デート・ア・サバイブ   作:亜独流斧

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お待たせして申し訳ありませんでした。いよいよ四糸乃編です。
今回はホントに冒頭の部分だけです。


四糸乃パペット
新しい日常


ある雨の日、天宮市内にある公園の一つ。その一角で、少女は傘もささずに怯えていた。

彼女の目には、人型でありながら人ならざる姿をした存在が、自分の方へと迫って来る様子が映っている。

雨によって出来た水たまりから現れたその怪物は、ゆっくりと、しかし確実に少女に近づいていた。

しかし、少女と怪物との距離があとほんのわずかというところまで迫ったその時、近くにあった別の水たまりから巨大な黒い何か(・・)が現れ、怪物を体当たりで弾き飛ばした。

少女は新手の出現に一瞬恐怖を感じるが、その黒い何か(・・)の正体を理解すると安堵の表情を見せる。そしてその数秒後、公園の入口に一人の少年が現れた。

 

「大丈夫か、四糸乃」

 

少年は少女の方へと近づきながら問いかける。それに対して少女は

 

「はい…。ありがとう…ございます」

 

と答えた。そして少女に続くように、少女の手にはめられたそれ(・・)が少年に話しかけてきた。

 

『やっはー蓮くん!いやぁ~いつもいつも悪いねぇー。蓮くんのおかげで四糸乃もよしのんも、いっつもケガ一つ負わずに済んでるよー』

 

「そうか。まあそれだけペラペラと喋れるなら無事なんだろうな」

 

少年はそれ(・・)の言葉を軽く流すと、デッキを取り出し水たまりへかざす。

既に先程の怪物・ミラーモンスターの姿は無い。先程の怪物を追い払った黒い存在―――ダークウィングや、少年が現れた後、モンスターはミラーワールドへと逃亡していた。

 

『んもー蓮くんってば、つれないなぁー』

 

「文句なら後で聞いてやる。変身!」

 

その少年―――――羽黒蓮は、デッキを腰のVバックルに装着し、その姿を仮面ライダーナイトへと変える。そして蓮は、モンスターを追って水たまりからミラーワールドへと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シドー!クッキィというのを作ったぞ!」

 

そう言って水晶のような瞳をキラキラさせ、手にした容器を士道に差し出しているのは一人の少女。その容器には(多少焦げていたり、ちょっと形がいびつだったりするものの)クッキーが入っている。

士道とその少女は同じクラスではあったが、家庭科の授業では個人の作業量が充実するように…とかなんとかいう理由で、実験的に男女別々で調理実習を行うことになった。つまり、今日は女子たちの実習の日だったということである。

女子から手作りクッキーをもらうというだけで他の男子からの嫉妬の的であるの上、それを差し出しているのは冗談のように美しい美少女であった。そのため、士道としては周囲からの視線が痛くて仕方ない。

少女の名は夜刀神十香。つい先月士道とデートをした『精霊』である。

 

 

 

 

 

およそひと月前のこと。十香と士道のデートから、土日を挟んでの月曜日。いつも通り登校した士道と真司を待っていたのは、全身包帯だらけの鳶一折紙だった。

 

「お、おう、鳶一。無事で何より――――――」

 

「ごめんなさい。謝って済む問題ではないけれど」

 

気まずげな空気になりながらも挨拶をしようとした士道を遮り、折紙は深々と頭を下げてきた。

折紙によると、十香を狙ったあの一撃は、折紙が放ったものらしかった。

 

「い、いや別にもういいって。オレは結局無事だったんだし。…それよりも頭を上げてくれ。目立つから」

 

「…わかった。本当にごめんなさい。そして、許してくれてありがとう」

 

「お、おう。気にすん…」

 

「でも―――――浮気は、駄目」

 

「………は?」

 

折紙の言葉に意表を突かれた士道は、思わず目が点になる。周囲で興味深そうに聞き耳を立てていたクラスメイトたちも、折紙の発言でざわめきだした。

しかし当の折紙は全く気にすることなく、真司に謝罪と感謝の言葉を述べると、そのまま自分の席へ戻って行った。

 

「…士道、浮気って?」

 

