今回はまだ十香は出ませんが…
4月10日
「あははー!真司おにーちゃんおはようなのだー!」
「ゴフゥ!」
4月10日、月曜日。真司は謎のダメージによって目を覚ました。
「ん…あれ、琴里?蓮と北岡さんと浅倉は?それに…仮面ライダーアギト」
「なに言ってるのお兄ちゃん?てれびくんの応募者全員サービスでも見た?」
琴里の心配そうな声に、寝ぼけていた真司の意識がようやくハッキリしたものとなる。
「…ああ、ごめんごめん。おはよう琴里」
「うむ!おはよーだ、お兄ちゃん!」
真司が五河家の息子になって、5年の月日が過ぎていた。
最初こそ真司は大人である自分が子供として周りに馴染んでいくのは難しいかと思っていた。だが、気さくで優しく、そして活発な性格の真司は、家庭でも学校でもすぐに周りと打ち解けることができた。
そしてもう一つ、真司は元々頭はよくない。加えて、大学では一般教養科目こそ用意されているものの、基本的には専門分野についてしか学ばない。そしてそれすらも卒業して、ジャーナリストの職に就いていた真司が、過去に学んだことを憶えているはずもない。要するに、一度大学卒業までしているにも関わらず、真司の学力は決して高いと言えるものではなかった。おかげで周囲から何かを不審がられることもなかったのだが、真司としては複雑な心境であった。
「あれ、まだ6時前?なんで今日こんなに早いんだ?」
「今日からおとーさんたち出張でいないでしょ。それで、今日士道おにーちゃんが料理当番だから起こしてあげることになってて、ついでに真司おにーちゃんも起こしてあげたの」
「そーなのか。ありがとな琴里」
自分はこの時間に起きる必要がないのに起こされたのに気付かず、お礼までちゃんと言うあたりに、真司の抜け具合と人の良さがにじみ出ていた。
「それじゃ、士道おにーちゃん起こしてくるね!」
「おう、たのんだぞ琴里。さて…オレも準備するか…」
真司は現在、士道と一緒に都立来禅高校という学校に通っていた。昨日までで春休みが終わり、今日から2年生になる。
あの日以降、真司は士郎の姿を見ていない。城戸真司が五河真司になったのを見届けた後、士郎は姿を消してしまったのだ。
(俺は他にもしなければならないことがある…。いつか時が来たら、再びお前の元へ現れるだろう。それまでは二人をモンスターから守れ。)
「神崎は最後にああ言ってたけど…もう5年経ったよなぁ。あいつオレのこと忘れてんじゃないよな…」
真司は士郎が最後に残した言葉を思い返しながら、学校に行く支度をする。
「今日は始業式だから教科書とかいらないよな…あれ、生徒手帳どこやったっけ…」
と、そのときだった。部屋の扉が乱暴に開けられ、今にも泣き出しそうな琴里が飛び込んできた。
「真司おにーちゃあん!士道おにーちゃんが、士道おにーちゃんが…T-ウィルスにいいい!」
「ど、どうした琴里。士道起こしにいったんじゃなかったのかよ」
「そ、それがね…」
(……実はオレは『とりあえずあと10分寝てないと妹をくすぐり地獄の刑に処してしまうウィルス』、略してT-ウィルスに感染してるんだ…)
(逃げろ…オレの意識があるうちに…)
「……って」
「なんだって!?士道を助けなきゃ!」
そう言って真司は士道の部屋に向かおうとする。
「!?ダメだよ真司おにーちゃん!危ないぞ!」
「大丈夫だ。『妹を』くすぐるウィルスなら、オレが士道に危害を加えられることは無い…と思う。琴里は、もしもの時のためにリビングのテーブルで壁を作ってくれ。」
「わ、わかった!気を付けてね、おにーちゃん…」
「分かってる…。しゃッ!士道を助けるぞー!」
「いや真司、そこまで頭回るなら、冗談だって気づいてくれよ…」
廊下から士道が眠たげに突っ込む。
「あ、あれ?士道?ウィルスは?」
こんな感じで、五河家の朝はにぎやかだった。
『―――今日未明、天宮市近郊の―――』
「うぉ…また空間震かよ」
「なんか、ここら辺一帯って妙に空間震多くないか?去年くらいから特に」
真司のつぶやきに、士道も反応を示す。
空間震。それはこの世界で30年前から観測されている現象で、原因不明、発生時期不明の災害である。
突然発生し、辺り一面を破壊し尽くしてしまう、理不尽な現象であった。
そして真司は、詳しいことは知らないが、この災害が精霊と関係のあるものだということは、士郎から聞かされていた。
「…んー、そーだねー。ちょっと予定より早いかなー」
「早い?何がだ?」
「んー、あんでもあーい」
真司は琴里の意味深な発言に、士道はその声がくぐもっていたことに首をかしげる。
士道が琴里の頭に手を置き、その顔を自分の方に向けさせると、予想通りその口にはチュッパチャプスがくわえられていた。
「こら、飯の前にお菓子を食べるなって言ってるだろ。」
「んー!んー!」
士道が飴を取り上げようとし、琴里は口をすぼめてそれに抵抗したために、せっかくの可愛い顔が台無しになっていた。
と、そのとき真司の頭の中に例の音が響いてきた。ミラーモンスターが出現したらしい。
「あ、ちょっとオレトイレ!」
「
琴里の小学生みたいなジョークを聞き流し、真司はトイレに向かう。ちなみに琴里はまだ飴を口に入れていたため、その言葉はかなり聞き取りづらかった。
「変身!しゃッ!」
そしてトイレの鏡からミラーワールドへ向かった。
「…ライドシュータートイレから出れるかな…幅的に」
少し不安はあったが…。
「ただいま~」
「おかえり。長かったな」
真司がリビングに戻ったときには、もう朝食ができていた。幸い出現したのがかなり弱いモンスターだったため、怪しまれない程度の時間で戻ってこれた。
「おにーちゃん!デラックスキッズプレートだぞ!」
「あ、そうだ真司。今日の昼はファミレスな」
「お、いいねー!」
「絶対だぞ!絶対約束だぞ!地震が起きても火事がおきても空間震が起きてもファミレスがテロリストに占拠されても絶対だぞ!」
「いや、テロリストはやめよう。な?」
琴里の言葉に、真司は浅倉と初めて会ったときの様子を思い出して胃が痛くなるのだった。
真司と士道が登校すると、すでに廊下にはクラス表が貼りだされていた。それを確認し、二人は新しい教室へと向かう。
「まさか真司もオレも同じ2年4組とはな」
「兄弟で同じクラスってあるんだな」
そんな会話をしながら教室に入る。と、そこで
「―――五河士道」
士道は見知らぬ少女に呼び止められる。人形のように端正だが、表情を感じさせない顔をした少女だった。
(え、士道。誰この子?)
