―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を掻き回す重金奏《激突の編》 作:えぴっくにごつ
場所は同じく豊原基地内、その飛行場施設側。
飛行場の主たる設備である滑走路が伸び、誘導路やエプロン区画を伴う広く開けた空間のその一番端。
その一点には、航空隊基地のそれに反した異質な光景がある。
そこに見えるは巨大な鷹か鷲のような姿の、しかしそれにしてはあまりに大きい生き物。この異世界でグルフィと呼ばれる鳥形の飛翔生物達。
内の一体は20m級の大型、取り巻き止まる数体は3~4m級。
そしてその背や足元周りには、それに乗りあるいは操っていた騎手である異世界の人々の。しかし困惑する姿があった。
その人々こそ、今先に飛来帰還したT-4やF—が。偵察先で襲撃の場に介入し救い、そして誘導から連れて来た人々であった。
「――……」
20m級のグルフィの下げていた品の良い作りのゴンドラ。
その扉より丁度降りて来て、飛行場施設の舗装された地面に足を着け。見える全てに戸惑う様子を見せる、美麗な14~5歳程の人物がある。
それこそ、生まれの地より逃がされ。航空隊機に救われる事となった侯爵の子、シュクエだ。
自らの命で、救われ導びかれるがままに驚異の存在――航空隊機について行くことを決めたシュクエ。しかし、その先に待っていたのはさらなる驚きと、理解に悩む光景の数々であった。
シュクエ達一行が導かれた地上の一角に、それぞれのグルフィが足を着けるや否や。待ち構えていたのか姿を魅せて近づいて来たのは、いくつもの馬も陸竜も無く勝手に走って来る荷車や馬車のようなものの数々。
――航空隊保有の小型トラックやカーゴに、業務用軽トラ。そして消防小隊のポンプ車に、衛生隊のアンビ(救急車)などなでであった。
己達を囲うように集って来た正体不明のそれらに、シュクエは思わず身構える。
「シュクエ様っ」
「……!」
そこへ、シュクエと共にあり。シュクエを庇う様に立っていた女執事から耳打ちがあった。
見れば、一番近くに止まった妙な荷車――業務用軽トラから、二人の程の人――航空隊隊員が近づいてくる姿が見えた。
一度は救われたとはいえ、得体の知れぬ存在。次に何をしてくるかは分からない。
その可能性に、シュクエは身を固くし。また伴っていた長身の侍女がシュクエの肩を抱き庇い、女執事は毅然とした様相でシュクエの前に立ち庇い、近づく者等を警戒する。
「――皆さん、お怪我の有る方は居ますかッ?」
しかしシュクエ達の前に立った、異質な斑模様――いや良く見れば、無数の小さな四角で描かれた不思議な服装の男が。
開口一番に発したのは、真剣な様相でのしかしそんな言葉であった。
シュクエ達の前に歩み近づいた人物――第14航空団の団准先たる准空尉が。相対すると同時にシュクエ達に掛けたのは、まずは何よりの安否・人身の有無の確認の言葉であった。
豊原基地には、シュクエ達が襲撃を受ける真っただ中にあった事はすでに通知されており。基地ではまずは怪我人の可能性を鑑み、受け入れ態勢を整え、その到着を待っていたのだ。
合わせて。その際に必然的に発生するファーストコンタクトの代表を任されたのが、人手不足の中で丁度少しだけ手の空いた団准先であった。
「……我々に、か?」
それにまず聞き返したのは女執事。
まず真っ先に聞かれる事がそれとは流石に思っていなかったのか。警戒を保ちつつもそこには少し面食らった色が見える。
そしてそれは背後のシュクエと、それを庇う侍女も同じであった。
「はい、皆さんは襲われている最中にあったと知らせを受けています。まずはその確認、お怪我の有る方が居るならば手当てを」
それを団准先は肯定。合わせて説明の言葉をまた続け紡ぐ。
「……護衛騎のほうに軽く怪我をした兵は居るだろうが。道中を共にした者は、幸い皆無事だ……」
それに、まだ真意を測りかねている様子ながらも。女執事は正直な所を回答。
「分かりました、ではそちらの方々の手当てが必要ですね――」
その解答を受け取った団准先は、女執事にまた返し。
「あの小さい方の鷹に乗る人達に、軽傷者だそうです。頼めますか?」
「了解」
直後。そこへ丁度追いつき駆け寄って来た衛生隊空曹に、詳細と要請を伝える。
それが周りにも伝えられ、衛生隊隊員を主として各隊員は救護に当たるべく駆けて行き。それを追いアンビやカーゴも回り向かって行く。
「あ、あの……!」
そんな光景が始められた所へ。次に、団准先に飛んだのは透る声での呼びかけの言葉。
