デート・ア・サバイブ   作:亜独流斧

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前回の感想にとても心温まるコメントを頂き、とても感動しました。これからも一人でも多くの方に面白いと思って頂ければ幸いです。



デートの主役と立役者

時間は、士道と十香が喫茶店へ入る数分前に遡る。

十香と再会した士道は、十香と共に大通りをぶらついていた。霊装を解除し制服姿そっくりに変化した十香は、どこからどう見ても普通の女の子だった。

 

「シドー、あのきなこパンとかいうものは何なのだ?美味すぎるぞ!あの粉の強烈な習慣性…あれが無闇に世に放たれれば大変なことになるぞ」

 

「ねえよ。…まあ、気に入ってくれたなら良かった」

 

初めて崩壊していない街を見た十香は、様々な物に興味を示した。中でもとりわけ食べ物を気に入った十香は、行く先々で色々な物を食べては感動していた。どうやらその中でも、最初のパン屋で食べたきなこパンが一番のお気に入りらしい。

 

「ところで十香…お前、昨日あの後どうしたんだ?それに今日は空間震警報鳴ってないし」

 

士道は昨日十香が消えてしまってからずっと気になっていたことを尋ねる。

 

「別にいつも通りだ。通らぬ剣を振るわれ、当たらぬ砲を撃たれ。……いや、昨日は違ったな。お前たちが護ってくれた」

 

「…や、まあオレは役に立たなかったけどな。真司とあの龍のおかげだよ」

 

「そんなことはないぞ。お前は同胞に撃たれるかもしれなかったのに…逃げずに私と向き合っていてくれた。…その、なんだ、嬉しかったぞ」

 

もじもじした様子でそう言う十香に、士道は思わず顔が赤くなるのを感じる。そんな様子を誤魔化すように、士道は十香に話の続きを促す。

 

「そ、それより十香、その後はどうしたんだ。昨日急に消えちまったけど」

 

「ぬ?そうだな…別にいつも通り、私の身がこの世界から別の空間に移されて終いだ」

 

「別の空間…そういや前に、真司や琴里もそんな事言ってたな。どんなとこなんだ?」

 

ちょっとした好奇心で士道は十香に尋ねる。しかし、返ってきたのは

 

「よくわからん」

 

という一言だった。十香の答えに、士道は思わず眉根を寄せた。

 

「あちらに移った瞬間、自然と休眠状態に入ってしまうからな。辛うじて覚えているのは、暗い空間をふよふよと漂っている感覚だ。―――私にしてみれば眠りにつくようなものだな」

 

「んじゃあ、目覚めたらこの世界に来るってことか?」

 

「少し違う」

 

十香が首を振ってから続けてくる。

 

「そもそも、いつもは私の意思とは関係無く、不定期に存在がこちらに引き寄せられ固着される。まあ、強制的にたたき起こされているような感覚だな」

 

「…………っ」

 

士道は息を詰まらせた。十香の話が本当ならば、この世界に現れることすら自分の意思で無く、空間震というのは本当に事故のようなものだということになる。ならばその責任まで精霊に―――十香に問おうというのは、いくらなんでも理不尽が過ぎると感じた。

と、そこまで考えた士道は、十香の言葉に少し引っかかるものを感じた。

 

「…いつもは?ってことは、今日は違うのか?」

 

もし十香が今日、自分の意思でこちらの世界に来ていたとしたら、それが原因で空間震が起こっていないのかもしれないのだ。それが事実なら、空間震による被害を無くすことが出来るかもしれない。

だが、いつまでたっても十香から答えが返ってこない。不審に思った士道が、十香のいるはずの方向を見ると、そこに十香はいなかった。慌てて士道が辺りを見回すと…

 

「シドー!次はここに入りたいぞ!なんだか美味そうな匂いがするのだ!」

 

少し先の喫茶店らしき店の前で十香が手を振っていた。どうやら士道が色々考えている内に、先に進んでしまっていたらしい。

確かに空間震のことに関しては色々気になるが、ここでもし十香の身に何かあって、このデート自体が失敗したら元も子もない。ならば今はこのデートに集中するべきだ。そう判断した士道は、先程の疑問を一度頭の隅に追いやり十香の元へ向かった。

