担当ウマ娘に、恋をした。   作:宮川 宗介

1 / 23
※この小説は史実・アプリゲームのストーリー、フィクションを織り交ぜたIF作品となっています。

そのため対戦相手や出走レースが、史実及びアプリの育成イベントと異なる場合があります。

ご了承の上、お読みいただきますようお願いします。


第一話

担当ウマ娘に、恋をした。

 

最初は彼女の、あまりに頑なで融通の利かないライフスタイルとレースへの取り組み方が気になってしまい、いらぬ世話だと思いながらも、彼女にあれこれ口出ししてしまった。

 

実際小さな親切大きなお世話、と思われていたらしく、露骨に嫌な顔をされていた時期もある。

 

でも縁あって彼女の専属トレーナーになり、愚直すぎるほど真剣にトレーニングに取り組む彼女を見ているうちに、レースに対するその熱量と能力にますます惚れ込むようになった。

 

懸命に走る彼女は、美しかった。

 

俺は一人のトレーナーとして彼女の能力を最大限引き出し、トゥインクルで活躍させる。

 

それが俺の使命であり、彼女への願いはそれだけだった。

 

*

 

去年卒業した大学の近くにあるこの居酒屋はちょうど仕事終わりの時間ということもあり、けっこうな喧騒に包まれていた。

 

「で、それだけだったはずなのに、その担当するウマ娘を好きになってしまった、と」

 

ビールを飲みながら俺の相談を端的にまとめてしまった友人の言葉に、俺はうなだれるように首を縦に振るしかなかった。

 

彼は湯ノ崎 充(ゆのさき みつる)という名の、俺の中学時代からの悪友で、勉強もよくできて女の子にもよくモテることから、その頃から色々なシーンで相談を持ちかけることが多かった。

 

「俺はレース界隈のことは詳しくないんだけど、ウマ娘とトレーナーの恋愛ってどうなん?割とある感じ?」

 

まぁ、その辺り気になるよな……。

相談を持ちかけておいてそこを曖昧にするとまともなアドバイスが貰えなさそうなので、俺はためらいながら素直に話すことにする。

 

「そうだな……女子高生と若い先生の恋愛ってのが一番イメージ的には近いかな、と……」

「うわ、イテェ。それ、いろいろとイタすぎない?」

 

悪いヤツではないのだが、ちょっとばかり言い方がキツイ。

 

「ってことは、もし仮にそのウマ娘さんとうまく付き合えたとしても、バレたりしたら懲戒免職とかになるんじゃないの?」

「一般常識に照らし合わせると、そうなるかもなあ……」

 

俺の他人事のような返事に、充は顔をしかめる。

 

「あのさ、お前のトレセン学園への赴任が決まって俺がさ、『担当する娘を好きになったらどうするよ?』ってからかったとき、お前なんて言ったか覚えてる?『俺は彼女たちとレースという真剣勝負に向き合うためにトレーナーになったんだ。そんなことあるわけないだろ、いい加減にしろ』って怒りながら言ったんだぜ?その時のお前はどこに行ったんだよ」

 

さあ?どこかの山に修行にでも行ったんじゃないか。

 

相談を持ちかけたのは俺の方だったので、さすがにそんな冗談は喉の奥にしまい込んだ。

 

「あとちょっと気になってたんだけど、その娘、聞いてる感じだとかなり年下だよな?」

 

充の疑問ももっともだ。

だから俺はそれも正直に答えることにした。

 

「ああ、高等部だな」

「今年入ったばかりの?」

「いや、確か去年こっちに留学してきたって言ってたと思う」

「……1年ぐらいどーでもいいよ」

 

俺の返事を聞いて、彼は呆れたため息をつくばかりだ。

 

「お前の歴代彼女って同じ歳か年上の女(ひと)ばかりだったから、年下には興味ないのかと思ってたよ」

「そういうわけでもないんだけどな……」

 

俺が好きになったり、自分に好意を寄せてくれた女性がたまたまその年齢層だった、というだけで別に年で選りすぐってその女性たちと付き合っていたわけではない。

 

ただ、中学生の時ぐらいから【良く言えば大人びている、悪く言えば年寄り臭いヤツ】と言われることが多かったので、そういう俺の性格は影響しているのかもしれない。

 

