真・恋姫†無双~神獣と黒き御遣い~   作:ポチ&タマ

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 ミミッキュは イメチェンという 概念を知った!
 ミミッキュは 被り物を サーナイト仕様に チェンジした!


第9話「この日、少しだけ見直したのだった」

 ミミッキュと雪蓮が友達となった翌日。

 三国志のことを知らない俺は今の時代についてもっと知る必要があると考え、雷火から色々と話を聞いていた。

 場所は中庭にある東屋のようなところ。雷火の他にも粋怜と祭もいる。

 中庭ではブイズたちが戯れており、少し離れた場所ではサーナイト、マスカーニャ、ルカリオ、ゾロアークが集まって何やら内緒話をしていた。

 時折こっちを見てはひそひそ話をしているが、しょうもない話の予感がプンプンするぜ……。

 

「中央に関してはこのくらいじゃな」

 

「なるほどなぁ。なんともまあ、世知辛い世の中だな」

 

 天皇に値する霊帝に力はなく、国の中枢である洛陽では宦官や外戚が我が物顔でのさばっており、漢王朝は風前の灯火。

 霊帝と言えど名ばかりで実質、十常侍という特に力を持った宦官の傀儡で実権は無いに等しく、妃の何太后に骨抜きにされているとか。

 そして、今の時代の有力者は冀州の袁紹、荊州の劉表、益州の劉璋、涼州の馬騰、南洲の袁術らしい。

 まだ三国志の主要人物である劉備や曹操は頭角を現していないようだ。

 

「ちなみに孫家はどのくらいなんだ?」

 

「どのくらいってなんじゃ、まったく。まあ言いたいことは分かるが」

 

「残念ながらまだまだね。中央からも離れているし、精々が地方の一豪族といったところ」

 

 雷火先生からお叱りの言葉を頂き、粋怜が質問に答えてくれた。

 

「ここ……あー、確か揚州だったか。この中では?」

 

「呉、淮南、盧江の三郡と、ここ丹陽軍の一部を納めておる。揚州では最も強勢を誇っておるな」

 

「ええ。刺史の劉輝様には悪いけれど、正直孫家の方が勢力はずっと大きいわね」

 

「ほー。刺史って言うと州の長官だったよな。実質、揚州のトップより上とは、すげぇじゃないの」

 

「とっぷ?」

 

「あー、頂点って意味」

 

 雷火から教わった知識によると揚州は九江郡、丹陽郡、廬江郡、会稽郡、呉郡、豫章郡の六つの地区で構成されているらしい。その半数以上を孫家が治めているとなると、中々のものだ。

 なるほど、そのまま他の地区も制圧して揚州を完全に手中に収めるんだな。それで一気に勢力を伸ばして、行く行くは呉の孫権と呼ばれるようになると。孫権とやらはまだ逢っていないけど。

 ん? でも長女は雪蓮だよな。普通に考えると家督は長男・長女が受け継ぐものじゃないのか? まあ、その辺は孫堅が考えることだから、別にいいか。

 

「炎蓮は確か太守なんだよな」

 

「正式には呉郡の太守じゃな。今は拠点をここ丹陽郡建業に移しておられるが」

 

 あー、だから孫“呉”なのか。納得。

 

「話を纏めると、ここ揚州では炎蓮が一番の有力者なんだな」

 

「応。兵力もだが土地の結束力でも他家には負けぬぞ。炎蓮様のご統治には微塵の隙もない」

 

「近頃は他の土地から多くの民が、孫家の支配地に入っているものね。それだけ炎蓮様の善政を慕っているのよ」

 

「炎蓮様が若かりし頃は、孫家の勢力は呉の中でも小さいものだったが、それを海賊退治で名を馳せ、外患の種となるものを徹底的に排して呉を統一なされたのだ」

 

 太守に任命されてからも中央の圧力に屈さず、善政を敷いて呉の民の人心を掴む。

 呉の地盤を強固にしてからは積極的に外征も行うようになり、嘗ては酷い有様だった淮南、盧江、丹陽郡建業を立て直し、民の暮らしを改善して、その心を孫家のもとに一つに纏め上げた。

 それが、孫堅が成した偉業との話だ。

 気難しい雷火も、誇らしげに炎蓮の武勇伝を語り、粋怜と祭も楽し気に話に乗っかる。

 三人の孫堅に対する信頼と忠誠が、節々から伝わって来た。

 

「あの炎蓮がねぇ……」

 