「…オレが知りたいよ」

 

残された士道たちが呆然としている間にチャイムが鳴る。そして岡峰珠恵教諭が教室に入ってきて、ホームルームが始まった。

 

 

 

「今日は出席を取る前にサプライズがあるの!―――入って来て!」

 

珠恵やたらと元気な声で、先程自分が入って来た扉の方へと声をかける。

すると扉が開いて、一人の少女が教室に入って来た。少女はものすごくいい笑顔で

 

「夜刀神十香だ!皆よろしく頼む」

 

と名乗った。

予想外過ぎる展開に、士道、真司、折紙の三人は動揺する。また、他のクラスメイトたちは、十香のあまりの美しさに騒然となった。

しかし当の十香本人はそんな視線など気にすることなく、黒板に下手くそな字で『十香』とだけ書いた。そして満足げに「うむ」と頷く。

 

「と、十香。お、お前、なんで…」

 

「ぬ?」

 

士道が言うと、十香は視線を向けてきた。そして声の主が誰か分かるや満面の笑みを浮かべ

 

「おお、シドー!会いたかったぞ!!」

 

大声で士道の名を呼び、ぴょんと飛び跳ねて士道の元へとやってきた。

 

 

 

 

 

(あの時はホントに驚いたよなぁ…)

 

最初はどうなることかと思ったが、十香は高校生活をとても楽しんでいる。特に真司やクラスメイトの女子たちと仲が良く、精霊として命を狙われていたころとは比べ物にならないくらい笑うようになった。それ故に、士道は裏で色々と手を回してくれたという琴里らラタトスク機関に感謝していた。

とはいえ、士道にとって有難いことばかりかというと、残念ながらそういうわけでもなかった。

まず、十香は士道とよく行動を共にする・もしくはしたがるのだが、それによる周囲の視線が中々気になる。特に、十香が美少女であるが故、士道は男子生徒たちからの嫉妬と羨望が入り混じった視線をよく感じた。

例えば今も、十香にクッキーを差し出された時から、士道は言い知れぬ寒気を背筋に感じていた。一番近い所では殿町宏人が、負のオーラを漂わせながらやさぐれた様子で

 

「五河ぁ…。お前はいいよなあ、美少女からクッキーを貰えて…。どうせオレなんか闇の住人さ…ほら、思いっ切り笑えよ…」

 

などと呟いていた。

 

更に問題はもう一つあった。

 

士道が意を決して十香のクッキーを口に運ぼうとすると、

 

「……ッ!?」

 

士道の目の前を銀色の弾丸のような物が一直線に通り過ぎていく。廊下の方から放たれたと思しきそれは、士道が手に取ったクッキーを粉々に砕くと、そのまま壁に突き刺さった。

 

「なっ…!?」

 

士道が戦慄しながらもそれ(・・)の飛んで行った方向を見る。どうやら先程の弾丸の正体は調理室のフォークだったようだ。

 

「ぬ、誰だ!危ないではないか!」

 

十香が叫び、フォークが飛んできた廊下の方向へと目を向ける。士道もそれにつられるように同じ方向を見ると

 

「………」

 

そこにはついさっき何かを投擲したかのように右腕を伸ばしている折紙がいた。恐らく先程フォークを投げたのは彼女で間違い無いだろう。

 

「と…鳶一?」

 

「ぬ?」

 

士道は頬に汗をひとすじ垂らし、十香は不機嫌そうに眉根を寄せる。

しかし折紙はそんな二人の様子に動じることもなく、士道の元へとやってきて、左手に抱えていた容器の蓋を開け士道に差し出した。

 

「夜刀神十香のそれを口にする必要は無い。食べるならこれを」

 

折紙の差し出した容器の中には、まるで工場で製造されたかのような、完璧に規格が統一されたクッキーが並んでいた。

一方十香は折紙に対し、頬を膨らませながら抗議の声を上げる。

 

「邪魔をするな!シドーは私のクッキィを食べるのだ!」

 

対する折紙も全く怯む事無く、

 

「邪魔なのはあなた。すぐに立ち去るべき」

 