「んで、その娘一体どんな娘なん?」

「ん、ああ。真面目でがんばり屋なんだけど、それが行き過ぎているときもあってさ。走ることだけじゃなくて何でもこなせるんだけど、そのくせ性格がとことん不器用というかなんというか……放っておけない感じの娘なんだよ」

「いや、件の彼女の内面の素晴らしさは何度も通話で聞いた。俺が気になってるのはビジュアルだよ。写真とかないの?」

「ああ、ちょっと待ってくれ」

 

俺はそう返事して尻ポケットからスマホを取り出すと、トレーニング中に撮影した(もちろん盗撮などではなく、走りのフォームを確認するために彼女の許可をもらって撮ったものだ)彼女の写真を表示させた。

 

そこには深い青に見えるほどの美しい黒髪を肩までのセミロングにした、スタイル抜群のウマ娘が写っている。

大きな瞳はぱっちりとした二重で、サファイアのようにきらめく青い瞳が印象的な美少女。

 

彼女の名前はエイシンフラッシュと言って、ひょんなことから俺が担当することになったウマ娘だ。

 

「……思ったより大人びてて、キレイな娘だな。びっくりした」

「だろ?」

 

写真に映る彼女は別に自分の恋人でもなんでもないのに、俺はなぜか得意げになってしまった。

 

「ひょっとして、一目惚れだったのか?」

「うーん……」

 

好きな人をいつ好きになったのか。

 

それを自覚できる人もいるんだろうけど、俺はそういうタイプではなく、何度も接するうちにいつの間にかその人のことが気になってしまっている、というタイプである。

 

今までの恋愛がそんな感じだったから、一目惚れという経験は一度もない。

ただ、フラッシュを初めて見かけたのは彼女がトレーニングしている最中で、その走り込む姿に見惚れてしまったのは事実である。

そういった意味では……。

 

「そうだったのかもな」

「ふーん。それだったらさ」

 

ヤツは俺がチューハイを口に含んだのを確認してから、とんでもないことをいい出した。

 

「それって単なる性欲じゃね?」

「!!」

 

俺は思わず、口の中にあったチューハイをヤツのスーツに吹きかけそうになった。

いやいっそ、つまらないことをいい始めたこいつに、思い切り酒を吹きかけてやっても良かったのかもしれない。

 

「げほっげほっ……お前なぁ、なんてこというんだよ……!」

「いや、心理学的には一目惚れってそう言われてるし」

 

……心理学科卒で公認心理師のお前さんにそれ言われたらシャレにならないんだが?

 

「もしそうだったんなら、しばらくしたらその恋心とやらも収まるだろ。だいたいお前、年下のウマ娘と禁断の恋をしたくてトレーナーになったのか?」

 

それを言われると、こちらとしても立つ瀬がない。

でも、ヤツのその手厳しい尋問に弁明ぐらいはしておくべきだろう。

 

「いや、それは違う。俺はレースに魅せられて、そのレースに人生を懸けて走っているウマ娘たちを支えたくて、トレーナーになったんだ」

「そうだろ?その夢を叶えるために、学力的にも金銭的にもメチャクチャ苦労したんじゃないのか。それに、その進路のせいで親御さんともうまくいってないんだろ?」

「……まあな……」

 

充の言い分は厳しかったが、俺はそれを聞きたかったのかもしれない。

できれば、フラッシュをあきらめてしまうために。

 

「……いや、すまん。言い過ぎた。そうだ。そのウマ娘さんがまだ【気になっている】ってレベルなんだったら、彼女を作ってしまえいばいいじゃないか。な、そのフラッシュさんのことは、気の迷いだったってことにしとけ。そういや近々、趣味のサークルで知り合った人同士での飲み会に、女の子も来るからさ……」

 

ヤツの提案は魅力的で、現状では最善の手法だったはずだが、なぜか俺はそれに首を縦に振る気になれなかった。

 

 

 

早朝のトレーナー室。

トレーナーの朝は早い。

ウマ娘の朝練は6時からなので、トレーナーはだいたい5時には学園に出勤している。

俺は学園内の職員寮に住んでいるとはいえ、4時半には起きて準備しなければならないので、ついこの間まで気楽な大学生だった身からすると結構きつい。

 

曲がりなりにも就職してお給料をもらって初めてオヤジの偉大さがわかった気がしたし、一人暮らしを始めて身の回りのことを全部自分でやり始めてから、母さんのありがたさが身にしみた。