「どの俺だ?」

 

「虎のように獰猛な太守様」

 

「はっはっは! 言うではないか優司よ!」

 

 どこからともなく湧いて出て来た孫堅()が、俺の首に腕を回して来る。

 

「おい優司、貴様に話がある。ついて参れ!」

 

「あいよ……。おーい、お前らー! ちと出掛けるが、どうするー?」

 

 俺の呼びかけにポケモンたちは一斉に鳴き声を上げると、ブイズからはエーフィーとニンフィア。サーナイトたちはゾロアークを除いた三匹が、そしてアブソルがこっちにやって来た。

 他の皆はこのまま中庭で戯れるようだ。

 

「炎蓮様、どちらへ?」

 

「少しばかり城下にな。なに、ちょっとした散策よ。行くぞ優司!」

 

「了ー解」

 

 

 

1

 

 

 

 孫堅に連れられて城下町にやってきた俺たち。

 頭にはニンフィアが乗り、肩にはファーのように寝そべるエーフィー。

 サーナイトとマスカーニャが両脇を固め、従者のように一歩引いたところからルカリオがついて来る。

 そして先導を歩くアブソルという中々な布陣を形成していた。君たちはボディーガードか何かか?

 

「中々面白い格好だな。両手どころか全身に花ではないか」

 

「嬉しいことにな。ていうか歩き辛ぇんだけど」

 

『お気になさらず』

 

「にゃ!」

 

 まるで恋人のように両腕を絡めてくるサーナイトとマスカーニャ。確かにどっちも結構な美人さんだが、傍目からすると女を侍らすクズ男だ。

 

「カレンたちはもう少し遠慮とかしてくれね? さっきから頭と肩がすっげえ重いんだけど」

 

 頭に乗って楽しげに、リボン状の触覚をフリフリさせているのはニンフィアことカレン。

 ニンフィアは首元と左耳の辺りからそれぞれ二本ずつ、リボンのような形状をした触角を生やしているのが特徴だ。

 毛色は白を基調に、耳や尻尾などの先端部位はピンク色を、目や触角の先端は水色という全体的にファンシーな色合いの持ち主である。

 うちのニンフィアは陽気な性格で、悪戯が好きな困ったちゃん。よく腕に触覚を巻き付けては公園を走るワンパチのように駆け出したり、色々な物を勝手に移動させたり隠したりと、可愛らしい悪戯を仕掛けてくる。

 可憐な見た目からカレンと名付けたが、今では小悪魔な印象だ。

 

「シェーンさんや、念力とかでアシストしてくれてもいいんだぞ。おい、なんで尻尾で叩いた」

 

 対してファーのように肩に寝そべっているのは、エーフィのシェーンハイト。略してシェーン。

 ブラッキーと対をなす存在で二又に分かれた尾を持ち、額には赤い宝石のようなものを付けている。耳も大きめで、その付け根部分からはまとまった体毛が伸びており、一見すると二対の耳があるように見えるのが特徴だ。

 猫又とカーバンクルを掛け合わせたような、上品な出で立ちの子で、見た目相応にクールなところがある。

 

「フィッ」

 

「クァ〜」

 

『ご主人なら大丈夫って言っています』

 

 どちらも体重が二十五キロほどあるため、地味に肩や頭に負荷が掛かるのだが、本人たちはお構いなしだ。

 

「今はその信頼が重い、物理的に……って、痛たたたッ! 抓るなフジ! おぉいッ、これじゃ前が見えねえぞ! シャレになんねえからマジで!」

 

 構ってという合図なのか、ジトッした視線を向けてきながら二の腕を抓ってくるマスカーニャ。

 何が楽しいのかフィーフィー鳴き声を上げながら、頭に触覚を巻き付けてくるニンフィア。

 無言で二股の尻尾でほほをペチペチしてくるエーフィ。

 更には仲間はずれにされて寂しいのか、護衛のように後ろからついてきているルカリオが、裾を小さく引っ張ってきた。

 もうマジでカオス。絶対先頭を歩いているアブソルはため息ついてるだろ。

 

「貴様らは本当に見ていて飽きんな」

 

「それはようございましたね……ッ」

 

 二十匹以上のポケモンを相手にするのは色んな意味で大変なんだぞ。まあ楽しいけどよ。

 

 そんなこんなでポケモンたちと戯れながら城下町を歩く。

 沢山の品を積んだ荷車が引っ切り無しに往来を行き交い、威勢のいい呼び子の声が飛び交っている。

 まるで現代の市場のような活気の良さだ。

 