(いや、オレにも…)
真司と小声で言葉を交わしながら、士道は記憶を必死に呼び起こす。だが、やはりその少女については何も覚えていなかった。ちなみに真司も士道の周りでその少女を見た覚えはなかった。
そんな士道の様子に少女は「覚えていないの?」と問いかけるが、士道が思い出せないらしいことを確認しても、特に落胆らしいものも見せず「そう」とだけ言って席に歩いていった。
「な…なんだ、一体」
士道と真司が頭を悩ませていると、不意に見事な平手打ちが二人の背に叩き込まれた。
「あいたたた…何すんだよ殿町!」
こちらの犯人はすぐに分かった。真司が背をさすりながら抗議の声をあげる。
「おう、元気そうだなセクシャルビースツ五河兄弟」
二人の友人・殿町宏人は、腕を軽く組み身を反らしながら笑う。
「……セク……なんだって?」
「ビーストの兄弟だから、複数形でビースツだ」
「そういう文法的な『なんだって?』じゃねぇよ!そのあだ名そのものについてだよ!!」
「セクシャルビーストの兄弟だ、この淫獣どもめ!ちょっと見ない間に色気づきやがって。いつの間に鳶一と仲良くなりやがったんだ、ええ?」
言って、殿町が二人の首に手を回し、ニヤニヤしながら聞いてくる。
「鳶一…?誰だそれ」
「あ、もしかしてさっき士道と話してた子じゃ?でもそれならオレはお呼びじゃなかったけどな」
「……お、お前ら知らなのかよ?ウチの高校が誇る超天才。成績は常に学年主席、体育もダントツ。おまけに美人で去年の『恋人にしたい女子ランキング・ベスト13』でも3位だぜ?聞いたこともないのか?」
「知らん…てかオレも真司もそういうのあんまり興味ないからな」
「ああ、オレも知らないや。というかベスト13て中途半端だな」
「主催者の女子が13位だったらしい」
「「…ああ」」
「ちなみに男子は358位まで発表されたぞ。」
「「多っ!?誰だよ主催者」」
「オレだよ」
「「お前かよ!」」
「お前らはそれぞれ一票ずつ入ったから同着52位だ。ちなみに同順位の52位は他に30人いる」
「「反応しづれえ!」」
「どんだけハモってんだお前ら」
そんなことを言い合ってるうちに、予鈴がなる。真司と士道が慌てて座席を確認すると、士道が先程の少女・鳶一折紙の隣で、真司は士道の後ろという配置であった。
それからおよそ3時間後。
「五河兄弟、どうせ暇なんだろ、飯いかねー?」
始業式を終えて、帰り支度をしていた二人に殿町が話しかけてくる。
「あぁ…わりぃ。今日オレら琴里と飯なんだ」
「琴里ちゃんか…確かもう中2だよな。彼氏とかいんの?3つ年上の男ってどうかな」
「おい…」
殿町の言葉に士道は思わずジト目になる。そして真司は士道に同意するように言葉を続ける。
「殿町、あんま人の妹に手を出すなよ。世の中には、妹を助けるために殺し合いさせるやつだっているんだからな」
「え…マジで…?」
そのときだった。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――――
突如、街中に不快なサイレンが響き渡る。それは、空間震の発生を知らせるものだった。
だが、真司と士道は知らない。このサイレンが、5年間止まっていた彼らの運命が動き出したことを告げるものだということを…
おまけ
佐野(百合絵さん!出してくれ!出してくれ!出してくれえええ!)
神無月(司令、ああ!ご慈悲を!ご慈悲をー!)
神無月「フフ。私たち、なんだか似てますね」
佐野「いや一緒にしないでくださいよマジで」
お読みいただいてありがとうございました。佐野の最期はいまだにトラウマです