 

……そのオヤジとは初給料で食事を誘ったら断られるぐらい、今はちょっとギクシャクしてるけど。

 

それはともかくとして、確かに早起きは辛いが、俺が準備して組み立てる日々のトレーニングメニューに担当するウマ娘の人生が懸かっているのだ、と思うとそんな弱音もどこかに吹き飛んでいく。

 

担当するウマ娘――フラッシュは――、俺に人生を預けてくれているのだ。

朝が早いのが辛いぐらいでトレーナーが弱音を吐いていては、彼女も安心してトレーニングに励むことはできないだろう。

 

大学の入学時に大枚を叩いて買ったトレーナー教本(医学書と変わらない値段を見た時は文字通り目が飛び出た)を参考に、今のフラッシュの状態を考慮してトレーニングメニューを練る。

 

トレーニングメニューを考える時、一番役に立つのは大学4年の間に【トレーナー助手】としてトレセン学園や地方のトレセン学校に実地研修で派遣された経験だ。

 

大学のウマ娘トレーナー科には1年生の時からこの実地研修が授業の一環に組み込まれていて、一定数単位を取らないと、そもそもトレーナー試験すら受験できないようになっている。

 

いろいろな先輩トレーナーが、いろいろなやり方や考え方を教えてくれた。

その中でも、あるベテラントレーナーの一言が、俺の脳裏に焼き付いている。

 

『トレーナーもウマ娘も、しょせん人間だから感情に流されるのは仕方ない。ただ、それに流されていいときとそうでないときの見極めだけはしっかりするんだ』

 

そう教えてくれた彼からは技術面なことだけでなく、トレーナーとしても心構えもたくさん学ばせてもらった。

……どうせなら、担当ウマ娘を好きになってしまったときも対処法も聞いておけばよかった、と今になって少しばかり後悔している。

 

*

 

ストップウォッチ片手にダートバ場のスタート地点でフラッシュを待っていると、寮の方から彼女が小走りでこちらに向かってくるのが見えた。

 

「おはようございます、トレーナーさん」

 

6時きっかりに、ジャージ姿のフラッシュがそこに現れた。

いけないと思いつつも、彼女の顔を見て少し嬉しくなってしまう気持ちを抑えきれなかった。

 

「おはよう、体調の方は?」

 

その気持ちを押し殺して、俺はフラッシュに朝の挨拶を返す。

……今は自分の気持ちを完全に隠せているつもりだけど、いつまで隠し通せるのだろう……。

 

「はい、絶好調です。どんなトレーニングでもこなせます」

 

笑顔でそういうフラッシュの声を聞きながら、俺はなんとか意識をトレーナーとしての本分に戻した。

 

顔色を観察する限り、たしかに体調は良さそうで一安心だ。

彼女はストイックではあるが、疲れているときにはそれをちゃんと伝えてくれるので、そういうところは本当に助かっている。

 

本当は厳しい体調なのに、大丈夫と言われてリスクの高いトレーニングをしてしまうことは絶対に避けたい。

また、それを避けるために担当しているウマ娘とはトレーナーである自分に、本音を言いやすい良好な関係を作っておく必要がある。

 

トレーナーが無駄にウマ娘と馴れ合うのもよくないが、威圧感を与えて本当のことを言いにくくさせるような関係も決して良くないのは自明の理だ。

 

「じゃあ今朝はダートを2本しっかり走り込んで、あとはトレーニングルームで軽く筋トレをしよう。放課後からのトレーニングは、また改めて伝えるよ」

「はい、お願いします」

 

全幅の信頼を預けてくれているフラッシュの返事に、俺はすっかり嬉しくなった。

 

担当ウマ娘を好きになる、ということはトレーナーにとって褒められたことではない。

でも、その思いを、気持ちを、彼女のレース人生のために使いたいと考えることは、悪いことなのだろうか。

 

今の自分には、わからない。

 

今から、3年間。

 

彼女はその間に、自分のなすべきことをするつもりだと語ってくれた。

 

それに対して色々と思うところはあるが……少なくとも3年は、彼女と過ごす時間があるわけだ。

 

その間、フラッシュを最大限サポートしつつ、自分の気持ちにも向き合っていこうと思っている。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。