「随分と活気がいいな」

 

「うむ」

 

 孫堅も街の様子を満足そうに眺めている。

 すると――。

 

「孫堅様!」

 

「まぁ、孫堅様!」

 

 こちらに気が付いた人々が口々に声を掛けて来た。

 

「おう貴様ら、今日も真面目に働いているな?」

 

「へい! 孫堅様のおかげで、あっしらも働いた分だけ、ちゃんとゆとりを持って暮らせるようになりましたから」

 

「前の太守様がいた頃はいくら稼いでも、税金で全部取られちまったからなぁ」

 

「まったくだ。孫堅様がいらしてから本当に暮らしが楽になったぜ」

 

「そいつは何よりだ」

 

 続々と街の人たちが集まってくる。

 皆、口々に感謝の言葉を告げ、孫堅を称えたりしているが、お世辞を言っている雰囲気ではなかった。

 心から孫堅を慕っていて、かつ威風堂々とした建業の主を畏怖しているようだ。

 当然、近くにいる俺 with ポケモンたちの姿にも気づくが、呉の民たちも既に俺らを認知しているようで、大きなざわめきは無い。けど、何だか視線が痛い。その視線にはどういう意味が含まれているのだろうか。

 

「おう。貴様らも知っている通り、こ奴らが黒き天の御遣いとその神獣たちよ。街中で見かけるだろうが、通報してくれるなよ?」

 

 孫堅の言葉に大きく頷く、呉の民たち。

 俺らに向けられる視線は、こちらの底を見抜こうとしてくる類で、いつぞや拉致被害者の村々を回った時のような無条件で縋るようなものではない。行ってしまえば心の余裕を感じられる。

 孫堅という信頼できる人物がいるからこそ、余裕があるのだろう。

 

「おら散った散った! 喋ってないで働きやがれ」

 

「は、はい!」

 

「それでは失礼いたします!」

 

 蜘蛛の子を散らすように去っていく民たちを、笑いながら見送る孫堅。

 言葉遣いは乱暴だが、その声には民への優しさが籠っている。

 認めるのは非常に癪だが、ちょっとした立ち居振る舞いや言葉の節々からも、孫堅の人としての大きさを感じさせられた。

 

「オレが建業に乗り込んだ時、街は荒れ放題だった。侠崩れのゴロツキや盗賊で溢れていてな」

 

「前の太守はクソだったんだろうな」

 

「はっはっはっ! クソか、ああクソだな。刺史の劉輝も丹陽のことはほったらかし。だからオレが使えん太守共々、ゴロツキを掃除したのさ。綺麗さっぱりな」

 

「ほぉん。つまりは炎蓮のおかげで今の建業があると?」

 

「いいや、オレは掃除をしただけよ。街を復興したのは民の力だ」

 

「ほぅ……」

 

 かつては俺も現代社会で生きた人間。価値観は未だ現代のそれに準じている。

 民が居るからこそ国が成り立つ。為政者の本質というのをちゃんと理解しているんだなと、少しだけ孫堅を見直した。

 

「おい優司。天の世界にはここよりもっと大きい街はあるのか?」

 

「あぁ、あるよ」

 

 ポケモンの世界は別だが、日本なら。

 

「ほう。洛陽よりも大きな街はどうだ? と言っても、貴様は洛陽を知らんか……」

 

「あー、その洛陽の人口がどれくらいだか知らんが、俺のいたところの都心だと、大体一千万以上はいたな」

 

「一千万だと!? はっはっ!」

 

「こう聞くと、べらぼうに多いよなぁ」

 

 日本に住んでいた頃には全然感じなかったが、ポケモンの世界に転生してからはつくづく思う。

 だってあそこ、各地方で五百も満たないんだぜ?