見ればシュクエが、己の肩を抱き止める侍女の手を解くまでの姿で、一歩前に出て存在を主張する様相が見えた。
「はい?」
「あの……貴方様があの異質な空の鏃等の主、総大将様なのでしょうか……?私は、霧羽侯爵領の侯爵が子、シュクエと申します!処遇……私共に、いかなる事をお求めでしょう……!?」
そしてシュクエが続けたのは、そんな言葉。まずは毅然と名乗り、己達の処遇を聞き尋ねるもの。
向こうに見える誘導路をタキシング中のT-4をまず視線で示し、それから団准先に視線を向ける。
そのシュクエは毅然とした色をその顔に作ってはいるが、それが虚勢である様子は傍から見れば痛く苦しいまでに明らかであった。
「あっ。あぁ――」
そこで団准先は再認識する。考えていないでは無かったが、それ以上に自分等が警戒され、不安がられている事に。
「申し訳ありません、皆さんのご不安を解くことが先でしたね」
そして団准先は次にはそう返すと、自然と険しくなってしまっていた表情を意識して解き。その人の良さそうな風貌に似あう朗らかな笑みを作り、居住まいを正して改めて相対。
「初めまして、我々は日本国航空隊です。ご安心を、皆さんに危害を加えるものではありません。そして我々には、皆さんをお助けさせていただく意志と、態勢があります」
そして、まずは自分等の身分・組織を名乗り。そしてこちら側の行動意志を紡ぎ説明して見せた。
「ニホン……コク?」
「私たちを……助けると……?」
紡がれ伝えられた言葉。
そこにあった聞き慣れぬ国名を、シュクエは戸惑いつつ反芻。
そのシュクエの間にまた庇う様に立ち直した女執事が。しかし同じく戸惑いをみせつつ、再確認する言葉を寄越す。
「疑問、疑念、心配は多々ある事とお察しします、それらにあっても順にお話させていただきます。難しい事とは思いますが――」
それに、団准先は相手方の心情を汲み取りつつの説明の言葉をまた紡ぎ。
「皆様が不安になられる事はありません」
最後に、少し真剣な様相表情で。確たる約束するようにそう一言を紡いだ。
「あの、総大将さま……ですか?それは真に……?」
それに、その団准先に。恐る恐るの様子でまた尋ねるシュクエ。
「お約束します――あ、っと。すみません、ご無礼ながら私はここの最高階級者では無いのです、あくまで不在を代行している先任者に過ぎません」
シュクエの言葉に、団准先はまずは約束の旨を確かな言葉で回答。
しかし合わせて、誤解を修正。自分が最高階級者で無いことを謝罪し告げる。
「――あらぁ、ご謙遜をぉ。基地司令も軽んじられない団准先殿でしょおぅ?」
しかし、そんな直後。
何か艶めかしい声色が、しかし大分低めの声で横から響いた。
「!」
それに、シュクエや執事に侍女の視線が引かれる。
声の主は、団准先に同伴していた一人の航空隊隊員からであった。
他の航空隊隊員と同じく航空隊仕様のデジタル迷彩作業服を纏うは、180cm後半はある長身の男性隊員。
その体は筋肉を逞しく蓄えるが、しかし同時にスマートさを感じさせる。その顔立ちも堀が深くも尖るそれ。
肩袖には一等空士の階級章が見える。
「攻他(こうほか)君、おおげさだよ」
「あら、ゴメンナサイっ。団准先はこういうパフォーマンスはお好みで無かったかしらぁ」
団准先に攻他と呼ばれ、合わせて少し困ったように注意を受けたその一等空士は。
しかし、悪びれない様子で。その強靭ながらも尖るスマートな風貌に反した、艶めかしい口調で笑い返す。
しかし実際、攻他の今言葉の通り。
団准先は基地の主要上級幹部の集まりなどに、末席ながらも准曹士としては唯一列席し。幹部もその存在に発言をないがしろにはできない、大事な人物ではあるのが事実だ。
合わせてそれを示した攻他にあっては、司令部要員の総務員であり。
転移に伴い、ほとんどすっからかんとなってしまっていた14空団司令部で。団准先と一緒にたった二人残っていた隊員であった。
今は指揮系列を簡略化し、本来は間接の上官たる団准先に直接付いている身だ。
そして何より、ここまで見ての通りその性格は〝オネェ〟であった。
「あの……」
そのインパクトのある攻他の存在感の主張に。少し面食らっていたシュクエ達だが、その内よりシュクエが再び声を掛ける。
「あぁ、失礼を。ともかく難しくはあると思いますが、皆さんにはご安心いただきたく思います」
それに、団准先は少し反れてしまった話を戻し。改めて、シュクエ達に伝え促す言葉を向けた。
「!……それは、ホントに……――ぁぅっ」
そこで団准先の言葉に偽りや欺く色が無い事を悟ったシュクエは、次に言葉を紡ごうとしたが。
しかし次にはクラと体勢を崩し、倒れかけてしまった。