 

「ちょっと待て十香!今行くから!」

 

 

 

 

 

そして現在。幸いなことに喫茶店に入った士道と十香は、既に店内にいた琴里と令音に気付かなかった。

 

「えええ……なにこれぇ」

 

「…なまらびっくり」

 

まさか昨日の今日でこのような展開になると思っていなかった琴里と令音は、慌てて携帯電話を確認する。しかし、ラタトスクからの連絡は入っていない。つまり、精霊が出現する際の空間の揺らぎは観測されていないということである。

 

「でも…あれって精霊よね…。精霊には、私たちに感知されずに現界する方法があるってこと?」

 

「……ただのそっくりさんという可能性は?」

 

令音の言葉に、琴里はしばし考えを巡らせた。だがすぐに首を横に振る。

 

「もしそうだとしたら、おにーちゃんが普通の女の子連れてるってことになるぞー。精霊の静粛現界とどっちが非現実的かって言ったら…僅差で前者かなー」

 

「…なるほど」

 

割とえげつない評価に、しかし令音はすんなりと納得する。

 

「そうなると…士道(・・)一人では荷が重そうね」

 

いつの間にかリボンを黒に変え、司令官モードへと変化した琴里は、携帯電話をラタトスクの回線へと繋ぐ。

 

「…ああ、私よ。緊急事態が発生したわ。―――作戦コードF-08・オペレーション『天宮の休日』を発令。至急持ち場につきなさい」

 

琴里が電話を終えるのを待って、令音が声を発してくる。

 

「……やる気かね、琴里」

 

「ええ。指示が出せない状況だもの。仕方ないわ」

 

「…ふむ、では私も店側と交渉してくるとしよう。…琴里は真司や海之たちに連絡してくれ」

 

「ええ。…でも大丈夫?あの店員を説得するのは大変そうだけど…」

 

「…いや。海之たちの話では、彼は記憶こそ失っているが、根っこの部分まで変わってしまったわけでは無いらしい。…そしてそれが本当なら、勝算はある」

 

そう言って令音は、鞄から分厚い封筒を取り出す。その中にはぎっしりと札束が詰まっていた。

 

「……彼は誠実な人間だが―――ドケチらしい。金に魂を売ることはないが、金に弱いというのは話が別だ」

 

琴里は先程の店員の顔を思い浮かべる。…なまじクールな雰囲気だった分、琴里の感じたガッカリ感は大きかった。

 

 

 

「…お会計お願いします」

 

そんな呼びかけを聞いたこの店のマスター・羽黒蓮は、レジへと向かう。なんだかいやに疲れたような声音だと思っていたら、そこにいたのは先程された『お願い』の対象だった。

 

「お前か…代金はいい」

 

「え!?」

 

蓮の言葉に目の前の少年は目を丸くする。それはそうだろう。この少年こそコーヒーを一杯しか飲まなかったが、連れの少女はきなこパンをはじめ、代金を払えなくなると止められるまでを注文を続けていた。それがタダになったのだから、驚きもするだろう。

 

「お前の知り合いだという、眠そうな顔をした女性から代金は既に貰っている」

 

「眠そうな…令音さんか。助かった…」

 

目の前の少年は思い当たる節があるのか、心底安心した表情になる。

ちなみに実際のところ、蓮はこの二人が飲み食いした分の代金よりずっと多くの額をもらっていたが、そのことは黙っていた。別に蓮がせこいのではなく、あくまで無駄なことを言う必要が無いという、冷静な判断に基づいて行動しただけである。決して差額を返したくないというわけでは無い。

 

「それと…これを預かっている。店を出たらこれを使えと言っていた」

 

そう言って一枚の紙を渡す。これをこの少年に渡してくれというのが先程の女性からの『お願い』であった。

普段の蓮ならば面倒だと断っていたが、今回はたまたま「たまには人助けも悪くない」と思って引き受けた。…先程の飲食代とは別に、ほんのちょっぴりお礼(・・)は貰ったが、断じて買収されたわけではない。

 

「これは…福引券?」

 

「この店を出て、右手道路沿いに行った場所に福引所があると言っていた」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