 

「クククッ、そいつは征服のし甲斐があるな」

 

 完全に目が本気だが、次元の壁をどうにか出来るならどうぞ。

 

「――!」

 

「ん? どうした白夜」

 

 不意に戦闘を歩いていたアブソルが明後日の方向を見た。

 

「シャッ!」

 

 徐に駆け出すアブソル。思わず俺も後に続く。

 

『向こうから嫌な気配がするとのことです!』

 

「マジか!」

 

「おい、どういうことだ?」

 

 隣を走る孫堅にアブソルのことを伝える。

 アブソルはその角で災いを察知するという。

 彼が反応したということは、何らかの災害が発生する可能性があるということだ。

 事態を把握した孫堅も険しい顔を浮かべる。

 

「ん? アンタは……孫堅様の元にやって来た神獣様?」

 

「シャッ、シャッ!」

 

「お腹でも空いてるのか?」

 

 辿り着いた先は小さな屋台。客は居らず店主のみ。

 ズボンを咥えて外に引っ張り出そうとしているアブソルに困惑顔の店主。

 直ぐ様、俺たちも駆け寄ると急いで店主を屋台の外に連れ出した。

 するとーー。

 

「うぉぉ!? な、何だ何だ!?」

 

 タイミングを見計らったように屋台が崩れたのだ。

 突然の倒壊に飛び跳ねて驚く店主。ホント、間一髪だったな……。

 

「大事ないか、店主よ」

 

「そ、孫堅様! あ、あっしはなんとか……」

 

「そうか。災難だが、貴様が無事ならそれでいい」

 

「へ、へい」

 

「それと、そこの神獣に感謝しとけよ。貴様に降り掛かる災いを一早く察知したんだからな。コヤツが居なければ、貴様は今頃あの屋台の下よ」

 

 顔色を真っ青にする店主。

 小さく鳴き声を上げるアブソルを恐る恐る見下ろすと、畏まったように何度も頭を下げた。

 

「し、神獣様、ありがとうございます! 神獣様がいななければあっしは今頃……」

 

『感謝されるほどではない。復興は大変だろうが頑張るのだぞ、と言っております』

 

「……! 頭に直接……っ」

 

 サーナイトのテレパシーを体験して驚きの表情を浮かべる。

 普通はこういう反応だよなぁ。曹操だって驚いてたんだし。

 雪蓮たちは「へー、こんなことも出来るんだー」程度の反応しか示さないし、なんだろう。孫呉の宿将は皆肝が座っているのか、それとも神経が図太いだけなのか。

 

「おい優司。貴様、無礼なことを考えてねぇか?」

 

「滅相もない」

 

 それでいて異様に勘も鋭いと来たものだ。

 ボーマンダなどのドラゴンタイプを見ても然程驚いてなかったし、どうすれば度肝を抜くことが出来るのだろうか。

 いつしかそんなことを考えながら、サーナイトたちと一緒に瓦礫の山を撤去するのだった。

 

 

 

2

 

 

 

 サーナイトたちのお陰でスムーズに撤去作業が終わり、今度是非食べに来てくれと固い握手を受けた後。

 再び人が行き交う街中を歩きながら、ふと思いついたことを口にしてみた。

 

「そういや聞いていなかったが、炎蓮の目的って大陸の統一なのか?」

 

「ふっ……それはつまり、このオレに漢王朝を倒せと申しておるのか?」

 

「お前さんならやりそう」

 

「はっはっはっ! 本当に明け透けなく言う奴よ」

 

 カラカラと笑い声を上げた孫堅は、フッと目を細め。

 どこか遠くを見つめながら、穏やかな口調で告げた。

 

「我が願いは天下の民の安寧。漢王朝にその力がないのであれば、オレが代わりにやるしかあるまい。とはいえど、漢はオレの生まれた国だ。衰え消えるを見るのは、正直辛い気分だがな」

 

「……」

 

「今の孫呉の力では、天下など夢のまた夢よ。オレの代では、揚州の統一がいいところか……」

 

 そう小さく呟く孫堅。

 豪快そうに見えて意外と現実的な思考を持っていることに、若干の驚きを覚えた。

 

「その時、後を託せる者が育っておればいいのだがな」

 

「雪蓮は? 普通、長男長女が家督を受け継ぐものだろ?」

 

「他所はそうかもしれんが、オレは違う。器なしと判断すれば、下の娘に譲るとするさ。雪蓮はなぁ……」

 

 渋い顔をする孫堅。

 俺は出会って間もないから、彼女に長たる器があるか知らないが、母親の反応を見るにまだまだといったところか。

 おっ、噂をすれば。

 

「んぐ…………は~、美味しい♪」

 

「若殿様! 今日は良い酒が入ってますよ!」

 

「ありがと、おじさん。また後で寄らせてもらうわね」

 

「伯符ちゃん、おつまみどう? お酒だけじゃ物足りないでしょう?」

 

「いいねー♪ おばちゃん、それいくら?」

 

