの鍛えられた方も相当な業物のそれであることが、見るものが見れば分かった。

 

 〝魔〟を討つに届き得る〝力〟。

 しかし同時に、この大剣をものとするには相当の修練が必要となるであろう。

 

「……ボクたちも、強くならなきゃ」

 

 その力を前に。そしてここまで目にしてきた強大過ぎる力の数々を思い返し。

 ファニールは己がまだまだ未熟な身である事を痛感し。少し憂鬱さを含む声色で、しかし同時に確かに意思を固める一言を漏らした。

 

「……っ!」

 

 直後。そんなファニールの心情に、しかし無粋に割り入る様に歪な唸り声のような音が聞こえ来た。

 向こう。隣接する基地食堂に備わる駐車場に、ニホンコクタイの用いる、馬も無しに動く荷車――煩雑な業務に用いられる、一台のOD塗装の軽トラックが走ってきて駐車する姿が見えた。

 

「あ」

 

 その軽トラックに乗る者の姿に気づき、ファニールは声を零した。

 荷台に船頭のごとき立ち姿で乗って巨体を見せていて、次には飛び降りる様子を見せたのは、他でもない多気投。

 合わせて運転席と助手席から降りて来るのは、竹泉とそして水戸美であった。

 

「ミトミさんたちだよ」

「遅めの昼食だろう。こちらに来てから、何かに没頭している様子だからな」

 

 ファニールが声を上げ、そしてクラライナは推察の言葉を零し。

 二人は当然と言うようにベンチを立ち、離れ。その竹泉や水戸美たちの方へと歩み向かう。

 

 

「時間過ぎちゃってませんか?」

「お二人さんのために、締めんのをチト待ってもらってんだァ」

「別にそこまでしてくれんでも良かったんだがヨォ」

 

 駐車した軽トラックより、三人はそれぞれの言葉を上げて交わしつつ降り立つ。

 厳密には竹泉と水戸美にあってはやや緩慢気味に。そこからやはり二人には疲労の蓄積が見え、多気投が言うように強引にでもの休憩が必要そうであった。

 

「ミトミさんっ」

 

 そんな所へ、水戸美を呼ぶ声が響く。それは良く聞き知った少女のものであり、水戸美が声を辿り振り向けば、そこにこちらへ歩み寄って来るファニールとクラライナの姿が見えた。

 

「あっ、ファニールさん、クラライナさんっ」

 

 見えた二人の姿に。水戸美は軽トラックの揺れに誘われ浮かべていた、眠気の見える顔をしかし笑顔に変えて、二人を迎え歩み寄る。

 

「おはようございます~……ふぁぁ」

 

 そして駆け寄り二人と相対すると、水戸美はそんな時間に合わない挨拶をし。合わせて小さく欠伸を零した。

 

「も、もうお昼だよ……?」

「だ、大丈夫なのかい……?大分疲れているように見えるぞ……?」

 

 そんな水戸美の寄越した挨拶に二人は少し戸惑つつ、自分たちより身長の高い水戸美を見上げ。そして水戸美の様子から状態を察し、案ずる声を掛ける。

 

「あはは……ごめんなさい。朝から作業に没頭しちゃって……」

 

 それにまた小さな欠伸交じりの言葉で返す水戸美。

 

「ラストナァイトからのまーちがいだろォ?」

「うわぁっ」

 

 そんな所へ背後傍より、多気投がズイっと現れてそんな台詞を発した。

 現れた自分等よりも破格なまでに大きな巨体の存在に、ファニールは思わず驚きの一声を零す。

 

「水戸美っちんはほぼ徹夜してんだァ。んだから俺様ストップ掛けて、これからムリクリにでもランチからシエスタコースにランディングしてもらんだずェ」

 

 独特の言葉遣いに少しの呆れの色を混ぜて、多気投はファニールたちに説明。

 

「そ、そうなんだ……」

 

 説明に、ファニールはまだ戸惑う色で声を零し返す。

 

「あはは……なんか夢中になると寝るのとか忘れちゃうんですよねー」

「ほぉっとくと二徹三徹平気でするクレイジーだぁ」

 

 それに当人の水戸美は、また徹夜明けのホワホワした様子で他人事のようにそんな言葉を零し。多機投はまた補足の言葉を紡ぐ。

 それを聞いたファニールとクラライナは、漫画的表現が在るならば後頭部に困り汗を浮かべそうな様相で。水戸美を心配半分呆れ半分の色で見つめた。

 

「ヨォ、食堂のクローズを待ってもらってんじゃねぇのかよッ?」

 

 そこへ、背後より竹泉の呼びかけの言葉が掛けられ聞こえた。

 その様子には、どうにも作業を中断して強引に連れてこられた昼食に、さらに今の四人の会話で足止めを食らっている事を不服としてる色が、隠そうともせずに見えた。

 

「焦れんな竹しゃぁんっ、レストタイムだっつってんのに急いてどーするよォ?」

 

 そんな竹泉に、多気投はまた呆れ半分揶揄い半分の声を飛ばす。

 