と言い放った。

ヒートアップしていく二人の口論。一人取り残された士道は頭を抱える。

十香が来禅高校に通うようになって起こったもう一つの問題というのが、まさに今の状況だった。この二人、事情が事情とはいえ仲が物凄く悪いのである。

確かにほんの少し前まで互いに命を狙い、そして狙われて来た間柄であるため、すぐに仲良くするのは不可能であるというのは士道も理解している。しかし頭では分かっていても、顔を合わせるたびに喧嘩を始める二人の間に止めに入るというのはかなりきつく、もう少し仲良くできないのかと思わずにはいられなかった。

ましてや、片や力を封じられたとはいえ『精霊』、片や兵器こそ使っていないとはいえ、その精霊を倒す事を目的としているASTの魔術師(ウィザード)。この二人の喧嘩の仲裁ともなると、その労力は半端なものでは無い。

 

「お、落ち着けって二人とも。どっちも美味そうだぞ。なあ真司?」

 

放っておくと殴り合いにまで発展しかねない様子の二人の間に割り込みつつ、士道は援軍を呼ぼうとする。真司はよく士道と一緒に二人の喧嘩の間に割って入っていた。そのため、今日も彼の力を借りようとした士道だったのだが……

 

「美味い!でも材料を混ぜ合わせるとき、もう少し混ぜた方がいいかな」

 

「なるほど~。それにしても五河くんってお菓子作り得意なんだ~」

 

「まあちょっとだけ…。士道も料理得意なんだけど、昔バイトしてた関係でさ、喫茶店で出すような物とか紅茶に合うお菓子とかはオレの方が得意なんだよ。あ、あと餃子も得意」

 

「へ~!なんかオシャレかも!……餃子?」

 

真司はたまに十香にお菓子を作ってあげていたのだが、どうやらそのことを知った女子から味見を頼まれたらしく、彼は数人の女子に囲まれこちらに気付いていなかった。

助っ人という希望を絶たれ、士道の目の前が真っ暗になる。ちなみに殿町が「今のオレにはクッキーは眩しすぎる」とか「完全(パーフェクト)調和(ハーモニー)も無いんだよ」とかわけのわからないことを口走っていたが、構っている余裕も無かったのでスルーした。

 

「シドー、どちらも美味そうだと言ったな。ならばシドーは私の作ったクッキィと、鳶一折紙が作ったクッキィ、どちらを食べたいのだ?」

 

「え?」

 

不意に十香からそんな事を言われ、士道は間の抜けた声を発した。

 

「さあシドー」

 

「………」

 

十香と折紙が、左右から同時にクッキーの入った容器を差し出してくる。

どちらを選んでも危険だと判断した士道は、両手でそれぞれのクッキーを手に取り口に放り込んだ。

 

「う、うん。美味いぞ二人とも」

 

何とか最悪の状況は回避した、そう思った士道だったが…

 

「私のほうがちょびっと早かったな」

 

「私の方が、0.02秒早かった」

 

二人はそんな事を言い出し、互いに睨み合う。その場に流れる空気を感じ取った士道は、はぁ、とため息をつき、再び二人の間に割って入る。

 

 

 

次の瞬間、士道の体に二人が互いの急所めがけて放った拳が炸裂した。

 




番外編・がんばれ!蓮店長(冒頭の変身した部分の後)

「あ、蓮くん!着替え終わった?全く、こんな雨の中どこ行ってたのさ」

「ちょっとな。…それよりもこの状況はどうした」

「蓮くんが出かけた後や、戻ってから着替えしてる間に来たお客さんたちで…」

チラッ

「…渡くん、いい加減そのマスクとサングラス取ったら?完全に不審者よ」

「……」

「仕方ないんです恵さん。渡はこの世アレルギーなんです」


チラッ

「じいや。ここがショ・ミーンのキッサトゥーンというものか?」

「左様でございます坊ちゃま」

「中々興味深いな。おい店主!カケ・ソーバを貰おう!」



「……なんか変わった人たちだね。ところで蓮くん、何作ってるの?」

「注文を聞いてたろ。かけそばだ」

「…あるんだ」

終わり



お読みいただいてありがとうございました。ところどころのネタが分かりづらかったら申し訳ありません。
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