 昼間っから真っ赤な顔で瓢箪を片手に、あっちへふらふら、こっちへふらふらする時期当主(仮)の姿がそこにあった。

 呆れたようにため息を吐いた孫堅が「あのバカ面が、孫家の跡取り娘にふさわしいと思うか?」と聞いてきたので、素直に「ないな」と言っておいた。

 もはや痴態と表してもいいほどの様子に、サーナイトたちも何とも言えない顔で口を噤んでいる。

 ニンフィアよ、気持ちは分かるが触覚で指さして笑ってやるな。

 

「一応、民からは慕われてるみてぇだが……」

 

「そんなことは当たり前よ。慕われぬ者に人を纏める力などあるものか。……ククッ、良いことを思いついた」

 

 ニタリと獰猛な笑みを浮かべる孫堅。絶対、ろくでもないことだろ……。

 

「奴がちったあ、オレの跡継ぎとして相応しくなったかどうか見てやる」

 

 そう言うと、孫堅は気配を殺して町民に紛れこんでしまった。

 見事に気配をその辺の一般人と同レベルに合わせている。一人の武術家として感嘆せざるを得ない調和だ。

 やっぱアイツ、武人としてもかなりの実力者じゃねぇか……。

 

「あっ、優司じゃない! 両手に花どころか全身に花ね~」

 

 俺の姿に気付いた雪蓮が「やっほー」と吞気に手を振ってくるが、背後から近づく母親の気配は捉えることが出来ないようだ。

 まるで獲物を仕留める虎のように獰猛な笑みを浮かべながら近づく孫堅は、徐に拳を振りかぶると、真っ昼間から飲んでいる時期当主(仮)の脳天目掛けて振り下ろす。

 

「うおおおおりゃあああああっ!!」

 

「んきゃああっ!?」

 

「あーあ」

 

「フィーフィ」

 

「クァ……」

 

『痛そうですね……』

 

「にゃあ」

 

 涼しげな顔でぱんぱんと手を払う孫堅。

 特大の拳骨を食らった雪蓮は完全に地面にノビちゃっているんだが……あ、復活した。

 

「何するのよっ!?」

 

「ハッ、未熟者め。貴様はそれでも武人か?」

 

「はああ?」

 

「我らは常に命を狙われておるのだ! それが易々と不意打ちを打たれるとは……オレの教えを忘れたかっ!」

 

 おっと、往来の場で家族喧嘩が始まったぞ。

 関係者と思われるのもアレだから、端に寄って知らん顔してるか。

 

「くっ……殺気があればすぐに気づくわよ! いきなり母様から襲われるなんて、考えるわけないでしょ!?」

 

「そういう下らん言い訳をするところが未熟なのだ。オレより手練れの相手だったらどうする? いや、オレ自身が乱心していたら?」

 

「う……」

 

「乱世に母も子もない。お前はもう家督を継ぐのは自分だと、慢心しているのではないか?」

 

 おっ、おばちゃん肉まんくれるの? サンキュー。

 ほら、お前たちもお礼を言いなさい。

 

「お前に能力がなければ、家督はいつでも妹たちに継がせるぞ? いっそ祭か粋怜に譲った方が、孫家のためになるやもしれんな」

 

「くぅううううう~~っ!」

 

「ふ……フハハハハハッ! 良い顔だ、その顔だぞ! 孫家の家督が欲しければ、オレを殺す気で食らいつけっ!」

 

 悔し気な雪蓮だが、何も言い返せないようだ。

 戦国時代では、親兄弟であろうと血みどろな関係であったのも珍しくなかったと聞くし。

 乱世の時代に生まれた華族は、自然とそういう考えに至るのかな。

 

「ほれ。分かったら酒はその辺にして、城に戻って鍛錬でもしろ。どうしても城下を歩きたいなら、供をつけ、しっかりと守ってもらうことだな」

 

「ううぅ……! もう、分かったわよ! 帰ればいいんでしょ、帰れば! せっかくの酔いも醒めちゃったわ!」

 

「ふん、口の減らん小娘め」

 

「じゃあね! 優司!」

 

「おー」

 

 頬を膨らませた雪蓮は、足早に城へと戻っていった。

 見事に負けたな、口喧嘩。

 

「――というわけだ。あのような半端者に、まだまだ家督は譲れんな」

 

「確かに……。孫家の跡取り娘としちゃ、ちと警戒心が薄すぎるわな」

 

「そういうことだ」

 