「あァ、そうだぁ。ねーちんたちも良けりゃぁ一緒するかい?そっちは飯は済んじまっただろうが、茶ぁしばきながらのガールズトークもあるんじゃねぇか?水戸美っちんのレストに力貸して欲しいずェ」

 

 そして視線を戻し、多気投はファニールたちに向けて。そんな願い入れと合わせての提案の言葉を紡ぐ。

 

「あー、いいですね。またお二人とお話したいかもー」

 

 そしてまたイケメン顔でホワホワと、同意の言葉を紡ぐ水戸美。

 

「あ、うんそうだね。ちょっとバタバタしててミトミさんとお話する時間無かったし」

「丁度いい、同席させてもらおう」

 

 それにはファニールたちも特段断る理由も無く、喜ばしい提案であり。それを受け入れる。

 

「んじゃ、いこうずェ」

 

 話が同意の方向で纏まると、多気投の言葉に合わせて多気投と水戸美は先んじて身を翻し、食堂の方向へと向かっていく。

 

「グズグズおしゃべりなんぞしてんなよ、こっちゃ時間はフルに作業に当ててェってのによッ」

 

 そんな二人の歩んだ向こうで、合流した竹泉が開口一番に不服の声を上げる。

 

「そのノンブレーキのワーク中毒をジャストモーメントだっ言ってんだずェ、竹しゃぁんッ」

「あはは、もうこうなったらここは一休憩と行きましょうよ教授」

 

 それにしかし多気投は呆れ咎める言葉で返し。

 水戸美はそんな竹泉を、〝教授〟という肩書を付けて呼ぶ。

 パラレルワールドの日本の住民である水戸美。どうにも彼女の世界にはまた別の〝竹泉〟が存在するらしく。そこで竹泉は教授の位、職位であり、水戸美はその教え子なのだと言う。

 

「だぁーからッ、その教授はよせ言うたろ?おたく知るのそっちの世界の竹泉教授とやらは、俺と相似した存在なのかもしんねぇが俺自身じゃねェッ!」

 

 そんな水戸美からの呼ばれ方に、しかし竹泉はウンザリした様子で荒げた声を返す。

 

「えー?でもこちらの竹泉さんも、なんかすっごく教授ってカンジがしちゃって」

「水戸美っちんがやりやすい配慮を、って言われてるだろォ。受け入れてやんなぁ、竹しゃん教授?」

 

 しかし竹泉のトゲトゲした言い分にも、水戸美は慣れた様子といったようにホワホワした笑顔で返し。

 それに乗っかる様に、多気投も揶揄う言葉を向ける。

 

「――ハァ、カンベンしてくれッ」

 

 二人のそれを受け、竹泉は疲れ億劫になったように、視線を上げて吐き捨てた。

 

 

「……なんだか、少し訝しんでしまうな」

 

 そんな三名のやりとりを、背後より見ていたファニールとクラライナだったが。

 内のクラライナが少し難しい色で言葉を漏らしたのはその時。

 

「彼らはただでさえ異様な上に、何か素行にも一癖ありそうだ。あの彼等に、水戸美さんを預け任せて大丈夫なのか……?」

 

 続けてその懸念する所の詳細を口にするクラライナ。

 

 水戸美の国の軍に類する組織だと言い、そして水戸美の身柄を保護回収しに来たという彼等。

 しかし今現在、水戸美と一緒にいるのは。素行の悪そうで陰険そうな男に、あまりに凄まじい巨体風貌をした男。

 そんな者等に、ここまで護って来た水戸美の身を任せていいのか。そんな疑念からの言葉であった。

 

「いや、ボクも最初はそう思ったよ……でもさっ」

 

 しかし勇者の少女ファニールは、そんなクラライナに説いて促すように言葉を掛け、視線を誘導する。

 

「ミトミさん。彼等と一緒になってから、すごく安心した顔してる」

 

 ファニールたちが向こうに見たのは。

 水戸美が、凄まじい巨体風貌の多気投と一緒に笑い。陰険で皮肉な態度を崩さない竹泉を、しかし遠慮なしに揶揄うやり取りの様子。

 それは深く気心を知れた者同士の形。

 その水戸美の顔に見えるのは、ファニールたちの行動を共にしていた時の、どこか不安を払拭し切れない色と異なる。

 心の底から安心し切っている、柔らかな笑顔であった。

 

「……はぁっ、確かに。あの笑顔は、彼等と水戸美さんがとても近しい間柄にある、何よりの明かしか」

 

 促され見えたそれに。クラライナも少し難しい、言ってしまえば嫉妬心のようなものを覚えつつも。

 同時に納得せざるを得ずに、そう微かな溜息交じりの言葉を零した。

 

「ファニールさん?クラライナさん?」

「ねーちんたち、どぉーかしたかァ?」

 

 そこへ、水戸美や多気投からの呼びかけの声が飛ぶ。

 

「あぁゴメンっ」

「今向かうっ」

 

 その呼びかけに答え。二人も意識を取り直して、三人の後を追い歩んだ。

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