「別に敬語じゃなくても構わん。歳も近そうだしな。…払ったのは別の人間とはいえ、ここまで店の売上に貢献したやつは初めてだ。また来い」

 

「あ、あはは…考えておくよ…。オレは五河士道。それじゃあまた」

 

そう言って少年は店を出た。おそらく先に出ていた少女と合流し、あの福引をしに行くのだろう。

 

「珍しいね。蓮くんが人にあんな風に言うの。いつもなら売上に貢献するような人でも、気に入らなかったら店から叩き出しちゃうのに」

 

そう言って声をかけてきたのは、隣のクリーニング屋の店主だった。

 

「…別に。それよりいいのか?こんなところで油を売っていて。アフリカ行きだったか…準備があるとか言ってただろう」

 

「そっちは大丈夫だよ。店の方も、今日は息子に任せてるし」

 

「そうか。なら今日はもう店を閉めるから、残りの客の会計を頼む。注文された物はもう全員分出してある」

 

そう言って蓮はエプロンを片付け、店の裏口へと向かう。

 

「また~?前に追加注文があったとき大変だったんだけど…」

 

「文句を言ってきたら叩き出せ」

 

「そんな事するのは君だけだよ!…もう、仕方ないなぁ…今度コーヒータダにしてよね」

 

「考えておく」

 

そう言って蓮は裏口から店の外へ出ると、すぐ近くの洋服店のショーウィンドウへと向かう。幸い、辺りに人通りはなく、店内からも見られていない。そのことを確認した蓮は、ショーウィンドウへとデッキをかざす。

未だに何故自分がこれを使えるのか分からない蓮だったが、確かなのは自分の覚えている記憶より以前から、このデッキを蓮が所持していたということだった。

 

「変身!」

 

蓮は紺色を基調とした騎士のような姿・仮面ライダーナイトに変身し、ショーウィンドウを通してミラーワールドへと入っていく。そして、ミラーワールド内の喫茶店を通り抜け、先程の少年・士道が向かった方向へと進んで行く。

思った通り、暫く進んだところでミラーモンスターを発見した。そのサル型のモンスター・デッドリマーは、近くの店のショーウィンドウから今にも士道か連れの少女・十香に襲いかかろうとしていた。

 

「ちっ!させるか!」

 

『NASTY VENT』

 

ナイトが剣型の召喚機・ダークバイザーにカードをセットすると、どこからともなく巨大なコウモリ型モンスターのダークウィングが現れ、デッドリマーに超音波を浴びせる。突然の攻撃にデッドリマーは完全に不意を突かれ、思わず倒れこむ。

 

「店の中ではダークウィングが睨みを効かせていたから、奴らが外へ出るのを待っていたんだろう。…だが、生憎オレは店の前に長時間居座った挙句、そのまま何も注文せずに帰り、更には売上に貢献した客に手を出すような迷惑な輩を見逃すつもりは無い……」

 

そう言ってナイトはカードをダークバイザーに挿入する。

 

『FINAL VENT』

 

ダークバイザーから電子音が発せられると同時にダークウィングがナイトと合体し、マント状になる。それと同時に空からダークウィングの尾を模した巨大な槍が出現した。飛んできたそれをナイトはキャッチし、デッドリマーの方へと走り出す。そしてナイトは空高く飛び上がり、ダークウィングのマント『ウィングウォール』で自身の体を包んで、ドリルのように高速回転しながらデッドリマーへと向かって行った。ナイトのファイナルベント・飛翔斬である。

デッドリマーは銃の形状をした尻尾を取り外してナイトを攻撃するが、ファイナルベントを破る事は出来ず、そのまま貫かれて爆発した。

 

「…帰るか」

 

ダークウィングがデッドリマーの生命エネルギーを捕食するのを見届けたナイトは、来た道を一人引き返して行った。




お読みいただいてありがとうございました。今回は前半を士道や琴里・令音目線で、後半を蓮目線で描いてみました。作中に出てきたクリーニング屋は別に重要人物でも何でもないのですが、ファイズの啓太郎の父親をイメージして書いてみました。
次回か次の次辺りで十香編を終了しようと思っているのですが、ここ最近のペースだともっとかかるかもしれません。
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