 対して、孫堅はその辺りをしっかりとしている。

 城を出てからずっとこちらの後を追う影が複数あるし、こうしている今も群衆に紛れる形で護衛の人たちが目を光らせているからな。

 楽し気に会話をしていながらあちこちに視線を這わせる男女を眺めていると、孫堅がニヤっと笑う。

 

「ほう……分かるか?」

 

「まあな。見事に一般人に成りすましているが、よく見りゃ分かる」

 

「ククッ、武でも警戒心でも、雪蓮の先を行くか。いっそ貴様に家督を譲るのもありだな」

 

「はっ、俺の方から願い下げだね。面倒くさいわ」

 

「クハハッ、面倒か! 確かに面倒だな」

 

 何が楽しいのかカラカラと笑い声を上げる孫堅。

 よくコイツに笑われるんだけど、なんなん?

 

「貴様らには利用価値がある。優司たちがどう思っていようとな。黒き御遣いや神獣を攫おうと、あるいは殺そうとする者がいることを肝に銘じておけ――と言うつもりだったのだが、その様子だと重々承知しているようだな」

 

「そりゃな。すぐ思いつくことだし」

 

 それに俺には最高で最強のセ〇ムたちがいるから。

 俺自身気付かなかったとしても、彼女たちなら見抜けるだろう。

 

「今のこの世は常に死と隣り合わせだ。ゆめゆめ警戒を怠るなよ。ここでは気を抜いた者から死んでいく」

 

「おう」

 

 嫌悪感とまではいかないが、第一印象が最悪だったため嫌っていた孫堅だったが。

 この日、少しだけ見直したのだった。




【ニンフィア ♀】
 名前:カレン
 可憐な見た目からそのまま採用。その後ウマ娘のカレンチャンとも相性が良いと気づく。

<生態 ピクシブ百科事典参照>
 フェアリーらしく花畑が好きで、住処にしている野生個体もしばしば。
 触角には人やポケモンの気持ちを和らげる波動が秘められており、その波動を送り込むことで争いを止めることが可能。そうする時は、触角をなびかせ軽やかなステップで踊り舞う習性があり、その光景は優雅と称えられている。
 大好きなトレーナーには、腕にその触角を巻き付けて一緒に歩く習性がある。これは触角で触れるとその気持ちを感じ取れるためらしく、清らかな心の持ち主でなければ、ニンフィアとともに歩むことはできないであろう。
 一方ひとたび戦いとなれば、自分の何倍もあるドラゴンポケモンにもいっさい怯まず飛びかかってゆき、鋭い攻撃技で急所を狙いにいくワイルドな面も持ち合わせており、敵意を削ぐ波動も獲物を油断させ襲うための手段として用いるという、れっきとした肉食動物でもある。これを反映してかガラル地方では竜退治の伝承が残されている。
 フラベベとともにフェアリータイプを代表するポケモンであり、その可愛らしさ全開の見た目もあって、2016年6月7日に結果発表された「ポケモン総選挙720」では、イーブイや他の進化形を超えて5位にランクインした。
 性別比率は他の進化形と変わらず♂:♀=7:1であるが、見た目からメディアミックス各種にわたってほぼ一貫して♀前提の取り扱いがなされている。


【エーフィ ♀】
 名前:シェーンハイト。通称シェーン。
 ドイツ語で「美しい人」「美しいもの」という意味がある。

<生態 ピクシブ百科事典参照>
 全身の体毛はビロードのごとき艶と肌触りを持ち、その敏感かつ細かな毛質によって空気の流れを感じ取ることが可能。そこから相手の行動や天候を一瞬で予測し先読みすることができ、能力を発揮する際は尻尾の先が微妙に揺れる。
 進化条件(なつき度を高めた状態でレベルアップ)故か、認めたトレーナーには極めて忠実。昔はなんの能力も無かったらしいが、自身や主人を守るために危険予知能力が発達したと言われている。
 戦闘では光り輝かせた額の玉からサイコパワーを放射して相手を翻弄するが、パワーが尽きると玉の色はくすんでしまう。だが「太陽ポケモン」の分類通り日光をサイコパワーに変換し溜め込める。逆に言うと、日光がない夜間の戦いは苦手である。
 対のブラッキーが♂のイメージが強いということもあり、こちらは♀が求められがちという傾向がある。当初は最も♀らしい進化系と言われたこともあったが、そのポジションは後輩たちに譲っている。なお実際の♂:♀比率は他の進化系と変わらない7:1である。

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