「シュクエ様!」
慌て、女執事や侍女がそれを支え受け止める。
「!」
「あらあらっ!大丈夫ぅっ?」
その様子に団准先も少し目を剥き。見かねた攻他が駆け出て手を貸すべく近寄る。
侍女がシュクエのその体を支え、女執事は方膝立ちになって己の片膝を差し出し、椅子代わりとしてシュクエをそこに座らせる。
「ご……ご粗相を晒しました。申し訳ありません……っ」
侍女と女執事に支えられながら、シュクエは毅然とした態度を取り繕い直そうとしつつ、謝罪の言葉を寄越す。
しかしその顔色は目に見えて青く、疲弊が見える。
おそらくここまで張っていた緊張の糸が切れてしまったのだろう。心身ともに限界であったようだ。
「あららぁ、相当気を張っていたのねぇ。怖い状況だったって言うのは聞いてるわぁ」
そんなシュクエの前に、攻他はしゃがんで視線を合わせ。その尖る顔立ちにしかし柔らかな笑みを浮かべ、言葉を掛ける。
「よく頑張ったわぁ。カワイク見えても、立派な〝男の子〟ねぇっ」
そして次に紡いだ励まし評する言葉と合わせて。攻他発したのはそんなワードであった。
「……ひぇ?」
「「!」」
その言葉に、可愛らしくも素っ頓狂な声を上げたのはシュクエ。
そして寄り添う女執事や侍女も、少し目を剥く。
「えっ?男の子?」
そして微かな驚きの声は、背後から歩んで来ていた団准先からも上がった。
「あ、あの……ボクが男であるとお分かりに……?」
そして、次にシュクエから返されたのは。そのワードに対する肯定を含めての、尋ね返す言葉であった。
シュクエは、その中性的な顔立ちに。さらにはロールを作り飾ったセミロングの金髪。
それに彼の通う学園では男女共用であった、どちらの性でも似合うよう作られた制服。
それらから一見は美少女と見まがえる風貌であったが、明かせばその性別は男子であった。
この形は。彼の親や、何より今に使える侍女や女執事の、趣味からの勧めであるところが実はあり。そして本人もそこに抵抗は無く、美麗に飾ることを楽しい事と受け入れており。
その関係からシュクエは、初見で美少女と判別されることがほぼ当たり前であった。
「あら、分かるわよぉっ。すっごくカワイイけどぉ、脚とか体つきとか男の子のそれだものぉ――あっ。ごっめん!言ったらダメだった?嫌だったかしらぁ?」
驚くシュクエや周りに、からからと笑い判別は容易い事と言ってのける攻他。しかし次にはそれがまずい発言だったかと思い当たり、少し急いて謝罪の言葉を紡ぐ。
「い、いえっ!いいのです!別に隠してることではありませんっ!……ただ、初見でボクを男と判別できる方は、多くはありませんので少し驚いてしまいまして……」
シュクエは美少女のように飾ることを好んでいるが。かといって別に自分が男性性であるというアイデンティティを、忌諱し拒んでいるという訳で無かった。
男子と見抜かれた事も、別に問題がある訳では無く。シュクエの側も慌て弁解の言葉を紡ぐ。
「ホッ、よかったわぁ」
それを受け。攻他は安堵の効果音を口に出して、また顔を朗らかなものに変える。
「話がずれちゃったわねェ。聞くにキミは、護られながらも毅然と有り、上に立つ者として皆を率いて来たのね――」
それから話を戻し、そんな言葉を紡ぐ攻他。
「立派よ、よくがんばったわ」
そして攻他は、シュクエが己の膝上で握りしめていた拳に。彼らのここまでの行程を称える意味で、自分のゴツい拳をこつんとぶつけた。
「あ……ありがとうございますっ」
攻他という人物のインパクトから、シュクエは少し流れを持っていかれつつも。
その称える言葉とムーブを受け、シュクエは礼の言葉を返した。
「攻他君」
「あらやだっ。ごめんなさい、少しでしゃばり過ぎましたわねぇ」
「いや、ありがとう」
その場へ、攻他に背後から団准先の声が掛かり。攻他はまた悪びれない様子で、自分の行いが出過ぎたものだったかと謝罪。
しかしそれが空気を解すのに一役買ったと見て、団准先は礼の言葉を向ける。
「シュクエさん、皆さん。改めて――」
そこから団准先は、各案内説明の言葉を再開。
シュクエ達一行は大分消耗している様子であり、何より軽傷とはいえ怪我人も居る。
彼らが知りたい事項が山ほどあるであろうことは、嫌でも理解できるが。隊側としてはまずは手当を受け、休息を取ってもらいたい所であった。
隊側との対話、詳細の案内説明他は。落ち着いてそれからだ。
団准先からのその提案案内を、シュクエは受け入れ。
こうしてシュクエ一行は、日本国隊 航空隊、豊原基地に迎え入れられる運びとなった。
インパクトのあるオネェ隊員を登場させて、女装美少年と絡ませたかった。